ヘッドフォン ヘッドフォンの概要

ヘッドフォン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/20 07:53 UTC 版)

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オーディオテクニカ ATH-A500 密閉型ヘッドフォン

オーディオ系の常として、製品ごとに性能・品質・表現性に大きく差がある。これは、用途に応じて設計を変えているからである。たとえば、モニター用ヘッドフォンだけをとっても、「スタジオモニター用」「マイナスワン用」「ロケ用」それぞれに合わせた製品があり[1]、リスニング用となると、想定される好みに応じて、あらゆる方式で設計がなされている。

技術上の定義

電子情報技術産業規格には次のような定義がある[2]。なお、電子情報技術産業規格では「イヤホン」及び「ヘッドホン」という表記である[2]

イヤホン
イヤホンとは「電気信号を音響信号に変換する電気音響変換器で音響的に耳に近接して使用するもの」をいう(電子情報技術産業規格3.1)[2]
ヘッドホン
ヘッドホンとは「1個又は2個のイヤホンとヘッドバンドもしくはチンバンドと組み合わせたもの」をいう(電子情報技術産業規格3.2)[2]
ヘッドセット
ヘッドセットとは「装着者の音声を収音するマイクロホンを組み込んだヘッドホン」をいう(電子情報技術産業規格3.3)[2]
イヤセット
イヤセットとは「装着者の音声を収音するマイクロホンを組み込んだイヤホン」をいう(電子情報技術産業規格3.4)[2]

なお、過去の日本のNHK規格ではイヤフォンとヘッドフォンの区別はされず、ヘッドバンドを有し両耳に当てる形状のものは両耳載頭型イヤフォンとされ、さらにステレオ型、モノラル型として分けられていた[3]

技術上の分類

変換器の原理による分類

変換器の原理では、圧電形、電磁形、静電形などに分類される[2]

ダイナミック形

beyerdynamic T1のダイナミックドライバーユニット

ダイナミックスピーカーと同じ構造で、磁石の作る磁界の中で音声電流が流れるコイル(ボイスコイル、voice coil)にローレンツ力が発生し、コイルに取り付けた振動板を振動させる方式である。ダイナミック型は、電流に対するローレンツ力を線形にする設計が可能であり、無電流のときコイルに力が発生せず振動系の支持を柔らかくできるため、低歪と広い再生周波数帯域が両立できる非常に優れた方式である。原理構造上、安価な大量生産向きでもあることから、現在ではヘッドフォンの最も一般的な方式となっている[4]

世界初のダイナミック型ヘッドフォンは1937年ドイツのEugen Beyerが作った。現在でもbeyerdynamic社は主要メーカーの一つである。

インピーダンスは16〜70Ω程度のものが一般的であるが、業務用のヘッドフォンでは300Ωを超えるものもある[5]。インピーダンスが高いほど、機器を変えずに同じボリュームでも、実際に出力される音量が小さくなっていく傾向にある。そのためポータブル向けのものは64Ω程度までの低インピーダンスのものが一般的である[6]。高インピーダンスのヘッドフォンはアンプやケーブルなど接続した機器による外的影響を受けにくいものの、低出力のポータブル機器では駆動力不足によりヘッドフォン本来の能力を発揮できない場合がある[7]。 なお、ヘッドフォンのインピーダンスはIECの規定で、1 (kHz) の交流印加時のものを示すものとされており、典型的なダイナミック型であれば、R+jXであるから、これよりも低い周波数では低く(例えば直流を加えた場合には純抵抗成分Rのみになる)高い周波数では高くなる。

圧電形

薄い圧電体を2枚の金属板で挟み、これに音声電圧を加えることによって圧電効果ピエゾ効果)による振動を発生させる方式である。インピーダンスが高過ぎて通常のアンプとは合わないため、動作させるためには専用機器を使う必要がある。歪や再生周波数帯域の点でダイナミック型に劣るため、2015年現在、生産しているメーカーはラディウス(ドブルベシリーズ)のみである。圧電体がロッシェル塩であればクリスタル型、圧電セラミックであればセラミック型となる。

マグネチック形

磁石に取り付けた固定コイルに電流を流し、磁石の吸引力を変化させて振動板を兼ねる鉄片を振動させる方式。吸引力が非線形なため歪が出やすく、鉄片が磁石に吸着してしまわないように振動系を固く支持する必要があるため、周波数帯域が狭くなるという原理上の欠点がある。

最も簡便であり、音質も音声情報を認識する最低限のものであるためヘッドフォンとは区別されることも多い。一般に片耳モノラルイヤホンであり、その場合は丸みを帯びた開口部を外耳道に数ミリ挿入する。外耳道の入口で支持するだけのため脱落しやすい。

バランスド・アーマチュア形

バランスド・アーマチュア型の原理
コイルでアーマチュア(電機子)を振動させ、ドライブロッドを経て振動板を振動させる
JH Audio製バランスド・アーマチュア型IEMの上級モデル
高域用4つ、中域用4つ、低域用4つの(片側)合計12ドライバーを搭載する。

