ルーター 歴史

ルーター

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/10 08:25 UTC 版)

歴史

前史

ルーターの原型となったIMP

1964年MITのラリー・ロバーツがARPA(Advanced Research Projects Agency、DARPAの前身)のJ.C.リックライダーと出会い、コンピュータ同士の接続に意欲を燃やす。1966年にARPAに異動したラリーはARPANETの設計責任者となって、従来の「回線交換」にかわる「パケット交換」を基本とすることに決定。1968年よりARPANETの実計画がスタートし、1970年に最初の4箇所での接続によって稼動開始。ARPANETは、米BBN社 (Bolt Beranek and Newman) が開発したIMP (Interface Message Processor) と呼ばれる、単一プロトコルのみで動作するパケット交換機を中心に構成されていた。1972年にARPAに着任したボブ・カーンは、様々なインターフェースを備え、パケットをカプセル化する機能を持つ「ゲートウェイ」と呼ぶ装置を構想していた。プログラミングに詳しいスタンフォード大学ビントン・サーフは、カーンと協力し、1974年に、2人は、IEEEの学術誌に、現在のTCP/IPの原型となる、TCPを発表した。1977年に最初のネットワーク相互接続実験が行われ、衛星通信を介したパケットの送信に成功した。ゲートウェイという名称は、1980年代後半にルーターと呼ばれるようになるまで使い続けられた[2]

その後、2人のTCPプロトコルはアプリケーション同士の通信を担当する部分 (TCP) とパケット中継を担当する部分 (IP) に分割され、1981年には洗練されたプロトコルとして現在の「TCP/IP」が発表された。

誕生

1976年には、米BNN社の手によってARPANETに接続するIP対応ルーターが、世界で初めて製品化された。この「ルーター」は、米DEC社の16ビット・ミニコン「PDP-11」上において、アセンブリ言語で書かれた20Kバイトのプログラムによってパケットを処理する仕組みであり、処理速度は100パケット/秒程度であった[3]

1982年には、ARPANETの内部や米国・欧州を合わせて20以上のルーターと数百のホスト・コンピュータが1つに接続され、これが今のインターネットの原型となった[2]

商用販売

1986年には米プロテオン社より、マルチプロトコルに対応した世界初の商用ルーター「ProNET p4200」が発売された。1990年には米シスコシステムズ社が「Cisco7000」を、1997年にインターフェースカード(ラインカード)に分散アーキティクチャを導入した「Cisco12000」を発売し、10Mパケット/秒クラスの性能に至った。

1987年には世界初の商用インターネットプロバイダ (ISP) UUNETが誕生し、一般固定電話が定額制だったことから、コアルーターをDCE、アナログモデムをDTEとした、ハブスポーク型トポロジによるネットワークが米国において定着する[注 1]

1995年頃、回線の高速化(ISDNやCATVの普及)に伴うトラフィックの増加に伴い、X.25に代わるWANプロトコルとして、エラー制御処理の簡略化によって高速化したフレームリレーが導入された。その後、ルーターは様々な種類の物理インタフェースをサポートするようになった(ルーター#基本機能を参照)。

また、この頃からLAN回線(トークンリングイーサネットFDDI (Fiber-Distributed Data Interface))上で動作するネットワーク層プロトコル (AppleTalk、IP、IPX) とWANプロトコルをリンクさせる役割をルーターが担うことになり、同時に、LAN回線に比べて速度で劣るWAN回線を効率よく使用するため、WAN側に設置されたルーターをデータ端末装置 (DTE) として扱うことで、過剰なトラフィックをWAN側に流さないようになった。ルーターは、ISPによるWAN網のバックボーンとなるコアルーターと、そのDCEもしくはDTEとなるエッジルーターとに分かれることになる。

LANの普及とWANの高速化

1995年、標準ネットワーク機能としてTCP/IPを実装するOS「Windows 95」が発売され、企業におけるPCとLAN回線の普及が進むと、企業ネットワークの世界はISPセンターとPCを接続するトポロジから、セグメントごとにハブを介して専用線経由で接続するトポロジに変わり、LAN側セグメント間のルーティング機能が重視されるようになった。こうした状況の変化にともない、ネットワーク中継装置としてレイヤ2スイッチが注目されるようになり、やがてレイヤ2スイッチは利便性向上のため、VLAN (Virtual LAN) を実装するに至った。

