ポロニウム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/20 09:29 UTC 版)
名称
当時マリ・キュリーは、祖国ポーランドをロシア帝国から解放する運動に強い関心を寄せていたことから、祖国の名である「Polonia」(ラテン語)が元素名の語源となった[1]。
漢字では釙。
特徴
昇華性があり、化学的性質は、テルルやビスマスに類似する。水に溶けない。塩酸にはゆっくり溶ける。硫酸、硝酸には易溶、アルカリにはわずかに溶ける。酸化数は、-2, +2, +4, +6価を取り得る(+4価が安定)。
ウラン系列の過程でラドン222が崩壊することによってポロニウム218が生じ、更にこれが崩壊していく過程でポロニウム214、ポロニウム210が生じる。自然界に存在するポロニウムでは、ポロニウム210の半減期が138.4日と一番長い。人工的に作られるポロニウム209の半減期は102年である。全ての同位体が強力な放射能を持っている。
マリ・キュリーがポロニウムの存在を示唆した際に、ポロニウムを含む精製物がウランの300倍の放射活性を持つと記した[2]。この表現が一人歩きして、ウランの300倍の強さの放射能を持つという表現がされることが多いが、実際にはウランの100億倍の比放射能(単位質量当りの放射能の強さ (Bq/mol, Bq/g))を有し、ごく微量でも強い放射能を持つ(ただし、逆に自然界にはウランの100億分の1程度しか存在しない)。さらにポロニウムは昇華性があるため内部被曝の危険が大きく、厳重な管理の下で取り扱わなければならない。しかし、ポロニウムが発するα線自体は皮膚の角質層を透過できないため、ポロニウムを体内に取り込まない外部被曝に関しては危険性は少ないともいえる。
アルファ線源や原子力電池に加えてベリリウムと組み合わせて中性子発生源として核兵器の起爆装置にも使われる。
歴史
1869年、周期表を発表したドミトリ・メンデレーエフは未発見の第84番元素が存在すると予言、テルルの一つ下に位置する元素であることから、サンスクリット語で「1」を意味する「エカ」をテルルにかぶせエカテルルと仮に名付けた。原子量を約212と予測している。
1898年7月、ピエール・キュリーとマリ・キュリーがウラン鉱石から発見[1]。1896年にアンリ・ベクレルによる放射能の発見を受け、まず放射能を測定する機器を開発する。ピエール・キュリーの考案した圧電気計を改良し、ウランを中心に放射能を測定する。ウラン鉱石(ピッチブレンド)を測定したところ、ピッチブレンドに含まれるウランの濃度から計算した放射線より少なくとも4倍の線量を検出した。このため、ウランとは異なる未知の放射性元素が含まれているのではないかと推論した。しかしながら、ピッチブレンドは高価であり、新元素を単離するだけの分量が入手できなかった。オーストリア政府に頼み込んだ結果、ヨアヒムスタール鉱山から採掘したウラン鉱の残りかすを数トン入手できた。ポロニウムの分離には数か月を要したという。12月にはラジウムも発見した。
加速器駆動未臨界炉関連での生成実験
ポロニウムを生成する鉛ビスマス共晶合金(英:Lead-bismuth eutectic)は、液体金属冷却炉(高速増殖炉)のうち鉛冷却高速炉(LFR)で冷却材として使用されることがある。1991年頃に開発されたロシアのSVBR-75/100では使用されている[3]。2000年代は東京工業大学でも研究が行われ、「Japan-Russia LBE Coolant Workshop」などの研究会が設置されていた[4]。また2004年当時はポロニウムの除去方法が課題とされていた[5]。
一方、東芝・日立が折半出資する茨城県東茨城郡大洗町の日本核燃料開発)(NFD)、同水戸市の株式会社化研、特殊法人日本原子力研究所(JAERI)、核燃料サイクル開発機構(JNC)は共同で、「加速器駆動核変換システム(ADS)に関する技術開発で必要」としてポロニウム生成実験を行い、実験結果を日本原子力学会「2004年秋の大会」で発表した[6]。同論文は「液体鉛ビスマスはADSの核破砕ターゲット材及び冷却材として有望視されている」と謳っている。ただし2016年現在、鉛冷却高速炉では、ビスマスそのものが使用されなくなりつつある。
また、開発中の高速増殖炉もんじゅ、東芝の4S (原子炉)、GE日立ニュークリア・エナジー (GEH)の PRISM (原子炉)、稼働停止中の常陽は、ナトリウム冷却高速炉であり、ビスマスもポロニウムも使用しない。また、カザフスタン共和国で稼働していたBN-350、ロシアで稼働中のBN-600およびBN-800、開発中のBN-1200も同様である。
- ^ a b 桜井弘『元素111の新知識』講談社、1998年、344~345頁。ISBN 4-06-257192-7。
- ^ Nanny Fröman, Marie and Pierre Curie and the Discovery of Polonium and Radium, Nobelprize.org, December 1, 1996.
- ^ Gidropress "Innovative nuclear technology - no analogues in the world"
- ^ 東京工業大学原子炉工学研究所『鉛−ビスマス冷却材と keV 中性子捕獲断面積:α放射核210Poと210mBiの生成量評価のために』 日本原子力研究開発機構核データ研究グループ「核データセンターニュース」第72号、2002年。
- ^ Eric Loewen and Shuji Ohno "Investigation of Polonium Removal Systems for Lead-Bismuth Cooled Fast Reactors Using a Tellurium Surrogate: Part II"、2004年。
- ^ 倉田有司, 佐々敏信, 斎藤滋 ほか、「加速器駆動核変換システムの技術開発II (7)ポロニウム蒸発実験のための鉛ビスマス照射試験」『日本原子力学会 年会・大会予稿集』 2004年秋の大会 セッションID:C62 , doi:10.11561/aesj.2004f.0.204.0,日本原子力学会
- ^ John Emsley (2001), "Nature's Building Blocks", Oxford University Press, p.331 ISBN 0-19-850340-7
- ^ アラファト氏は毒殺? 中東TV 衣類に放射性物質と報道『中国新聞』2012年7月5日 17版 国際・総合
- ^ “アラファト氏毒殺説裏付けか 遺体からポロニウム検出”. CNN (2013年10月7日). 2016年1月14日閲覧。
- ^ Table de Radionucléides
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