ペット 歴史

ペット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/16 01:40 UTC 版)

歴史

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『白貂を抱く貴婦人

太古のペットは、野生動物を捕獲したものである。人間が太古からペットを飼っていた証拠は、いずれの大陸からも発見される。最古の痕跡は、3万前の石器時代の遺跡にあるホラアナグマの飼育跡(洞窟)である。ただし、狩猟で捕獲したものを一時的に生きたまま保管したのか、継続的に餌を与えて飼っていたのかは不明である。ペットとして手当たり次第に飼い始めた野生動物の中から、家畜として有用なものが見いだされたと考えられる[7]

以下では、一部に家畜の歴史も含めて解説する。オオカミ(イヌ)の家畜化が3万年 - 1万5000年前から行われ、狩猟の際の助けとして用いられた。以下、トナカイヒツジイノシシブタ)、ヤギウシニワトリハトウマラクダなどが家畜として飼育されるようになった。また農耕の始まりとともに、害獣となるネズミなどを駆除してくれるネコやイタチのような小型肉食獣が珍重されるようになった。

上述の通りペットの歴史は家畜に先行していると考えられるが、明確に愛玩動物として飼育された最初の例として史料が残っているのは、5000年前の古代エジプトピューマである。南米インディオインコサル(猿)を飼っていた[8]

人間の飼育下で繁殖させたペットが普及するのは、家畜が定着するよりも後である。狩猟目的のイヌ、害獣駆除目的のネコなど、実用目的の家畜だったものが、その目的で飼われなくなって以降も人間に飼われるようになった。それらが、人間の飼育下で繁殖したペットの最初となる。ただし、どの段階で実用でなくなったのか明確な境界線を引くのは困難である。日本におけるニワトリのように、食のタブーでいったんはペットとされたものが、再び食用の家畜(家禽)へと変遷した例もある。

古代 - 近代

特にイヌの場合は、はっきりした主従関係を好む習性から、家族の一員として扱われた歴史が長いとされる。石器時代におけるイヌの墳墓(埋葬に際して添えられたと見られる花の花粉が見られたり、なんらかの食料の残骸が一緒に発見されたりするなどの特徴も見られる)も発見されている。その一方で、所有物という概念もあったようで、殉死によって飼い主とともに埋葬されたと思われるケースも見られる。欧米では、古来から現代まで王侯貴族や歴代大統領から一般市民の間で愛玩用、護衛用、狩猟用などとして飼われている。ジェームズ2世(イングランド王)やアメリカ合衆国大統領クーリッジなど多数の愛犬家がいる。

古代エジプトでは、ネコ科の動物は今日のペットに近い存在であったとされる。それらは神格化されたせいもあって(例:バステト)、高貴な身分にふさわしい愛玩動物として扱われた。丁寧に埋葬されたネコのミイラも発見されており、同時代に於ける同種動物の地位が如何に高かったかを感じさせる。

また農耕文化にも関連して、ネコやイタチ、キツネのような小型動物を捕食する肉食獣を、穀物食害から守る益獣として珍重していた文化が世界各地に見出されている。今日のアメリカ合衆国でも、納屋に住み着くネコを「barn cat」と呼び珍重するなどの風習が見られる。

近代 - 現代

今日ペットは、心を癒やしたり、あるいは愛玩されたり、共生したりするなど、様々な面を持つ。ペットは、家族同様の存在やパートナー、仲間として人の暮らしに密接に関わる。

現代の日本の2人以上の世帯では、48%の世帯が、何かしらのペットを飼っているという調査結果がある[9]。日本の2010年平成22年)における飼育ペットの割合は、犬59%、猫31%、魚類19%、鳥類6%(複数回答)である[10][注釈 1]

動物を尊重する人々の中には、言葉の用法に人間との同一視が見られることがある。たとえば、ペットの性別を「オス」「メス」ではなく「男の子」「女の子」と呼んだり「をやる」ではなく「ごはんをあげる」と表現したりする。

中にはペットに遺産を残したいと望み、負担付遺贈負担付死因贈与遺言信託の形式をとる場合もある[注釈 2]