一方で、コンシューマーにおいては前者のハブスポーク型トポロジは継続した。日本では、接続回線にISDNが広まったことから、アナログモデムからダイアルアップルーターに移行した。やがて1990年代後半からのブロードバンド回線の普及にともない、ブロードバンドルーターが広まることになった[注 2]

レイヤ3スイッチの誕生

VLAN技術により、ポートの効率化が可能になると、次はLAN側トラフィックの急増によってセグメント間ネットワーク層のルーティングがボトルネックとなった。

レイヤ3スイッチは、レイヤ2スイッチとルーターのルーティング機能を1つの筐体に同居させることで、レイヤ2スイッチとルーター間のボトルネックを解消した。ルーティング機能は、汎用CPUを使ったソフトウェア処理からASIC (Application Specific Integrated Circuit) とよばれる半導体チップによる処理に変更したことにより、処理の高速化を実現した[注 3]。また、コストの面から利用するプロトコルをTCP/IPに特化し、インターフェースをイーサネットに限定したことが、広域イーサネットIP-VPNといった次世代のWAN側サービスと合致したため、ユーザーの需要が高まることとなった。

当初、レイヤ3スイッチは高価であったが、2000年代に米エクストリームネットワーク社が安価で多彩な機能を持ったレイヤ3スイッチである「Summit」シリーズを発売し、センタールータの代替として、企業や官庁を中心にレイヤ3スイッチは普及した[6]

専用線から仮想線へ

2000年頃から、企業ネットワークの主流がこれまでの専用線から、より安価で接続範囲を限定されないインターネットによるVPN (Virtual Private Network) に移行した。通信業者はMPLSとVRによる有料サービス「IP-VPN」を提供したが、企業や個人にも独自にVPN環境を構築する動きが広がり、IPsecトンネルやPPTPを経路とするインターネットVPNを実装するエッジルーターやブロードバンドルーターが開発された。

2002年には、データリンク層をギガビットイーサネットで繋ぐ、広域イーサネットによるサービスが広まり、そのデバイスとしてレイヤ2スイッチが再度注目されることとなった。

次世代ネットワークによるオールIP化

2000年代後半より、IP電話や第3世代 (IMT-2000) 以降の携帯電話の発展に応じて、コアネットワーク(バックボーン)のオールIP化を志向した次世代ネットワーク (NGN) が提唱され、通信業者のバックボーンは、これまでの電話交換機による電話網からルーターやスイッチ類などによるIP網に再構築された。また、2010年6月には次世代イーサネット規格として、40Gbps/100Gbpsという2つの異なる伝送速度に応じたIEEE 802.3baが承認された。40Gbpsはサーバなどの機器間での接続に、100Gbpsは主にネットワーク間のバックボーンに使われるとの見通しで、各ベンダーの設計もこの規格に基づき、おこなわれている。


