レモン 特徴

レモン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/31 14:33 UTC 版)

特徴

原産地はヒマラヤ東部[2]。樹高は3メートルほどになる。にはがある。には厚みがあり菱形、もしくは楕円形で縁は鋸歯状。紫色をつけ、ないしピンクで強い香りのする5花弁の花を咲かせる。果実は開花後約半年で成熟する[2]。果実は紡錘(ラグビーボール)形で、先端に乳頭と呼ばれる突起がある。最初は緑色をしているが、熟すと黄色になり、ライムにもよく似ている。果実の瓤嚢(じょうのう)は硬めで10部屋程度に分かれている[2]

「レモン」と名はついていても、他の柑橘類と交雑した品種マイヤーレモンやサイパンレモンなど)では栽培環境で果実の形が変わりやすく、球形に近いものや熟すとみを帯びた黄色になるものもある。

品種

主な品種

レモンは柑橘類の中では四季咲き性の強い品種である。鉢植え、露地植えのいずれでも栽培が可能であるが、早期の収穫を目指す場合は鉢植えの方が早く開花結実する。栽培品種の増殖は主に接木挿し木で行われる。日本ではリスボン種とユーレカ種の栽培が多い[3]

  • リスボン
    主力品種の一つ。樹勢が強く、豊産性の品種。枝は直立方向に伸びるため、大木になりやすい[4]。棘がやや多い。1917年に南カリフォルニアのリバーサイドで開発され、1950年頃に市場に出回るようになった[5]。日本ではブランド名の「サンキスト」でも知られている[2]。カリフォルニア内陸部や日本の広島県で栽培されている[2]。耐寒性・耐暑性に優れる[3]。多汁で香りの強い品種である[2]
  • ユーレカ
    主力品種の一つ。イタリアシチリア島原産[2]。樹勢はレモンの中ではやや弱い方。開張性で棘は比較的少ない。リスボンより耐寒性がやや弱いとされているが品質は高く評価されており、カリフォルニア州などで多く栽培される[3]
  • ビアフランカ(ビラフランカ)
    シチリア島原産[2]。棘なしレモンとしてが売られている。果実の品種特性はユーレカに近い。他の柑橘類でよく見られる晩秋の異常落葉が少ない品種である。ユーレカが開張性で枝が横に広がる性質があるのと比べ、ビアフランカでは枝は垂直方向に延びやすくなる性質がある。日本へは第二次世界大戦前に広島県に導入され[2]、生産量も増えて主力品種となっている[6]
  • ジェノバ
    日本では知名度の低い品種であるが、チリなど南アメリカで主に栽培されている品種[7]。日本に輸入されるレモンのうち6割程度がアメリカ産だが、チリ産レモンは約3割を占める。種が少なく果汁は多い品種[2]
  • ポンテローザ
    普通サイズの3倍の大きさのジャンボレモン。「オオミレモン」とも呼ばれる。ごくわずかであるが日本国内でも流通するようになった。酸味はややマイルド。

このほか、インドで広く栽培される「ガルガル」、イタリアで主に栽培される「フェミネロ」、スペインで多く栽培される「ベルナ」など様々な品種が存在する[7]

雑種

  • マイヤー(メイヤー)レモン
    中国で発見された、オレンジとレモンの自然交雑により誕生したといわれる品種[2]ニュージーランドで多く栽培される[2]。栽培環境によっては果実の形状が丸みを帯び、完熟すると果皮の色がオレンジがかってくる。つまり、赤みを帯びた黄色になる。酸味がマイルドで香りがよいとされている[2]
  • サイパンレモン
    マイヤーレモンの系統で「菊地レモン」「島レモン」とも呼ばれる。北マリアナ諸島テニアン島から日本の小笠原諸島に導入された品種。果実は一般的なレモンよりやや大きく丸みを帯びている。
  • スイートレモネード
    オレンジとレモンの交配種として売られている。果実は丸みを帯び、一般的なレモンにある乳頭の突起がほとんどなく、酸味が弱く糖度が高いとされる。マイヤーレモンと同じ系統かどうかは情報量が少なく不明。
  • 璃の香(りのか)
    リスボンレモンと日向夏の交雑種。農研機構により育成された新品種。2015年品種登録。果実は大果で果皮が薄く果肉歩合が高いため、搾汁率も高い。酸味や香りはリズボンレモンよりやや弱い。通常のレモン品種より成熟が1ヶ月早く、露地栽培では11月下旬頃に成熟する。樹勢が強く豊産性であり、耐寒性も強く、レモン栽培で問題となるかいよう病やそうか病にも強いため各県で有望品種とされている。

