リン 歴史

リン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/09 08:18 UTC 版)

歴史

1669年にドイツの商人・ヘニッヒ・ブラントが、錬金術の実験としてバケツ60杯の尿を蒸発させていたところ、尿の残留物からリンを発見した[7]

生化学

DNAなどの核酸におけるホスホジエステル結合

生体内では、遺伝情報の要であるDNARNAのポリリン酸エステル鎖として存在するほか、生体エネルギー代謝に欠かせないATP、細胞膜の主要な構成要素であるリン脂質など、重要な働きを担う化合物中に存在している。また、脊椎動物ではリン酸カルシウム骨格の主要構成要素としての役割も持つ。このため、あらゆる生物にとっての必須元素であり、地球上におけるリンの存在量が、地球生態系バイオマスの限界量を決定すると言われている。農業においてはリン酸が、カリウム窒素などとともに肥料の主要成分である。

リンの原子が地上に現れるおもな循環システムは、植物を起点として考えた場合、

  1. 植物が枯死するか、その植物を食べた動物が死ぬ
  2. 微生物に分解され土壌に戻る
  3. 再び植物の根から吸い上げられる

となる[8]。この循環は短期間で一巡する場合もあるが、10年単位の時間を要する場合もある。雨や風によってループから外れ、海に流出してしまうリンもあり、そうしたリンが海底で堆積してできるのがリン灰石である。プレートテクトニクスによってリン灰石が地表に現れるには100万年以上の時間がかかる[8]

海洋においては浅い地域に多く、元素の中では偏在性が強い。メキシコ、コンゴ、南米付近の海底には大規模なリンの鉱床がある[9]

摂取

多くの食品にはリンが含まれ、その存在形態には無機リンと有機リンがある。無機リンの例としてはリン酸があり、牛乳に比較的多く含まれる。加工食品によっては無機リンがpH調整剤として添加されることもある。有機リンはタンパク質や糖、脂質とリン酸とが結合している。肉ではその多くが有機リンであり、たとえば、キナーゼによりリン酸化されたタンパク質であったり、ホスファチジルコリンなどのリン脂質として存在している。一方、穀類や豆類などではリンはと結合していることが多く、例としてはフィチン酸を挙げることができる[10]

体内での存在

に一番多くヒドロキシアパタイトとして存在する。血液中では7割が有機リンとして存在している[10]

摂取基準
リンの食事摂取基準(2015年)[11]
年齢 男性(目安量) 女性(目安量)
18歳以上 1,000mg 800mg

用途

用途としては、化学肥料の原料として使われるものがもっとも大きい。近年では、過リン酸石灰の生産が落ち込んでいるのに加え、従来の重過リン酸石灰の生産量は減少し、代わりにリン酸アンモニウム肥料がその重要性を増している。リン酸は金属の表面加工や工業用触媒に用いられるほか、食品添加物としてコーラなどにも少量添加されている。

代表的なリン酸の関連化合物の用途については、農薬殺虫剤としての利用も多く、化学兵器として研究されるほど強力な毒性を持った製品も開発されたが、その多くは使用が中止されている。現在はリン酸エステル系の殺虫剤が主力になっている。

同じくリン酸化合物であるリン酸ナトリウム水溶液は強塩基性を示すため、単独で金属の洗浄剤として使われるほか、次亜塩素酸と混合することで強力な洗剤となるため、三リン酸ナトリウムは洗剤として広く利用されていたが、排水に高濃度のリンが含まれるために微生物の異常な繁殖の原因となり、赤潮などの公害を引き起こした。それゆえ、環境への配慮から日本国内での使用はほとんどなくなってきている。リン酸水素カルシウムは研磨剤として歯磨きなどに含まれ、フッ素を含む歯磨きには二リン酸カルシウムなど、口腔衛生に関わる場面でもリン酸化合物が数多く配合されている。

そのほかにも、コーンフレークベーキングパウダー飼料にもリン酸化合物が含まれるほか、ハムチーズなどの製造時にも使用されている。燃料の不凍液にリン酸化合物が加えられたり、繊維製品の難燃加工にも利用されたりしている。製紙工業では消泡剤として、核燃料の再処理ではウランプルトニウム抽出の際の溶剤としてなど、多様なリン酸化合物が開発され、さまざまな場面で利用がある。

一般的に工業用の材料として使用されるものは、無機被覆または樹脂被覆処理を行った被覆リンとして流通している。被覆されることによって有毒なホスフィンの発生を抑制して自然発火が起きないようにすることで取り扱いを容易にしている。販売されている被覆リンは保存に特別な設備を必要とせず、常温の空気中に保存することができる。

潤滑用途ではさまざまな種類のリン系添加剤が使用されており、特に耐摩耗性、極圧性に優れたものが多く存在する。ジチオリン酸亜鉛などは磨耗防止、酸化防止、腐食防止といった機能を持つ多機能添加剤であるため昔から潤滑油用途で多用され、現在でも一般的な4ストロークエンジンオイルのほとんどに添加されている。

煙幕として白リン弾赤リン発煙弾が使われている。

規制

リンは細胞の不可欠な構成要素であるため、環境中に過剰に存在すると微生物の大量増殖を導いてしまう。赤潮などの公害が多発した1960年代以降、合成洗剤洗浄助剤としての使用が禁止されるなどの対策が講じられ、その後も閉鎖性水域を中心に、環境基準の項目として定番となっている。

ガソリンエンジンの排ガスを浄化する三元触媒はエンジンオイルに含まれるリンによって被毒する。そのためILSACなどのエンジンオイル規格においてリンの含有量規制が存在する。ただしリンは磨耗防止などさまざまな機能を担っている重要な要素であり、現状では潤滑性能を維持する観点から最低含有量も同時に設定されている。




  1. ^ Phosphorus: diphosphorus tetrahydride
  2. ^ Ellis, Bobby D.; MacDonald, Charles L. B. (2006). “Phosphorus(I) Iodide: A Versatile Metathesis Reagent for the Synthesis of Low Oxidation State Phosphorus Compounds”. Inorganic Chemistry 45 (17): 6864. doi:10.1021/ic060186o. PMID 16903744. 
  3. ^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds (PDF) (2004年3月24日時点のアーカイブ), in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
  4. ^ The Free Dictionary
  5. ^ PHOSPHORUS (YELLOW) 国際化学物質安全性カード
  6. ^ アメリカ有害物質・疾病登録局英語版 (ATSDR) が 1997年に作成したTOXICOLOGICAL PROFILE FOR WHITE PHOSPHORUSによる。
  7. ^ 桜井弘 『元素111の新知識』 講談社ブルーバックス〉、1998年、94頁。ISBN 4-06-257192-7 
  8. ^ a b ルース・ドフリース、小川敏子訳 『食糧と人類:飢餓を克服した大増産の文明史』 日本経済新聞出版社、2016年、90–95頁。ISBN 978-4532169817 
  9. ^ 臼井朗 『海底鉱物資源:未利用レアメタルの探査と開発』 オーム社、2010年、53頁。ISBN 978-4274502873 
  10. ^ a b Sareen S. Gropper, Jack L. Smith, James L. Groff. Advanced Nutrition and Human Metabolism (4th edition ed.). WADSWORTH. p. 443,444. ISBN 978-0-495-11657-8 
  11. ^ リンの働きと1日の摂取量”. 健康長寿ネット. 公益財団法人 長寿科学振興財団 (2019年8月9日). 2020年4月17日閲覧。





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