注釈

  1. ^ CATVやADSLが広まった後も、安定したインフラクチャであるナローバンドとしての利用は続いた[4]
  2. ^ ただし、ブロードバンド普及についての経緯や規模は各国の政策、通信事情により異なる[5]
  3. ^ レイヤ2スイッチもASIC実装に至る。
  4. ^ 主にヤマハ製品で使われる呼称。ヤマハはエッジルーターを拠点ルーターと呼ぶ。
  5. ^ 概ね2010年代前半までの機種。2010年代後半以降最新のIPv6/IPv4 over IPv6方式には対応していないものも多い
  6. ^ 本体に穴を開け、PC用ケースファンを設置するユーザもいる[9]
  7. ^ 2010年代後半以降、フレッツ網におけるIPv6でのIPv6 IPoEやIPv4 over IPv6の普及以降は、日本の各メーカーにおいて標準的機能となった。(生産終了機種を除く)
  8. ^ 一部のISP回線事業者(FVNE)での方式
  9. ^ フレッツ網におけるIPv6 IPoEルーティングは、「フレッツv6オプション」を契約により登録して、特定のVNE/ISPに接続(NGN網上の固定ルート設定)する形態であり、フレッツ網側からプレフィクスが広告(RA)される仕組みは共通であり、VNE/ISPによる差異は小さい。
  10. ^ IPv4 over IPv6の方式は各種類があり(基本的にはVNEごとに方式が違う場合がある)、ISP毎に対応する方式が異なる。ルーター側も全方式を網羅している訳ではないため、ルーターが非対応のサービス方式にはそのままでは接続不可。
  11. ^ セッションの発生から終了までを完全に監視し、中間者攻撃リセットパケットによる攻撃を排除する。(家庭用BBRでは基本的機能と言って良い)
  12. ^ (特定のプライベートアドレス機器をポート変換してグローバルIPアドレスとして公開) 
  13. ^ (対応機器は限定的である)
  14. ^ スマートフォンなどモバイル機器の普及により、無線アクセスポイント機能としての開発比重が高まっており、純粋な(ブロードバンド)ルーター的機能は付加的なものとなっている。例えばフレッツではHGW(ホームゲートウェイ)によるルーター機能の提供、フレッツ以外でもISP回線事業者によるレンタルルーター提供などが一般的である。
  15. ^ 2010年代以降、家庭向けルータ機器のCPUパワーでは非現実的となり、サービス終了・機能終了していった。近年ではDNSサービス側でのフィルタリングサービスを選択可能なものもあるが限定的である(サービス終了のものもある)
  16. ^ Infonetics Researchは、「EthernetとIPサービスへの移行が早まっている。2015年までにはATMやフレームリレーは実質的になくなるだろう、一方、専用線はもう少し先まで残る」と予測している[11]
  17. ^ モジュラー型はインターフェースカードをスロットに差し込むことでユニット交換が可能であり、拡張性に優れている。
  18. ^ フレームリレーの場合、ルーターをFRAD (Frame Relay Access Device) に設定し、接続先をデータ回線終端装置 (DCE) とする。
  19. ^ ルーターがIPパケットをルーティングする際、IPパケット・ヘッダーのTTL(Time To Live、IPパケットの寿命を表す数値)を1減らす。また、NAT/NAPTなどのアドレス変換時も、IPパケット・ヘッダーを書き換える。また、転送先のルートに合わせて、IPパケットを分割する場合もある。
  20. ^ cisco社ではアクセスリストまたはアクセス制御リスト (Access Control List) として実装する。
  21. ^ ルーティングテーブルは、宛先アドレス、ネクストホップ、送出元のインタフェースの各情報を持つ。
  22. ^ cisco社では、これをアドバタイズメント (advertisement) と呼ぶ。
  23. ^ ヤマハのRTシリーズなどでは、ネットワークバックアップ機能と呼ばれる[16]

出典

  1. ^ Layer3 Switching Overview (PDF) p.6
  2. ^ a b 日経NETWORK 2005年1月号「発掘!ルーター開発物語」
  3. ^ 経済産業省資料『ルーター・スイッチの現状』
  4. ^ 「Amazingly, AOL still has 3.5 million dialup subscribers」
  5. ^ 「米国のブロードバンド事情」 (PDF)
  6. ^ LANをギガビットに導いた紫の遺伝子の軌跡 2009年8月13日
  7. ^ ルータを大衆化した先駆者「MN128-SOHO」2009年05月05日
  8. ^ ただし、ONUと呼ばれる機器には、純粋なONUであり光 - UTPのイーサネットブリッジであるものと、ONU+ブロードバンドルータ的機能を内包したものとの二種類がある。いずれにせよ、WAN側の光ファイバとLAN側のUTP等イーサネットの間を中継する。
  9. ^ 熱にだって負けない! ファンでクールなブロードバンドルーターを作る!
  10. ^ 無線LANのWEP暗号、60秒でクラッキング”. ITmedia NEWS. 2021年1月20日閲覧。
  11. ^ Ethernet、IP MPLS VPNサービスは2016年に810億ドル 2012年7月27日
  12. ^ ネットワーク機器講座ルータ編
  13. ^ QoS機能の特性と設定のポイント
  14. ^ 優先制御(2012年11月7日)
  15. ^ 帯域幅制限に関するトラフィック ポリシングとトラフィック シェーピングの比較 (PDF)
  16. ^ [1]
  17. ^ 「05群4編5章 IPデータ系システム」電子情報通信学会知識ベース (PDF)
  18. ^ 『日経NETWORK 2004年8月号』 P68の記事2012年12月14日閲覧
  19. ^ SD-WANの新しい使い道 新たなトレンドSDCIとは?|BUSINESS NETWORK”. BUSINESS NETWORK (2023年2月20日). 2024年4月10日閲覧。
  20. ^ 日経クロステック(xTECH). “SD−WANサービス 徹底解剖”. 日経クロステック(xTECH). 2024年4月10日閲覧。






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