別種

レモンの香りを有する植物の名前に、「レモン~」とつけられることがある。

歴史

レモンの原産地は上記のとおりインドのヒマラヤ山麓である。レモンの原種であるシトロンは古くから地中海沿岸において盛んに栽培されてきたが、レモンが栽培され始めた当初はシトロンと混同されることも多く、栽培時期の開始については不明な点も多い。ただし、サーサーン朝ペルシアにおいてペルシア人が栽培していたことはほぼ確実である。サーサーン朝を征服したアラブ人たちもレモンを取り入れ、大々的に栽培するようになった。レモンが独立して文献に現れるのは904年のことで、アラブ人の農業書にシトロンと区別されて記載された[8]9世紀にはアグラブ朝が征服したシチリア島にレモンが持ち込まれ、以後シチリアは現代にまで至るレモンの大産地となった。

11世紀ノルマン人がシチリアを征服したことで、レモンはヨーロッパ大陸に持ち込まれた。しかし高緯度であったヨーロッパのほとんどの地域ではレモンを栽培はできず、レモンや柑橘類は富の象徴とされた。

15世紀にはイタリアやスペインで盛んに生産されるようになった[2]

17世紀に全盛期を迎えたオランダでは静物画が盛んに描かれた。レモンはその高級感から人気の題材であり、レモンを中心に描いた多くの静物画が現在でも残っている[9]。同じく17世紀にはフランスを中心にオランジュリーと呼ばれる柑橘類栽培用の温室が富裕層の間で建設されるようになり、レモンもこの温室の中の主要な樹木の一つとなっていた。17世紀半ばには、イタリア北端に近いガルダ湖の北西岸に位置するリモーネ・スル・ガルダにヨーロッパ最北のレモン農園が作られた。ガルダ湖畔は温暖な気候だがレモンが自然に生育するほどではなく、リモナイア(レモンハウス)と呼ばれる避寒用の小屋を建て、その中にレモンの木を植え、夏は屋根を外し、冬はレモンの木ごと屋根で覆って越冬させた。このレモンは、レモンの獲れないアルプス山脈以北の人々に珍重され、蒸気船鉄道の登場によって競争力を失う19世紀末までの200年以上の間、この地区の重要な産業となっていた[10]。またこうしたリモナイアはガルダ湖だけではなく、コモルガーノといったイタリア北部の湖水地方にわたって広がっていた[11]

近代においてはその医療効果が着目された。1753年イギリス海軍省ジェームズ・リンド壊血病が食生活から来ると推測し、実験によってこれを証明した。この実験の中で、レモンやレモンジュースが壊血病に効果があることが発見された。もっとも、リンドの実験はあくまで食生活と壊血病との関係性を立証するものであって、レモンの他にも多くの食物が推薦されていた。1768年ジェームズ・クックの第1回航海において、クックはこの結果をもとにザワークラウトを大量に積み込み、またレモンなど柑橘類を食べることを奨励することによって、3年間の長期航海にもかかわらず壊血病で1人も命を失うことなく航海を終了し、この実験の正しさが認められた。その後、1795年にはこれらの結果をもとに、イギリス海軍は自国の艦船にレモンジュースを積み込み船員に配給することを義務づけた。これによってイギリス船員の壊血病患者は、1780年 - 1795年の24%から1798年 - 1806年の11%にまで激減した[12]。こうしたレモンはラム酒カクテルであるグロッグと組み合わされて船員に提供され、これによってグロッグのレシピにはこれ以降レモンジュースが加えられるようになった。また、こうしたレモンの壊血病への効果の立証と船舶への積み込みの義務づけはレモンの消費を拡大させるきっかけとなり、レモン農園は各地に拡大していった。

レモネードは古くからレモンによって作られてきたが、レモンが高価な時代にあってはレモネードもまた高価な飲み物だった。しかし1630年代に入ると砂糖とレモンの供給拡大によってフランスでレモネードが一般的な飲み物の一つとなった。この時代のレモネードはしばしば酒を混ぜられていたが、19世紀のアメリカにおいては、レモネードは禁酒運動と結びつき、ノンアルコールの飲料となった。このレモネードは、健康的な飲み物として1870年代以降消費が拡大した。


