ヤギ 文化の中のヤギ

ヤギ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/14 08:36 UTC 版)

文化の中のヤギ

ヤギは古くから家畜化されていたため、文化の中に様々な形で登場する。

神話・伝承の中のヤギ

犠牲(生贄)のヤギ

ヤギは古くから犠牲にささげる獣(生贄)として使われることが多い。古代のユダヤ教では年に1度、2匹の牡ヤギを選び、くじを引いて1匹を生贄とし、もう1匹を「アザゼルのヤギ」(贖罪山羊)と呼んで荒野に放った(旧約聖書 レビ記16章)。贖罪山羊は礼拝者の全ての罪を背負わされ、生きたまま捨てられる点で生け贄と異なる。特定の人間に問題の責任を負わせ犠牲とすることをスケープゴートscapegoat、生け贄のヤギ)と言うのは、これにちなんだ表現である。

現代的表現の例としては、アメリカヤングアダルト小説の旗手であるブロック・コール『ヤギ・ゲーム』(邦訳 徳間書店、中川千尋 訳)が挙げられる。

悪魔の象徴としてのヤギ

エリファス・レヴィによるバフォメット

新約聖書マタイによる福音書)では、(特に「羊=良きものの象徴」との対比で)ヤギを「悪しきものの象徴」として扱うくだりがある。ヨーロッパやアメリカなどのキリスト教文化において、ヤギには悪魔の象徴としてのイメージが強いが、これは、ギリシャ神話のパンやエジプト神話アモンのような山羊神、あるいは、祭司が角のついた仮面をかぶって獣の扮装をして踊り、豊穣な獲物を願うような素朴なシャーマン信仰における森林神等、キリスト教の公教化とともに駆逐された先行宗教の、邪神化された“異教”神たちのイメージから来たものであろう。古代ローマではヤギは欲望と性的快楽の象徴とみなされていた。ここからやがて、バフォメットのようなヤギ頭の悪魔が考え出され、悪魔崇拝者が好んでヤギの仮面をかぶったりする。また、中世では、悪魔の化身としてのヤギに乗って空を飛ぶ魔女版画などもある。

古くはイソップ寓話にも見るように、オオカミなどに食べられる被捕食者としての弱々しいイメージをもつが、その一方で、中国では、角の形から、ねじくれた性格の象徴にもなっている。

先頭の山羊

(西洋の)文化的に、山羊と羊は、対比的に扱われる。

「先頭の山羊」とは、羊の群を制御するさいに混ぜる山羊のことである。羊はおとなしいので、性格の激しい山羊を混ぜてやると、山羊が先頭に立ち、羊はその後について行く。牧人は山羊を制御すれば、羊の群れ全体を制御できることになる。

迷信

  • 中部アフリカに位置するルワンダでは、女性はヤギの肉を食べてはならないとされている。口にするとヒゲを生やしてしまうと考えられているためである。同地域では、女性は幼い頃からヤギの肉を避けるべきであるとされている[33]

文学・芸術作品の中のヤギ

ヤギとジェスチャー

地中海での子ヤギは無力・役に立たない人を例える言葉であり、人差し指と小指を立てるジェスチャーは相手をそのような意味で揶揄・侮辱するものとされる[34]


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  33. ^ 25 Of The Most Bizarre Superstitions From Around The World
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