ファーウェイ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/04 16:32 UTC 版)
ファーウェイをめぐる各国の動き
アメリカ合衆国との関係
2000年代から、アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュやアメリカ合衆国議会から、ファーウェイが国際連合から経済制裁を受けているイラクのサダム・フセイン政権[66][67]や、アフガニスタンのタリバーン政権[68][69]に「通信機器を支援している」として、安全保障上の懸念が出されていた。
2016年にはイラン、シリア、北朝鮮など反米国家への輸出規制に違反したとして、アメリカ合衆国連邦政府から召喚が行われた[70]。イランでは反体制派の監視[71]や政府の検閲にも利用されるなど、同国市場で独占的な地位を築いていた[72]。
2018年には、任正非の娘で副会長兼CFOの孟晩舟が、米国によるイランに対する制裁をくぐり抜けるため米金融機関に虚偽の説明をしたとして、アメリカ合衆国司法省からの要請を受けたカナダの司法当局により、バンクーバーで詐欺容疑により逮捕された[73][74]。また、2019年には、北朝鮮でKoryolinkの通信網と監視システムを構築していたとの報道を受けて、連邦政府は調査を指示し[75][76]、2020年に司法省はファーウェイが北朝鮮との取引を隠蔽したとして追起訴した[77]。
2012年10月、アメリカ合衆国下院の諜報委員会(The House Intelligence Committee)は、ファーウェイと同業のZTEの製品について、中国人民解放軍や中国共産党公安部門と癒着し、スパイ行為やサイバー攻撃のためのインフラの構築を行っている疑いが強いとする調査結果を発表し、両社の製品を連邦政府の調達品から排除し、民間企業でも取引の自粛を求める勧告を出した[78]。
また2018年1月8日に、ネバダ州ラスベガスで開催されるCESで正式に発表されるはずだった、米キャリアのAT&Tとのパートナ契約が白紙撤回された。白紙撤回の理由は公表されていないが、安全保障上のリスクを懸念する連邦政府からの圧力という仮説が有力[79]。2018年4月にアメリカ合衆国国防総省は、ZTEとファーウェイが製造した携帯電話やモデム[80]製品について、アメリカ軍の人員、情報、任務に対して許容不可能なセキュリティー上の危険をもたらすとして、米軍基地での販売を禁じ[81]、軍人には基地の外でも中国製品の使用に注意するよう求めた[82]。
アメリカ合衆国の軍事同盟国でも類似の動きがあり、2014年に、韓国政府は米国政府からの要求を受け、政府の通信に関してファーウェイの機器が使われていないネットワークを通すことに同意し[83]、台湾(中華民国)でもフォックスコン・グループ傘下の国碁電子が4Gシステムの建設計画書を国家通訊伝播委員会(NCC)に提出した際に、ファーウェイ製の基地局を採用しようとしていたため、立法委員より国家安全保障上の懸念を受けたNCCは、審査過程を6月まで延ばし、基地局はノキア製の設備へ変更された[84]。
しかし、ホワイトハウスが独自に行った調査では、ファーウェイによるスパイ行為などを裏付けられる証拠は発見されていない[85]。
2018年8月14日、2019年度国防権限法によってZTE(中興通訊)や監視カメラ世界最大手のハイクビジョンなどとともに、アメリカ合衆国の政府調達から排除された[86]。これには、対象データへの侵入やデータ移転に関係する機器・サービスとして、上記3社と通信・監視機器の海能達通信(Hytera Communications Corporation)やダーファ・テクノロジー(浙江大華技術)(Dahua Technology Company)の計5社の製品などが含まれる。また、中国政府が支配・所有している企業、又は関係していると米国政府が判断した企業なども同様の措置とされている。
2019年5月15日、アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプは、アメリカ企業が安全保障上の脅威がある外国企業から通信機器を調達することを禁止する大統領令に署名。同日、アメリカ合衆国商務省産業安全保障局は、ファーウェイを同局が作成するエンティティ・リスト(禁輸措置対象リスト, EL)に掲載し、アメリカ製ハイテク部品やソフトウェアの供給を事実上禁止する措置を発表した[87]。2019年10月現在、ファーウェイ及び関連企業100社以上がこの禁輸リストに掲載されている[88]。
2019年5月19日、Androidを供給してきたGoogleが、ファーウェイとの商取引を一部停止したことが報道されると、続いてルメンタム、インテル、クアルコム、ザイリンクス、ブロードコムも、部品供給などの商取引を停止したことが報道された[89]。ソフトのアップデートが即時不能になるなどの混乱が予想されることとなったが、同年5月21日、アメリカ合衆国連邦政府は2019年8月19日まで製品の調達を認める猶予措置を発表した[90]。
2019年6月、ファーウェイへの取引規制は国家安全保障上のリスクになる可能性を、Googleがアメリカ合衆国連邦政府に警告したことや、Intelなどが輸出規制を回避して部品を供給していることが報道され[91][92][93]、G20大阪サミットでの習近平国家主席(党総書記)との米中首脳会談後の会見で、トランプ大統領はファーウェイへのアメリカ製品の供給を認める意向を述べるも[94]、後の米中貿易戦争の激化で、この発言を撤回した[95]。
