ブラック・ジャック (OVA)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/12 14:43 UTC 版)
劇場版
ブラック・ジャック 劇場版 | |
---|---|
監督 | 出崎統 |
脚本 |
森絵都 出崎統 |
原作 | 手塚治虫 |
製作 |
奥山和由 松谷孝征 |
出演者 |
大塚明夫 水谷優子 |
音楽 | 川村栄二 |
主題歌 | 山根麻衣『Invisible Love』 |
撮影 | 高橋プロダクション |
編集 | 森田編集室 |
製作会社 |
手塚プロダクション 松竹 |
配給 | 松竹 |
公開 | 1996年11月30日 |
上映時間 | 93分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
『ブラック・ジャック 劇場版』は、松竹の配給で、全国松竹系劇場において1996年11月30日に公開された93分の劇場版アニメ。OVAシリーズの流れを汲む作品で、原作にはない劇場用オリジナルストーリーとして製作された。本作においても出崎統が監督を務めた。音楽はOVA版KARTE6より参加した川村栄二が担当、主題歌は山根麻衣『Invisible Love』。
概要(劇場版)
本作最大の特徴は、アメリカを舞台としており、欧米人が製作したような彫りの深いキャラクターデザインなどの描画、患者が血を吐くシーン・頭をぶつけるシーンなどに使われたサーモグラフィー切り替えによる演出などである。公開はアトランタオリンピックが開催された年であり、冒頭部にオリンピック競技で選手が超人的な動きをする場面が登場する。当時の最新の技術を極限まで用いた演出と、出崎監督特有の「ハーモニー」や「陰影」、「入射光」などもあり、人間の「生死」や「苦悩」をリアルに演出している。第51回(1996年)毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞した。
- 1996年の12月、秋田書店からフィルムコミックが発売されている。全2巻。
- 1999年末、よみうりテレビ・日本テレビ系列にて地上波TV放送された。
- 2001年12月にパイオニアLDCから「手塚治虫アニメワールド」シリーズの一タイトルとしてDVDソフト(セル/レンタル)化されている。セル版はメーカー在庫切れで入手困難の状況にある。
- 2007年頃から手塚プロダクションがアクトビラやインターネットテレビサイトの一部で「ブラックジャック(劇場版)」のタイトルで有料動画配信を開始している。
- 2008年12月31日(23時45分 - 25時30分)にTOKYO MXで地上波局としては異例の年を跨いでアニメ作品の放送がされた。
- 2005年末に手塚眞監督によって再び映画化された作品が東宝配給の『ブラック・ジャック ふたりの黒い医者』であるが、OVAの流れを汲まないテレビアニメ版の劇場版であるため接点は無い。なお、同作の予告に於いて「初の映画化」と謳っているご公式サイトの豆知識にメディア化作品が記載されているため否定しているわけではない。
- ピノコが遊んだジクソーパズルは、すべて手塚治虫の作品のキャラクターである。
あらすじ
世界中で超人類ブームが起こっていた。従来の人間では考えられない集中力でパフォーマンスを発揮する彼らは、アトランタオリンピックや芸術の分野で次々に驚異的な活躍を見せる。ところが、実は彼らはある共通の病気に冒されていた。
超人類と呼ばれる人達の入院管理をしているブレーン製薬のジョー・キャロル・ブレーンから、彼らの体に巣喰う病原菌の原因究明と手術を依頼されたブラック・ジャックは、その病原菌が脳下垂体の中に入り込んで、大量のエンドルフィンを分泌させていることを発見する。しかし、そもそも病原菌を彼らに移植して人体実験を行っていたのがジョーの仕業であることを、戦う医師団“M・S・J"のメンバーによって知らされたブラック・ジャックは、その非人道的なジョーのやり方に腹を立て、研究を降りようとした。ところが、ジョーはピノコを人質に取った上に、ブラック・ジャックの体内にその病原菌を植えつけてしまった。
