プルトニウム 毒性

プルトニウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/03 06:13 UTC 版)

毒性

1945年以来、約10トンのプルトニウムが、核実験を通じて地球上に放出された。核実験による放射性降下物のため、既に世界中の人体中に1–2 pCi (0.037–0.074 Bq) のプルトニウムが含まれている[18]。また、核実験由来のプルトニウムが地表面の土壌に0.01–0.1 pCi/g (0.37–3.7 Bq/kg) 存在する[19]。このほか、原子力施設などの事故や、再処理工場からの排出[20]により、局地的な汚染が存在する。

プルトニウムの同位体は全て放射性である。このため、単体の金属プルトニウムならびにプルトニウム化合物は全て放射性物質である。化学毒性についてはウランに準ずると考えられている[21]。しかし、その化学毒性が現れるよりもはるかに少ない量で放射線障害が生じると予想されるため、化学毒性のみでプルトニウムの毒性を論ずることはできない[22][23]

プルトニウムの急性毒性による半数致死量は経口摂取で32 g、吸入摂取で13 mg[23][24]。長期的影響の観点では経口摂取で1150 mg、吸入摂取で0.26 mg(潜伏期間として15年以上)[25][26]である。また、プルトニウム239の年摂取限度(1 mSv/年)は、経口摂取で48 μg(11万 Bq)、呼吸器への吸入では52 ng (120 Bq) である[27]。プルトニウムは人類が初めて作り出した人工核種である[27]小出裕章は、α線源であるため放射線荷重係数が大きいこと、同じα線源である天然核種のウランなどと比べ半減期が短いため比放射能が高いこと、体内での代謝挙動(肺での不均等被曝は、発癌性が極端に高くなる)の3点から「かつて人類が遭遇した物質のうちでも最高の毒性をもつ」と報告している[27]。プルトニウムの有害性は、体内に取り込んだ場合の内部被曝には特に留意すべきである。

プルトニウムは人体に全く不要な元素である[28]ヒ素セレンのようにプルトニウムと同程度の毒性を持ちながら生物学的役割も持つ必須元素も存在するがプルトニウムはヒ素やセレンと異なり生物学的役割は何一つなく必須元素ではない[28]

体内摂取の経路と排出

プルトニウムを嚥下して消化管に入った場合、そのおよそ0.05 %程度が吸収され、残りは排泄される[8]。吸収された微量のプルトニウムは肝臓にほぼ半々の割合で蓄積され、体外へは排出されにくい。生物学的半減期(体内総量が当初の半分になるまでの期間)はウランやラジウムと比べても非常に長く、一説には骨に50年程度、肝臓に20年程度といわれる[29][30]。放射線有害性は全てのα線源核種と同じであり、Pu のみが特別というものではない。

最も有害な取り込み経路は、空気中に浮遊するプルトニウム化合物粒子の吸入である。気道から吸入された微粒子は、大部分が気道の粘液によって食道へ送り出されるが、残り(4分の1程度)が肺に沈着する。沈着した粒子は肺に留まるか、胸のリンパ節に取り込まれるか、あるいは血管を経由して骨と肝臓に沈着する[25][26]。そのため、他のα線・β線放射物質による内部被曝と同様に、国際がん研究機関(IARC)より発癌性があると (Type1) 勧告されている。また、動物実験では発癌性が認められているが、人においてはプルトニウムが原因で発癌したと科学的に判断された例はまだない[23]。α線源であるため、国際放射線防護委員会(ICRP)が定める線量係数[31][32]では 239Pu の経口摂取で2.5×107、吸入摂取で1.2×10−4 と定められ、131I(経口摂取2.2×10−8)や 137Cs(経口摂取1.3×10−8)よりも1 Bq当たりの人体への影響が大きいと想定されている(一般には、α線はβ線よりも20倍の危険性があるとされている)。

長期内部被曝の通説に疑義を呈する資料

ATOMICA によると、米国での1974年までのデータとして、最大許容身体負荷量 (1.5kBq) の10–50 %摂取した例が1155例、同50 %以上が158例ある。このうち代表的な2例(世界大戦における原爆製造工場、冷戦期の兵器工場火災でのPu含有ガス吸引)において、24年経過後で肺ガン「致死」は1名、42年経過後の「発症」では肺ガン3例と骨肉腫1例であった。これは被曝のない通常のグループよりも発生率が低い。ただ発症までの潜伏期が40–50年と長年であり、調査対象者も高齢化しており、疑わしい疾病を発症してもプルトニウムを病原と断定しにくいのも事実である[26][33][34]


