ラインの黄金 ラインの黄金の概要

ラインの黄金

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/27 17:49 UTC 版)

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概要

『ラインの黄金』は、歌劇『ローエングリン』に続くとともに、後に「楽劇」と呼ばれるようになった最初の作品である[注 1]。4部作はそれぞれ独立した性格を持ち、単独上演が可能である。このうち『ラインの黄金』は全1幕4場からなり、上演時間は約2時間30分と4部作中もっとも短い。物語も音楽もかなり変化に富み(後の3作で多くの部分を占める、二人だけによる長大な対話場面が本作にはほとんど無い)、序夜というだけでなく4部作の中で最も親しみやすい入門編的性格も持つ。第4場の幕切れとなる「ヴァルハラ城への神々の入城」の音楽は演奏効果が高く、しばしば管弦楽のみで独立して演奏される(劇中ではローゲの歌詞などによって最終的な破滅への予感が強調されており、決して華やかなフィナーレという扱いではない)。

物語は、『エッダ』、『ヴォルスンガ・サガ』など北欧神話の物語を軸にしつつドイツ叙事詩ニーベルンゲンの歌』を始めとするドイツ英雄伝説や、ワーグナー独自の重層的・多義的な世界が構築されている。直接引用されてはいないが、後述のとおりギリシア神話の影響も多分に見られる。

『ラインの黄金』の台本は1852年11月、音楽は1854年にそれぞれ完成された。1869年9月22日ミュンヘン宮廷歌劇場にて初演された。『ニーベルングの指環』4部作全曲の初演は、1876年8月13日から17日まで開催された第1回バイロイト音楽祭においてである。

バイロイト音楽祭では4部作が連続上演される。内訳は以下のとおり。

作曲の経緯

構想と台本

  • 1843年7月にワーグナーはヤーコプ・グリムが出版した『ドイツ神話』を読んで、同書で紹介されていた『ニーベルンゲンの歌』などを知る。
  • 1848年10月4日、ドレスデン宮廷歌劇場の指揮者をしていたワーグナーは、ドイツ神話を下敷きにした随筆『ニーベルンゲン神話』を完成。これは後のオペラ作品の構想メモの性格を持つ。当時、ワーグナーには中世の伝説的英雄フリードリヒ1世(赤髭王)を主人公としたオペラの構想があったが、同年夏に『ヴィーベルンゲン一族』を書いてこの構想に決着を付け、『ニーベルンゲンの歌』のジークフリートに移行したとされている[1]
  • 同年11月、オペラ『ジークフリートの死』(全3幕)の台本草案を書く。[2]
  • 1849年5月、ワーグナーが荷担したドレスデン蜂起が失敗、フランツ・リストの援助を得てスイスチューリヒに脱出する。この事件は、前年に完成していた『ローエングリン』の上演の目処が立たなくなった[3]ことをはじめ、ワーグナーの創作活動に多大な影響を及ぼした。
  • エードゥアルト・ドゥヴリアンによって『ジークフリートの死』に叙事詩的回想が多く含まれていることを指摘されたワーグナーは、これを受け容れて1851年5月、『ジークフリートの死』の前編に当たる『若きジークフリート』を構想する。その後も『エッダ』や『ヴォルスンガ・サガ』の要素を採り入れながら、ジークフリートの死という終末からその発端にまでさかのぼって構想が拡大された。
  • 1852年7月に『ヴァルキューレ』(第1夜)、同年11月に『ラインの黄金』(序夜)の台本が仕上がる。この年の12月には4部作の台本がすべて完成した。最初に構想されていた『ジークフリートの死』は『神々の黄昏』(第3夜)、『若きジークフリート』は『ジークフリート』(第2夜)となった。

作曲

  • ワーグナーの自伝『わが生涯』によると、1853年9月5日、イタリアラ・スペツィアに滞在中のワーグナーは異様な気分を体験した。夢遊病のように、水の流れに身を沈めていくような感じに襲われ、身体を押し包んで流れる元素としての水が4部作全体の最初の要素である変ホ長調の和音に転化、これが『ラインの黄金』の序奏となったとされる[4]
  • 1853年11月から作曲に着手。
  • 1854年に『ラインの黄金』のオーケストレーションが完成。こののち『ヴァルキューレ』が1856年、『ジークフリート』は1858年から1864年にかけての中断をはさんで1871年、『神々の黄昏』は1874年に完成する。