注釈

  1. ^ ただしコカ・コーラ社のコカコーラレモンは無果汁である。

出典

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Citrus limon (L.) Osbeck レモン(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年1月21日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 日本果樹種苗協会・農研機構野菜茶業研究所『図説 果物の大図鑑』(2016年)100頁
  3. ^ a b c 『地域食材大百科第3巻 果実・木の実、ハーブ』(農文協 2010年8月25日第1刷)p387
  4. ^ 三輪正幸『NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 レモン』(NHK出版 2012年3月15日第1刷発行)p23
  5. ^ ピエール・ラスロー著、寺町朋子訳『柑橘類の文化誌 歴史と人との関わり』(一灯社 2010年9月23日第1刷)p134-135
  6. ^ a b c d 広島県ホームページ内「瀬戸内 広島レモンとは」2015年10月23日閲覧
  7. ^ a b 三輪正幸『NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 レモン』(NHK出版 2012年3月15日第1刷発行)p25
  8. ^ トビー・ゾンネマン著、高尾菜つこ訳『レモンの歴史』(原書房「食」の図書館、2014年11月27日第1刷)p34
  9. ^ ピエール・ラスロー著、寺町朋子訳『柑橘類の文化誌 歴史と人との関わり』(一灯社 2010年9月23日第1刷)p300-301
  10. ^ トビー・ゾンネマン著、高尾菜つこ訳『レモンの歴史』(原書房「食」の図書館、2014年11月27日第1刷)p73
  11. ^ ピエール・ラスロー著、寺町朋子訳『柑橘類の文化誌 歴史と人との関わり』(一灯社 2010年9月23日第1刷)p84
  12. ^ 鵜飼保雄、大澤良編著『品種改良の世界史 作物編』(悠書館 2010年12月28日第1刷)p444
  13. ^ Production of Lemon and Limes, by Countries”. UN Food & Agriculture Organization (2016年). 2018年4月30日閲覧。
  14. ^ 果物情報サイト果物ナビ「レモン(檸檬)」”. 2014年4月3日閲覧。
  15. ^ 『地域食材大百科第3巻 果実・木の実、ハーブ』(農文協 2010年8月25日第1刷)p386
  16. ^ 日本経済新聞』、2017年4月26日、朝刊。
  17. ^ “恒例の「レモン祭り」開催迫る、南仏”. フランス通信社. (2015年2月13日). https://www.afpbb.com/articles/-/3039462 2015年7月4日閲覧。 
  18. ^ a b c 【時を訪ねて 2002】国産レモンの復活 大崎下島(広島県呉市)ミカン値崩れで期待の星『北海道新聞』日曜朝刊別刷り2020年4月5日1-2面
  19. ^ a b 三輪正幸『NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 レモン』(NHK出版 2012年3月15日第1刷発行)p127
  20. ^ 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、192頁。ISBN 978-4-415-30997-2 
  21. ^ 『FOOD'S FOOD 新版 食材図典 生鮮食材編』(2003年3月20日初版第1刷 小学館)p268
  22. ^ 三輪正幸『NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 レモン』(NHK出版 2012年3月15日第1刷発行)p126
  23. ^ 『果樹試験研究推進協議会会報』2011年10月(vol.22)「レモンと健康」に関する研究の動向
  24. ^ コカ・コーラは、檸檬堂で「やらない」ことを決めていた 最後発ブランドの勝因【#令和のヒット】」『Jcastニュース』、2021年1月2日。2021年1月3日閲覧。
  25. ^ 7月27日は水れもんバル」『タウンニュース』2014年11月7日閲覧
  26. ^ 「塩こうじ」の次はモロッコ生まれ「塩レモン」!しょうゆ感覚で和食にも産経ニュース(2014年7月20日)2015年10月23日閲覧
  27. ^ レモンさのう入り「ぎゅっと搾ったレモン水」発売(伊藤園)日本食糧新聞』1999年5月12日(2015年7月5日閲覧)
  28. ^ 「レモン果実1個当たりのビタミンC量」表示ガイドライン』一般社団法人全国清涼飲料工業会(2015年10月21日閲覧)
  29. ^ 『地域食材大百科第3巻 果実・木の実、ハーブ』(農文協 2010年8月25日第1刷)p388
  30. ^ くだもの歳時記 山形味の農園 りんごの変色防止法とは 4.レモン水につける 2016.11.21更新 2020.02.02閲覧
  31. ^ a b c マリア・リス・バルチン著、 田邉和子・松村康生 監訳『アロマセラピーサイエンス』(フレグランスジャーナル社、2011年)
  32. ^ 「レモンの歴史」(「食」の図書館)p93-94 トビー・ゾンネマン著 高尾菜つこ訳 原書房 2014年11月27日第1刷
  33. ^ 藪下史郎『非対称情報の経済学 スティグリッツと新しい経済学』光文社新書、2002年、83-86頁。ISBN 978-4334031497 






レモンと同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「レモン」の関連用語

レモンのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



レモンのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのレモン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS