ラベンダー 利用

ラベンダー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/08/05 22:24 UTC 版)

利用

ラベンダーを使ったカップケーキ

ラヴァンドラ属は、ポプリの材料、ハーブティー、料理の風味付け、化粧水などの美容、観賞用(鉢植え)等々に利用されてきた。また古くから、多くの薬効を持つハーブとして利用された。

ギリシア人は、シリアの都市ナールダ(おそらく現在のイラクのドホーク)から採って、ラベンダーを「ナルド」と呼んだ[27][28]L. latifolia(スパイク・ラベンダー)は、最も高価な香料のひとつである甘松香英語版(スパイクナルド)と混同され、重用された。新約聖書ベタニアのマリアがイエスに注いだ「ナルドの香油」は、甘松香ではなくラベンダーの香油であったとも考えられている[14]。ラベンダーの花は非常に高価で、古代ローマのプリニウスの時代には1ポンド当たり100デナリという高額であり、中世になっても貴重なものであった[10]

乾燥させたラベンダーを束ねたもの。防虫に用いる。

フランスなどでは、乾燥させた花を小さな布袋に入れた一種のサシェ(香り袋、匂い袋)があり、それを洋服箪笥に入れたり、ワードローブの中に下げておいたりして、香りを衣類に移したり防虫剤として利用する。あるいはサシェをベッドの枕の近くなどに置いて寝室に漂わせたり、枕のつめものの一部としてラベンダーを混ぜておいて、枕に頭を置くだけで中身が自然と揉まれて香りが漂うことを楽しむ。

花や葉は食用され、食欲増進のハーブとして料理や菓子の風味付けに用いられた。調味料としてサラダやドレッシングに利用されている[29]。南フランスでラベンダーは伝統的に様々な用途に利用され、エルブ・ド・プロヴァンスというラベンダーを含むハーブミックスが広く知られるが、これはスパイス業者が作ったもので、伝統的な南仏プロヴァンス料理でラベンダーは用いられない[30][31]。近年、エルブ・ド・プロヴァンスは料理でよく使用されるようになってきている。

エリザベス1世はラベンダーのジャムを好み、砂糖漬けを肉料理やフルーツ・サラダの薬味として、菓子や頭痛薬として食した[10]チャールズ1世の妃ヘンリエッタ・マリアは、ラベンダーの花を刻んで粉砂糖と混ぜ、ローズウォーターでペースト状に練った砂糖菓子が大好物で、これをビスケットなどに塗って食べていたという[要出典]

また、香水に使われる香料として重要な役割を果たした。ラベンダーの芳香成分をアルコールに溶かしたラベンダー水は、ローズマリー水(ハンガリーウォーター)と共に、最古のアルコールベースの香水のひとつとされる[32]。1709年にイタリアの香料商ヨハン・マリア・ファリナがドイツのケルンで発売され人気となった香りのよい薬用酒「アクア・アドミラビリス」(奇跡の水)、後の「オーデコロン」(Eau de Cologne、ケルンの水)には、微量のラベンダーがブレンドされていた[3][7]

現代では、L. angustifolia(コモン・ラベンダー)やL. x intermedia(ラバンジン)の精油は、香料やアロマセラピーに用いられる。精油は、先端部分および花から、水蒸気蒸留で抽出される。ヨーロッパ薬局方には、L. angustifoliaの精油が収録されている。溶剤抽出法によるラベンダー・アブソリュートもある[33]。同じL. angustifoliaを用いても、抽出に用いる部位によって、精油の成分は大きく異なる。L. x intermediaL. angustifoliaより多くの精油を採ることができ、価格が安いため広く流通しているが、L. x intermediaの精油をL. angustifoliaの精油として販売する業者も存在する。L. x intermedia(ラバンジン)の精油は、多少カンファー臭があり、L. angustifolia(コモン・ラベンダー)の精油とは成分組成も異なる[33]

Lavandula latifolia(スパイクラベンダー)の精油は、油彩画用の揮発性溶剤としても利用される。同様の目的に使われるテレビン油に比較して、非常に高価なためあまり使われないが、樹脂の溶解能力は高く、防腐性能もある。[34]

効能・臨床研究

ラベンダー油

ラヴァンドラ属は、ハーブの一種として用いられ、様々な効能が期待されている。古くから多くの病気に対する万能薬として利用されており[10]、不安、不穏、不眠、うつ症状、精神安定、鎮痛、胃のむかつき、脱毛、防虫・殺菌などに効果があるとされ、民間療法または伝統療法として使われている[35][36]。アメリカのNational Center for Complementary and Integrative Health(NCCIH、旧 国立補完代替医療センター)は、2012年時点では、伝承される多くの効能に対し、有効性が科学的に証明されたものはごくわずかしかないと述べている[36]

精油も薬用され、第一次世界大戦時に病院で使用されていた[37]。種によって成分組成は異なり、香りだけでなく薬効も異なる。

揮発性の油である精油には、L. angustifolia(コモン・ラベンダー)の水溶性成分などは含まれないため、ハーブとしての効能をそのまま精油に用いることはできない[38]L. angustifoliaの精油はアロマテラピーでもっとも使われるもののひとつで、様々な効能があるといわれている。生化学者のマリア・リス・バルチンは、一般に言われるL. angustifoliaの精油の効能には、近世のハーブ療法家・ニコラス・カルペパー英語版(1616 - 1654)が記したL. latifolia(スパイク・ラベンダー)の効能で、チンキやティーの形で治療に用いたものが誤って引用された例が少なくないと指摘している[33]。例えばL. latifoliaの水溶性成分には鎮痙作用[39]があるが、これがL. angustifoliaの精油の効能として転用されており、情報が混乱していることがわかる[33]。またカルペパーは、ラベンダーには癲癇(てんかん)、痙攣(けいれん)など様々な症状に効果があると述べているが、スパイク油(ラベンダーの精油)は「その性質は極めて激しく刺すような刺激があるため、使用には注意を要する。」としている[3]

