マニュアル 取扱説明書

マニュアル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/16 16:47 UTC 版)

取扱説明書

取扱説明書、またはユーザーガイドは、商品を購入した消費者が、その商品の使い方を理解するために利用するものである。多くのメーカーでは自社製品を正しく事故のないように、また設計された性能を発揮させよく利用してもらうために、製品に添付する形でこの取扱説明書を商品パッケージのなかに同梱(一緒に収めてあること)している。俗な略称は「取説」 (トリセツ)。

例えば操作方法のわからない機械は、ほとんどの消費者にとって全く魅力的ではない。一部例外的な商品もあるが、大抵の場合は使い方が判らないことには、その利便性を得ることが出来ない(そして買う意味も見出せない)ためである。

いわゆる新製品の場合には、特に従来製品と比較して操作方法を想像できないため、多くのページを割いて説明が成されている。反面、コモディティ化しているような一般的な製品では、過去に利用した同種製品から操作方法から扱い方が判断付くため、あまり詳しい説明は行われず、差別化戦略などで他社製品には無い商品の特徴的な部分が集中的に説明される。また、コモディティ化製品では消費者が操作方法を誤りなく操作し易いよう、ユニバーサルデザインなど共通化されたデザインの導入も進んでおり、取扱説明書を読まなくても利用可能な製品も少なくない。

しかし製造物責任法のような、メーカーが製品の問題に責任を求められる法律が成立した以降では、例え誤解や無理解によって消費者が誤った使い方をして損害を被っても、その責任の所在の一端に「きちんと消費者に正しい使い方を教えなかったメーカー」が位置付けられる可能性もある。このため、消費者に危害が及ぶことが想定される場合には、取扱説明書中で「危険で誤った使い方」を挙げ、そのような使用方法をしないよう求めている。

なお製品に添付されている性質上、保証期間証書のような製品に付随する書類を兼ねている取扱説明書もみられる。

取扱説明書と媒体

取扱説明書では従来、印刷物の形で製品に付属させる形態が主で、これらは制作に際し、校正査読を通して読者である消費者が誤解や理解不足を生まないよう配慮される。これは製品を適切に使ってその利便性を提供したいという面もあれば、誤った使い方で事故を起こしてもらいたくないという理由もある。そのいずれにおいても、一字一句といった細部にわたるまで判りやすいよう努力が払われる訳だが、往々にして様々な理由により記載漏れや誤りを含む場合もあり、その場合には従来後付けで別紙が貼付ないし同梱されることもある。

近年では、Portable Document Format(PDF)と呼ばれる電子文書フォーマットと、これを再生するためのパーソナルコンピュータ(パソコン)も広く普及しているため、ことパソコン本体や周辺機器、あるいはアプリケーションソフトウェアの内に付属させる取扱説明書を、電子書籍としてPDF形式で貼付する形式や、改訂版など最新の取扱説明書をインターネット経由でメーカーのウェブサイトからダウンロード可能なサービスを行なっているところも見られる。これはDesktop publishing(デスクトップ・パブリッシング:パソコンなどで電子的な印刷原稿を編集すること)が簡便で改定が容易なこと、また最新の版に差し替えるのも容易く、その配布経路も整備されていることなどの理由もあるが、それに加え印刷のコストを軽減できるという側面もある。

この外にも、例えばパソコンの一般家庭向け製品を目指したIBMの「Aptivaシリーズ」のような製品では、紙媒体の取扱説明書が十分に説明を凝らそうとすれば、その厚みだけで初心者に拒否感を抱かせる可能性があるところを、ビデオテープに録画された映像で、判り易くパソコンを立ち上げるまでを解説したケースもあるなど、必ずしも文章だとは限らず、今日ではDVDに録画された映像で扱いを解説する製品も様々な方面に見られ、特にDVDがランダムアクセス性に優れ、あたかも印刷媒体で目次索引から目的のページを開くように扱うことも出来るため、状況や知りたい内容に即した映像を呼び出せるようにもなっている。

