マルティン・ルター ルター訳聖書

マルティン・ルター

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/13 09:37 UTC 版)

ルター訳聖書

ルター訳聖書(1534年)

ルターは精力的な活動の一方で聖書の翻訳事業も続けており、1534年に念願だったドイツ語旧約聖書も完成し、出版された。

ルターは旧約聖書の諸書の選択において、七十人訳聖書(セプトゥアギンタ:ギリシア語旧約聖書)にあってマソラ本文ユダヤ教徒によって編纂されたヘブライ語聖書)にないものを、聖書正典でないと確認して旧約聖書から排除した。

見解

ルターの新約聖書観については二種類の見解がある[44]

ヨハネス・ラインポルトらの立場では、新約聖書でも『ヘブル書』『ヤコブの手紙』、『ユダの手紙』、『ヨハネの黙示録』は自分の義化のアイデアとそぐわないと考えたため正典から排除した。ルターが排除した諸書は新約聖書ではやがて元に戻されたが、旧約聖書の方はルターによって外された諸書はそのままで現代に至っている、とされる。

旧約聖書についてはルターはユダヤ教(ヘブライ語)において正典とされている書をそのままキリスト教における旧約の正典とした。そのうえで、ローマ教会が正典として認め、ユダヤ教徒が外典とした数書(ヘブライ語ではなくギリシア語をもともとの言語とするヘレニズム時代の書物)を「Apocrypha」として全て翻訳し、但し書きをつけた上で自分の聖書(ドイツ語)に収めている。それらの歴史的な意義を認めたからである。つまりルターは正典とそうでない書の区別を明確にしただけで排除はしていない[注釈 2]

ルターがこの四つを正典と見なしていなかったとするラインポルトらの見解に対し、ルター伝『我ここに立つ』を書いたベイントンは、ルターはこの四つを正典と見なしていたとする[44]。ルターは新約聖書27巻の正典性は認めていたが、ヤコブ書は福音より律法を主張していると考えていた[44]

ストンハウスは、神中心よりもキリスト中心であるとし、ルターの聖書の活用方法を批判的に捉えている[44]

また、ルターは聖書の翻訳において、信仰義認の教理から本文解釈を行って訳していることも指摘されている[注釈 3]


注釈

  1. ^ ヨハネス・オッホレウス著『マルティン・ルターの行為と著作についての注解』がその代表作の1つである。ドミニコ会のハインリッヒ・デニフレの『原資料によるルターおよび発展初期のルター主義』は、ルターが肉欲的な動機でもって宗教改革を行ったとしている。イエズス会のハルトマン・グリザールの『ルター』は、ルターを「誇大妄想狂の精神異常者」と判断している。[43]
  2. ^ これは英国国教会も時を移さず踏襲した判断であり、根拠のないルター個人の決定では決してない。やがてプロテスタント教会で使用する聖書からルターがApocryphaとした書物は概ね姿を消したが、これは長い世紀の移り行きの結果である。
  3. ^ 岡田稔はルターが宗教改革の尖兵であったために、新約聖書のうち23巻を特に教理の構築のために活用したと考えている[44]