研究を続行しなければ、ピノコと自らの命も危険に晒されてしまうことになる。ブラック・ジャックはジョーがその菌を発見したという砂漠に赴いて、それがフルジウムという花の花粉であることを突き止める。一方、ジョーは行き過ぎた研究を非難されて、ブレーン製薬の会長の刺客によって射殺された。ブラック・ジャックも体に入り込んだ病原菌に次第に蝕まれていく。だが、彼は長い間砂漠に住んでいる砂漠の民によって命を救われた。彼らは、その花粉の抗体の存在を知っていたのである。
抗体を手に入れたブラック・ジャックは、瀕死の状態の超人類達を救うと、ピノコとふたりで再び闇の医療の世界へと戻っていった。
登場人物(劇場版)
メインキャラクター
オリジナルキャラクター
- ジョー・キャロル・ブレーン
- 声 - 涼風真世
- 本作のキーパーソン。セント・ジョエル研究センターの主任ドクターにして、ブレーン会長の養女。モイラシンドロームの原因究明を依頼すべくBJに連絡を取り続けていたが、BJが応じなかったため、ピノコを人質にとる形で強制的に協力を取り付けた。
- 優秀な頭脳を持ち合わせた精子と卵子を合わせ、人工授精によって産まれ「7101」とナンバリングされた。自らがブレーンの養女として認められ生き残るために、刑務所のような環境での厳しい教育を完璧にこなし、生と死とを分ける試験にも、同じ野望を抱く友人達から勝ち続けていった。しかし、次第に去ってゆく友人達の末路を目の当たりにし、自らの生活に恐怖を覚え心を氷のように固く閉ざしていった。それが、後に悲劇をもたらすジョー・キャロル・ブレーン誕生の瞬間だった。
- セント・ジョエル研究センターがMSJの管理下となった後もニューヨークに潜伏していたが、BJと密会した際、自らエンドルフ・アーの原液を混入させたワインを飲み、BJにもそのワインを飲ませた。その後はピノコとともにセビア砂漠のエンドルフ・アー製造工場に潜伏していたが、発病。BJによる治療を受けるがブレーン製薬の刺客に銃撃される。最期は自分の過去をBJに語り「ずっと…寒かった…」と言い残して息絶える。
- ブレーン会長
- 声 - 青森伸
- 巨大製薬会社「ブレーン製薬」の会長。モイラシンドロームが明るみに出た後も関わりを否定し、手段を選ばない証拠隠滅でキャロルをも亡き者にしようとする。
- フェンディ
- 声 - 定岡小百合
- キャロルの侍女的存在。ずっと預かったピノコの相手をしていた。会長の命でキャロルを殺そうとするが、返り討ちに遭う。
- リサ・シーゲル
- 声 - 近藤玲子
- 絵画に特異な才能を発揮した少女。2年前心臓房室弁の手術をBJに受けて完全に回復したかに見えたが、再発のため「先生は超人類だもの、きっと私を治してくれる」と言い残して死んでしまう。彼女の遺体を解剖した結果、内臓が90歳の老人のように使い古されていた。原因は、ジョーの指示によって、彼女にエンドルフ・アー被験者の血液を投与したことだった。
- エレン・シュライア
- 声 - 折笠愛
- ポーランドの田舎町出身の少女。12歳まで駆けっこの経験すらなかったにもかかわらず、13歳で突然ジュニア新記録を出し15歳でオリンピックに出場、100mを9秒61で駆け抜け金メダリストとなる。しかし2年後にはモイラシンドロームを患い、セントジョエル研究センターに収容されていた。BJが研究センターに泊まった夜に突然病状が悪化して発狂。その人間離れした走力で病室の壁めがけて疾走し、頭を強く打ち付けて死亡する。
- ニコラス・ドリス
- 声 - 若本規夫
- アメリカ出身の陸上選手。オリンピック棒高跳びで7mという世界新記録を打ち出すが、彼もまたモイラシンドロームに体を蝕まれ、研究センターへと収容される。幾度となく手術を受けるものの容態は一向に良くならず、次第に絶望と怒りを募らせていった。BJの治療により症状は改善されたが、治療前にあった異常なまでの力を失ったことで発狂し、天井めがけてジャンプ。ベッドに開頭手術直後の頭を強く打ち付けて死亡する。
- エリック・カデリィ
- 声 - 星野充昭
- セントジョエル研究センターの脳外科医だが、実はMSJのメンバー。キャロルの人体実験ビデオを入手し、ブラックジャックに渡す。父がセビア砂漠の遊牧民で、ブラックジャックをエンドルフ・アーの工場へ案内する。
- ベティ・マッコール
- 声 - 井上喜久子
- セントジョエル研究センターの研究員だが彼女もエリックと同じくMSJのメンバー。麻酔科医。
- トムス・ジョンストン
- 声 - 秋元羊介
- MSJ突入部隊を率いていた北米地区リーダー。精神分析医として、バンクーバーで開業している。
