モリブデン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/30 08:02 UTC 版)
名称
名称は輝水鉛鉱(molybdenite)に由来するが、この名称はギリシャ語で鉛を意味する molybdos に由来する。モリブデン鉱物である輝水鉛鉱が鉛鉱物である方鉛鉱に似ていることから名づけられた。日本での「モリブデン」という名称は、元はドイツ語の Molybdän で、これが日本語になっている。
概要
銀白色の硬い金属(遷移金属)。常温、常圧で安定な結晶構造は体心立方構造(BCC)で、比重は10.28、融点は2620 °C、沸点は4650 °C(融点、沸点とも異なる実験値あり)。空気中では酸化被膜を作り内部が保護される。高温で酸素やハロゲンと反応する。アンモニア水には可溶。熱濃硫酸、硝酸、王水にも溶ける。原子価は2価から6価をとる。輝水鉛鉱(MoS2 など)に含まれる。資源としては、アメリカ合衆国で約30%、チリで約30%など、北南米で世界の過半を産出している。
モリブデンは、人体(生体)にとって必須元素で、尿酸の生成、造血作用、体内の銅の排泄などに関わる。微生物による窒素固定で働く酵素(ニトロゲナーゼ)にも深く関わっており、地球上の窒素固定量の70%以上は、モリブデンが関与していることになる。
また、植物にとっても必須元素であるため、モリブデン酸のナトリウム塩やアンモニウム塩の形で、肥料として販売されている。
宮沢賢治作風の又三郎にも登場する。作中に高田三郎が転校してきた理由は父親が仕事で近隣のモリブデンを発掘するためとなっている。風の又三郎 その他節 モリブデンという鉱石についても参照。
用途
- 酸化モリブデン(VI)やフェロモリブデンとして、各種合金鋼の添加元素に利用される(クロムモリブデン鋼、マンガンモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼参照)。さらには、工具鋼(中でも高速度工具鋼(ハイス))群に多用され二次硬化能を高める。これはタングステンも同様であるが、密度が倍半分と違うので、モリブデン等量を示す質量パーセントとしてMo+1/2W(mass%)という等価式が用いられる。事実上、鉄鋼材料分野で消費されるモリブデンが最も多い。
- 硫化モリブデン(IV)は摩擦係数が低いことから、工業用の潤滑油やエンジンオイルの添加剤に用いられる。二硫化モリブデンの配合された油脂類は深緑色を示しているため、それ以外の製品と区別するのが容易である。機器や工程のマニュアルにモリブデン配合油脂の指定がされているところでは、これを用いなければ不本意な結果になることがある。モリブデン配合油脂は特別に高価ではなく簡単に入手できるため需要も高い。少ない添加量で同様の効果を発揮する有機モリブデン(ジチオリン酸モリブデン[注釈 1]やジチオカルバミン酸モリブデン[注釈 2])も使用される[注釈 3]。
- モリブデンと銅の合金は、優れた温度特性と適度な導電性を兼ね備えているため、ハイブリッドカーやロケットの電子基板などに用いられる。
- 金属モリブデンが産業用に用いられることはそれほど多くなかったが、高温域での機械的性質を期待できる場面においては、タングステンよりも安価であることからしばしば用いられる(電子管の陽極など)。最近では液晶パネル製造ラインなどでも薄板の使用が増加している。また太陽電池の下部電極としても広く使用されている
- 医療分野でも、放射性同位体モリブテン99は癌の診断などにも利用されている(「核医学」参照)。日本では海外の原子炉で生成されたモリブデン99を輸入し、放射性崩壊で得られるテクネチウムを製剤しているが、加速器による国産化も試みられている[3]。
モリブデンは、日本国内において産業上重要性が高いものの地殻存在度が低く供給構造が脆弱である。日本では国内で消費する鉱物資源の多くを他国からの輸入で支えている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として国内消費量の最低60日分を国家備蓄すると定められている。
クロムモリブデン鋼などとして、ステンレス鋼食器に使われる事も多い。 キャンプ用品として、広く流通している。
歴史
カール・ヴィルヘルム・シェーレが1778年に輝水鉛鉱を硝酸と反応させて分離した酸化物として発見し、「水鉛土 (wasserbleierde)」と命名。シェーレの友人ペーター・ヤコブ・イェルム (Peter Jacob Hjelm) が1781年に三酸化モリブデンを石炭で還元することにより単体分離し、現在の名称が付けられた。
中国は1999年以降、重要戦略的資源であるレアアース、タングステン、モリブデンにつき順次輸出数量制限を導入するとともに、2006年以降輸出税を賦課した。中国は、2006年以降輸出割当数量を年々削減し、特に、2010年下半期の輸出割当を大幅に削減したことなどを機にレアアース価格が高騰し、市場に混乱をもたらした。
こうした事態を受け、日本は、米国及びEUとともに、2012年3月、中国による輸出数量制限、輸出税の賦課等の輸出規制は、WTO協定に違反するとして、WTO協議要請を行い、同年6月にパネル設置要請を行った。日米欧からの提訴を受けて世界貿易機関(WTO)が協定違反と断じたことにより、2015年に生産をほぼ独占していた中国はモリブデンとタングステンとレアアースに賦課している「輸出税」と「輸出数量制限」を廃止した[4]。
注釈
- ^ モリブデンジチオフォスフェート(Molybdenum Dithiophosphate:MoDTP)とも呼ばれる。
- ^ モリブデンジチオカルバメートあるいはモリブデンジチオカーバメート(Molybdenum Dithiocarbamate:MoDTC)とも呼ばれる。
- ^ ただし、リンが触媒被毒の原因となるためエンジンオイル向けではMoDTPは使用されない。なお、同じくリンを含むジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)は用途を限定したうえで使用される。
出典
- ^ “Molybdenum: molybdenum(I) fluoride compound data”. OpenMOPAC.net. 2011年7月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年12月10日閲覧。
- ^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds (PDF) (2004年3月24日時点のアーカイブ), in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
- ^ 「医薬品原料モリブデン99 めざす国産/超電導加速器を利用」『日経産業新聞』2020年9月15日(16面)2020年9月23日閲覧
- ^ “中国のレアアース等原材料3品目に関する輸出税が廃止されます”. 経済産業省. (2015年5月1日) 2023年1月29日閲覧。
- ^ 『地理 統計要覧』2014年版、ISBN 978-4-8176-0382-1、P96
モリブデンと同じ種類の言葉
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