マグネット・スクール マグネット・スクールの概要

マグネット・スクール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/12/09 03:06 UTC 版)

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発祥地アメリカにおけるマグネットスクールの『目的』は、発祥当時も現在も児童・生徒の人種均等化(人種のドーナツ化による児童生徒の人種偏り防止)であり、英才教育・特殊教育・専門教育は目的の為の『手段』でしかない。この『目的』に対する効果が得られない場合は、いかに他の目的(学術向上、専門教育性など)に対する効果が高くとも連邦マグネット補助制度(1980年代に連邦教育法により法制化)からの連邦補助金(国庫補助)は受けられない。他国において手法だけを模倣する学校運営が見受けられるが、その場合は米国におけるマグネットスクールプログラムとの混乱を避ける為に他の名称を付けるべきであり、マグネットスクールはあくまでも『児童・生徒の人種均等化の為の国庫および州補助の特別校』である。

多様化しているアメリカの教育においては、マグネット・スクールと類似の学校形態を持っていても、本来の創立目的(歴史の項を参照)を強調しない名称として、オプション (option)、チョイス (choice)、テーマ (thematic)、フォーカス (focus)、実験 (experimental)、専門 (speciality) またはオルタナティブ (alternative) といった言葉が用いられる。

概要

理科算数のマグネット小学校における2年生の図工の時間。火星について習った後、火星の生活に何が必要かを考えて町の模型を作っている。

日本の校区のように住所で通学先が決まる近所の一般校はネイバーフッド・スクール(近隣学校)という。それに対し、マグネット・スクールは市全体など非常に広範囲に住む誰もが入学可能であり、各地から様々な児童・生徒を呼び寄せるための特化カリキュラムを組んでいる。幼稚園を含む小学校から高等学校まであり、その内容も様々である。また学校全体がマグネット・スクールである場合と、ネイバーフッド・スクールの中にマグネット・プログラムを設けている場合がある。(本項では便宜上、両方のケースをマグネット・スクールという呼称で統一する。)

アメリカの初等中等教育には、私立学校公立学校ホーム・スクーリングという選択枠がある。また学校形態は伝統的な一般校のほかに、オルタナティブ・スクールという従来とは異なる新しい学校を選択できる地域が多い。日本ではオルタナティブといえばフリースクールデモクラティック・スクールモンテッソーリ教育シュタイナー教育などごく限られた学校を指すが、本来の意味では一般と異なるすべての学校を指す。

一般の公立校とは異なるマグネット・スクールもオルタナティブの一種ではあるが、近年は「児童・生徒が通学を希望するような特別プログラムを持つ学校」をマグネット、「特別な支援を必要とする子供に手を差し伸べる学校」をオルタナティブと分ける傾向がある。そのため似通った教育内容の学校でも、障害児インクルージョン教育やユニークな教育を売りにする学校はマグネット、障害児・不登校児・中途退学者・そのほか危機にある (at-risk) 生徒の支援を前面に押し出した学校はオルタナティブと呼ばれる。オルタナティブ・マグネットは、オルタナティブ教育(通常とは異なる授業内容や学習環境)を売りにするマグネット校である。実際には学区によって様々な名称があるため、オルタナティブとマグネットの境界は曖昧である。

アメリカのマグネット・スクールには、日本のスーパーイングリッシュランゲージハイスクールスーパーサイエンスハイスクール、学力向上フロンティアスクールに値するものもあるが、創立目的が異なる(歴史の項を参照)。また提供するカリキュラムは幼稚園からあり、内容も英語と理数教科に限らず多種多様である。その一方で、学力向上フロンティアほど漠然とはしておらず、的を絞ったプログラムである。以下はその例であるが、実際には複数プログラムを並行したり混合する学校が多い。

2002年の調査ではマグネット・スクールがない州も存在する[5]。最も多いのはカリフォルニア州の456校(全児童生徒の9%が通学)、イリノイ州の420校(全児童生徒の15%が通学)である。

歴史

1954年ブラウン裁判以前の教育機関における人種分離政策を表す地図。学校は人種で分けるべき(赤)、とくに法律では決まっていない(黄)、分けても可・部分的に分ける(青)、分けることを禁じる(緑)

