パーソナルコンピュータ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/28 09:43 UTC 版)
歴史
1970年代 8ビット時代 パーソナルコンピュータの出現
1974年(昭和49年)に登場したマイクロプロセッサにより、個人でも所有可能な小型で低価格なコンピュータが実現可能になった。
当初のワンボードマイコンのキットは、技術者向けの評価キットおよびトレーニングキットで、入出力にはテレタイプ端末等に代表される、従来のコンピュータに用いられた巨大で扱いに手こずる入出力端末を接続する必要があった。また、その接続作業においても専門的知識を必要とし、一般的なものではなかった。(一方、電子回路に詳しいアマチュアが部品を集めて自作し、個人で使用するコンピュータもあった。また、いわゆるミニコンピュータを個人で所有する者もいた)。[6]
最初のパーソナルコンピュータとされることが多いAltair 8800が1974年(昭和49年)の末に生まれる。完成させると「箱にランプとスイッチ」というミニコンスタイルのコンピュータができあがるキットはそれ以前からあったにはあったが、Altairが初の安価なヒット製品であった。それ以降2-3年ほどの間で、Apple IのようにCRTディスプレイやキーボードを接続するよう設計されているものなど、入出力が工夫された多数のマイコンキットが現れた。


1977年(昭和52年)、コモドール、アップル、タンディ・ラジオシャックの各社から相次いで、本体がプラスチックケースにきれいに収められBASICインタプリタを内蔵し、オールインワンの完成品で出荷される、今日のパーソナルコンピュータの原型と言える型のコンピュータが登場する。これらはCRTディスプレイ、キーボード、そして外部記憶装置やプリンタのインタフェースを一通り備えており、ディスプレイに接続して電源プラグをコンセントに差し込みさえすれば動作するものであった。中でもApple IIは表計算ソフト VisiCalcがキラーアプリケーションとなり大成功した。Apple IIは標準でカラー画像出力や音声出力に対応しており、パソコンゲームのプラットフォームとしても人気を博した。
日本でも1970年代後半に、外国製や日本製のワンボードマイコンのキットが販売された。たいていは16進キーボードと8桁の7セグメント表示を備えており、組み立てるには最低限、簡単なハンダ付け工作の技術は必要であったものの、完全に完成させれば、単体で簡単なプログラミングが楽しめるものであった。特に1976年(昭和51年)に発売されたTK-80は、その中でも有名であり、この頃になってくると電子工作の知見も広がっていたので、購入者が独自の回路を組み込んだりして様々な機能を実現したり、自作のケースに組み込んだりすることも流行った。
日本でもアメリカに続いて、上記に掲げた形態の完成品が販売されるようになった。初期の製品のいくつかは、マイコンと称されるかパソコンと称されるか曖昧であり、まず1978年(昭和53年)に発売されたベーシックマスターMB-6880が現在のパソコンとされる形状およびシステム構成をとる姿で発売された。よく1979年(昭和54年)のPC-8001(PC-8000シリーズ)が日本初のパソコンとされるが、実際は後でメーカー側の呼称により定義されたもので、(詳細は8ビットパソコン、パソコン御三家、ホビーパソコン等を参照)それより以前に発売されたHITAC10もメーカー側より「パーソナルコンピュータ」として発売されたが、実際はパーソナルコンピュータ(個人用途のコンピュータ)ではなく業務用コンピュータである。
1980年代 16ビット時代 オフィスへの普及

1981年(昭和56年)に16ビットのIBM PCが登場して世界的にベストセラーとなり、IBM PCで採用されたインテルのx86系のCPUとマイクロソフトのMS-DOSが主流(事実上の標準)となった。更にコンパックなどによりIBM PC互換機市場が形成され、「パーソナルコンピュータ」の名称が一般化した。表計算ソフトはLotus 1-2-3、ワープロソフトはWordPerfect(日本では一太郎)が普及した。
1984年(昭和59年)に登場したMacintoshはグラフィカルユーザインタフェースの概念を大きく普及させることに成功し、後のコンピュータに絶大な影響をもたらした。1985年(昭和60年)にはMacintosh向けにMicrosoft Excelが登場し、そのインタフェースは後のWindowsアプリケーションの原型となった。
しかし日本では「日本語表示の壁」もあり各社独自の日本語仕様が続き、異なったメーカー間ではアプリケーションソフトウェアの互換性はほとんど無かった。16ビット市場では1982年(昭和57年)のNECのPC-9800シリーズがトップシェアを続け他には富士通のFMシリーズやFM TOWNS、セイコーエプソンのPC-9800互換機、個人向けに絞ったシャープのX68000、PC/AT互換機ベースのAX協議会のAX、日本語表示用に高解像度を標準採用した日本IBMのマルチステーション5550などが競った。一方、IBM互換機の独自拡張であるDynaBookは場所を決めずにいつでもどこでも利用できるノートパソコンを大きく広めるものとなった[7][8]。また、より手軽に入手・使用できる廉価機として8ビットのMSX規格がホビーパソコンとして一定の普及をとげた。
1990年代 32ビット時代 パソコンのネット端末化

