プレートテクトニクス プレートの境界

プレートテクトニクス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/16 09:55 UTC 版)

プレートの境界

発散型境界(広がる境界)

マントルの上昇部に相当し、上の冒頭図では太平洋東部や大西洋中央を南北に走る境界線に相当する。この境界部は、毎年数cmずつ東西に拡大している。開いた割れ目には、地下から玄武岩質マグマが供給され、新しく地殻が作られている。この部分は、海洋底からかなり盛り上がっており、海嶺と呼ばれている[14]。海嶺の拡大速度はそれぞれ異なり、拡大速度の遅い海嶺の中心部は深い渓谷をなしている[15]。また、海嶺付近にはチムニーと呼ばれる熱水の噴出口も多数見つかっている[16]

発散型境界はほとんどが深海底に存在するが、まれに陸上にも存在するものもある。アイスランドは大西洋中央海嶺が海面上に姿を現した部分であり、活発な火山活動が起きている[17]。また、アフリカ東部にある大地溝帯は中軸部の深い渓谷と周辺の高山の列からなっており、大西洋中央海嶺と地形が類似していて[18]ホット・プルームによってアフリカプレートが引き裂かれつつある部分と考えられている[19]

収束型境界(せばまる境界)

沈み込み型:海洋-大陸
沈み込み型:海洋-海洋
衝突型

収束型境界ではプレートどうしが衝突し圧縮されるが、衝突するプレートの特性によって起きる現象が異なる。ただしどちらの境界においても造山運動が起き、造山帯を形成している[20]

