レチクル座 レチクル座の概要

レチクル座

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/15 02:46 UTC 版)

座標: 04h 14m 47s, −62° 32′ 56″

レチクル座
Reticulum
属格 Reticuli
略符 Ret
発音 [rɨˈtɪkjələm]、属格:/rɨˈtɪkjʊlaɪ/
象徴 レティクル英語版
概略位置:赤経  03h 13m 27.0s -  04h 37m 05.9s[1]
概略位置:赤緯 −52.75 - −67.25[1]
広さ 114平方度 (82位
主要恒星数 4
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
11
系外惑星が確認されている恒星数 4
3.0等より明るい恒星数 0
10パーセク以内にある恒星数 2
最輝星 α Ret(3.36
最も近い星 ζ2 Ret;(39.38光年)
メシエ天体 0
隣接する星座 とけい座
かじき座
みずへび座
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レチクル座(レチクルざ、Reticulum)は、現代の88星座の1つ。18世紀半ばに考案された新しい星座である。この星座のモチーフは、「レティクル英語版」と呼ばれる、望遠鏡の視野に照準のために設けた線である[1][2]。日本では、星座の全域を見ることができない。全天で7番目に小さな星座で、明るい恒星もない。

主な天体

恒星

2022年4月現在、国際天文学連合 (IAU) によって1個の恒星に固有名が認証されている[3]

  • HD 23079:太陽系外惑星がある。国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でブラジルに命名権が与えられ、主星はTupi、太陽系外惑星はGuaraniと命名された[4]

そのほか、以下の恒星が知られている。

星団・星雲・銀河

由来と歴史

レチクル座は、18世紀中頃にフランスの天文学者ニコラ・ルイ・ド・ラカーユによって考案された。「レティクル」とは、天体望遠鏡で恒星の位置観測を行う場合、接眼レンズ焦点面に、視野の中心を示したり視野を分割するために張る照準線のことである[注 1]。ラカーユは菱形にもレティクルを張っており、これがモチーフとされた。初出は、1756年に刊行された1752年版のフランス科学アカデミーの紀要『Histoire de l'Académie royale des sciences』に掲載されたラカーユの星図で、レティクルの星座絵と「le Reticule Romboide」というフランス語の名称が描かれていた[2][11][12]。ただしこれは綴り誤りで、"R"と"o"の間に入るべき"h"が抜けており、星表の注意書きでは Le Réticule rhomboïde と正しく綴られていた[13]。ラカーユが他界した後の1763年に刊行された著書『Coelum australe stelliferum』に掲載された第2版の星図では、ラテン語化して簡略化された「Reticulus」と呼称が変更されていた[2][14]

1879年にベンジャミン・グールドが刊行した『Uranometria Argentina』で中性形に変更され、現在の呼称と同じReticulumとなった。1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Reticulum、略称はRetと正式に定められた[15]。新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。

レチクル座の領域には、17世紀のドイツの天文学者イサーク・ハブレヒト2世英語版 によって「Rhombus(菱形)」という名の星座が設けられていた[2]。ハブレヒトが考案した Rhombus は、レチクル座α・β、みずへび座γ・νの4星から成っていたと推定されており、ラカーユの星図で描かれたα・β・δ・εの4星からなる菱形よりも大きくかつ南に寄っていた[2]

1810年にアメリカのアマチュア天文家ウィリアム・クロスウェルは、著書に添付した星図『A Mercator map of the starry heavens』の中で、レチクル座、とけい座、かじき座に跨る領域に、クリストファー・コロンブスと思しき人物の胸像をモチーフとした「大理石の彫刻座 (Marmor Sculptile)」を設けたが、その後これを引き継ぐ者は現れなかった[16]。また、1822年にイギリスのアマチュア天文家アレクサンダー・ジェイミソンが刊行した『Celestial Atlas』では、レチクル座は「日時計座 (Solarium)」に置き換えられた[2]。ジェイミソンの考案した日時計座は、アメリカの天文学者イライジャー・バリットが1835年に刊行した『Atlas Designed to Illustrate The Geography of the Heavens』にも引き継がれたが、その後広まることはなかった[2]