初演

ワーグナーは1856年4月末に『ヴァルキューレ』の作曲を完成するが、この頃の手紙に、『指環』4部作のために劇場を建てて上演したいと書いている。この時点で『ジークフリート』、『神々の黄昏』はまだ完成していなかったが、ワーグナーには後のバイロイト祝祭劇場の構想がすでにあり、4部作は連続して上演されるべきで、そのいずれかを取り出して上演することには反対であった。しかし、ワーグナーを信奉し全面支援していたバイエルンルートヴィヒ2世は全作の完成まで待ちきれず、『ラインの黄金』と『ヴァルキューレ』は全曲初演に先立ち、単独で初演された。

単独初演
1869年9月22日ミュンヘン宮廷歌劇場にて。指揮はフランツ・ヴュルナー。主な配役は次のとおり。
  • アウグスト・キンダーマン(ヴォータン)
  • ヴィルヘルム・フィッシャー(アルベリヒ)
  • ハインリヒ・フォーゲル(ローゲ)
全曲初演
『ニーベルングの指環』4部作としての初演は1876年8月13日、バイロイト祝祭劇場にて開催された第1回バイロイト音楽祭である。指揮はハンス・リヒター。主な配役は次の通り。
  • フランツ・ベッツ(ヴォータン)
  • カール・ヒル(アルベリヒ)
  • ハインリヒ・フォーゲル(ローゲ)



注釈

  1. ^ ワーグナー自身はこの4部作を「舞台祝祭劇」(Bühnenfestspiel)としており、「楽劇」(musik drama)と呼ばれることには異議を唱えていた。

出典

  1. ^ 『ヴィーベルンゲン一族』が書かれたのはさらに後の1849年5月とする説もあり、この間の経緯についての実情は定かでない。
  2. ^ フリードリヒ・テオドール・フィッシャーは、1844年の著作『オペラへの提案』の中で、ニーベルング伝説を「大英雄オペラ」のテクストとして推奨している。また、この中で彼は、オペラで『エッダ』の神話物語にまで遡るのは経済的にも許されない、と書いている。ワーグナーがこの著作を読んだという確証はないが、ワーグナー自身が『ジークフリートの死』初稿を「大英雄オペラ」と呼んでいることや『ジークフリートの死』が『ニーベルンゲン神話』の終末部を描き、前史の部分は回想的に語られるだけの構造になっていることなどから影響関係を認める研究者もいる。
  3. ^ リストの尽力によって1850年8月にヴァイマルで初演された。
  4. ^ 1853年11月から書き始められた作曲草稿では、ラインの乙女たちやアルベリヒなどの旋律が明確に記されているのに対し、序奏の部分は変ホ長調の和音分散型が示されてはいるものの曖昧であり、現在聴かれるホルンの「生成の動機」が実際に書かれるのは最終稿に至ってである。『わが生涯』の記述は、ワーグナーが自己やその作品についてしばしば詩的に表現する意図が見られ、その記述が文字通りの事実であるかについては疑問も呈されている。
  5. ^ これを被ると姿が見えなくなり、念じるものの姿に変身できる。隠れ頭巾のもとは、ギリシア神話の「ハーデースの隠れ兜」である。また、プラトンの『国家』に、姿が見えなくなる力を持つ「ギュゲスの指環」の話が述べてあり、ワーグナーはこれを参考にしたと見られる。
  6. ^ 財宝を独り占めしたファーフナーが唯一捨てていった剣、ノートゥングである。1873年の『指環』全曲初演でコレペティトール(音楽指導)を務めたフェリックス・モットルによると、初演の練習に立ち会ったワーグナーはヴォータン役のフランツ・ベッツに、この場面で剣を取り上げ、ヴァルハルの城に挨拶を送るように振りかざすことを指示したという。
  7. ^ 現存する『縛られたプロメテウス』は3部作の一つと考えられているが、他の2作がわずかな断片を残すのみで散佚しているため、3部作本来の構成と内容は明らかではない。例えば、ちくま文庫の訳者である呉茂一は『縛られたプロメテウス』、『プロメテウスの解放』、『火をもたらすプロメテウス』の順だと述べている。解説者の高津春繁は、『縛られた-』→『-解放』の順であろうと述べるが、『火をもたらす-』の位置については言及していない。
  8. ^ ただし、サテュロス劇は3部作の終わりに上演されるので、『ジークフリート』とは作品順が一致しない。


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