- チビデブ、ノッポ
- 声 - 安西正弘(チビデブ)、清川元夢(ノッポ)
- リサ・シーゲルの絵を買い付けに来た画商。
- マイケル・ジーン
- レースドライバー。最初のモイラシンドローム感染者。
- ロジャー・シーゲル
- 声 - 坂東尚樹
- リサ・シーゲルの父。
用語
- MSJ
- “Medical Soldiers for Justice”の略。別名「戦う医師団」と呼ばれている、国家的権力、組織的暴力によって蹂躙された医療患者の救済、人権保護、それらの患者に対する公正な治療の続行を目的に組織された医療ボランティアグループ。具体的には組織の運営権を相手側から剥奪した上で占拠し、責任者から所員全てを「MSJ」の管理下におく。「MSJ」に協力する職員から順次解放してゆくが、協力しない者に対しては更に厳重な管理が行われる。これは、外部組織からの圧力の介入を避けるため。これらの手順により、相手組織は「MSJ」の手によって運営され、患者達を救うことが可能となる。ただし、きわめて悪質な組織に対しては軍用の小火器(MP5、M16A1など)や爆発物等を使用して暴力的に組織を制圧する面もあり、今回のセント・ジョエル研究センター占拠がその一例と言える。
- なお、BJの助手を務めたエリックとベティも「MSJ」のメンバーである。
- モイラシンドローム
- 超人類などが発症した奇病。その名はギリシア神話における運命の女神モイラに由来し、別名「多臓器不全症候群」と呼ばれている。実際にはジョーの開発した新薬「エンドルフ・アー」によるものだった。
- 初期症状は、吐血・脱水症状・体温上昇であり、その後下痢・拒食症・心臓破裂・心不全などを併発する。
- その経路は、ラリードライバーのマイケル・ジーンが事故でセビア砂漠をさまよった後、急速に実力を上げてF1レーサーに転身したことに起因する。マイケルと専属契約を結んだジョーは、彼の能力がその地方の砂に含まれる微生物によるエンドルフィンの異常分泌によるものと突き止め、極秘裏にモニタリングを行っていた。しかし、モニター以外にも「超人類」が出現したこととモイラシンドロームの発生という予期せぬ事態が起こり、彼らの隔離につながった。
- 微生物の正体は、セビア砂漠に生息する植物、フルジウムの花粉に生息する未知のウイルスである。このウイルスの抗体がフルジウムの茎に存在しており、セビア砂漠の民はフルジウムの茎から抽出したエキスを摂取することで、モイラシンドロームの罹患を防いでいた。
スタッフ(劇場版)
- 原作・オリジナルキャラクター - 手塚治虫
- 制作 - 奥山和由、松谷孝征
- 企画 - 清水義裕、古徳稔、石田康男
- 監督 - 出崎統
- 脚本 - 森絵都、出崎統
- 脚本協力 - 手塚プロダクション文芸部
- キャラクターデザイン・作画監督 - 杉野昭夫
- 美術監督 - 河野次郎
- 演出 - 吉村文宏
- 撮影監督 - 高橋宏固、野口肇
- 編集 - 森田清次
- 音楽 - 川村栄二
- 音響監督 - 左近允洋
- 主題歌 - 山根麻衣『Invisible Love』(作詞:岡田冨美子、作曲:鈴木キサブロー、編曲:川村栄二)
- 音楽ディレクター - 鈴木清司
- ミュージックプロデューサー - 熊田和生(コロムビアエデュテインメント)
- 音響効果 - 糸川幸良
- 音響制作 - グロービジョン
- 医学監修 - 永井明
- プロデューサー - 宇田川純男、久保田稔、秋葉千晴
- アニメーション制作 - 手塚プロダクション
- 製作 - 手塚プロダクション、松竹
- 制作協力 - 秋田書店、コロムビアエデュテインメント
- ^ “ニコニコ生放送でブラック・ジャックのアフレコ生放送決定!”. 2011年5月15日閲覧。
- ^ DVD「SPECIAL EDITION」版同梱ブックレット参照
- ^ 本作品予告映像より(公式サイトより参照可)
- ^ “ブラック・ジャック 〜Blu-ray BOX〜”. 2014年9月5日閲覧。
- ^ FINAL SPECIAL EDITIONの映像特典の追悼インタビューより
- ^ 虫ん坊 2011年6月号 特集1:出崎統さん追悼 『ブラック・ジャック』カルテ11・12スタッフが出崎統を語る:TezukaOsamu.net(JP)
- ブラック・ジャック (OVA)のページへのリンク