ベンガル語
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ベンガル語 Bengali | ||||
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বাংলা | ||||
![]() ベンガル文字の「バングラ」 | ||||
発音 |
IPA: [ˈbaŋla] (![]() | |||
話される国 |
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地域 | ベンガル地方 | |||
民族 | ベンガル人 | |||
話者数 | 2億6000万人(2011年-2015年) | |||
言語系統 | ||||
初期形式 |
アバハッタ
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方言 |
ベンガル語の方言
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表記体系 |
ベンガル文字 ベンガル点字 | |||
公的地位 | ||||
公用語 |
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少数言語として 承認 |
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統制機関 |
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言語コード | ||||
ISO 639-1 |
bn | |||
ISO 639-2 |
ben | |||
ISO 639-3 |
ben | |||
Glottolog |
beng1280 [1] | |||
![]() 南アジアにおけるベンガル語の話者分布 | ||||
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インド・アーリア語派に属する。表記にはブラーフミー文字から発展したベンガル文字を用いる[4]。構文は主語・目的語・動詞の語順を取る、いわゆるSOV型である。ヒンディー語と異なり、ほとんどの名詞は性をもたない。なお、言語名の呼称に関しては、バングラ語と表記するほうが原語の音に忠実ではあるが、日本語では「ベンガル語」の表記が慣例である[5]。
分類
ベンガル語は、インド・ヨーロッパ語族インド語派に属し、ヒンディー語やウルドゥー語など、南アジアに存在する多くの言語と類縁関係にある[6]。特に、アッサム語とは共通点が多く、非常に近い関係にある[6]。インド・ヨーロッパ語族の言語分布の中では、アッサム語と並んで、地理的にもっとも東に位置する[7]。
上述のように、ベンガル語はインド・ヨーロッパ語族に属するが、ドラヴィダ語族をはじめとする他の語族/語派から受けた影響が、語彙面や文法面に見られる[8]。ドラヴィダ語族のほかにはオーストロアジア語族とチベット・ビルマ語派がベンガル語の成り立ちに影響を与えたものと見られ、20世紀初頭の複数のベンガル語辞書を調査した研究によると、収録語彙の45%が純然たるサンスクリットからの借用語、50%超が土着語彙(サンスクリットから変容した語彙と非印欧語族言語からの借用語)であった[8]。
言語史
現代ベンガル語の語彙は、マーガディー・プラークリットとパーリ語に由来する基層に、タツァマ語彙とサンスクリットからの再帰的な借用語が加わり、さらにその他、ペルシア語、アラビア語、オーストロアジア語族の言語など、ベンガルに住む人々と歴史的な接触のあった人々の話す言葉からの借用語が加わって構成されている。
古代のベンガル地方の言語状況
紀元前1千年紀からベンガル地方ではサンスクリットが話されていた。グプタ朝期のベンガル地方は、サンスクリット文芸の結節点であった[9]。紀元後1千年紀において、ベンガル地方がマガダ国の版図に組み入れられていた紀元1世紀ごろは、中期インド・アーリア諸語が話されていた。これらはプラークリットの一種で、マーガディー・プラークリットと呼ばれる。「マーガディー」は最終的にアルダマーガディーへとかたちを変えていった[10][11][疑問点 ]。アルダマーガディーは、1千年紀の終わりごろには、アパブランシャと呼ばれる言語に道を譲り始めた[12]。
初期ベンガル語
ベンガル語は、他のインド・アーリア諸語の東部諸語と時を同じくして、西暦1000年から1200年ごろに、サンスクリットとマーガディー・プラークリットから進化した[13]。「無意味な音」を意味する「アバハッタ」とも呼ばれるアパブランシャの東部方言、プルビ・アパブランシャ(Purbi Apabhraṃśa)が、最終的に3つの言語、ベンガル・アッサム語、ビハール語、オリヤー語に分化した。枝分かれの時期は、西暦500年ごろにまで遡れるとする説もあるが[14][疑問点 ]、言語というものは静的なものではない。この時代には少しずつ異なる言語が共存し、書き手も複数の方言を同時に書くことがよくあった。例えば、6世紀前後にアバハッタへと進化していったと考えられているアルダマーガディーは、ベンガル語の前身となる言語としばらくの間、競合していた[15][疑問点 ]。なお、そのベンガル語の前身となる言語は、パーラ朝とセーナ朝で話されていた言語でもある[16][17]。

中期ベンガル語

中世において話された中期ベンガル語(1400年-1800年)には、単語末で অ ô のエリジオンが起きる現象と、複合動詞の広範な使用と、アラビア語やペルシア語の影響が見られることに特徴がある。ベンガル語はベンガル・スルターン朝の宮廷において公式に使用された。ムスリム支配者層は、支配地域におけるサンスクリットの影響を抑え、イスラーム化を進める試みの一つとして、ベンガル語文学の発展を奨励した[18]。ベンガル・スルターン朝において、ベンガル語は最もよく話される地方語(vernacular language)になった[19]。この時代にはアラビア語やペルシア語からベンガル語の語彙の中に取り入れられた借用語が見られる。また、この時代の主なテキストとしては、チャンディーダースの『クリシュナ神賛歌』がある。
現代ベンガル語
現代ベンガル語の書き言葉は、19世紀から20世紀初頭にかけて、ベンガル地方の中央部やや西よりに位置するナディーヤー地方の話し言葉を基礎として発展した。この時代のベンガル地方は、イギリスの植民地統治下にあり、ベンガル語が行政・公用の言語として用いられてなかったため、書き言葉の発展はもっぱら文学活動により牽引された[20]。ビールバルやタゴールらの詩人や作家はベンガル語の書き言葉として、語形変化やその他の変化の形態が複雑な Sadhubhasha(ベンガル語: সাধুভাষা)を使用するよりも、これを簡略化した Chôlitôbhasha(ベンガル語: চলিতভাষা)を使用することを推進した[20][21]。
注釈
出典
- ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Bengali”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History
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- ^ “「What are the top 200 most spoken languages?」”. エスノローグ . 2020年1月24日閲覧。
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