マグネチック型とほぼ同じだが、マグネチック型が鉄片を直接振動板として用いるのに対して、こちらは鉄片(アーマチュア、電機子)の振動を細い棒(ドライブロッド)で振動板に伝えて振動させる点が異なる。戦前から昭和の中頃までテレビ・ラジオの個別聴取のために使用されてきたマグネチックスピーカーとよく似た構造[8] となっている。

ダイナミック型と比較すると、吸引力が非線形なため歪が出やすく、鉄片が磁石に吸着してしまわないように振動系を固く支持する必要があるため、周波数帯域が狭くなるという原理上の欠点がある。しかし、ダイナミック型より小型化が容易なことから、音質よりも小型化が要求される外耳道挿入型補聴器等によく用いられている。

インイヤーモニターの高級タイプでは、低域用・中域用・高域用など専用ドライバーに分けて、周波数帯域が狭いなどの原理上の欠点をある程度改善した製品が開発されている。

静電形

スタックス (STAX) 社製イヤースピーカーの廉価モデル。右側の箱は駆動用のアンプ

コンデンサ型またはエレクトロスタティック型とも呼ぶ。背極(ステーター)のごく近傍に薄い導体の膜(振動膜)をおく。振動膜に直流電圧(バイアス電圧)をかけ、背極に音声の交流電圧をかけると静電力の変化によって振動膜が振動する。通常は背極を2枚用意し、その間に振動膜を置く(プッシュプル方式)。背極には空気を流通させる穴をあける。電圧に対して線形な静電力が振動膜の全面にほぼ均一に発生するため、低歪でしかも周波数特性に有害な分割振動が起こりにくいという特長がある。静電型は高い電圧を必要とするため、また抵抗負荷ではないため専用のアンプが必要である。日本のスタックスが静電型ヘッドフォンを製造販売しており、同社ではイヤー・スピーカーと呼ぶ。

クリスタル形

そもそもは、ロッシェル塩の逆圧電効果を利用したものである。ロッシェル塩は正圧電効果のある物質であり、クリスタルイヤホンはそのままでクリスタルマイクにもなる。ロッシェル塩は電場により伸縮する。このことから高い入力インピーダンスとし、微弱な電力で音を発生させることができるため、初期の鉱石ラジオなどでは必須のイヤホンであった。近年まで学習教材用などとして製造されていたが、ロッシェル塩には潮解性があり、耐久性に難があることから、近年は「クリスタル(イヤホン)」と謳っていてもセラミック型とされているものがほとんどである。2013年現在、ロッシェル塩を用いたイヤホン、マイクを製造しているメーカーはない。

イヤホン部分の形状による分類

耳覆い形(ヘッドバンド型〜軽量オープンエア)

ヘッドバンド型

耳覆い形は大きく耳を覆い込む形状で装着時には十分な空洞ができるもの[2]

  • ヘッドバンド型
    ヘッドバンドを頭の上に乗せるものである。「オーバーヘッド型」とも呼ばれる。1970年代までヘッドホンの装着スタイルはヘッドバンドの形態に限られていた[9]。耳に良く密着し、密閉型では音漏れしにくいものが多い。しかし、持ち運ぶときにかさ張る、髪型が乱れるなどの理由で敬遠されやすい。折り畳み型もある。
  • 軽量オープンエア
    1979年に発売された非常に軽量な機種で戸外に音楽を持ち出す文化を生み出すきっかけとなった[9]

イントラコンカ形(インイヤー型、インナーイヤー型)

インイヤー型

イントラコンカ形は耳甲介腔にはめて使用するもので、音響出力孔が外耳道近くになるように設計されたもの[2]。耳甲介腔に収まるサイズのものは1982年に開発されインイヤー型などともいい後にヘッドホン市場の大半を占めるほど一般的に普及した[9]

スープラコンカ形

スープラコンカ形は耳甲介腔の周辺にある隆起に載せて使用するように設計されたもの[2]

耳載せ形(ネックバンド型)

ネックバンド型

耳載せ形は耳の外側に置き耳朶に載せて用いるもの[2]。1997年に発売され通称はネックバンド型という[9]ソニーから1997年に発売された MDR-G61で初めて採用)。通常は頭上にあるヘッドバンドが首の後ろ側に位置している方式。ゼンハイザーもこの方式のヘッドフォンを販売している。

長所はヘッドバンドが頭部を押さえないため、装着しても髪型の崩れを気にする必要がなく、帽子をかぶることもできる。運動中にも邪魔にならない。短所はヘッドフォン本体の脱落を防ぐために装着した時の締め付け具合が強く、またマフラーやフード付きの衣服を着用している場合にはヘッドバンドが邪魔になる場合がある。

耳介掛け形(耳掛け形、イヤハンガー形、クリップ型)

