ラインの黄金
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『ラインの黄金』の現代性
『ニーベルングの指環』を構想中のワーグナーは、ドレスデン蜂起に参加してスイスに亡命を余儀なくされた。この事件はワーグナーの革命思想を挫折させるものとなったが、『指環』4部作にはこの思想の名残が認められる。また、4部作に先立って構想的に書かれた『ニーベルンゲン伝説』及び『ジークフリートの死』では、ニーベルング族の「解放」がワーグナーの念頭にあったことが示されている。
例えばローゲには、ドレスデン蜂起の中心となったロシアの無政府主義者ミハイル・バクーニンの思想の投影が認められる。また『ラインの黄金』では、山上の神々、河底のラインの乙女、地下世界の巨人や小人族と、階層の上下関係が明瞭である。実際、1877年にロンドンを訪問したワーグナーがテムズ川を川蒸気で観光した際、妻コジマによると、ワーグナーは「ここはアルベリヒの夢が現実になっている。霧の都(ニーベルハイム)、世界支配、労働と勤勉、いたるところ重くたれ込めたスモッグ」と感想をもらしたという。こうしたことから、後世、現代社会になぞらえる解釈がされてきており、以下に例を挙げる。
- 『指環』4部作のうちに現代のドラマを読み取ったのはバーナード・ショーである。彼は、アルベリヒにむち打たれて使役されるニーベルング族に、同時代の労働者の姿を見た。
- またワーグナーの孫で、『ラインの黄金』でニーベルハイムを工場に見立てたり、「隠れ頭巾」の代わりにシルクハットを用いて演出したヴィーラント・ワーグナーは、「ヴァルハルの城は、ウォール街だ」と発言している。
- 1976年に『指環』の画期的演出で注目を集めたパトリス・シェローは、4部作中でも『ラインの黄金』が深く19世紀のイデオロギーに根ざした作品であり、その気になれば、マルクス主義的解釈にもっとも適していると指摘している。
注釈
- ^ ワーグナー自身はこの4部作を「舞台祝祭劇」(Bühnenfestspiel)としており、「楽劇」(musik drama)と呼ばれることには異議を唱えていた。
出典
- ^ 『ヴィーベルンゲン一族』が書かれたのはさらに後の1849年5月とする説もあり、この間の経緯についての実情は定かでない。
- ^ フリードリヒ・テオドール・フィッシャーは、1844年の著作『オペラへの提案』の中で、ニーベルング伝説を「大英雄オペラ」のテクストとして推奨している。また、この中で彼は、オペラで『エッダ』の神話物語にまで遡るのは経済的にも許されない、と書いている。ワーグナーがこの著作を読んだという確証はないが、ワーグナー自身が『ジークフリートの死』初稿を「大英雄オペラ」と呼んでいることや『ジークフリートの死』が『ニーベルンゲン神話』の終末部を描き、前史の部分は回想的に語られるだけの構造になっていることなどから影響関係を認める研究者もいる。
- ^ リストの尽力によって1850年8月にヴァイマルで初演された。
- ^ 1853年11月から書き始められた作曲草稿では、ラインの乙女たちやアルベリヒなどの旋律が明確に記されているのに対し、序奏の部分は変ホ長調の和音分散型が示されてはいるものの曖昧であり、現在聴かれるホルンの「生成の動機」が実際に書かれるのは最終稿に至ってである。『わが生涯』の記述は、ワーグナーが自己やその作品についてしばしば詩的に表現する意図が見られ、その記述が文字通りの事実であるかについては疑問も呈されている。
- ^ これを被ると姿が見えなくなり、念じるものの姿に変身できる。隠れ頭巾のもとは、ギリシア神話の「ハーデースの隠れ兜」である。また、プラトンの『国家』に、姿が見えなくなる力を持つ「ギュゲスの指環」の話が述べてあり、ワーグナーはこれを参考にしたと見られる。
- ^ 財宝を独り占めしたファーフナーが唯一捨てていった剣、ノートゥングである。1873年の『指環』全曲初演でコレペティトール(音楽指導)を務めたフェリックス・モットルによると、初演の練習に立ち会ったワーグナーはヴォータン役のフランツ・ベッツに、この場面で剣を取り上げ、ヴァルハルの城に挨拶を送るように振りかざすことを指示したという。
- ^ 現存する『縛られたプロメテウス』は3部作の一つと考えられているが、他の2作がわずかな断片を残すのみで散佚しているため、3部作本来の構成と内容は明らかではない。例えば、ちくま文庫の訳者である呉茂一は『縛られたプロメテウス』、『プロメテウスの解放』、『火をもたらすプロメテウス』の順だと述べている。解説者の高津春繁は、『縛られた-』→『-解放』の順であろうと述べるが、『火をもたらす-』の位置については言及していない。
- ^ ただし、サテュロス劇は3部作の終わりに上演されるので、『ジークフリート』とは作品順が一致しない。
- 1 ラインの黄金とは
- 2 ラインの黄金の概要
- 3 初演
- 4 配役について
- 5 『ラインの黄金』の現代性
- 6 編曲
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