効果があると考えられるもの

一部の予備的な研究結果では、ラベンダー油は、タイム油、ローズマリー油、シダーウッド油と組み合わせて使用すると、円形脱毛症に効果がある可能性が示されている[40][36]。いくつかの研究は、6 - 10週間ラベンダー油を経口摂取することで、不安や不眠を改善することを示唆しているが、抗不安薬ロラゼパムより効果は弱いようである[40]。ただし、初期のアロマセラピーにおけるラベンダー油での不安治療の研究は不十分であり、エビデンスたり得ない[40]。またいくつかの研究は、ラベンダー油の香りを嗅いでいると高齢者の転倒が減少する、帝王切開で静脈内鎮痛剤を使用しながらラベンダー油を吸入すると、術後の痛みが軽減することを示している[40]

効果がないと考えられるもの

がんによる痛みの軽減、認知症の改善、会陰の痛みの軽減などの効果はないと考えられている[40]

エビデンスが不十分であるもの

鎮静効果(興奮)に関する臨床研究は不十分で、矛盾する研究結果があるが[36]アルツハイマー症患者の興奮を改善する可能性がある。かゆみや炎症を起こしている皮膚(湿疹)、疝痛便秘鬱病、気分の落ち込み(幸福感)、月経痛、高血圧不眠偏頭痛頭痛シラミ、耳の感染症、傷の治療、食欲不振、歯痛、にきび、吐き気、がんに対する効果、蚊の忌避剤、防虫剤としての効果の研究は十分ではなく、さらなる研究が必要とされている[40]

安全上の懸念

ラベンダーを経口摂取した場合、便秘、頭痛、食欲増加を引き起こす可能性がある[40]。ラベンダー油の経口摂取は、有害である可能性がある[36]

アメリカ国立衛生研究所は、妊娠中・授乳中におけるラベンダーの使用は、安全が確認されていないとしている[40]

皮膚刺激性

L. angustifolia(コモン・ラベンダー)やL. x intermedia(ラバンジン)などラヴァンドラ属の精油は、皮膚への感作性[41]を除けば、比較的安全性の高い精油である。皮膚に使用すると刺激を感じることがある。精油や精油を用いた化粧品による接触性皮膚炎アレルギー反応の報告があり、日本人のラベンダー油の陽性率(パッチテストによる)は、1997年に劇的に増加している[42]。これは、近年のアロマブームの影響だと考えられている。L. x intermediaの精油で偽和(合成成分の添加など)が横行しており、これが広く利用された影響で、ラヴァンドラ属の精油に対する感作が上昇していると考えられる[33]名古屋大学医学部環境皮膚科学講座の杉浦真理子らは、化粧品の接触性皮膚炎に関する調査を行った。12年間に1000人以上の患者を対象に行ったパッチテストで、陽性率第1位はラベンダー油で、6.57%と突出して多かった[43][44]

2004年にin vitro(試験管内で行う試験)で、ラベンダー油に細胞毒性(細胞傷害性)が認められたという研究結果が公開された[45]。これに対しアロマセラピストのロバート・ティスランドは、全てのin vitroは、その現象が起こる可能性を示唆するにすぎず、生体で同様の効果があると決めつけることはできないと述べている[46]

光毒性

2007年に様々な香料感光性英語版に関する研究が発表された。ラベンダーは光毒性反応を誘発すると言われているが、研究でそのような現象は認められなかった[47]

女性化乳房

精油の思春期前の少年への局所的・反復的使用は、男性の乳房が成長する女性化乳房の原因になるという見解がある[36][48][49]

コロラド大学デンバー校の小児内分泌学者Clifford Blochによると、4歳・7歳・10歳の「思春期前女性化乳房」と診断した男児3人が、ラベンダーの香りの石けん、スキンローション、またはシャンプーか整髪料を使用しており、これらにはラベンダー油またはティーツリー油が含有されていた[50]。これらの製品の使用をやめると、数カ月で女性化乳房の症状は消えた[50]

アメリカ国立環境衛生科学研究所は、ヒト乳がん細胞を使って、これらの精油が遺伝子の発現にどう影響するかを調べた。その結果、主要な女性ホルモンであるエストロゲンと似た働きをする他、男性ホルモンのアンドロゲンを阻害するらしいことが分かった[50]

相互作用

薬剤、サプリメントとの相互作用の可能性がある[36]抱水クロラール降圧薬バルビツール酸系薬(鎮静薬)、ベンゾジアゼピン向精神薬)、中枢神経抑制薬と相互作用があると考えられている[40]。眠気を引き起こす、または血圧を下げる可能性があるため、同様の効果を持つサプリメントと併用すると強い眠気が起こったり、血圧が大幅に低下する危険性がある[40]。中枢神経系に影響を与えると推測されるため、手術中に使用する薬剤との相互作用を防ぐために、手術の2週間前に使用を止める必要がある[40]


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