レイノルズ数 レイノルズ数の概要

レイノルズ数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/15 01:54 UTC 版)

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円柱周りのカルマン渦列。この現象は円柱周りで起こり、すべての流体について、円柱サイズと流体速度との積を動粘性係数で割ったものが、つまりはレイノルズ数が40から103のときに見られる[1]

概念は1851年にジョージ・ガブリエル・ストークスにより紹介されたが[2]、レイノルズ数はオズボーン・レイノルズ (1842–1912) の名にちなんで名づけられており、1883年にその利用法について普及させた[3][4]

流体力学上の問題について次元解析を行う場合にはレイノルズ数は便利であり、異なる実験ケース間での力学的相似性を評価するのに利用される。

また、レイノルズ数は層流乱流のように異なる流れ領域を特徴づけるためにも利用される。層流については、低いレイノルズ数において発生し、そこでは粘性力が支配的であり、滑らかで安定した流れが特徴である。乱流については、高いレイノルズ数において発生し、そこでは慣性力が支配的であり、無秩序なや不安定な流れが特徴である。 実際には、レイノルズ数の一致のみで流れの相似性を保証するには十分ではない。流体流れは一般的には無秩序であり、形や表面の粗さの非常に小さな変化が異なる流れをもたらすことがある。しかしながら、レイノルズ数は非常に重要な指標であり、世界中で広く使われている。

定義

レイノルズ数Re は表面に向かう相対運動の中の流れを有する様々な状況として定義される[n 1]。これらの定義は一般的に密度や粘性、及び速度や特性長さ、もしくは特性寸法等の流体特性を含む。この特性長さは慣習によって決められており、例えば、半径直径に対して等しく有効であるが、どちらか1つが慣習的に選ばれている。航空機船舶については、縦の長さもしくは幅が特性長さとして利用される。配管内の流れや流れの中の球の運動については、内径が今日一般的に利用されている。長方形配管や球体以外の丸みを帯びた物体のような他の形状については定義されている等価直径を用いる。圧縮性気体や非ニュートン流体のような、粘性や密度が一定ではない流体については、特別な規則が適用される。速度についてもある環境、特に攪拌槽では慣習により定義される。

流体流れの定性的ふるまいはレイノルズ数に大きく依存する;類似した流れのパターンは障害物の形やレイノルズ数が一致するときに現れ、他のパラメータとして障害物の表面の粗度も大きな影響を与える。

流れの中の障害物に関したレイノルズ数は、粒子レイノルズ数と呼ばれしばしばRepと表記され、粒子周りの流れの性質、渦の剥離英語版の発生の有無、及び粒子の沈降速度を考慮するときに重要となる。

流れの中の球

球付近のクリープ流れ: 矢印線は流線,力は抗力 Fd と重力 Fg

流れの中のに関し、特性長さは球の直径であり、特性速度は、球からすこし離れた場所の球の運動が流体の検査体を乱さないような場所にある流体と球との相対速度である。密度速度は流体の属性とする[13]。この定義では、レイノルズ数が0.1までは純粋な層流のみが存在することに注目すべきである。

レイノルズ数が低い状態では、と速度の関係はストークスの式により与えられる[14]

流れの中の楕円体

楕円形の物体の式は球の式と同様であり、物体が楕円体に近似されるとき軸の長さが特性長さとして用いられる。ただし、粒子の軸長さの測定は非現実的なので、ふるい径が特性粒子長さとして代わりに用いられる。二つの概算値を用いることで限界レイノルズ数の値が変動する。

沈降速度

粒子レイノルズ数は粒子の沈降速度を決定するのに重要である。粒子レイノルズ数が層流を示す場合、ストークスの式を沈降速度の計算式として使用することができる。粒子レイノルズ数が層流を示す場合、適切な沈降速度をモデル化するために乱流抗力法(turbulent drag law)が構築される必要がある。 高分子溶液重合体溶融物のような粘性が元々高い流れは普通は層流となる。レイノルズ数が非常に小さければ、ストークスの法則により流体の粘性を計ることができる。球が流体の中で沈降するとき、球はすぐに終末速度に達し、そこから粘性が求まる。

