プロレスラー 活動期間、廃業

プロレスラー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/09 06:51 UTC 版)

活動期間、廃業

  • 近年の男子プロレスラーはピークを迎えるのが平均して30代前半と、競技スポーツを行う選手に比べ若干高い。これは、野球やサッカーなどと比べアマチュアがなく、身体的能力よりも表現力や集客力などプロレスラーにとって重要な能力の醸成にはある程度の期間が必要となるためである。デビューが早い者や秀でた才能を持つ者はこの限りではない。
  • 身体的な負担は大きいが、現役選手として長い間活動出来ることも特徴。投げ技や飛び技を抑えたファイトスタイルにして、50歳を超えて現役を続けている者も多い。これはプロレスが相手の肉体を破壊する真剣勝負である必然性が無いことに起因する。他競技では引退するような年齢であってもジャイアント馬場ラッシャー木村アブドーラ・ザ・ブッチャージプシー・ジョーなど還暦を超えても継続してリングに上がるプロレスラーもいる。肉体が衰えても、Tシャツなどを着用して体の緩みを隠して試合をするプロレスラーは多い。肉体をきちんとビルドアップして試合に臨むプロレスラーも数多く存在している。
  • 統一機関によるライセンス制度が無いため、成績不振や試合内容の低下などを理由にした強制引退制度が存在しない。年齢制限も無いことから、女子プロレスのアイスリボンなどでは小中学生が試合を行っている。また、ローカルインディー団体の中には、一般人とほぼ変わらない人間をプロレスラーとして興行に参加させている場合もある。
  • プロレスラー廃業の要因としては、上述したような職業病の慢性化などの肉体面の損耗の問題が多いが、一方、移動と興行を頻繁に繰り返し続ける典型的な旅商売であり、家を空けることが多いため、家族関係が崩壊して離婚する者や子供の非行など家庭面での問題を抱えて、表向きはまた別であっても、これが最大の原因となる者も少なからず見られる。
    • 肉体的にはまだまだ続けられても、自身の将来の健康面への不安、少なからぬプロレス団体がプロレスラーの健康管理を軽視していることへの不安、家族との時間を大切にしたいという理由で廃業する者もいる。
  • 一度はリングから完全に離れて、プロレス団体のフロントや他業種(芸能界など)に転じた元プロレスラーであっても、話題作りの一環やチャリティーなどを目的としてワンマッチ、数試合限定でリングに復帰することは珍しくない。近年の代表例は坂口征二など。中にはダンプ松本のように後に第一線に完全復帰する場合もある。
  • 他方でベテランプロレスラーの場合は、上述したようなショーマンシップを重んじる考えから、廃業を機に「衰えた姿(あるいは病身)を見せたくない」として表舞台やマスコミには全く姿を見せなくなる人物は珍しくなく、長い間情報が途絶え、数年ぶりのニュースで名前を聞いたらそれが訃報であったという人物も見られる。強さを誇示することで身が立つ世界で生きてきた人物たちだけに、現役プロレスラーと同様に、引退後でも闘病や療養の事実が公になることを嫌う元プロレスラーも少なくない[注釈 7]
  • 試合中、練習中、移動中の不慮の事故で脊椎損傷などのプロレスラーの職業生命を絶たれるほどの重い身体障害を負い、引退を余儀なくされた人物の場合には、心配してくれるファンへの状況報告や御礼、事故などで同様の障害を負って苦しむ人々への激励などという意味を込めて、敢えてマスコミの前に懸命にリハビリを続ける自身の姿を見せる者もいる[注釈 8]

引退後の生活に懸かる問題点

日本のプロレスには統括的なプロレス団体が存在せず、ステップアップとなるカテゴリー、リーグ制度も存在しないことから、日本相撲協会に見られるような引退後の職業の受け皿となるような組織も、プロ野球Jリーグモータースポーツに見られるような学生による競技組織や下位カテゴリーへの指導者としての就職といったケースも見受けられない。ボクシング等の他の格闘技に見られるような興行団体から独立した道場がほとんど無く、プロレス団体所有道場で養成が行われる形態が採られるため、プロレスラーとしての経験を生かして指導の立場に立てる機会自体がプロレスには極めて少ない。比較的大きなプロレス団体の場合にはプロレス団体の職員として再雇用されたり、坂口征二のように社長など役員を兼任するプロレスラーが、その役職に専念するケースもあるが、プロレス団体の崩壊により、現役継続の岐路に立たされた場合には、失業と同様の状態となってしまうケースも少なくない。

一部のプロレスラーはアントニオ猪木アニマル浜口風香のように引退後に自らプロレス団体や道場を起こしたり、小橋建太のようにプロモーターに転じたり、実業家タレント政治家への転身、或いは料理店を起こしたり家業の継承により引退後の生活を安定させるケースもあるが[注釈 9]、元々経営感覚に乏しい者や一般の社会生活に適応できなかった故にプロレスラーへの道を選択した経緯を持つ者、ギャンブル等に傾倒する癖のある者に至っては引退やセミリタイヤ後に完全に生活が破綻してしまうケースも見られて、最悪の場合には剛竜馬のように生活苦から犯罪を犯してしまったり、アダルトビデオに出演して家庭が完全に崩壊してしまうケースに至る場合もある。