2020年5月15日、米国は、米国の技術を使って半導体を輸出するメーカーに対し、輸出規制強化を発表した[96]。同月18日、台湾積体電路製造TSMCは、ファーウェイからの新規受注を止めたことが報じられた[97]。既に受注済みの分は9月中旬までは通常通り出荷できるが、それ以外は輸出に際し米の許可が必要になるという[97]。
2020年7月23日、アメリカ合衆国国務長官のマイク・ポンペオは対中政策について演説にて、「ファーウェイの背後には中国共産党がいて、無垢な通信機器の企業として扱えなく、安全保障への脅威として対応をとっている」と主張した[98]。
人民解放軍との関係性
2019年7月、アメリカの情報サービス会社ブルームバーグは、ファーウェイの複数の従業員が、中国人民解放軍当局者と協力して研究プロジェクトに取り組んできており、中国人民解放軍に対して軍事・安全保障への応用研究で協力し、密接な関係を築いているとの調査結果を発表した。
記事の中では、ファーウェイ従業員が無線通信や人工知能など、少なくとも10の分野の研究プロジェクトにて中国人民解放軍組織のメンバーとチームを組み、中国共産党中央軍事委員会の調査部門との共同研究や中国人民解放軍の高級教育機関である国防科技大学との衛星画像と地理座標を収集・分析する手法に関する研究を行ってきたとの説明がなされた。
これに対し、ファーウェイ広報担当のグレン・シュロスは「ファーウェイは個人の資格で、研究論文を発表する従業員には関知しない」「ファーウェイは人民解放軍傘下の機関と共同で研究開発を行ったり、提携関係を持ったりはしていない。当社は世界の民生基準に適う通信機器の開発・製造にしか携わっておらず、軍隊のためにR&D製品をカスタマイズすることはない」と反論している[99][100]。
6月18日、米IT大手Googleで最高経営責任者(CEO)を務めたエリック・シュミット氏は、英BBCラジオに、中国の華為技術(ファーウェイ)の通信機器を通じた中国当局側への情報流出は「間違いない」と述べ、安全保障上の懸念を示した。
2022年1月、イギリスのキャメロン政権でビジネス・エネルギー・産業戦略相を務めたヴィンス・ケーブル氏は、在任中に情報機関からファーウェイ製品の使用による安全保障上のリスクはないとの報告を何度も受けていたと述べ、イギリスのファーウェイ排除はアメリカからの圧力によるものだと述べた[101]。
AI・5Gにおける技術競争
これらアメリカ合衆国の動きには、国家安全保障上の理由だけでなく[102][103][104]、中国大手2社を市場から締め出し[82]、人工知能(AI)や通信分野の次世代技術第5世代移動通信システム(5G)の実用化で、ライバルとなる中華人民共和国を封じ込めようとする思惑が指摘されている[105]。
中華人民共和国とアメリカ(および北ヨーロッパ)の企業は、AIや5Gを巡って激しい開発競争を繰り広げており[102]、AIの監視技術では、2019年で50カ国に売り込んでいるファーウェイが先行し[106]、中国企業に次ぐ日本企業の日本電気は14カ国であり、アメリカのトップ企業IBM(2000年代から同じICTベンダーとして、ファーウェイと協力関係にもある[107])は11カ国である[108]。
5Gでは、ファーウェイとZTEは北欧のエリクソンやノキアと並び[104]、2010年代では主流の第4世代移動通信システム(4G)でアメリカ企業の技術が世界を席巻していたが、5Gでは関連特許を世界で最も保有するファーウェイなどの中国企業が、5Gの主導権を握るとの見方も出たことが、アメリカに危機感を与えていた[105][109][110]。
日本との関係
2018年6月にファーウェイが樺太と日本固有の領土北方四島を結ぶ高速通信網を敷設した際は日本政府はこれに抗議して、内閣官房長官菅義偉は「ロシアと中国に外交ルートを通じて抗議した。中国に抗議したのは、工事に中国企業が参加しているためだ」と述べた[111]。2019年2月にこれは完成した[112]。
2018年12月、日本国政府は名指しこそしないものの、ファーウェイとZTEを事実上排除する指針を決定したと報じられた[113][114]。同時期、フジニュースネットワークが「政府がファーウェイの製品を分解したところ、ハードウェアに余計なものが見つかった」「余計なものはスパイウェアに似たような挙動をする」という与党関係者の発言を報じた[115]。一連の報道に対してファーウェイ・ジャパンは「事実無根」と反論した[116][117]。一方で、テカナリエの清水洋治は、分解した結果「余計なもの」は見つからなかったとした上で、余計なものが見つかったとするならば「余計なもの」を具体的に示すべきだと主張した[118]。
欧州の動向
欧州連合(EU)の欧州委員会は、第5世代移動通信システム(5G)を巡るファーウェイ製品の採用判断は、EU加盟各国に委ねる方針を2019年3月に発表しており[119]、2020年1月には5Gのネットワークからファーウェイを排除しないとする勧告を行ったが[120]、ヨーロッパ諸国においても規制の動きが見られている。