充填層

直径がD のほぼ球状の粒子からなる充填層に接触する流体流れについて、充填率がε及び空塔速度V であるとき、レイノルズ数は次のように定義される。

層流はRe = 10まで適用され、2000以上になると完全乱流となる[13]

攪拌槽

中央にある回転式のパドル、タービンまたはプロペラにより攪拌される円筒容器内では、レイノルズ数は次のように定義される。

  • :特性長さはこの攪拌槽の直径となる
  • :速度
  • 回転速度

このシステムではレイノルズ数が10000以上となると完全乱流となる[15]

物理的な意味

流れの相似性1

後述のバッキンガムのΠ定理によれば、流れの中におかれた物体に働く力はレイノルズ数とマッハ数のみの関数である。すなわち、レイノルズ数とマッハ数が同じ値の流れ場は同じ振る舞いをする。これを流れの相似性という。これを利用すれば、風洞実験で流れ場を再現するにはレイノルズ数・マッハ数を変えるだけでよく、流速・密度・粘性係数・圧力等といった多数の変数を扱う必要がなくなり、実験回数を大きく削減できる。

さらに、外力保存力であり、かつ非圧縮性流れの場合は境界の相似性とレイノルズ数の一致のみによって流れ場全体の相似性が成り立つ[16]。これをレイノルズの相似則Reynolds's law of similarity)という(相似則も参照)。

流れの相似性2

2つの流れが相似であるためにはそれらが相似な幾何学的形状を持たなければならず、かつ等しいレイノルズ数とオイラー数英語版Eu を持つ必要がある。モデル流れと実スケール流れにおける対応した点での流体の振る舞いを比較するとき、次の関係が保たれる。

'm'と表記される量はモデル周りの流れに関するもので、表記のないほうが実スケール流れである。これにより、現実流れに対するモデル流れの相関を保ったまま、水路または風洞での小さなモデルで実験をし、かつ実験にかかる費用と実験期間を削減することが可能となる。現実の動的相似性は圧縮性流れにおけるマッハ数、または開水路流れを支配するフルード数等の他の無次元量との一致を必要とする場合もあるので注意が必要である。いくつかの現実流れはモデルとして利用可能な装置や流れで実際に使われる無次元パラメータよりも多くの無次元パラメータを含むものであるが、そのパラメータのうち1つが最も重要であると決定されることが多い。実験モデルでの流れについて有効性を高めるには、相当回数の実験と技術者の判断が必要となる。

乱流遷移の指標

定義を見てみると分母は粘性力、分子は慣性力の強さを表しており、レイノルズ数は粘性力(周りの流体要素と同様に動こうとする力)に対する慣性力(周りとは別に動こうとする力)の強さを表していると見ることができる。したがってレイノルズ数が大きくなることは、各流体要素が別個に運動し、流れ場が乱流に近づくことを意味する。一般に、流れは、レイノルズ数が小さい内は層流だが、レイノルズ数が大きくなると、乱流に転ずる。このため、レイノルズ数は、乱流と層流を区別する指標としても用いられる。層流が乱流に遷移するときのレイノルズ数を限界レイノルズ数という。例として、円管内の流れでは2,300 - 4,000[17]であることが知られている。レイノルズ数が2300と4000間では、層流と乱流ともに起こり得り"遷移"流と呼ばれ、配管の粗さや流れの不均一性等の他の要因に影響される。この結果は水力直径を用いた非円形水路についても発生し、遷移レイノルズ数は他の形状の水路についても計算することができる。 一様流中の平板表面では限界レイノルズ数は500,000[18]程度であることが実験から知られている。

これらの遷移レイノルズ数は"限界レイノルズ数"と呼ばれ、1895年にオズボーン・レイノルズにより研究されている[4]

乱流運動における最小スケール

乱流において、時間変化するひと塊のスケールでの流体運動が存在する。流体運動(渦とも呼ばれる)の最大サイズは流れの全体のジオメトリーにより決められる。例えば、工業用煙突において渦の最大スケールは煙突そのものの直径と同等の大きさである。最小スケールのサイズはレイノルズ数により決められる。レイノルズ数が大きくなると、小さな渦も可視化されてくる。煙突では、煙は大きな渦に加えて非常に小さな速度の揺れまたは渦を持っているように見えるかもしれない。これらの意味でレイノルズ数は流れスケールの規模についての指標であるといえる。レイノルズ数が大きいと、スケールの範囲も大きくなる。最大の渦はいつも同じサイズとなり、最小の渦はレイノルズ数により決定される。

