ユーティリティープレイヤー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/10 00:45 UTC 版)
『Utility』という語句には「役に立つ」「万能」などの意味があり、派生語の『ユーティリティープレイヤー』は古くから「複数のポジションをこなせる万能選手」という意味合いで使われてきた[2]。一方で『Utility』には「使い勝手がいい」という意味もあることから、『ユーティリティープレイヤー』には選手を軽視したネガティブな意味合いも含まれていた[2]。
ユーティリティープレイヤーの存在は、チーム運営上の様々な状況への対応が可能となるために重要視される[2]。特にプロスポーツでは、試合中に選手交代枠を使い切ったあとでも怪我などのアクシデントへの対応が可能となり、またリーグ戦などの長期間の連戦ではレギュラー選手の欠場があっても柔軟に対応できるため重宝される[2]。また選手枠の限られる代表チームなどでは、ユーティリティープレイヤーがいることで他のポジションの選手を多く選出できることも利点となる[3]。
選手側の利点としては出場機会を得やすいことが挙げられる[4][5]。
野球
野球では内野と外野の両方を守ることができる選手を「ユーティリティープレイヤー」と呼ぶ[5]。広義には内外野を問わずに複数のポジションを守ることができる選手を指すが、MLBでは内野のみで複数のポジションを守る選手は「ユーティリティーインフィールダー(Utility Infielder、略称:UI)」と呼んで区別される[6]。捕手と投手は専門性が高い[5]ため兼務する選手は少ないが、捕手出身の選手が打撃面を買われて他のポジションを兼任して出場するというケースは古くから少なからず存在した[7]。
かつてはコンバートによって完全に別のポジションへと移されることも多かったが、NPBでは2020年ごろから状況によって複数のポジションで併用される選手が増えたとされる[8]。特に専門性の高い投手と野手(または打者)の兼任は「二刀流」と呼ばれることが多い[6]が、21世紀以降にNPBで二刀流として出場した選手は大谷翔平(2013年にプロ入り)まで存在しなかった。
柴原洋はユーティリティープレイヤーと呼ばれる選手の条件として「本職が二遊間の内野手であること」と分析している[9]。柴原はその理由の1つとして内野手特有のグラブ捌きを挙げて、外野手が本職の選手に難易度が高い二遊間を長年守っている選手と同レベルの技術を期待・要求することは酷であり、一方で外野手としての打球への対応は守備練習によって克服できる部分は多いという見解を示している[9]。また、柴原は守備範囲の広さに直結する脚力もユーティリティープレイヤーとしての重要な条件だとしている[9]。
日本人選手のユーティリティープレイヤー代表例としては、二塁手・遊撃手・外野手の内外野3つのポジションでベストナインを獲得した真弓明信や、ユーティリティープレイヤーの代名詞として名前が挙がる木村拓也が挙げられる[10]。非常にまれな例として投手を含めた全てのポジションでの出場を達成した高橋博士と五十嵐章人の2人がいるが、捕手と内外野で幅広く活躍していた選手を記録達成のために登板させたという意味合いが強い[10][11]。
サッカー
現代サッカーでは広いピッチ上に様々なポジションが存在し、それぞれの選手が各ポジションに求められる役割を専門的にこなすことが一般的である[12][13]。その中で複数のポジションをこなせる選手を「ユーティリティープレイヤー」と呼ぶが[12]、求められる能力が極端に違わない複数のポジションを兼任するケース自体は珍しいことではない[14]。より幅広いポジションで活躍した選手としてはルート・フリットやフランク・ライカールトなどオランダ出身の選手が挙げられ、オランダではその国民性から理論立てられた育成により高いユーティリティー性が培われたたとも考えられている[14]。
近代の戦術においては試合中に流動的に動くことが求められるようになり、ポジションを専門的にこなす選手が減ったことから「万能性」として重要視される能力に変化が生じている[13]。この能力についてイビチャ・オシムはサッカー日本代表監督当時の選手選考に際して、化学分野で「多価」を意味する『ポリバレント(Polyvalent)』という言葉を用いた[12][13][15]。それ以降、日本においては「ユーティリティー」とほぼ同じ意味の言葉として「ポリバレント」が用いられるようになる[12][13]。「ポリバレント」だとされる代表的な日本人選手としては長谷部誠や今野泰幸が挙げられる[12][13]。