沈み込み
大陸プレートと海洋プレート、または海洋プレートどうしが衝突した場合、比重の大きいプレートが比重の小さいプレートの下に沈み込み、深い海溝を形成する。大陸プレートは海洋プレートより比重が軽いため、この2者が衝突した場合は海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むこととなる。この沈み込みによって引きずり込まれた上部プレートが反発することで地震が発生する。こうしたプレートの境界で起きる地震はプレート間地震と呼ばれるが、このほかにプレートの下に沈み込んだプレート(スラブ)で起きるスラブ内地震も存在する[21]。また地下深く沈んだプレートから分離された水が、周辺の岩石の融点を下げるため、大陸プレートの深部においてマグマが発生し、多くの火山を生成する[22]。マグマの発生地点は海洋プレートが大陸プレートに沈み込む地点ではなく、そこからさらに大陸プレート側に入った地点であるため、沈み込みの起きている海溝から一定の距離を開けて、海溝に平行する火山列が形成されることとなる。この火山列より海溝側には火山が存在しないため、これを火山フロント(火山前線)と呼ぶ[23]。この火山活動と大陸同士の衝突による褶曲によって、大陸プレート側には陸弧と呼ばれる大山脈が形成されることがある。陸弧の後背地が陥没して背弧海盆が形成されることも多く、この場合陸弧は大陸から切り離されて島弧となる[24]。また、海洋プレートと海洋プレートが衝突する場合は、古いプレートの方が冷たく重いために新しいプレートの下に潜り込む。このとき、海洋プレートどうしの衝突によっても島弧が形成される場合がある[25]。この島弧と海溝はセットとして存在しており、島弧・海溝系と呼ばれる[26]
海嶺で作られて以来、長い時間をかけて海の底を移動してきたプレートには、チャート石灰岩砂岩泥岩といった多くの堆積物が載っているため、プレートが沈み込む際に陸側のプレートにそれらが張り付く現象が起こることがある。これを付加と言い、そうしてできたものを付加体と呼ぶ。日本列島もこのようにしてできた部分が多い[27]。一方、付加体がほぼ存在せず、逆に上部プレートの一部を侵食し削りながら沈み込むタイプの境界も多く、沈み込み型境界の57%はこのタイプである。境界が付加型になるか侵食型になるかは沈み込みの速度に依存し、速度が遅いほど堆積物が沈み込めず付加体となりやすい[28]。沈み込んだ海洋プレートの残骸はスラブと呼ばれ、冷たく重いためにマントル内でさらに沈み込んでいき、外核とマントルの境界にまで達するものもある[29]
日本近海は北の北アメリカプレート、東の太平洋プレート、南のフィリピン海プレート、西のユーラシアプレートの4つのプレートの境界が近接しており、プレートの沈み込み運動が激しい地域の一つである[30]東北日本の東の海中では、約1億年前に太平洋東部で生まれた太平洋プレート比重の大きい海洋プレート)が、東北日本を載せた北アメリカプレート(比重の小さい大陸プレート)に衝突している。重い太平洋プレートは、軽い北アメリカプレートにぶつかって、日本海溝に斜め下40 - 50°の角度で沈み込んでいる。地下深く沈んだ太平洋プレートから分離された水は周辺の岩石の融点を下げてマグマが発生し、北アメリカプレート側に多くの火山を生成する[22]。火山から噴出した溶岩はやがて陸地を形成し、2,000万年前から1,500万年前にかけて火山列の後方に形成された背弧海盆である日本海によってアジア大陸から切り離され、島弧を形成した[31]。太平洋プレートに衝突され押された北アメリカプレートは、圧縮応力を受けてひび割れ、たくさんの断層が発生し、北上山地などが生まれた。同様に、日本の南海上にある南海トラフではフィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込んでおり、伊豆・小笠原海溝においては太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込んでいる[25]。これによって、フィリピン海プレート側には伊豆・小笠原・マリアナ島弧と呼ばれる大規模な火山島弧が形成されている[32]海溝では、日本海溝第一鹿島海山が沈み込んでいる様子なども観察されている[33]
衝突型
大陸プレートどうしが衝突する場合はどちらも比重が軽いために沈み込みが発生せず、境界が隆起し続けるために大山脈が形成される[34]。現在もっとも活発で大規模な大陸衝突が起きているのはヒマラヤである。元来、南極大陸と一緒だったインドプレートが分離・北上して、約4,500万年前にユーラシアプレートと衝突し、そのままゆっくり北上を続けている。大陸プレート同士の衝突のため、日本近海のような一方的な沈み込みは生起せず、インドプレートがユーラシアプレートの下に部分的にもぐりこみながら押し上げている。その結果、両大陸間の堆積物などが付加体となって盛り上がり、8,000メートル級の高山が並ぶヒマラヤ山脈や、広大なチベット高原が発達した[35]
規模は小さいながらも、衝突運動が現在でも進行している地域としては、ニュージーランド南島)や台湾が挙げられる。これらは、世界で最も速く成長している山地であり、台湾の隆起速度は、海岸線でも年間5ミリメートルを超える。
日本においては、日高山脈丹沢山地が衝突型造山帯である[36]。特に、丹沢山地は伊豆半島の衝突によってできたものであり、この衝突過程は現在も進行中である[37]。ただし、日高山脈は活動を終えている。
過去の大規模な大陸衝突の跡は多く見つかっている。有名なものは、ヨーロッパアルプスアパラチア山脈ウラル山脈など。大陸衝突の過程には、未知の部分が非常に多く残っている。その理由は、沈み込み型境界では、深部で発生する地震の位置から地下のプレート形状を推定できるのに対して、大陸衝突帯では、深部で地震が発生しないからである。

トランスフォーム型境界(ずれる境界)

すれ違う境界同士の間では、明瞭な横ずれ断層トランスフォーム断層)が形成される。アメリカ西部のサンアンドレアス断層や、トルコ北アナトリア断層などが有名で、非常に活発に活動している。サンアンドレアス断層は大陸上にあるが、一連の海嶺の列(大西洋中央海嶺東太平洋海嶺など)の間で、個々の海嶺と海嶺をつなぐものが多数を占める[38]。理論上は、2プレート間の相対運動軸を通る大円直交し、海嶺とも直交する[39]。また、トランスフォーム型境界においても巨大な地震が発生しやすい[39]


