ラッカセイ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/09 13:29 UTC 版)
ラッカセイアレルギー
ラッカセイは(蕎麦同様に)重篤な食物アレルギー(アナフィラキシー)を引き起こす可能性のある食材として知られている。日本ではそれほど聞かないが、欧米で特に多く、人口の約1パーセントがピーナッツアレルギーであり注意を要する。ナッツアレルギーを持った女性がピーナッツバター入りのサンドイッチを食べたボーイフレンドとキスをした後、重度のアレルギー症状で死亡する事故も起きている[19]。
ラッカセイは、材料・加工品ともにアレルギー物質を含む食品として食品衛生法施行規則、別表第5の2による特定原材料として指定されている。同法第11条及び同規則第5条による特定原材料を含む旨の表示が義務付けられている。しかし、飲食店では必ずしも表示されておらず、沖縄料理店でジーマーミ豆腐の主原料がラッカセイであると分からず食べてしまうこともある。
栽培
ラッカセイは比較的作りやすい作物で、春に種を播いて育て、秋に地中になった殻ごと掘り上げて収穫する[20]。砂質でやわらかい土壌を好み、栽培適温は25 - 27度とされる[20]。連作を嫌うため[21]、3 - 4年はマメ科作物を作っていない畑で育てられる[20]。
種播きの適期は4月中旬から下旬ごろで、鳥の食害に遭うことを避けるために育苗ポットに種を1粒ずつ播いて育てる[20]。種を播く前に、あらかじめ種子を一晩水につけて吸水させておくと、発芽が揃うようになる[20]。7 - 10日で発芽するが、間引きは行わずに本葉が3 - 4枚になったら約30センチメートル (cm) 間隔で畝を作った畑に定植する[20]。畑に直播きする場合は、株間30 cmほど空けて、不織布などをベタ掛けすると鳥の食害除けになる[20]。苗が根付き生長を始めるようになると、主茎の9節目ぐらいで摘芯しておくと側枝が出て収量が増やせる[22]。肥料が不足すると実が育ちにくくなることから、開花が始まる初夏から追肥を始め、中耕して株のまわりに土寄せを行い、開花後の子房が地中に入りやすくなる[22]。花が終わると、子房の柄が伸びて地中に入り実が膨らむ[22]。
秋に葉が黄色くなってきて、地中のサヤに網目が出ていたら収穫時期となる[22]。収穫方法は、株元にスコップを入れて茎を持って引き抜くようにする[22]。そのまま逆さまにして5日ほど畑に放置して乾燥させ、振るとカラカラ音を立てるようになったらサヤを外して水洗いする[22]。
生産と貿易
主な生産地
以下に、国際連合食糧農業機関(FAO)による2004年時点の生産量[23]、輸出量[24]、輸入量[25]のうち、上位5カ国を示す。いずれも重量ベースである。
生産量は、中国(1,441万トン)、インド(590万トン)、ナイジェリア(294万トン)、アメリカ合衆国(211万トン)、インドネシア(147万トン)である。中国が約4割、上位5カ国で全生産量の75%を占める。統計値は殻付き (Groundnuts in Shell) である。
むきみの輸出と輸入
未加工品の落花生は主にむきみ (Groundnuts Shelled) の形で貿易ルートに乗っている。輸出では、中国(32.5万トン)、アメリカ合衆国(14.6万トン)、インド(11.2万トン)、アルゼンチン(7.0万トン)、オランダ(6.3万トン)である。輸入では、オランダ(22.5万トン)の輸入量が突出しており、ついでイギリス(8.5万トン)、カナダ(8.0万トン)、メキシコ(7.6万トン)、ドイツ(6.0万トン)である。日本のむきみ輸入量は世界第7位に位置し、主に中国から輸入されている。
殻付き
むきみと比較すると、殻付きの貿易量は少ない。輸出量は、中国(7.8万トン)、インド(6.5万トン)、アメリカ合衆国(1.7万トン)、エジプト(1.1万トン)である。輸入ではメキシコ(2.2万トン)、イタリア(2.1万トン)、インドネシア(1.9万トン)、ドイツ(1.4万トン)、スペイン(1.4万トン)である。
むきみ、殻付きのほか、煎る・揚げるといった加工品、ピーナツバターのようにさらに加工が進んだ形の商品も貿易ルートに乗っており、金額ベースでは加工品の占める割合が高い。
日本での生産と輸入
日本における生産量は、農林水産省の『作物統計』[26]によると、2015年の生産量はむきみ換算で1万2,300トンである。輸入量は、財務省の貿易統計によると9万8,867トンであった。県別の生産量では、千葉県が9590トンで突出しており、78.0%を生産している。千葉県は農林総合研究センターに「落花生研究室」を設けている。品種として「ナカテユタカ」「郷の香」「おおまさり」のほか[27]、2018年に命名した「Qなっつ」のように品種改良やブランド化、高齢化で減少傾向にある栽培農家数の回復にも力を入れている[28]。特に千葉県中央部の八街市が生産量では日本一を誇る。県別では茨城県(1500トン、12.2%)が続き、千葉県と合わせると9割を超える。以下、神奈川県、栃木県、鹿児島県が続く。
日本での生産品種
1904年にアメリカで開かれたセントルイス万国博覧会では、日本の静岡県西部(遠州地方)から出品された遠州半立(遠州小落花)が金賞となった。浜松市浜北区に残っていた種子から栽培種として復活が取り組まれている[29]。

日本で生産されている主な品種は以下のとおり。
- 千葉半立
- ナカテユタカ(千葉県農試育成)
- 郷の香(千葉県農試育成)
- 立落花生一号(神奈川県農試選抜)
- 改良半立(神奈川県農試選抜)
- フクマサリ(千葉県農試育成)
- 金時