取扱説明書の国際標準と国内標準

取扱説明書の国際標準と国内標準を挙げる。

  1. 国際標準
    1. IEC/IEEE 82079-1 Ed. 2.0:2019 "Preparation of information for use (instructions for use) of products - Part 1: Principles and general requirements", 「製品の使用情報(使用説明)の作成-第1部:原則及び一般要求事項」[3]
      • IEC/IEEE 82079-1:2019は、IEC, IEEE, およびISOによって共同開発され、発行されています。また、製品のユーザーにとって必要または役立つすべてのタイプの使用説明書の設計および定式化に関する一般原則および詳細要求事項を提供します。塗料の缶から、大型の産業機械、ターンキーベースのプラントまたは建造物などの大型または非常に複雑な製品まで、あらゆる種類があります。[3]
      • ISO/IEC規格番号の割り当ては1~59999までがISO、60000~79000がIEC、80000番台は共通の開発国際規格番号となる[4]
      • 80000番台の規格はIECとISOとで開発された規格で、いくつかのパートはISO、その他はIECによって発行されています[5]
    2. ISO 20607:2019 "Safety of machinery - Instruction handbook - General drafting principles", 「機械類の安全性-取扱説明書-起草のための一般原則」[3]
  2. 国内標準
    1. JIS C 0457:2006「電気及び関連分野-取扱説明の作成-構成,内容及び表示方法」、対応国際規格 IEC 62079:2001 (IDT(identical, 技術的内容、構成及び文言において一致している))[3]
      • IEC 62079:2001は、改訂された後、IEC 82079-1 Ed. 1.0:2012に置き換えられた[3]。したがってJIS C 0457:2006は、旧版のIEC規格に一致した内容である。
    2. JIS A 8334:2022「土工機械―取扱説明書―内容及び様式」、対応国際規格 ISO 6750-1:2019 (MOD)[3]
    3. JIS B 9719:2022「機械類の安全性―取扱説明書―作成のための一般原則」、対応国際規格 ISO20607:2019 (IDT)[3]
    4. JIS F 0406:1997「船舶-ディーゼル機関用取扱説明書作成要領」、対応国際規格 なし[3]
    5. JIS S 0043:2018「アクセシブルデザイン-視覚に障害のある人々が利用する取扱説明書の作成における配慮事項」、対応国際規格 なし[3]
    6. JIS S 0137:2000「消費生活用製品の取扱説明書に関する指針」、対応国際規格 ISO/IEC Guide 37:1995 (IDT)[3]
      • ISO/IEC Guide 37:1995は、改訂された後、ISO/IEC Guide 37:2012に置き換えられた[3]。したがってJIS S 0137:2000は、旧版のISO/IEC Guideに一致した内容である。
    7. JIS Z 8521:2020「人間工学-人とシステムとのインタラクション-ユーザビリティの定義及び概念」、対応国際規格 ISO 9241-11:2018 (MOD(modified, 技術的差異が明示され、修正されている。))

注釈

  1. ^ まるで知らない人に専門用語を使って教えることは標準化されていることにならずマニュアルの文章を難しくする。海老沢泰久はそうした現状を憂いて『これならわかるパソコンが動く』(NEC1996年)で実践してみせた。

出典

  1. ^ 望月照彦「時代を考える-8-若者はどこにいる--腸詰世代とマニュアル世代」『エコノミスト 1977年3月1日号』 毎日新聞出版 1977年
  2. ^ マニュアルと手順書に違いはある?分かりやすいマニュアル・手順書を作成するポイントも紹介!”. Teachme Biz (2019年7月9日). 2020年12月21日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k 規格検索”. 日本規格協会. 2019年6月19日閲覧。
  4. ^ ISO/IECの規定・政策等 アーカイブ”. 日本規格協会. 2019年6月19日閲覧。【2-1】ISO/IEC専門業務用指針(ISO/IEC Directives)【2019年版のご意見照会】仮和訳版 B.4.2.9
  5. ^ IEC規格について”. 日本規格協会. 2019年6月19日閲覧。
  6. ^ a b c d 「トリセツ本」不安な夫の救世主? 妻の不倫、相談増加 朝日新聞 2019年5月7日
  7. ^ 妻のトリセツが説く脳の性差 東大准教授は「根拠薄い」 朝日新聞 2019年4月7日
  8. ^ さだまさしかよ!西野カナの新曲『トリセツ』の歌詞がリアルすぎて震える【動画】 AOL 2015年8月19日





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