呼称と方言

日本では当初から「レチクル」という訳語が充てられていた。これは、1910年(明治43年)2月に刊行された日本天文学会の会誌『天文月報』の第2巻11号に掲載された、星座の訳名が改訂されたことを伝える「星座名」という記事で確認できる[17]。この訳名は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも引き継がれ[18]、1943年(昭和18年)刊行の第19冊まで「レチクル」が使われた[19]

ところが、1944年(昭和19年)に天文学用語が見直された際に、日本語の学名が「小網(こあみ)」と改められた[20]。戦後も「小網」が使われていた[21]が、1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[22]とした際に、Reticulum の日本語の学名は再び「レチクル」と改められた[23]。これ以降は「レチクル」という学名が継続して用いられている。

1980年代になっても、アイルランドの小説家アン・マキャフリイのSF短編小説集『歌う船』収録の短編『あざむいた船』の邦訳で「小網座の俗謡を歌う」と訳されるなど、「小網」の呼び名が使われた例もある。[要出典]

脚注

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注釈

  1. ^ ラテン語で「網」を意味する rete の指小辞形である。

出典

  1. ^ a b c The Constellations”. 国際天文学連合. 2023年1月12日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g Ridpath, Ian. “Reticulum”. Star Tales. 2023年1月12日閲覧。
  3. ^ IAU Catalog of Star Names”. 国際天文学連合. 2023年1月9日閲覧。
  4. ^ Approved names” (英語). Name Exoworlds. 国際天文学連合 (2019年12月17日). 2019年12月29日閲覧。
  5. ^ "alf Ret". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月12日閲覧
  6. ^ "bet Ret". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月12日閲覧
  7. ^ a b "eps Ret". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月12日閲覧
  8. ^ "zet01 Ret". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月12日閲覧
  9. ^ "zet02 Ret". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月12日閲覧
  10. ^ December 1974”. Astronomy.com. 2023年1月12日閲覧。
  11. ^ Ridpath, Ian. “Lacaille’s southern planisphere of 1756”. Star Tales. 2023年1月7日閲覧。
  12. ^ Histoire de l'Académie royale des sciences” (フランス語). Gallica. 2023年1月7日閲覧。
  13. ^ Ridpath, Ian. “Lacaille’s Reticulum”. Star Tales. 2023年1月12日閲覧。
  14. ^ Coelum australe stelliferum / N. L. de Lacaille”. e-rara. 2023年1月7日閲覧。
  15. ^ Ridpath, Ian. “The IAU list of the 88 constellations and their abbreviations”. Star Tales. 2023年1月5日閲覧。
  16. ^ Barentine, John C. (2016-04-04). Uncharted Constellations: Asterisms, Single-Source and Rebrands. Springer. pp. 85-93. ISBN 978-3-319-27619-9. https://play.google.com/books/reader?id=3MztCwAAQBAJ&pg=GBS.PA85 
  17. ^ 星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、 11頁、 ISSN 0374-2466
  18. ^ 東京天文台『理科年表 第1冊』丸善、1925年、61-64頁https://dl.ndl.go.jp/pid/977669/1/39 
  19. ^ 東京天文台『理科年表 第19冊』丸善、1943年、B22-B23頁https://dl.ndl.go.jp/pid/1244806/1/48 
  20. ^ 学術研究会議 編「星座名」 『天文術語集』1944年1月、10頁。doi:10.11501/1124236https://dl.ndl.go.jp/pid/1124236/1/9 
  21. ^ 東京天文台『理科年表 第22冊』丸善、1949年、天 34頁頁https://dl.ndl.go.jp/pid/1124234/1/61 
  22. ^ 『文部省学術用語集天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2 
  23. ^ 星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、 13頁、 ISSN 0374-2466



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