ポルノグラフィ ポルノ擁護論

ポルノグラフィ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/12 13:51 UTC 版)

ポルノ擁護論

リベラリズムや中道左派は、ポルノ規制は表現の自由に対する侵害であると主張をしている。一方でマッキノンは、ポルノは単なる「表現」ではなく女性が男性に隷属する構造を構築する「行為」であるため、表現の自由による擁護の対象にはならないと主張をしている[23]

マッキノンは実際にミネアポリスインディアナポリスでポルノ規制の条例を議会で通過させており[24]、その過程で保守的・道徳主義的な立場からポルノ規制を目指すグループと手を結んだ[25]。しかし、ミネアポリスの条例は市長が署名を拒否したため「廃案」となり、インディアナポリスの条例は市長の署名を経て一旦成立したものの、「違憲訴訟」が行われ、アメリカ書籍業協会対ハドナット裁判合衆国連邦裁判所によって「違憲判決」が出され、無効となった。

日本の女性団体であった「行動する女たちの会」は、女性が傷つくポルノには反対しながらも、「道徳的な観点からポルノを問題視するわけではない」こと、また『国家による法的規制を求めているわけでもない』ことを強調した。1990年代に有害コミック(青少年向けの露骨な性描写を含む漫画)の規制運動がおこったとき、「母親運動」側は規制を推進すべきとの立場であったが、「行動する女たちの会」はこれに対して『異議を申し立てた』[26]

フェミニストの中にも既存の性秩序への破壊力をポルノに認め、ポルノ一般に寛容な立場もある[27]。特にその根拠となるのは、ポルノの規制は公権力の介入によって表現の自由が制限されることが問題であるというものである。猥褻表現と芸術表現の境界をどう判断するかという論点に関しては、大島渚監督は「猥褻で何が悪い」と、芸術と猥褻を区別することは誤りだと主張した。このほか、ポルノからエロティカを区別して排除する考え方は、「女性の性的嗜好の多様性を否定するものである」という批判もある[28]

「現実(の性犯罪・性被害)とポルノの関係」については、ポルノが現実の性犯罪を誘発しているという実証的な根拠に乏しいという批判や、ジュディス・バトラー赤川学のようにポルノは現実とは異なる「別種の現実」あるいは「代償的幻想」であるという批判がある。[29]また、代償としてポルノが利用されればカタルシスによって現実での性犯罪が抑制されるという見方もあり、実証的な研究論文などでは、ポルノグラフィと性犯罪に直接の関係がないとの主張も存在する[30](メディア効果論も参照のこと)。

「ポルノは男性優位的な社会構造の反映である」というテーゼについては、アンソニー・ギデンズらはむしろ男性社会の権威が低下しているからこそそれを補強するためにポルノが必要とされているのであると論じている[31]

VCR、ホームビデオ、および手頃な価格の家庭用ビデオカメラの登場により、フェミニストポルノの可能性が生まれたという主張もある。消費者ビデオにより、ビデオポルノの配布と消費が、女性をポルノの正当な消費者として位置付けることが可能になった。トリスタン・タオルミーノは、フェミニストポルノは「公正な労働環境を作り、関係者全員に力を与えることすべてに貢献する」と述べている。フェミニスト・ポルノ・ディレクター(監督)は、男性と女性の挑戦的な表現に関心を持っているだけでなく、多くの種類の身体を特徴とする性的に力を与える画像を提供している。

ライターのスーザン・ファルディは、1995年のニューヨーカーのエッセイで、「ポルノは女性が職場で力の利点を享受する数少ない業界の1つである」と主張した。『女優は力を持っている』と男性の批評者アレック・メトロは、業界のX格付けについて指摘した。メトロはそのポルノ業界で「逆差別」が進行していると語った。女性パフォーマーは多くの場合、男性俳優を決定したり拒否したりすることができるという。

日本では、堀あきこ[32]守如子[33]は、従来のポルノ批判は男性向けのポルノばかりを想定して、「女性向けのポルノの存在」を黙殺しているのだとして、レディースコミックティーンズラブボーイズラブやおい)といった形で女性向けのポルノ表現が定着しておりそれらには(保守的な道徳観によって抑圧されてきた)「女性が性的な欲望を持つこと」が肯定されるのだと、人間の自由から論じている。ただし、堀あきこは男性向けのポルノと女性向けのポルノは異なる価値観に沿っているとしており、この点については守如子と立場が異なる[34]