専門性が高いゴールキーパーを兼任する選手は極めて少ないが、非常にまれな例としてゴールキーパーを本職としながらフォワードでも出場したホルヘ・カンポスが挙げられる[16]。
- ^ a b 「ユーティリティープレーヤー」『コトバンク』。2021年1月13日閲覧。
- ^ a b c d 「サッカー用語 : ポリバレントとユーティリティー(プレーヤー)の意味の比較,違い」『読書の力』。2021年1月13日閲覧。
- ^ 「ポスト・キムタクは誰だ?2018年注目のユーティリティープレイヤー」『SPAIA』2018年4月2日。2021年1月14日閲覧。
- ^ 「現役No.1ユーティリティは? “稀代の万能型”森野氏が「杉谷ではない」と語る理由」『Full-Count』2020年12月13日。2021年1月14日閲覧。
- ^ a b c 「味のある男たち。大城滉二、小島脩平ら内外野を守るオリックスのユーティリティープレーヤーたち」『週刊野球太郎』2017年7月9日。2021年1月14日閲覧。
- ^ a b 「ユーティリティ【意外と知らない野球用語】」『Full-Count』2021年2月1日。2021年1月14日閲覧。
- ^ 「内外野もこなす「ユーティリティー捕手」栗原陵矢は飛躍なるか。過去に複数ポジションを兼任した捕手たちを振り返る」パ・リーグ.com、2020年4月28日。2022年2月4日閲覧。
- ^ 「野手のユーティリティー化、投手は中長期的な運用戦略がポイントの近年のプロ野球」『高校野球ドットコム』2022年12月11日。2024年6月10日閲覧。
- ^ a b c 「ユーティリティープレーヤーの特徴は?/元ソフトバンク・柴原洋に聞く」『週刊ベースボールONLINE』2018年10月6日。2021年1月14日閲覧。
- ^ 「球史に2人だけ!投手も含めた「9つのポジション」を守った男とは…」『BASEBALL KING』2021年2月2日。2022年2月4日閲覧。
- ^ a b c d e 「ユーティリティープレイヤーとは?サッカーでも重要であるその理由」『Activel』2021年12月16日。2021年1月13日閲覧。
- ^ a b c d e 「今、サッカー日本代表に「ポリバレント」が求められている理由」『WEZZZY』2018年6月13日。2021年1月13日閲覧。
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- ^ 「polyvalent」アルク、2021年10月2日。2021年10月2日閲覧。
- ^ 「FWもこなした伝説の“二刀流”GKカンポス 躍動感と遊び心満載のプレー動画が話題」『FOOTBALL ZONE』2017年10月18日。2023年7月20日閲覧。
- ^ NBAの扉を開け 窓のある家──J.J.リディック
- ^ トゥイーナー(tweener)-バスケットボール|バスケ用語とNBAニュース
- ^ a b 「現代バスケにフィットする選手」八村塁、ルーキー3位の好成績に地元メディアの評価が急上昇!
- ^ エリック・パスカルが目指す未来像――指揮官の「タッカーになれない理由はない」との言葉に本人も刺激
- ^ 「A Combo Guard Is...」(英語)、scout.com、2005年9月15日。2015年10月30日閲覧。
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- ^ Reilly, Thomas (1997). Science and Football III. Wales: Taylor & Francis. p. 13 2016年9月23日閲覧。
- ^ コベルコ神戸スティーラーズ「ユーティリティーバックス/UTILITY BACKS」。2023年8月9日閲覧。
- ^ NFL「ルール解説:基本ルール」。2023年8月10日閲覧。
- ^ 『DVDでよくわかる!バレーボール』大林素子(監修)、西東社、2007年10月。ISBN 978-4-7916-1397-7。
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