1990年代にはダウンサイジングの潮流もあり企業や個人へのパーソナルコンピュータの普及が進み、企業用のローエンドのサーバーもPCサーバーが広く普及した。1990年代初頭まではAmigaやコモドール64、アルキメデスなどのホビーパソコンもなお一定のシェアを保っていたものの1990年代中盤以降の世界ではIBM PC互換機とMacintoshがパソコン市場の大多数を占めるようになった。
1991年(平成3年)にはWindows3.0、1995年にはWindows 95が発売され従来の「16ビット、DOS」から徐々に「32ビット、Windows」への移行が進み一部の高機能指向のユーザには従来のUNIXワークステーションに匹敵する機能を持つOS/2やWindows NT、さらに高機能なOPENSTEPが使われパーソナルコンピュータでのPC-UNIXの利用も行われはじめた。
日本でも1990年(平成2年)のDOS/Vの登場、Windowsの普及とともに世界と同じPC/AT互換機への移行が進んだ[9]。またアプリケーションソフトウェアの発達とパソコン本体の低価格化もあり、ワープロ専用機ユーザもワープロソフトに移行していった。この過程でMicrosoft OfficeがLotus 1-2-3などを駆逐してオフィススイートのデファクトスタンダードとなった。[10]
1990年代末以降インターネットが急激に台頭し、パーソナルコンピュータのウェブ端末としての利用が一般化した[11]。1998年(平成10年)には「インターネットのための新世代のパーソナルコンピュータ」と銘打ったiMacが登場し社会現象となった。
1990年代にはWindowsやマルチメディアアプリケーションの普及による「スピード飢餓」を背景にマイクロプロセッサの高性能化が急激に進んだ。アウトオブオーダ実行、スーパースカラなど従来スーパーコンピュータに使われていたような新技術が次々に投入され、1990年(平成2年)頃は16-20MHz程度だったパソコン用CPUのクロックは2000年(平成12年)には1GHzに達した。
2000年代 32~64ビット時代 デジタルライフスタイルの中心に

2000年代にはノートパソコンが市場の主流になった。無線LANやBluetoothによる無線接続も一般化し、パソコンの利用形態が多様化した。
2001年(平成13年)にはMacintoshのOSがOPENSTEPの技術を中心に作られたMac OS Xとなった。また同年にはWindows NTをベースとしたWindows XPが発売され、Windows NTとWindows 9x系の製品ラインの統合が行われた。
2003年(平成15年)には初の64ビットパソコンであるPower Mac G5(PowerPC 970を搭載)が発売され、続いてx86の64ビット拡張版であるAMD64 (x86-64) が登場した。OSはWindowsが依然主流だが、オープンソースのGNU/Linuxシステムなども一部で普及している。
2007年(平成19年)からは最低限の性能・機能で3~5万円程度でも購入できるコンパクトなノートパソコンが普及し、後にネットブックと呼ばれるジャンルを形成した。
2010年代 タブレット端末への移行