注釈

  1. ^ 白日夢」や「華魁」などの映画も発表した。
  2. ^ 愛の亡霊」なども発表。
  3. ^ 松田英子藤竜也が出演した。
  4. ^ 「偉大な社会」計画で国内向け福祉社会を提示した一方で、1965年には約50万のアメリカ兵をベトナムへ派遣し、ベトナム戦争にのめりこんだ
  5. ^ ポップアートの最も有名な芸術家。マリリン・モンローやエルヴィス・プレスリーらを題材にしたポップ・アートを発表した。

出典

  1. ^ 大辞泉:【ポルノショップ】さまざまな性具・ポルノグラフィーなどを売る店
  2. ^ 春画は、いつ頃から〈わいせつ〉になり、いつ頃から〈わいせつ〉でなくなったのか
  3. ^ 小宮自由 (2016年5月19日). “わいせつ物頒布罪は廃止すべきである”. アゴラ. 2019年9月24日閲覧。
  4. ^ https://movies.yahoo.co.jp/movie/141600/
  5. ^ New York Times: Fruits of Passion”. 4 Augsut 2020閲覧。
  6. ^ キャスト:イザベル・イリエ、クラウス・キンスキーアリエル・ドンバール高橋ひとみ山口小夜子ピーター新高恵子ら出演
  7. ^ 我妻洋 『社会心理学入門(上)』講談社1987:103-104 ISBN 4061588060
  8. ^ https://www.allcinema.net/cinema/24587
  9. ^ Sylvia Kristel”. 2020年6月5日閲覧。
  10. ^ 欲望のコード マンガにみるセクシュアリティの男女差』12-13頁
  11. ^ 光文社『FLASH』誌、2019年10月15日号。10月22日・29日合併号。
  12. ^ ヨコタ村上孝之 『マンガは欲望する』 筑摩書房、2006年、103-104頁。ISBN 978-4480873514
  13. ^ 『欲望のコード マンガにみるセクシュアリティの男女差』30頁。
  14. ^ 『女はポルノを読む 女性の性欲とフェミニズム』75-76頁・90頁。
  15. ^ 『女はポルノを読む 女性の性欲とフェミニズム』196-208頁。
  16. ^ 『女はポルノを読む 女性の性欲とフェミニズム』139頁。
  17. ^ 瀬地山角 「ポルノグラフィーの政治学」『新・知の技法』 東京大学出版会 1998年 ISBN 4130033123 pp.74-81.
  18. ^ レーガン チャイルド・プロテクション・ロウ 2023年1月6日閲覧
  19. ^ 『欲望のコード マンガにみるセクシュアリティの男女差』26-27頁
  20. ^ 『女はポルノを読む 女性の性欲とフェミニズム』17頁。
  21. ^ 『女はポルノを読む 女性の性欲とフェミニズム』33-34頁
  22. ^ 『欲望のコード マンガにみるセクシュアリティの男女差』22-23頁
  23. ^ 『女はポルノを読む 女性の性欲とフェミニズム』42-44頁。
  24. ^ 『欲望のコード マンガにみるセクシュアリティの男女差』23頁。
  25. ^ 『女はポルノを読む 女性の性欲とフェミニズム』44頁。
  26. ^ 『女はポルノを読む 女性の性欲とフェミニズム』45-58頁。
  27. ^ 例えばA. SnitowとP. Califiaの『ポルノと検閲』やN. Strossenの『ポルノ防衛論』。
  28. ^ 『欲望のコード マンガにみるセクシュアリティの男女差』25-27頁・31頁。
  29. ^ 『欲望のコード マンガにみるセクシュアリティの男女差』28-29頁。
  30. ^ Milton, Diamond; Ayako, Uchiyama (1999). “Pornography, Rape and Sex Crimes in Japan”. International Journal of Law and Psychiatry 22 (1): 1-22. PMID 10086287. http://www.hawaii.edu/PCSS/biblio/articles/1961to1999/1999-pornography-rape-sex-crimes-japan.html 2018年1月30日閲覧。. 
  31. ^ 『欲望のコード マンガにみるセクシュアリティの男女差』28頁。
  32. ^ 『欲望のコード マンガにみるセクシュアリティの男女差』29頁など。
  33. ^ 『女はポルノを読む 女性の性欲とフェミニズム』19頁など。
  34. ^ 『女はポルノを読む 女性の性欲とフェミニズム』23頁。
  35. ^ a b c d e “アジアの男たちを夢中にさせる“裏クールジャパン””. クーリエ・ジャポン (講談社). (2014年2月27日). オリジナルの2020年3月1日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200301191206/https://courrier.jp/news/archives/8175/ 





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