モラル・パニック モラル・パニックの概要

モラル・パニック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/09/11 21:45 UTC 版)

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モラル・パニックは、ある種の文化的行動(多くの場合サブカルチャーに属する)や、ある種の人々(多くの場合、社会的・民族マイノリティに属する)に対して、世間一般の間に「彼らは道徳常識から逸脱し、社会全般の脅威となっている」という誤解偏見、誇張された認識が広がることによって一種の社会不安が起こり、これら「危険な」文化や人々を排除し社会や道徳を守ろうとして発生する集団パニック集団行動である。少数の人々に対する、多数の人々(必ずしも社会の多数派というわけではない)による激しい怒りという形をとる。

概説

架空の例であるが、次のようなものがモラルパニックである。

社会に急速に携帯電話が普及したことにより、若者が携帯電話などに熱中することへの懸念が中高年の間で広がるとする。やがて「若年犯罪や少女売春の増加や人間関係の劣化は、携帯電話の電波による脳へのダメージが原因だ」というようなセンセーショナルな説がメディアなどを通じて蔓延し、保護者の間に携帯電話に対する恐怖や社会不安が発生する。不安の高まりの結果、携帯電話の害悪を訴えて携帯電話を子供から取り上げたり、携帯電話販売を禁止したり携帯電話サイトを一律閉鎖したりする運動が社会全体に一気に広がる。この社会不安と運動はモラルパニックである。

これらのパニックは社会問題や俗流若者論などを取り上げるメディア報道により火が付くことが一般的であるが、半自然発生的にモラル・パニックが起こることもある。集団狂気(マス・ヒステリア、mass hysteria)はモラル・パニックの要素となりうるが、集団狂気とモラル・パニックの違いは、モラル・パニックの場合は人々の持つ道徳性によって燃え上がり、普通「純粋な恐怖」というより「怒り」として表現されることである。社会的・文化的価値観を覆すものに対する静かな不安が広がっている時に、怒りを表現してパニック的運動を発生させる人々は市民運動家・政治家評論家・メディアなどの「道徳事業家」(道徳起業家、moral entrepreneurs、アメリカの社会学者ハワード・S・ベッカー Howard S. Beckerによる造語)と呼ばれる人々であり、その標的となるのは「フォーク・デビル」(folk devil、「民衆の悪魔」、社会からよそもの視される人々で、民話や噂話やメディアなどでさまざまな害悪の原因としていつも非難される人々)と呼ばれる人々である。

モラル・パニックとは社会に緊張を起こすような論争の副産物でもあり、またモラル・パニックに対し疑問を呈することは社会の敵を擁護するものとしてタブー扱いされ、公の場での論争ができないこともある[3]

モラル・パニックは、社会が共有してきた価値観や規範に対する脅威が知覚されたときに、人々がその「脅威」を思い巡ることで起こるものである。普通、これらの脅威はマスメディアによる大々的報道に刺激されるか、社会の中の・言い伝え・都市伝説などによって刺激される。モラル・パニックはさまざまな結果を残すが、最も痛ましいものはパニックの中にいる参加者に対する「免状」である。彼らの行いはマスメディアによる観察や報道によって正当性を与えられ、それゆえマスメディアに見られている/支援されている彼らは集団心理によって激しい活動に向かって突き進んでしまう。

用例

1972年英国社会学者スタンリー・コーエン(Stanley Cohen)が、1960年代の英国でマスメディアがモッズロッカーズといった荒れる若者達をどう報道しどう過剰反応したかを記述する際にこの語を使用した[4]。しかしコーエン以前に、彼の同僚であるジョック・ヤングがロンドンのノッティング・ヒルでドラッグを吸う人々に対する社会の反応を「モラル・パニック」と表現した例がある[1]。1978年スチュアート・ホールらは、アメリカで発生していた路上での強奪(mugging)がイギリスにも出現したことに対する社会の反応を研究し、コーエンの「モラル・パニック」を援用して、「犯罪率が上昇している」という議論が、社会の管理化を行うイデオロギー上の機能を果たしているとし、犯罪に関する統計は政治的・経済的目的で歪められ、「危機を取り締まる」ことへの大衆的支持を作りだすためにモラルパニックが起こされるとし、メディアはそのためのニュース生産に中心的役割を果たすとした[5]

また、1925年に開始された「ミドルタウン・スタディーズ(Middletown studies)」というアメリカ合衆国都市についての事例研究case study)では、アメリカの小さな町の社会的・宗教的指導者達が、当時の最新技術であるラジオ自動車を「非道徳的な振る舞いを起こすもの」として非難していたことを報告している。例えば、この研究の際にインタビューを受けた牧師は、自動車を「車輪のついた売春宿」と表現し、この新発明を教会に出るべき時間に街の外へドライブに出かける手段を市民に与えるものとして非難している。




  1. ^ a b c Jones, M, and E. Jones. (1999). Mass Media. London: Macmillan Press
  2. ^ Cohen, Stanley. 『Folk devils and moral panics』. London: Mac Gibbon and Kee社, 1972年. ISBN 0415267129 、9ページ
  3. ^ Kuzma, Cindy. "Rights and Liberties: Sex, Lies, and Moral Panics". AlterNet. September 28, 2005. Accessed March 27, 2007.
  4. ^ Stanley Cohen『Folk devils and Moral Panics (フォーク・デビルとモラル・パニック)』1972.
  5. ^ Hall, S., et al. 1978. Policing the Crisis: Mugging, the State and Law and Order. London: Macmillan Press. ISBN 0333220617 (paperback) ISBN 0333220609 (hardbound)
  6. ^ Jewkes Y (2004). Media and crime. Thousand Oaks, Calif: Sage, 76-77. ISBN 0-7619-4765-5.


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