出典

  1. ^ Martin Luther German religious leader Encyclopædia Britannica
  2. ^ 大航海の時代、日本では大地震が頻発する中、3英傑が天下統一を果たす”. ヤフーニュース (2020年7月13日). 2020年10月20日閲覧。
  3. ^ 徳善 2012, p. 12.
  4. ^ 徳善 2007, pp. 22–23.
  5. ^ a b c d e f g h 樋口 1985, pp. 18–21.
  6. ^ 徳善 2007, p. 310.
  7. ^ 「塔の体験」という名前は、ヴィッテンベルク大学学生寮の塔内の図書室において、新しい福音の光が与えられたと、後年述べたことに基づいている
  8. ^ 徳善義和著『マルティン・ルター ことばに生きた改革者』(岩波新書、2012年)p.61
  9. ^ 徳善 2012, pp. 86–89.
  10. ^ 徳善 2007, p. 312.
  11. ^ 1521年4月18日の有名な演説は、「ルター自身の手になるラテン語訳だけが伝えられている」が、その全文の邦訳は、吉島茂・井上修一・鈴木敏夫・新井皓士・西山力也編訳『ドイツ文学 歴史と鑑賞』朝日出版社 1973、15-18頁に掲載されている。
  12. ^ Martin Luther, the Reformation and the nation DW Documentary
  13. ^ 他方、正教会では妻帯司祭は一般的に存在してきた。
  14. ^ 産業革命以前のヨーロッパの農民とは農奴のこと。松原久子『驕れる白人と闘うための日本近代史』
  15. ^ 宗教改革者で農民といっしょに命を落としたミンツァーはこう書いている。「休まずどんどんやれ、続けろ、火が燃えているではないか。刀を血で濡らせ。そこにいるあいつらがお前たちを支配しているかぎり、誰もお前たちに神について語ることはできない。なぜならそこにいる彼奴らがお前たちを支配しているからだ。休まず続けるのだ、がんばれ、時がきた、神が先へいく、神に続け」松原久子 『驕れる白人と闘うための日本近代史』(文藝春秋 2005年)
  16. ^ エンゲルス『ドイツ農民戦争』
  17. ^ 松原久子 『驕れる白人と闘うための日本近代史』(文藝春秋 2005年)
  18. ^ 宣教ビラ『強盗のような、殺人者のような農民の群れに対抗する』の中で「彼らを閉め出し、絞め殺し、そして刺し殺さなければならない、密かに、あるいは公然と」「扇動的な人間ほど、有毒で、有害で、悪魔的なものはいない」と書いている。松原久子 『驕れる白人と闘うための日本近代史』(文藝春秋 2005年)
  19. ^ 彼らの大半は、一揆が崩壊した後に、領主による裁きによって殺された。ペトラルカ・マイスターの木版彫刻には、捕らえられ、縛られた農民たちが鞭を打たれ、車裂きの刑に処せられ、首を吊られ、串刺しにされ、首をはねられ、生きたまま火炙りにされている一方で、支配者たちが毛皮のついたガウンを身にまとい、復讐が実行される様子を観覧席から眺めている様が描かれている。松原久子『驕れる白人と闘うための日本近代史』
  20. ^ 帰省先から大学へと戻る途上で同行者とのいさかいゆえに生じた「決闘」が原因とされる。
  21. ^ 滝上 2011, p. 435.
  22. ^ a b 滝上 2011, p. 436.
  23. ^ 滝上 2011, pp. 436–437.
  24. ^ 滝上 2011, p. 438.
  25. ^ 滝上 2011, p. 439.
  26. ^ このため、ルターは利尿作用のあるビールを積極的に飲んだが、アルコールによる臓器障害があったと思われる記録は残っていない
  27. ^ 滝上 2011, pp. 439–441.
  28. ^ 徳善 2007, p. 315.
  29. ^ 翻訳『ユダヤ人と彼らの嘘』歴史修正研究所訳 ISBN 4947737379
  30. ^ 『ユダヤ人迫害史』黒川知文 教文館 ISBN 4764265354
  31. ^ 『教会が犯したユダヤ人迫害』ミカエル・ブラウン著 横山隆訳 ISBN 4872071700
  32. ^ 大澤武男 『ユダヤ人とドイツ』 講談社〈講談社現代新書〉、1991年、57-59頁。
  33. ^ 中村敏著『著名人クリスチャンの結婚生活』ファミリー・フォーラム・ジャパン
  34. ^ 永田諒一『宗教改革の真実-カトリックとプロテスタントの社会史-』 講談社現代新書
  35. ^ a b c #ポリアコフ1985,p.109-111.
  36. ^ 「宗教改革」世界大百科事典,平凡社.
  37. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p ポリアコフ 1巻,p269-283.
  38. ^ a b 下村 1972, p.107-8.
  39. ^ a b c #大澤1991,p.55-75
  40. ^ Martin Luther, Werke, Bd. 6. Briefe, Frankfurt, 1982, p.184.
  41. ^ ポリアコフ 1巻p.273.
  42. ^ stultissimus
  43. ^ 古屋安雄著『激動するアメリカ教会-リベラルか福音派か-』ヨルダン社
  44. ^ a b c d e 岡田稔著『岡田稔著作集』いのちのことば社
  45. ^ 小学館編『地球紀行 世界遺産の旅』p85 小学館<GREEN Mook>1999.10、ISBN 4-09-102051-8
  46. ^ Documents representing the beginning and the early development of the Reformation initiated by Martin Luther Memory of the World - UNESCO






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