マグネット・スクールの誕生は人種差別公民権運動モータリゼーション郊外化インナーシティ格差社会といった社会問題と深く関係している。現在もある程度は初志を継続しているが、マグネット・スクールは本来、特定の人種に偏らない学校を作って人種分離をなくそうという希望のもとに考え出されたものである。例えば黒人の多い貧しい地区に、裕福な白人家庭が子供を通わせたくなるような魅力的な教育プログラムを作り、地元の黒人だけでなく遠方の白人も多く通うような学校がマグネット・スクールの初期モデルである。

アメリカ合衆国では20世紀半ばまで白人の通う学校と黒人の通う学校に分かれていた。ようやく1954年のブラウン裁判で合衆国連邦最高裁は、学校は人種で「分けるが平等(Separate but equal 分離すれども平等主義)」という考えを違憲とし、「公共の教育の場を人種別に分けること自体が差別である。」という画期的な判決を下した。

その後もジム・クロウ法を禁止する法案が出され、1964年には公民権法が制定されたため、白人が意図的に人種を分離する動きは減っていったが、統合にも消極的であった。アメリカはモータリゼーション(車社会化)で郊外化が始まっており、裕福な上流中流白人は人種間の緊張が高まった中での暴動や犯罪を恐れ、また豊かな郊外の暮らしを求めてこぞって都市部から流出するというホワイト・フライト現象が起こった。結果として郊外に住む白人とインナーシティに住む黒人という人種別の住み分けが起こり、学校においても人種の偏りは改善されないままであった。

その解決法として考案されたのが人種統合バス通学である。1971年に連邦最高裁が合憲としたもので、「強制バス通学」とも呼ばれる。白人とマイノリティーの割合が一定になるように、黒人学生を郊外へ、白人学生を都市部へ通学させたため、多くの子供たちがスクールバスで遠方の学校へ通うことを余儀なくされた。その結果、再びホワイト・フライト現象が起こり、多くの白人が郊外のさらに奥へ転出したり、私立校へ転校した。人種統合バス通学は、国民を人種だけでなく収入でも分離することになったという批判もある。

白人の保護者の中には、子供の教育や安全を冒してまで危険な地域の学校に通わせるな、と憤怒する者がいた。また人種を問わず多くの家庭で、長時間バスに乗車すること、朝が早く帰宅が遅くなること、課外授業や放課後の稽古事の送り迎えが大変であること、遠方のため保護者が学校のボランティア活動に参加しにくいこと、仲良しの友達と離れること、兄弟が遠く離れた別々の学校に通うことなど不満が募った。

数年後、バージニア州リッチモンドなどにおいて、かつて保護者が絶対に好ましいとは思わなかったような学校で、様々な特殊技能を持つ子供のための特別カリキュラムが作られた。すると自然に入学希望者が急増し、結果的に好ましいとされる人種バランスを達成することができた。遠方の学校であっても、強制でなく自主的に選択して通う場合には、バスの乗車時間や課外活動の送り迎えが大変であることや兄弟が別々に通うという欠点も受け入れられるような許容心が生まれた。強制から自主的な学校選択へ。自由な選択の結果、異なる人種が自然に混在する。これがマグネット・スクールの始まりである。


  1. ^ イマージョンの目標言語は西のほかアラビア語広東語アメリカ・インディアンの言語、アメリカ手話など
  2. ^ マルチ・エイジ (multi-age) とは複数の学年が合同で授業を行う異年齢クラス。いわゆる縦割りクラスである。
  3. ^ イヤー・ラウンド (year-round) 出席日数は一般校と同じだが、一般的な3ヶ月の夏休みの代わりに、年間を通して頻繁に数週間の休暇を取り1年を通して登校する学校。長期休暇中に学習内容を忘れてしまうことを防ぎ、継続的に学習することで学力向上をめざすプログラム。
  4. ^ デュアル・エンロールメント (dual enrollment) 優秀な高校生が地元の大学コミュニティー・カレッジでクラスを履修し、高校の卒業単位を取得できるプログラム。同時に大学の単位を取得し、進学時に換算できる場合もある。
  5. ^ National Center for Education Statistics(英文)全米50州のうち45州の回答があり、そのうち2州はマグネット校がなく、13州はマグネット校であるには条件不十分であるとした。
  6. ^ Northwest Regional Education Laboratory "Parent Involvement in Education"(英文)
  7. ^ スーパーサイエンスハイスクール 2007年1月13日 21:30 UTC版
  8. ^ en:Lowell High School (San Francisco) 2007年1月29日06:01 UTC版
  9. ^ Evaluation of the Magnet School Assistance Program, 1998
  10. ^ 朝日新聞 関西ニュース 『日本語教育 曲がり角』


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