プラトン
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後世への影響
プラトンの西洋哲学に対する影響は弟子のアリストテレスと並んで絶大である[注 14]。
プラトンの影響の一例としては、ネオプラトニズムと呼ばれる古代ローマ末期、ルネサンス期の思想家たちを挙げることができる。「一者」からの万物の流出を説くネオプラトニズムの思想は、成立期のキリスト教やルネサンス期哲学、さらにロマン主義などに影響を与えた(ただし、グノーシス主義やアリストテレス哲学の影響が大きく、プラトン自身の思想とは様相が異なってしまっている)。
プラトンは『ティマイオス』の中の物語で、制作者「デミウルゴス」がイデア界に似せて現実界を造ったとした。この「デミウルゴス」の存在を「神」に置き換えることにより、1世紀のユダヤ人思想家アレクサンドリアのフィロンはユダヤ教とプラトンとを結びつけ、プラトンはギリシアのモーセであるといった。『ティマイオス』は西ヨーロッパ中世に唯一伝わったプラトンの著作であり、プラトンの思想はネオプラトニズムの思想を経由して中世のスコラ哲学に受け継がれる。
アトランティス伝説の由来は『ティマイオス』および『クリティアス』によっている。
カール・ポパーは、プラトンの『ポリティア』などに見られる設計主義的な社会改革理論が社会主義や国家主義の起源となったとして、プラトン思想に潜む全体主義を批判した[33]。
脚注
参考文献
- 西部邁「99 プラトン」『学問』講談社、2004年、321-323頁。ISBN 406212369X。
- ディオゲネス・ラエルティオス 『ギリシア哲学者列伝(上)』(加来彰俊訳、岩波文庫、初版1984年)。ISBN 400336631X
- ポパー、カール『開かれた社会とその敵』一巻、(内田詔夫、小河原誠訳2巻、未來社 1980年)。又者『自由社会の哲学とその論敵』一巻、(武田弘道訳、泉屋書店 1963年、世界思想社 1973年)。
関連項目
注釈
- ^ “ヨーロッパの哲学の伝統のもつ一般的性格を最も無難に説明するならば、プラトンに対する一連の脚註から構成されているもの、ということになる”[1](『過程と実在』)。ちなみに、ホワイトヘッドによるこのプラトン評は「あらゆる西洋哲学はプラトンのイデア論の変奏にすぎない」という文脈で誤って引用されることが多いが、実際には、「プラトンの対話篇にはイデア論を反駁する人物さえ登場していることに見られるように、プラトンの哲学的着想は哲学のあらゆるアイデアをそこに見出しうるほど豊かであった」という意味で評したのである。
- ^ 「肉体(ソーマ)は墓(セーマ)である」の教説はオルペウス教的と評される。ただし、E・R・ドッズは著作で、通説を再考しこれがオルペウス教の教義であった可能性は低いとみている(『ギリシァ人と非理性』みすず書房、p.182)。
- ^ プラトンの家系図については曽祖父クリスティアスの項を参照
- ^ この裁判を舞台設定としたのが『ソクラテスの弁明』である。
- ^ シュヴェーグラー『西洋哲学史』によれば、この地所はプラトンの父の遺産という。また、ディオゲネス・ラエルティオスによれば、プラトンが奴隷として売られた時にその身柄を買い戻したキュレネ人アンニケリスが、プラトンのためにアカデメイアの小園を買ったという。
- ^ ディオゲネス・ラエルティオスがアリスティッポスの説として述べるところによれば、ディオンはプラトンの恋人(稚児)であった。プラトンは、他にもアステールという若者、パイドロス、アレクシス、アガトンと恋仲にあった。また、コロポン生まれの芸娘アルケアナッサを囲ってもいた。『ギリシア哲学者列伝 (上)』岩波文庫、271-273頁。
- ^ 対話篇『国家』に示される。
- ^ 一般的には「貴族制」を指すが、ここではプラトンは語義通り「優秀者」による支配の意味で用いている。
- ^ 一般的にはソロンの改革に見られるような、財産によって階級・権限を分けた「財産政治/制限民主制」を意味する言葉だが、ここではプラトンはクレタやスパルタに見られるような「軍人優位の、勝利と名誉を愛し求める体制」の意味で用いている。『国家』547D-548C