注釈

  1. ^ ペットフード協会の調査でも飼育ペットの種類の順位について、内閣府調査と整合性のある結果が出ている。1位が犬、2位が猫、3位が金魚である。
  2. ^ ペットの家族化が進むにつれ、「ペットに遺産を相続させたい」という要望が出るようになった。日本では法律上、ペットは物として扱われるため相続人にはできない。そこで、「負担付遺贈」でペットの世話を条件に、世話人に遺産を相続する」という手法で、飼い主の死後もペットの生活を守る遺言を作成できる[11]。その際、世話人がペットの世話をきちんとするかを監視する遺言執行者を置き、世話をきちんとしない場合には遺産を取り消すようにすれば「遺産だけもらって世話をしない」といった事態への予防策になる[11]

出典

  1. ^ 大辞泉,大辞林
  2. ^ 「ロボット型ペットによって認知症患者のストレスや行動が改善する可能性、フロリダ・アトランティック大学研究報告」DIME(2021年11月15日)2021年11月23日閲覧
  3. ^ ペットが子どもの健全な心育てる、研究で明らかに―北京市”. ライブドアニュース. 2008年10月24日閲覧。
  4. ^ a b スー・ドナルドソン、ウィルキムリッカ『人と動物の政治共同体』尚学社、2016年、205頁。 
  5. ^ a b c d マーヴィン・ハリス『食と文化の謎:Good to eatの人類学』(岩波書店 1988年、ISBN 4000026550)第8章
  6. ^ a b c d e f g h i j 愛玩動物の衛生管理の徹底に関するガイドライン2006”. 厚生労働省. 2019年12月26日閲覧。
  7. ^ ジャレド・ダイヤモンド著 倉骨彰訳『銃・病原菌・鉄(上)』草思社文庫 ISBN 978-4794218780
  8. ^ 上野吉一著『キリンが笑う動物園 環境エンリッチメント入門』(岩波科学ライブラリー154 岩波書店 2009年1月27日発行 ISBN 9784000074940)16-19頁
  9. ^ ペットフード協会による2007年(平成19年)時点調査。
  10. ^ 動物愛護に関する世論調査”. 内閣府. 2020年5月31日閲覧。
  11. ^ a b 「愛するペット困らぬように…行政書士に遺言相談が続々」読売新聞』アーカイブ(2008年2月9日配信)
  12. ^ a b c 名古屋税関管内における“犬、猫用ペットフード”の輸出 名古屋税関調査統計課(2020年4月18日閲覧)
  13. ^ 「うちの子」になった犬猫たち 店で買う「家族」、悪質業者横行も ペットと平成 朝日新聞デジタル(2019年4月18日)2021年11月23日閲覧
  14. ^ ドイツにおける動物保護の変遷と現状
  15. ^ 野良猫にエサやりをしている方へ|清瀬市公式ホームページ”. 清瀬市公式ホームページ. 2024年4月15日閲覧。
  16. ^ 野犬って本当に危険で凶暴なの?〜犬の野生化と社会化〜│enkara(エンカラ)”. enkara.jp. 2024年4月15日閲覧。
  17. ^ 義雄, 越村 (2014). “ペット産業の現状と将来展望”. ペット栄養学会誌 17 (Suppl): 9–24. doi:10.11266/jpan.17.9. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpan/17/Suppl/17_9/_article/-char/ja/. 
  18. ^ 一般市民アンケート調査(平成25年度)”. 環境省. 2020年5月30日閲覧。
  19. ^ 譲渡会等のお知らせ”. 環境省. 2020年5月30日閲覧。
  20. ^ 日本放送協会. “犬や猫の新しい飼い主見つけようと初オンライン譲渡会 鳥取県|NHK 鳥取県のニュース”. NHK NEWS WEB. 2023年12月4日閲覧。
  21. ^ Table of State Laws Concerning Minimum Age for Sale of Puppies”. Michigan State University. 2020年6月1日閲覧。
  22. ^ a b 「ペット販売:生後56日以下は禁止 改正動物愛護法、猶予付きで成立へ」毎日新聞』東京朝刊2012年8月23日(インターネットアーカイブを2021年11月25日閲覧)
  23. ^ 【be report】犬猫の繁殖・販売業者への規制 悪質業者の排除が目的、実効性は『朝日新聞』土曜朝刊別刷り「be」2021年11月20日4面(2021年11月24日閲覧)
  24. ^ 譲渡でつなごう!命のバトン”. 環境省. 2020年6月2日閲覧。
  25. ^ パリ ペット店「やめるしか」フランス 犬・猫販売禁止に『朝日新聞』朝刊2021年11月24日1面(同日閲覧)