出典

  1. ^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds Archived 2012-01-12 at the Wayback Machine., in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
  2. ^ BNL-NCS 51363, vol. II (1981), pages 835ff
  3. ^ Clark, David L.; Hobart, David E. (2000). "Reflections on the Legacy of a Legend: Glenn T. Seaborg, 1912–1999". Los Alamos Science 26: 56–61, on 57.
  4. ^ 高岡宏「スポーケンを包む自然背景―大地と水―」『Mukogawa literary review』第44号、武庫川女子大学英文学会、2008年、 25-40頁、 doi:10.14993/00001942ISSN 13409441NAID 120006940011
  5. ^ 西松裕一「資源・エネルギー問題試論」『Journal of MMIJ』第129巻第1号、資源・素材学会、2013年1月、 1-10頁、 doi:10.2473/journalofmmij.129.1ISSN 18816118NAID 10031141144
  6. ^ Q:プルトニウムが敷地内で検出されたようですが、大丈夫でしょうか? (PDF) 北海道大学工学研究院(2021年7月31日閲覧)
  7. ^ 「プルトニウム保有量46トンに 削減方針後、初めて増加」朝日新聞デジタル(2021年7月9日)2021年7月31日閲覧
  8. ^ a b アルゴンヌ国立研究所『Human Health Fact Sheet』2001年10月
  9. ^ The Chemistry of Actinide Elements Argonne National Laboratory
  10. ^ Söderlind, P. (2001-8). “Ambient pressure phase diagram of plutonium: A unified theory for α-Pu and δ-Pu” (英語). EPL (Europhysics Letters) 55 (4): 525. doi:10.1209/epl/i2001-00447-3. ISSN 0295-5075. http://iopscience.iop.org/article/10.1209/epl/i2001-00447-3/meta. 
  11. ^ Baker, Richard D.; Hecker, Siegfried S.; Harbur, Delbert R. (Winter–Spring 1983). “Plutonium: A Wartime Nightmare but a Metallurgist's Dream”. Los Alamos Science (Los Alamos National Laboratory): 148, 150–151. http://library.lanl.gov/cgi-bin/getfile?07-16.pdf. 
  12. ^ Moody, Kenton James; Hutcheon, Ian D.; Grant, Patrick M. (2005-02-28). Nuclear forensic analysis. CRC Press. p. 168. ISBN 978-0-8493-1513-8. https://books.google.co.jp/books?id=W3FnEOg8tS4C&pg=PA168&redir_esc=y&hl=ja 
  13. ^ Samuel, Glasstone; Leslie M., Redman (1972年6月). An Introduction to Nuclear Weapons. https://nige.files.wordpress.com/2009/10/glasstone-introduction-to-nuclear-weapons-72a.pdf 
  14. ^ 原子炉級プルトニウム”. ATOMICA. 2021年3月20日閲覧。
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  16. ^ 「使用済み核燃料から核兵器できる? 製造可能、米は実験成功」『日本経済新聞』2013年11月10日15面。実験成功は1962年、秘密解除は1977年7月。
  17. ^ 槌田敦「日本核武装によるアジア核戦争の恐怖」『核開発に反対する物理研究者の会通信』第42号(2006年12月)
  18. ^ a b National Academy of Sciences, Committee on International Security and Arms Control (1994). Management and Disposition of Excess Weapons Plutonium.
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  20. ^ 今中哲二「セラフィールド再処理工場からの放射能放出と白血病」原子力資料情報室通信』369号(2005年3月1日)
  21. ^ Lawrence Livermore National Laboratory (2006). Scientists resolve 60-year-old plutonium questions. Retrieved on 2006-06-06. http://www.sciencedaily.com/releases/2006/06/060607084030.htm
  22. ^ 長崎県原爆被爆者対策課発行『放射能Q&A
  23. ^ a b c プルトニウムの人体影響 : 高等学校 : あとみん-原子力・エネルギー教育支援情報提供サイト
  24. ^ 「相次ぐヨウ素やプルトニウム検出―我々の生活はどのぐらい危険か」ウォール・ストリート・ジャーナル日本版』
  25. ^ a b 松岡理 「プルトニウム物語」
  26. ^ a b c プルトニウムの毒性と取扱い 原子力百科事典 ATOMICA
  27. ^ a b c 京都大学原子炉実験所 小出裕章:プルトニウムという放射能とその被曝の特徴 (PDF) (2006年7月15日)
  28. ^ a b プルトニウム - 丸善出版公式サイト内のPDFファイル。
  29. ^ 原子力安全委員会資料『原子力安全白書』
  30. ^ 20 years for liver and 50 years for skeleton アイダホ大学
  31. ^ 実効線量係数
  32. ^ 内部被ばくに関する線量換算係数 (財)原子力安全研究協会
  33. ^ プルトニウムの被ばく事故 - 原子力百科事典ATOMICA
  34. ^ あとみん (3)発がん性
  35. ^ 最小臨界量”. ATOMICA (2007年2月). 2021年3月20日閲覧。
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  37. ^ Matlack, George: A Plutonium Primer: An Introduction to Plutonium Chemistry and It's Radioactivity (LA-UR-02-6594)
  38. ^ Eileen Welsome, The Plutonium Files: America's Secret Medical Experiments in the Cold War、邦訳『プルトニウムファイル』上・下(翔泳社

注釈

  1. ^ 物性物理学における超臨界とは意味が異なることに注意。原子力工学では核分裂連鎖反応が時間とともに増加することを意味する。





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