CPUや液晶バックライトなどの低消費電力化を背景にノートパソコンの薄型化が進行し、光学ドライブを搭載しない機種が主流となった。ハードディスクドライブからソリッドステートドライブへの移行が進んだ。一方で、パソコンの低価格化は円安やパーツ価格の高騰の影響で下げ止まった。
2010年、アップルがiPad(iOS搭載)を発売した。以降、パソコンも個人用途ではタブレット端末に代替される傾向となり、2012年には日本国内のパソコン出荷数の減少が始まる。2013年にはWindows XPのサポート終了に伴う駆け込み需要で販売台数が増加したが、2014年からはそれがなくなり、パソコンの販売台数が急減[12]。2014年度にはパソコンの国内出荷が1000万台を割り込んだ[13]。
2015年には世界トップメーカーのヒューレット・パッカードがパーソナルコンピュータ分野を分離し、HP Inc.が発足した。また、この年の最終出荷台数は中国のレノボが世界首位となり、初めてアメリカのメーカーから中国のメーカーに首位が移ることとなった。
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注釈
- ^ 日本独自の略語である。(著書『インターネットの秘密』より)
- ^ ただし「PC」という略称は、特にPC/AT互換機を指す場合もある。「Mac対PC」のような用法。
- ^ iGPU (Intel) やAPU (AMD) 以前の世代ではGPUを含む。以後の世代ではそれらのチップが内蔵しているGPUのための周辺回路などが「オンボードグラフィック機能」である。
- ^ シャープにとってはMebius以来の再参入となった[15]。
- ^ 2017年ブランド復活
- ^ 高木産業(現パーパス)。かつて「PURPOSE」ブランドでパソコンを販売していたが、2003年(平成15年)頃に撤退)PURPOSEパソコンの廃棄について)
- ^ 旧コンパック製品については、合併したヒューレット・パッカードで回収を行っている。2001年(平成13年)に一度日本から撤退したゲートウェイ製品については、再進出後の現日本法人で回収を行っている。
出典
- ^ 小項目事典, ブリタニカ国際大百科事典. “パーソナル・コンピュータとは” (日本語). コトバンク. 2021年1月10日閲覧。
- ^ “パソコンの特徴”. 文教大学. 2020年8月26日閲覧。
- ^ “デジタルだからできること”. 新電力ネット. 2020年8月26日閲覧。
- ^ “どんどん賢くなる、最新デジタルサイネージでできること”. IoTNEWS. 2020年8月26日閲覧。
- ^ “パソコン普及の起爆剤に 1995年の革命「ウィンドウズ95」の思い出”. URBAN LIFE METRO. 2020年8月26日閲覧。
- ^ 『マイ・コンピュータ入門 - コンピュータはあなたにもつくれる』 pp.78-118、 「第三章 マイ・コンピュータのつくり方」
- ^ 小林紀興「東芝の奇襲で日本電気が受けた深傷」、光文社、1990年、128頁。
- ^ 『日本経済新聞』 1990年7月31日朝刊、23面。
- ^ 塩田紳二「国産銘機列伝 : History 「そして、世界標準がやって来た」」『ASCII』第22巻第8号、アスキー、1998年、 378-379頁、 ISSN 03865428。
- ^ 「パソコン業界のあの事件を追え!:オフィスとパーソナルコンピュータ」『ASCII』第30巻第8号、アスキー、2006年、 74-75頁。
- ^ “インターネットの歴史概要<通信の歴史<歴史<木暮仁”. 木暮仁. 2016年11月8日閲覧。
- ^ 佐藤岳大 (2016年5月17日). “2015年度国内PC出荷台数、前年比21.4%減で1,000万台を割る結果に”. PC Watch 2017年10月30日閲覧。
- ^ “スマホに押され…PC国内出荷が1千万台割れ”. 読売新聞. (2015年4月23日). オリジナルの2015年5月5日時点におけるアーカイブ。
- ^ Digitalの14TB HDDが発売、データセンター向けの「Ultrastar DC HC530」 - AKIBA PC Hotline!
- ^ シャープ、パソコン事業再参入へ 東芝から買収する方針:朝日新聞デジタル
- ^ a b PC事業の譲渡に関する正式契約の締結について - ソニー ニュースリリース
- ^ “How AMD is resurrecting itself as a formidable rival to Intel - PCWorld”. IDG Consumer (2016年4月22日). 2016年11月13日閲覧。
- ^ “AMD reveals roadmap for ARM and x86 SoCs”. Rick Lehrbaum (2013年9月9日). 2016年11月13日閲覧。
- ^ Hassan Mujtaba (2015年11月17日). “GPU Market Share Results For Q3 2015 - AMD and NVIDIA See Increased AIB GPU Shipments as PC Gaming Market Grows”. WCCF PTE LTD.. 2016年11月13日閲覧。
- ^ “Samsung’s Market Share Is Expected to Increase in Fiscal 2016”. Market Realist (2015年12月9日). 2016年11月13日閲覧。
- ^ Gartner Says Worldwide PC Shipments Grew 2.3% in 4Q19 and 0.6% for the Year
- ^ 2019年のPC国内出荷は前年比45.7%増の活況 IDC調べ
- ^ a b c d 中国「リサイクル産業の都」が払う電子ごみ処理の代償 AFP 2014年10月29日
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