  26. ^ 「犬を売らないペット店が岡山で人気の事情〜殺処分されてしまう元凶は命の売買にある?」東洋経済オンライン
  27. ^ 「動物の愛護及び管理に関する法律が改正されました <一般飼い主編> サイト:環境省
  28. ^ 2023年6月1日よりアカミミガメ・アメリカザリガニの規制が始まりました!”. www.env.go.jp. 2023年12月5日閲覧。
  29. ^ 外来生物法に関するQ&A”. www.env.go.jp. 2023年12月5日閲覧。
  30. ^ 犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況”. 環境省. 2020年5月31日閲覧。
  31. ^ 譲渡会等のお知らせ 環境省
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  33. ^ Pet Statistics”. ASPCA. 2020年6月1日閲覧。
  34. ^ North Carolina To End Use Of Gas Chambers In Animal Shelters”. WUNC NEWS. 2020年5月31日閲覧。
  35. ^ スーツケースからオランウータンの赤ちゃん、密輸容疑で男を逮捕 インドネシア”. cnn.co.jp. 2020年5月30日閲覧。
  36. ^ 動物園から盗まれたペンギン。なんとネットで売られていたことが発覚!犯人逮捕へ(イギリス)”. カラパイア. 2020年5月30日閲覧。
  37. ^ 市川市動植物園 20年の足跡”. 2020年5月30日閲覧。
  38. ^ ペット可物件で「爬虫類」を飼うことはできるのか”. オトナンサー編集部. 2020年6月2日閲覧。
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  40. ^ 狂犬病発生に関する海外情報の提供と「狂犬病対応ガイドライン 2001」の付属書の追補について”. 厚生労働省. 2020年6月1日閲覧。
  41. ^ 犬の鑑札、注射済票について”. 厚生労働省. 2020年6月1日閲覧。
  42. ^ 犬による咬傷事故件数(全国計:昭和49年度~平成28年度)”. 環境省. 2020年6月2日閲覧。
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  45. ^ 警察官が人襲った体長120センチ「紀州犬」に13発発砲し射殺 千葉県警「拳銃使用は適正」…住民「バンバンバンの銃声、テレビ番組かと…」千葉・松戸”. 産経新聞. 2020年6月2日閲覧。
  46. ^ 犬が人を咬んでしまったら All About
  47. ^ “米女性かみ殺した犬の飼い主を殺人罪で起訴、終身刑の可能性も”. Reuters. (2014年9月1日). http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPKBN0GW1LZ20140901 2014年9月6日閲覧。 
  48. ^ a b c d 日本放送協会. “犬と猫がペットショップから消える日”. NHKニュース. 2022年1月24日閲覧。
  49. ^ 動物の「落とし物」10万匹 大半ペットか、警察で保管 東京新聞 TOKYO Web 2023年5月28日配信の共同通信記事(2023年6月13日閲覧)
  50. ^ 特定外来生物の解説”. 環境省. 2020年5月31日閲覧。
  51. ^ a b 【関西の議論】「ラスカル」どころか害獣 近畿でエスカレートするアライグマ被害”. 産経新聞. 2020年5月31日閲覧。
  52. ^ 諸外国における犬猫殺処分をめぐる状況 ―イギリス、ドイツ、アメリカ―”. 遠藤 真弘. 2020年5月31日閲覧。
  53. ^ German hunters under fire for killing domestic cats(The Daily Telegraph)
  54. ^ Jagd/Was kann ich tun, wenn mein Haustier von einem Jäger verletzt oder getötet wurde? Dürfen streunende Katzen getötet werden? Wir haben für Sie alle wichtigen Urteile zum Thema Jagd und Katzen gesammelt.(Ein HerzfürTiere Media GmbH)
  55. ^ Haustiere「狩猟廃止への取り組み ペット」(Initiative zur Abschaffung der Jagd)
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