注釈

  1. ^ 地向斜造山論との併用。地向斜説が教科書から無くなるのは90年代以降になる。

出典

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  2. ^ a b 「せまりくる「天災」とどう向き合うか」p16-17 鎌田浩毅監修・著 ミネルヴァ書房 2015年12月15日初版第1刷
  3. ^ 「基礎地球科学 第2版」p34 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  4. ^ 「基礎地球科学 第2版」p35 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  5. ^ 「基礎地球科学 第2版」p141 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  6. ^ 「基礎地球科学 第2版」p142 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  7. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p111-113 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  8. ^ 「基礎地球科学 第2版」p94-95 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  9. ^ a b https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20140331/ 「プレートはなぜ動くのか?~プレート運動の原動力に関する新しい発見~」独立行政法人海洋研究開発機構 2014年3月31日 2020年3月11日閲覧
  10. ^ https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/quest/20170714/index.html 「オマーン掘削プロジェクト~かつての海洋プレートを掘る!~」独立行政法人海洋研究開発機構 2017年7月14日 2020年3月11日閲覧
  11. ^ https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/083100222/?P=1 「【解説】地球のプレート運動、14.5億年後に終了説」ナショナルジオグラフィック日本版 2018.09.03 2020年6月10日閲覧
  12. ^ 「石と人間の歴史」p11-12 蟹澤聰史 中公新書 2010年11月25日発行
  13. ^ 「図説 地球科学の事典」p110-111 鳥海光弘編集代表 朝倉書店 2018年4月25日初版第1刷
  14. ^ 「基礎地球科学 第2版」p36 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  15. ^ 「図説 地球科学の事典」p176-177 鳥海光弘編集代表 朝倉書店 2018年4月25日初版第1刷
  16. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p102-104 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  17. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p105 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  18. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p88 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  19. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p123-124 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  20. ^ 「基礎地球科学 第2版」p113 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  21. ^ 「基礎地球科学 第2版」p194 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  22. ^ a b 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p156-158 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  23. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p192-194 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  24. ^ 「図説 地球科学の事典」p118 鳥海光弘編集代表 朝倉書店 2018年4月25日初版第1刷
  25. ^ a b 「図説 地球科学の事典」p172-173 鳥海光弘編集代表 朝倉書店 2018年4月25日初版第1刷
  26. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p192 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  27. ^ 「せまりくる「天災」とどう向き合うか」p26 鎌田浩毅監修・著 ミネルヴァ書房 2015年12月15日初版第1刷
  28. ^ 「図説 地球科学の事典」p10-11 鳥海光弘編集代表 朝倉書店 2018年4月25日初版第1刷
  29. ^ 「図説 地球科学の事典」p72 鳥海光弘編集代表 朝倉書店 2018年4月25日初版第1刷
  30. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p191-192 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  31. ^ 「基礎地球科学 第2版」p172 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  32. ^ 「基礎地球科学 第2版」p173 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  33. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p202 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  34. ^ 「基礎地球科学 第2版」p114 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  35. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p128-132 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  36. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p128 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  37. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p132 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  38. ^ 「基礎地球科学 第2版」p38 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  39. ^ a b 「図説 地球科学の事典」p110 鳥海光弘編集代表 朝倉書店 2018年4月25日初版第1刷
  40. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p73 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  41. ^ 「地質学の歴史」p284-287 ガブリエル・ゴオー著 菅谷暁訳 みすず書房 1997年6月6日発行
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  44. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p80-81 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
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  46. ^ 「基礎地球科学 第2版」p86-87 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  47. ^ 「基礎地球科学 第2版」p88 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  48. ^ 「太陽系探検ガイド エクストリームな50の場所」p18 デイヴィッド・ベイカー、トッド・ラトクリフ著 渡部潤一監訳 後藤真理子訳 朝倉書店 2012年10月10日初版第1刷
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  51. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p97-99 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  52. ^ https://www.bousai.go.jp/kyoiku/keigen/torikumi/ssh19013.html 「映画「日本沈没」と地球科学に関するQ&Aコーナー(減災への取組)」日本国内閣府・防災情報のページ 2020年6月10日閲覧
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  54. ^ http://www.eps.s.u-tokyo.ac.jp/epphys/solid/plate.html 「プレート・テクトニクス」東京大学地球惑星科学専攻 2020年6月10日閲覧
  55. ^ 「太陽系探検ガイド エクストリームな50の場所」p5 デイヴィッド・ベイカー、トッド・ラトクリフ著 渡部潤一監訳 後藤真理子訳 朝倉書店 2012年10月10日初版第1刷
  56. ^ 「Newton別冊 探査機が明らかにした太陽系のすべて」p42 ニュートンプレス 2006年11月15日発行
  57. ^ https://www.isas.jaxa.jp/j/column/inner_planet/12.shtml 「最終回:金星の溶岩が刻んだ6800kmの溝地形 / 内惑星探訪」宇宙科学研究所(ISASニュース 2004年9月 No.282掲載) 2020年6月10日閲覧
  58. ^ https://www.afpbb.com/articles/-/3025284 「木星の衛星エウロパでも地殻変動か、衛星画像に証拠 研究」AFPBB 2014年9月8日 2023年4月30日閲覧






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