この現象についての説明はどうなるか?大きなレイノルズ数は粘性力が流れの大きな規模では重要でないことを示す。粘性力に対する慣性力が非常に優位に働くと、流体運動の最大スケールは小さくならない。それはそれらの運動を放散するだけの十分な粘性がないということである。スケールが十分に小さく粘性が重要である(つまりは、粘性力が慣性力のオーダーになる)レベルまでは運動エネルギーが"カスケード"的に大きなスケールから次第に小さなスケールへと低下しなければならない。それは粘性作用によるエネルギーの消失が最終的に行われるのはこれら小さなスケールにおいてということである。それゆえ、最大渦は流れのジオメトリーにより決定され最小渦は粘性により決められるので、レイノルズ数は乱流運動最大スケールと最小スケールの比として理解することができる。


注釈

  1. ^ レイノルズ数の定義や潤滑方程式と混同しないように注意が必要。

出典

  1. ^ Tansley, Claire E.; Marshall, David P. (2001). “Flow past a Cylinder on a Plane, with Application to Gulf Stream Separation and the Antarctic Circumpolar Current”. Journal of Physical Oceanography 31 (11): 3274–3283. doi:10.1175/1520-0485(2001)031<3274:FPACOA>2.0.CO;2. http://www.met.reading.ac.uk/~ocean/Dynamics/pub/tm01b.pdf. [リンク切れ]
  2. ^ Stokes, George (1851). “On the Effect of the Internal Friction of Fluids on the Motion of Pendulums”. Transactions of the Cambridge Philosophical Society 9: 8–106. Bibcode1851TCaPS...9....8S. 
  3. ^ Reynolds, Osborne (1883). “An experimental investigation of the circumstances which determine whether the motion of water shall be direct or sinuous, and of the law of resistance in parallel channels”. Philosophical Transactions of the Royal Society 174 (0): 935–982. doi:10.1098/rstl.1883.0029. JSTOR 109431. 
  4. ^ a b Rott, N. (1990). “Note on the history of the Reynolds number”. Annual Review of Fluid Mechanics 22 (1): 1–11. Bibcode1990AnRFM..22....1R. doi:10.1146/annurev.fl.22.010190.000245. 
  5. ^ Reynolds Number
  6. ^ Batchelor, G. K. (1967). An Introduction to Fluid Dynamics. Cambridge University Press. pp. 211–215 
  7. ^ Reynolds Number Engineeringtoolbox.com
  8. ^ Holman, J. P.. Heat Transfer. McGraw Hill [要文献特定詳細情報]
  9. ^ Fox, R. W.; McDonald, A. T.; Pritchard, Phillip J. (2004). Introduction to Fluid Mechanics (6th ed.). Hoboken: John Wiley and Sons. p. 348. ISBN 0471202312 
  10. ^ Streeter, V. L. (1962). Fluid Mechanics (3rd ed.). McGraw-Hill 
  11. ^ Low-Reynolds-Number Airfoils, P.B.S. Lissaman, AeroVironment Inc., Pasadena, California, 91107
  12. ^ ISO. “International Standard Atmosphere”. eng.cam.ac.uk. 2013年6月1日閲覧。
  13. ^ a b Rhodes, M. (1989). Introduction to Particle Technology. Wiley. ISBN 0471984825. http://books.google.com/books?id=P9Qgvh7kMP8C&pg=PA29 
  14. ^ Dusenbery, David B. (2009). Living at Micro Scale. Cambridge, Mass: Harvard University Press. p. 49. ISBN 9780674031166 
  15. ^ Sinnott, R. K.. Coulson & Richardson's Chemical Engineering, Volume 6: Chemical Engineering Design (4th ed.). Butterworth-Heinemann. p. 73. ISBN 0750665386 
  16. ^ 今井功 『流体力学(前編)』 裳華房、1997年。ISBN 4-7853-2314-0 
  17. ^ Holman, J. P. (2002). Heat Transfer. McGraw-Hill. p. 207 
  18. ^ De Witt, D. P. (1990). Fundamentals of Heat and Mass Transfer. New York: Wiley 


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