そのため、健康上や肉体的な問題から当に現役を務めるには無理がある年齢となっても、定職が見つけられないままローカルインディー団体を転々としながらリングに上がり続けざるを得ない元メジャー団体所属プロレスラーは近年しばしば見られて、業界全体の構造問題として捉えられる向きも多い。


注釈

  1. ^ この種の逸話としては、アンドレ・ザ・ジャイアントキラー・カーンのエピソードが有名。
  2. ^ 実際に永源はプロレスラー引退後もプロレスリング・ノア常務取締役を長く務め、所属団体の営業面の一翼を担っていた。
  3. ^ 当時WWEで最もファン人気があったダニエル・ブライアンは、しばしば観客に「YES!」のチャントを行わせるムーブを行っていたが、ブライアンのコアなファン層はソーシャルメディアを通じてブライアンが会社に対する要求事項をマイクパフォーマンスで提示した際に最大級のチャントを送るように示し合わせを行ったことで、現実のWWEのストーリーラインにまで影響を与える事態にまで発展してしまった。結局ブライアンは観客を味方に付ける形でトリプルHとのシングルマッチ及び、WWE王座決定トリプルスレットマッチへの挑戦権の両方をWWEに認めさせ、WM30では両方の試合に勝利してWWE王座を獲得した。トリプルHはWM30の後、ブライアンの事前の策略とネットユーザーがWWEの想像を越えてストーリーラインの意思決定プロセスを知り尽くしているという事実を認め、一連の事態を指してリアリティ時代英語版の幕開けであると総括した。リアリティ時代以降、WWEのケーフェイの管理は明確に緩和され、プロレスラーがリング外でギミックを崩すことがあってもファンから大きな拒絶の声が上がることは少なくなったという。
  4. ^ 痛みや苦しみが観客に暗に伝わるような悲鳴や呻き声の類ならば許容されるが、「痛い」などと直接的な言葉を発することは観客を興醒めさせる要因となるため絶対の禁忌である。
  5. ^ ギミックを維持できず素の性格に戻ってしまうことと同義であると見做される為。
  6. ^ 特に左膝が直角に曲がらなくなった大仁田厚や、直立した状態で両膝が曲がったために人工関節を入れた武藤敬司が有名である。
  7. ^ ラッシャー木村が典型的な例で、2004年に「体力の限界」を理由に引退を表明したが、現役引退直後に脳梗塞で倒れていたことは、2010年の死去まで隠され続けた。
  8. ^ 共に頸髄損傷によって全身不随に陥ったハヤブサや高山善廣が有名である。
  9. ^ 一般的には、このような状態となり、明確な引退発表を行わないままプロレスラーとしての活動が途絶えた者はセミリタイヤ状態として形容される事が多い。ただし、安定した収入が得られるようになった後に、本業の合間に趣味程度の割合でリングに復帰する者も散見される。
  10. ^ ただし、実際には数試合限定ながら復帰している。詳しくは本人の項を参照。
  11. ^ その後、2023年2月21日に開催された武藤敬司の引退興行において、特別試合の形で一度だけ復帰している。

出典

  1. ^ 「日本版アスレチックコミッション」 - 東京都議会議員 早坂よしひろ 公式ホームページ
  2. ^ 東京スポーツ・2009年3月18日付 7面
  3. ^ プロレスに「医師の出場許可書」を義務化 - 日刊スポーツ・2009年7月28日
  4. ^ 東京スポーツ・2011年3月6日付 28面
  5. ^ 「大日本プロレス」求人広告の待遇と特典が率直すぎる - ねとらぼ・2014年5月23日
  6. ^ 屋台村プロレス!!!! - インディーズデザインブランド、D.m.m 、CS,designer、asateru massiveの歪み日記
  7. ^ 持ち逃げ250万円、リーマンショック……DDTプロレス高木大社長の「飲食運営はつらいよ」【レスラーめし】 - メシ通 - ホットペッパー
  8. ^ TIMES編集部, ABEMA (2023年5月3日). “【殿堂対談】武藤敬司「プロレスは“格闘芸術”」桜庭和志「清宮選手と稲村選手には可能性がある」 今後のプロレスとノアの未来に激論 「クマとやってよ」予期せぬ無茶ぶりに桜庭が苦笑 | インタビュー・特集 | ABEMA TIMES | アベマタイムズ”. ABEMA TIMES. 2023年11月2日閲覧。
  9. ^ 東京スポーツ・2009年5月20日付「格斗半世紀」第57回
  10. ^ a b 佐々木学,梅垣昌士,田村和義,櫻井公典,朝本俊司「プロレスラーの頚椎ドック4年間の経過報告」『脊髄外科』第30巻第3号、日本脊髄外科学会、2006年、290-292頁、doi:10.2531/spinalsurg.30.290 
  11. ^ a b 職業 | 生命保険Q&A | 保険見直し本舗”. internal.hokepon.com. 2023年11月2日閲覧。
  12. ^ 広がる支援の輪…欠場レスラー救済イベント「やまいきフリーマーケット」に100人超えのファン【週刊プロレス】 | BBMスポーツ | ベースボール・マガジン社”. www.bbm-japan.com. 2023年11月2日閲覧。
  13. ^ 2007年9月5日付 ABC News(英文リンク)
  14. ^ a b 滝澤透,成澤良「プロレスラーの死因に関する一考察」『八戸大学紀要』第45巻、八戸学院大学、2012年12月、106-116頁。 





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