- ^ ここではプラトンは、この言葉を「財産評価に基づく体制」「財産家・富裕層による支配体制」の意味で、すなわち一般的には先の「ティモクラティア」という言葉で言い表されている意味内容で用いているので紛らわしい。『国家』550D, 551A-B
- ^ 『国家』においては「優秀者支配制」の意味で用いられていたが、ここでは本来の意味である「貴族制」の意味で用いられている。
- ^ ジャック・デリダ『グラマトロジーについて』に代表されるように、『パイドロス』のこの箇所の記述を、「書き言葉批判」「音声中心主義」と考える者もいるが、上記『第七書簡』の記述からも分かるように、プラトンは「書き言葉」「話し言葉」を問わず、「言葉」全般を不完全なものとみなしてそこへの依存を批判しているのであり、『パイドロス』のこの箇所の記述を、「書き言葉批判」「音声中心主義」と解釈するのは明確な曲解・誤解である。
- ^ 「ステファヌス」(Stephanus)とは、フランス姓「エティエンヌ」(Étienne)のラテン語表現。
- ^ アリストテレスの思想の成立には、師プラトンが大きく関与したこと考えられている。ただし、その継承関係には議論があり、アリストテレスはプラトンの思想を積極的に乗り越え本質的に対立しているとするものと、プラトンの思想の本質的な部分を継承したとするものとに大きく分かれる。
出典
- ^ カール・ポパー「開かれた社会とその敵」(未來社)、佐々木毅「プラトンの呪縛」(講談社学術文庫)、「現代用語の基礎知識」(自由国民社、1981年)90p、「政治哲学序說」(南原繁、1973年)
- ^ a b c d ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシア哲学者列伝』第3巻「プラトン」4節。(加来彰俊訳、岩波文庫(上)、1984年、pp. 251-253)
- ^ a b c d 『第七書簡』
- ^ 『国家』436A、580C-583A、『ティマイオス』69C
- ^ 『ティマイオス』
- ^ 『法律』第10巻
- ^ a b 斎藤忍随『人類の知的遺産7 プラトン』講談社、1983年
- ^ a b Miller, Stephen G. (2012), “Plato the Wrestler”, Plato’s Academy: A Survey of the Evidence, Athens, Greece, 12-16 December 2012
- ^ 『形而上学』第1巻987a32
- ^ 『パイドロス』266B
- ^ 『プラトン全集13』岩波書店p814
- ^ a b 『国家』550B
- ^ 『国家』553C, 562B
- ^ 『国家』562B
- ^ 『パイドロス』277D-279B
- ^ 『国家』第10巻
- ^ 『ギリシア哲学者列伝』3巻56-62
- ^ G・E・L・オーエン著、篠崎栄訳「プラトン対話篇における『ティマイオス』の位置」、井上忠;山本巍 編訳『ギリシア哲学の最前線 1』東京大学出版会、1986年、ISBN 9784130100199。105頁(訳者解題)
- ^ 『プラトン全集1』岩波書店 p367, 419
- ^ 『メノン』岩波文庫pp161-163
- ^ 『饗宴』岩波文庫p8
- ^ 『プラトン全集1』岩波書店 p419
- ^ 『パイドン』岩波文庫p196
- ^ 『ゴルギアス』岩波文庫 p299
- ^ 『メノン』岩波文庫pp162-163
- ^ 『国家』(下)岩波文庫p433
- ^ 『パイドロス』岩波文庫p191
- ^ 『テアイテトス』岩波文庫p295
- ^ 『プラトン全集3』岩波書店 p396, 435
- ^ 『プラトン全集13』岩波書店pp822-828
- ^ 『プラトン全集13』岩波書店p829
- ^ 『プラトン全集4』岩波書店p409
- ^ 納富信留『プラトン 理想国の現在』(慶応義塾大学出版会、2012年)
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