耳掛け型・クリップ型

耳介掛け形は耳に掛けて使用するように設計されたもの[2]。イヤハンガー形ともいう[9]。コードをハウジング内に収納するモデルもあり、インナーイヤー型と比較して振動板面積が大きく取れる割りに非常にコンパクトで携帯に便利である。しかし耳輪に引っ掛けるため耳甲介腔に密着しにくく、音漏れしやすい。長時間使用すると耳介に痛みが出ることもある。パステルカラーのものやメッキのアクセントの入っているものなど、ファッション性を重視した製品も多い。

挿入形(カナル型等)

カナル型

挿入イヤホンは外耳道(ear canal)に挿入して用いるもの[2]。1999年に発売された耳孔挿入式のものは通称カナルインナー型(カナル型)という[9]。カナルインナー型(カナル型)は2002年頃から主流となった[9]

構造上密閉型が多く、遮音性能が比較的良好なため、騒音のやや大きい場所でも音楽等を楽しめる。耳に合うかどうかは個人差があり、音質や装着感などにも大きく影響する。そのため外耳道挿入部が着脱式部品(イヤーピース)となっており、大きさの異なる複数の部品が付属する製品が多い。外耳道に挿入する部分がゴム製で摩擦が大きいものは、耳からヘッドフォンがインナーイヤー型より抜けにくくなっている。外部からの遮音性が高い反面、製品や個人差によっては、自分の鼻息、歩いたときの振動、あるいはコードの擦れ音など身体の音が顕著に増幅されてしまう欠点があり[10]、コードの擦れ音対策がなされている製品もある。近年各メーカーから相次いで販売されるようになった。また、人によっては口の開け閉めによる顎関節の動きにより密閉具合が絶えず変動するため、喋りながら使うと音量に不快な揺らぎが生じる場合がある。そのため特にスマートフォンなどハンズフリー等で用いる場合や、音楽を聴きながら歌う場合など、非常に聞き取りにくいケースや音酔いして気分が悪くなる場合がある。遮音性が高く外界の音が極端に聞こえづらいため、自動車などの接近に気付きにくく、使用者本人を危険に陥れる可能性も指摘されている[11]

外耳道との音響的接合による分類

外耳道との音響的接合では開放形と密閉形に分類される[2]。 ヘッドホンの構造は逆相音処理の原理的方法の違いから大きく2つに分けられ、それぞれ次のような特徴がある。

開放形(オープンエアー形)
発音部分の背面が開放されているもの。振動板の裏側から発生する、180°位相反転した音波(逆相音)を無限に広い空間に拡散させて処理するタイプのものである。いわゆるスピーカーボックス(エンクロージャー)で言えば、後面開放(ダイポール)型である。外音を遮断するものは、原理的に薄い振動板1枚だけであるため、外音が良く聞こえる。一般に高音が良く伸び音がこもらない反面、低音はやや弱い。これは低音の逆相音が高音のそれと比べてよく回折するため、表側により多く回り込み、低音の正相音をより強く打ち消してしまうためである。はっきりとした強い低音を得るためには、イヤパッドなど発音部分の表裏を分ける部分の遮音性を特に高める必要がある。また、音漏れが大きいのも難点である。DJなど、同時に外の音を聞くことが要求される場合にも用いられる。
密閉形(クローズド形)
発音部分の背面を密閉したもの。振動板の裏側から発生する逆相音を内部で減衰消滅させるタイプのものである。いわゆるスピーカーボックス(エンクロージャー)で言えば、密閉型もしくはバスレフ型である。スピーカーとは違い、ヘッドフォンでは、背面の容積(空間)を十分とすることができないことから、発音器が非力な場合、振動板の動きが制限され、低音の少ない詰まった音(こもった音)になりやすい。このことからダイナミック型では、発音器に強力なマグネットを使用する、あるいはバスレフ型として対応する。遮音性が高いため、外部の音を遮断することを重視する場合には好んで用いられる。ヘッドフォン自体の音もよく遮断することから、公共の場で利用するヘッドホンに用いられるほか、(マイクロフォンとヘッドフォンが接近するため不要なモニタ音が収音されがちな)ヴォーカル録音等のモニタにも愛用される。

聴力測定用ヘッドフォンのように理想的に作れば、開放型も密閉型も「同じ音」になる。一般に言われる「音の傾向」は、意図的に作られているものである。例えばゼンハイザーの開放型ヘッドホンは低音が強調され、オーディオテクニカの密閉型ヘッドホンは高音が強調されて鳴る傾向があるが、これは各メーカーの考えの違い、すなわち各メーカーの対象としているカスタマーニーズがそれぞれ違うためであることがほとんどである。コンピュータシミュレーションがヘッドフォン設計にも取り入れられるようになって以降、音の傾向はカスタマーニーズに合わせて細かく調整されるようになっている。また、各メーカーの代表的な機種の音だけが取り上げられ、「メーカーのクセ」と思われていることが多いが、実際には、同じメーカーのものでも、機種によって音が全く違うことがほとんどで、多くの場合、実聴しないと音の傾向はわからない。また遮音性・音漏れについても密閉型だから高いとは必ずしも言えない。これはその他に例えば「半開放型」のものがあるが、分類上は密閉型とされているといったことがあるためである。







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