- おおまさり - 千葉県で作られる大粒の品種。ジャンボ落花生。サヤの大きさは5 cm以上ほどになり、通常のラッカセイの2倍ほどの大きさがある[3]。
- Qなっつ(千葉県)[30]
日本国内で消費されている安価なラッカセイの大部分は中国産で、主に大粒の品種を栽培している山東省、河北省、天津市産の輸入が多い。「南京豆」という別名に使われている江蘇省の南京など、華中・華南地方産のラッカセイは小粒の物が多い。
日本での販売価格
2000年を過ぎた頃から相場が下がり始め、2006年頃には100グラムあたり40円にまで下がった。2007年頃に相場が上がり、100グラムあたり100円となった。しかし、店によっては100グラムあたり65円で売っていることもあり、販売ルートによって価格に差がある。
日本での関税
ラッカセイはこんにゃく芋と同様に関税割当制度の対象であり、2007年は1次税率が10%、2次税率が617円/kgと保護関税が課せられている[31]。
注釈
出典
- ^ Linnaeus, Carolus (1753) (ラテン語). Species Plantarum. Holmia[Stockholm]: Laurentius Salvius. p. 741
- ^ a b c d e f g h i j 主婦の友社編 2011, p. 110.
- ^ a b c d e f g h 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 137.
- ^ “peanut”. Wiktionary. 2022年4月30日閲覧。
- ^ a b c d e ジョンソン 1999, p. 125-131.
- ^ 『落花生 栽培手引き』p47、2010年3月、相州落花生協議会。同時期に神奈川県二宮町の二見庄兵衛も「南京豆」の種子を入手し、試作した。後年、この中から立性種を選別した。
- ^ a b 『落花生 栽培手引き』(2010年3月、相州落花生協議会)p.48
- ^ ジョンソン 1999, p. 133-136.
- ^ a b c 主婦の友社編 2011, p. 111.
- ^ 文部科学省『日本食品標準成分表2015年版(七訂)』
- ^ 厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2015年版)』
- ^ USDA栄養データベース アメリカ合衆国農務省
- ^ 「情報:農と環境と医療 47号」北里大学学長室通信 No.47(2009年2月1日)
- ^ ピーナツは皮ごと食べよう:視的!健康論~眼科医坪田一男のアンチエイジング生活~読売新聞/ヨミドクター(2010年10月21日)
- ^ ピーナッツ摂取と脳卒中および虚血性心疾患発症との関連 JPHC Study 多目的コホート研究、 独立行政法人国立がん研究センター
- ^ http://www.nal.usda.gov/fnic/foodcomp/search/
- ^ [『タンパク質・アミノ酸の必要量 WHO/FAO/UNU合同専門協議会報告』日本アミノ酸学会監訳、医歯薬出版、2009年05月。ISBN 978-4263705681 邦訳元 Protein and amino acid requirements in human nutrition, Report of a Joint WHO/FAO/UNU Expert Consultation, 2007]
- ^ “「みそピー」物語”. 日の出味噌ホームページ. 2018年10月20日閲覧。
- ^ KERI BLAKINGER Quebec woman opens up about daughter’s tragic death after allergic reaction from kissing boyfriend who ate peanut butter sandwich Daily News2016年6月13日
- ^ a b c d e f g 主婦の友社編 2011, p. 112.
- ^ 高橋芳雄「落花生の連作害に関する研究」『千葉県農業試験場研究報告』第11号、千葉県農業試験場、1971年3月、1-12頁、ISSN 0577-6880。
- ^ a b c d e f 主婦の友社編 2011, p. 113.
- ^ FAOによる生産統計(2004年)
- ^ FAOによる輸出統計(2004年)
- ^ FAOによる輸入統計(2004年)
- ^ 「27年産豆類(乾燥子実)及びそばの収穫量(全国農業地域別・都道府県別)」『作物統計』農林水産省、2016年
- ^ 千葉県農林総合研究センター・落花生研究室(2018年7月26日閲覧)
- ^ 落花生新品種は「Qなっつ」千葉県、10年ぶり/甘み強く後味あっさり■秋デビュー『日本経済新聞』朝刊2018年7月20日(首都圏経済面)2018年7月26日閲覧
- ^ 幻の「遠州半立」復活/静岡・浜松市 ピーナッツバターが評判/1904年万博で世界一 荒廃農地から発見『日本農業新聞』2021年9月7日13面(同日閲覧)
- ^ 千葉県では、2019年に新種「千葉P114号」を「Q(きゅー)なっつ」と命名した(“県育成落花生「Qなっつ」について”. 千葉県 (2020年2月27日). 2021年11月10日閲覧。)。
- ^ 農林水産省年報 第2章 国際部
- 1 ラッカセイとは
- 2 ラッカセイの概要
- 3 利用
- 4 ラッカセイアレルギー
- 5 脚注
ラッカセイと同じ種類の言葉
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