マイコプラズマ肺炎 マイコプラズマ肺炎の概要

マイコプラズマ肺炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/25 13:34 UTC 版)

マイコプラズマ肺炎
概要
診療科 感染症内科学, 呼吸器学
分類および外部参照情報
ICD-10 J15.7
ICD-9-CM 483.0
MedlinePlus 000082
eMedicine emerg/467
MeSH D011019

感染様式は飛沫感染と濃厚接触による接触感染であり、潜伏期は1 - 4週間程度(通常は、2 - 3週間)。病原体が気道粘液(痰)に排出されるのは発症前2〜8日から起こり、臨床症状発現時に最大となり、高いレベルの排出が1週間程度続き、徐々に減少しながら4〜6週間以上病原体の排出は継続する。

治療は抗生物質によって行われるが、耐性を持つ菌種も存在する。確定診断の遅れにより重症化することもある[1]。成人は重症化リスクが高く重症化すると胸水貯留、呼吸不全を引き起こす可能性がある。

疫学

日本での感染症発生動向調査によれば、一年を通して感染が報告されるが晩秋から早春にかけてが多く、患者の年齢は幼児期、学童期、青年期(5歳から35歳)が中心である。流行は学童から始まり家庭内感染へと広まる。病原体分離例でみると7歳から8歳にピークがある。5歳未満の幼児では、マイコプラズマに感染しても、軽症状か不顕感染の場合が多い。欧米では、寄宿舎、軍隊、サマースクール、学校、家庭内などの閉鎖集団での発生が多いとされている。感染拡大の速度は遅い。感染により免疫を獲得するが生涯続く免疫ではなく、再感染する。

日本

夏季オリンピックが行われる年に流行する(4年に1度流行する)傾向があるとして「オリンピック熱」とも呼ばれているが、1984年と1988年に大きな流行があった以降は、傾向が崩れている。クラリスロマイシンの臨床使用が開始された 1991年以降は周期的な流行は観測されず[2]、2005年以降は散発的な小流行が繰り返されていた[2]。 2011年は6月頃から患者数の増加が報告され、過去10年間で最多の感染者数が報告されている[3]。報告数増加の要因は、迅速診断キットの普及や報告対象になっている基幹定点病院に入院を要するような重症例の増加、更に原因菌の薬剤耐性化などが挙げられている。

海外

先進諸国でも2000年以後に散発的な小流行が見られたが、2010 - 11年頃より欧州や北米、イスラエル等で患者数の急増が報告されている[4][5][6][7]

病原体

病原体は、粘膜表面の細胞外で増殖する。増殖の結果、気管、気管支、細気管支、肺胞などの気道粘膜上皮を破壊する。特に気管支、細気管支の繊毛上皮が顕著に破壊され、粘膜の剥離、潰瘍の形成がみられる。

病原体は熱に弱く界面活性剤により失活する。

薬剤耐性

2000年にマクロライド系抗生物質への耐性菌株が日本の研究者により分離されて以降、耐性率は上昇を続けている[8]。世界的にも増加を続けている。2011年の北里大学の調査では、80%が耐性菌株と報告されている[9][10]。マクロライド高度耐性菌株は、従来有効とされていたエリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、アジスロマイシン(AZM)等にも明らかに高度耐性化を獲得しており2012年現在で耐性菌株に対し有効な薬剤は、ミノサイクリン(MINO)のみ。

マクロライド耐性化は、rRNA遺伝子のdomain Vにおける変異が原因で、作用標的である23S rRNA遺伝子の変異である。最も多い変異は、2063番目のアデニン(A)がグアニン(G)への変異、の他に2064番目のAがGへ変異した株等が確認されている。

症状

初期症状は、風邪症候群様の症状、いわゆる感冒様症状を呈する。37 - 38℃程度の発熱、疲労感、頭痛、のどの痛み、消化器症状、咳、発疹など。症状は個人差が大きく咳は、発症初期は喀痰を伴わない「乾いた咳」(dry cough,乾性咳嗽)であるが、時間の経過と共に咳は強くなり、解熱後も1ヶ月程度続くことも珍しくない。年長児や青年では、後期には喀痰を伴う「湿った咳」(wet cough,湿性咳嗽)となることもある。なお、前述の薬剤耐性と症状の重さに相関はない[11]