ドイツでは、連邦電子情報保安局が独自の調査でファーウェイに対するアメリカの主張に懐疑的な結果を得たと2018年12月に述べ[121]、2019年10月にドイツ政府はファーウェイを5G通信網から排除しない新規則を発表したが[122]、翌2020年10月にファーウェイ制限の検討に入ったと現地報道されている[123]。
フランスでは、ファーウェイとの通信インフラの構築を歓迎すると2018年12月に表明し[124]、エマニュエル・マクロン大統領はファーウェイを排除しないことを2019年5月に述べ[125]、フランス政府は5Gからも排除しないことを明言したが[126]、翌2020年7月に一転してファーウェイ製品を規制する方針を表明した[127]。
モナコは、ヨーロッパで初めてファーウェイの5G通信網を全土で2019年7月に開設した[128]。
イギリスでは、政府通信本部の国家サイバーセキュリティーセンターが、5G設備の調達先の多様性を確保すれば、安全保障上のリスクは抑えられると2019年2月に判断し[129]、2020年1月にファーウェイの5G製品を条件付きで認めることを発表した[130]。また、2019年5月にはこの方針を漏洩したとして国防大臣の解任が起きており[131]、最大手のBTグループはファーウェイ製品を一部採用した5Gサービスを開始した[132]。しかし2020年7月、イギリス政府は部分容認という従来の方針を翻し、ファーウェイの機器を2027年までに排除すると決めたと報じられた。当初の報道では同年5月のアメリカ政府の追加制裁によってファーウェイの半導体調達が困難になり、製品の安全性や信頼性を損ねる恐れがあることや香港国家安全維持法をめぐる英中関係の緊張が影響していると報じられたが[133][134]、2022年1月、キャメロン内閣で産業大臣を務めていたヴィンス・ケーブルがファーウェイ排除について「アメリカ人がそうすべきと言ったからだ」と述べ、ファーウェイ排除がイギリスの意思ではなくアメリカからの圧力であったことを示唆した[135]。また、同時に「イギリスが5Gを使い続けていれば私達は最先端の技術を用いる国の1つになっていたが、今はそうではない」と発言したほか、イギリスからファーウェイにスパイを送り込んでいたことを示唆した[135][136]。
カナダでは、2012年10月に当時の政府の通信ネットワークからファーウェイを安全上の理由から除外したが[137]、サイバーセキュリティセンターの責任者が「5Gに関してはファーウェイを排除する理由はない」と発言している[138]。一方で、大手電気通信事業者ベル・カナダはサプライヤーにエリクソンを採用し、ファーウェイ製品を除外している[139]。
エドワード・スノーデンの事件をめぐって、UKUSA協定締結国と対立しているロシアは、2019年6月に初の5G通信網の開発でファーウェイと合意し[140][141]、ウラジーミル・プーチン大統領は、ファーウェイ問題でのアメリカの動きを「デジタル世代で初のテクノロジー戦争」と批判した[142]。
他の主要国の動向
UKUSA協定締結国のオーストラリア政府が、ソロモン諸島やパプアニューギニアを結ぶ海底ケーブルの設置プロジェクトや[143]や第5世代移動通信システム設備から、ファーウェイを締め出すことを発表した[144]。
ASEAN諸国では、アメリカの同盟国フィリピンは、2019年6月にファーウェイ製品で東南アジア初の5Gネットワークを開設し[145]、ファーウェイの監視システムを導入する予算案を議会が阻止した際は、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が拒否権を発動した[146]。
マレーシアのマハティール・ビン・モハマド首相は、安全保障上の懸念を一蹴して、アメリカより先端的なファーウェイの製品を可能な限り使うことを2019年5月に宣言した[147][148]。
中華人民共和国と対立してきたベトナムは、東南アジアで初めて5G通信網構築からファーウェイを排除する方針を、2019年8月に打ち出した[149]。
アフリカ連合(AU)は、本部の通信設備に採用されたファーウェイ製品のスパイ疑惑が報道されていたが(アフリカ連合委員会は否定している[150][151])、アフリカ大陸の旧世代(2G・3G・4G)の通信網の大部分[152]を構築しているファーウェイと、5Gでも提携する合意を2019年6月に交わした[153]。
南米では、アメリカが同盟国に位置付けて5G通信網からのファーウェイ製品の排除を呼びかけていたブラジルは、殆どの4G通信網をファーウェイが構築していた関係にあり[154]、排除しないことを2019年6月に表明した[155]。
中東では、アメリカにとって中東最大の同盟国であるサウジアラビアは、2019年2月に初の5G通信網の構築でファーウェイと提携し[156]、5G通信網からファーウェイを排除しないことを2019年6月に明言した[157]。アラブ首長国連邦も、5G通信網でファーウェイ製品を採用することを、2019年2月に発表した[158]。
ファーウェイ排除
2020年7月現在、主に欧米の複数国がファーウェイを5Gから排除する可能性が伝えられている[159]。
- 排除しないことを決定した国
- 排除を決定した国
- 排除方針が伝えられた国
- 米国が「参入を禁止した」とする国
- 検討中
- 未定
注釈
出典
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