合併症として中耳炎関節炎無菌性髄膜炎脳炎肝炎膵炎心筋炎、寒冷凝集素症による溶血性貧血[12]ギラン・バレー症候群スティーブンス・ジョンソン症候群などがある。


  1. ^ 神宮希代子「人工呼吸器管理を必要とした劇症型マイコプラズマ肺炎・細気管支炎の1例」『日本内科学会雑誌』第86巻第6号、1997年、1039-1041頁、doi:10.2169/naika.86.1039 
  2. ^ a b 成田光生「今月の主題 多剤耐性菌の検査と臨床 各論 マクロライド耐性マイコプラズマ」『臨床検査』第56巻第8号、株式会社医学書院、2012年8月、868-872頁、CRID 1390283684883378048doi:10.11477/mf.1542103098ISSN 04851420  (要購読契約)
  3. ^ 感染症発生動向調査 週報・月報 速報データ 2011年46週 (PDF) 国立感染症研究所 感染症情報センター
  4. ^ マイコプラズマ肺炎 2012年9月現在 国立感染症研究所
  5. ^ Mycoplasma pneumoniae Respiratory Illness - Two Rural Counties, West Virginia, 2011MMWR / October 19, 2012 / Vol. 61 / No. 41 pp. 834-838
  6. ^ Eurosurveillance, Volume 17, Issue 10, 08 March 2012Eurosurveillance, Volume 17, Issue 10, 08 March 2012
  7. ^ Ongoing epidemic of Mycoplasma pneumoniae infection in Jerusalem, Israel, 2010 to 2012Eurosurveillance, Volume 17, Issue 8, 23 February 2012
  8. ^ IASR 32-11 肺炎マイコプラズマ, Mycoplasma pneumoniae 国立感染症研究所
  9. ^ 小児におけるマクロライド系薬耐性Mycoplasma pneumoniaeの大流行 北里大学北里生命科学研究所 病原微生物分子疫学研究室
  10. ^ 小児におけるマクロライド高度耐性・肺炎マイコプラズマの大流行:掲載日 2011/10/25 国立感染症研究所
  11. ^ 成田光生「今月の主題 薬剤耐性菌制御の最前線 各論 〈多剤耐性菌の検出とその意義〉 マクロライド耐性マイコプラズマ」『臨床検査』第54巻第5号、株式会社医学書院、2010年5月、524-528頁、CRID 1390846634838046464doi:10.11477/mf.1542102296ISSN 0485-1420  (要購読契約)
  12. ^ 康秀男、阪本親彦、久村岳央「寒冷凝集反応異常高値を呈したマイコプラズマ肺炎の一例」(PDF)『OSAKA HEMATOLOGY REPORT』第2巻、2004年、9-12頁、CRID 1570572700846747520 
  13. ^ 菅守隆、西川博、安藤正幸ほか「マイコプラズマ肺炎の早期診断における血清中 Adenosine deaminase 活性値の有用性」『日本胸部疾患学会雑誌』第27巻第4号、1989年、461-466頁、doi:10.11389/jjrs1963.27.461 
  14. ^ a b 佐々木次雄 2003.
  15. ^ a b c 宮下修行、小司久志、岡三喜男「マイコプラズマ肺炎」『日本内科学会雑誌』第94巻第11号、2005年、2261-2266頁、doi:10.2169/naika.94.2261 
  16. ^ マイコプラズマ抗原 アルフレッサファーマ(株)
  17. ^ 岩田泰, 中根一匡, 河内誠, 野田由美子, 舟橋恵二, 後藤研誠, 西村直子, 尾崎隆男「最近5年間のLAMP法を用いた小児肺炎のMycoplasma pneumoniae DNA検出成績」『医学検査』第64巻第5号、日本臨床衛生検査技師会、2015年、617-621頁、doi:10.14932/jamt.15-4 
  18. ^ 中村俊夫「Roxithromycinのマイコプラズマ肺炎に対する臨床的有用性の検討」『CHEMOTHERAPY』第42巻第1号、1994年、37-41頁、doi:10.11250/chemotherapy1953.42.37 
  19. ^ 増本英男, 飯干宏俊, 脇坂ありさ, 芦谷淳一, 迎寛, 松倉茂「182 ステロイド投与が有効であったマイコプラズマ急性細気管支炎の 1 例(症例 3)」『気管支学』第18巻第3号、日本呼吸器内視鏡学会、1996年、305頁、doi:10.18907/jjsre.18.3_305_4 


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