パレイドリア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/07 03:34 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動
一般的な例として、雲の形から動物、顔、何らかの物体を思い浮かべたり、月の模様から人や兎の姿が見えてきたり、録音した音楽を逆再生したり速く/遅く再生して隠されたメッセージが聞こえてきたり、というものがある。意識が明瞭な場合でも体験され、対象が実際は顔でなく雲だという認識は保たれる[1]。
パレイドリアは、ランダムデータの中に何らかのパターンを認識するアポフェニアの、視覚的・聴覚的な事例である。アポフェニアおよびヒエロファニーと共に、パレイドリアはかつての社会で、世界の混沌を秩序づけ世界を理解可能なものにする役割を果たしたのかもしれない[2][3]。
語源
この単語は、ギリシア語の「パラ」(παρά、何かしら間違っているという文脈での「〜と共に」「〜ではなく」)と、名詞の「エイドーロン」(εἴδωλον、「映像」「形態」を意味するエイドスの複合語)に由来する。
解釈
パレイドリアによって人は、無秩序な映像や光と影のパターンの中に顔を思い浮かべることができる[4]。脳磁図を使った2009年の研究によると、顔と認識されるような物体は紡錘状顔領域で短潜時 (165ms) の賦活を引き起こし、これは顔そのものが惹起するそれと時間的・位置的に近いものである。一方、他の一般的な物体の提示ではこうした賦活は見られない。この賦活は、実際の顔を見た時に起こる、より若干早い130msでの賦活に似ている。顔のような物体が引き起こす顔の認知は比較的低次のプロセスであり、高次の認知的再解釈現象にはあたらないと論文の著者らは論じている[5]。fMRI を使った2011年の研究も同様に、実物ではないがそれらしい姿をした新規の視覚刺激を繰り返し提示すると、実物を提示した時の fMRI 応答が減弱することを示した。これらの結果は、その不明瞭な刺激の解釈が、既知の物体が誘発する同種のプロセスに依存していることを示している[6]。
これらの研究は、2・3個の円と一本の線を、なぜ我々は素早く、ためらいなく「顔」と認めるかを説明する助けになる。認知プロセスを惹起する「顔のような」物体は、それを見る者に対して、その顔がどういう感情を示しているか、またその顔が誰なのかという注意を喚起する。それは意識がその情報の処理を始める前(場合によっては受け取る前)に起こることである。この「線で描いた顔」は、その単純さにもかかわらず、心的状態(この場合なら失望、ちょっとした不機嫌)を表現している。殆どの人が敵対的、攻撃的と解釈するような顔の線画を描くのは簡単である。この堅牢だが鋭敏な能力は、例えば脅威となる他者の心的状態をいち早く察知し、そこから逃げたり逆に先制攻撃を加える人が生き残れるような、非常に長期間にわたる自然選択の結果によって、もたらされたとの仮説がある。言い換えれば、この情報処理が、複雑な処理を行なう脳の部位に達する前に皮質下(すなわち潜在意識化)で行なわれることで、俊敏さが最も求められる状況での判断と意思決定が促進される[7]。この能力は、ヒトの感情の処理と認識に極めて特化しているが、野生生物の態度を判断する際にも使われている[8]。
擬態岩
岩石は、形状、風化、浸食の無作為な作用によって、何らかの物体に見えるようになることがある。多くの場合、岩壁の輪郭が人の顔に見えるように、モチーフとなるものより岩は大きい。化石に興味を持った初心者が、骨、頭蓋骨、亀の甲羅、恐竜の卵などと似た大きさ、形状のチャート岩の岩塊、コンクリーション、小石を化石と勘違いしてしまうこともある。
1970年代末から80年代初めにかけて、日本人の研究者・岡村長之助は、『岡村化石研究所オリジナル・レポート』という有名な論文を自費出版したが、それはシルル紀(4億2500万年前)の石灰岩を磨いたところ浮かび上がった小さな含有物が、小さな人間、ゴリラ、犬、龍、恐竜、その他の生物の化石だと主張するもので、それらは全て数ミリの大きさしかなく、それによって彼は「シルル紀から人間の体に変化は無い、ただ大きさが3.5mmから1700mmに伸びたのだ」と主張した[9][10]。岡村の研究は1996年に、ノーベル賞のパロディであるイグノーベル賞の生物多様性部門を受賞した[11]。イグノーベル賞受賞者の一覧も参照のこと[12]。
- ^ a b 『世界大百科事典』加藤周一(編)、平凡社、第2版。2015年10月23日閲覧。
- ^ “The worship to the mountains: a study of the creation myths of the chinese culture” (2010年). 2015年10月25日閲覧。
- ^ “Search for meanings: from pleistocene art to the worship of the mountains in early China. Methodological tools for Mimesis” (2010年). 2015年10月25日閲覧。
- ^ Sagan, Carl (1995). The Demon-Haunted World – Science as a Candle in the Dark. New York: Random House. ISBN 0-394-53512-X
- ^ Hadjikhani, Nouchine; Kveraga, Kestutis; Naik, Paulami; Ahlfors, Seppo P. (2009). “Early (M170) activation of face-specific cortex by face-like objects”. NeuroReport 20 (4): 403–7. doi:10.1097/WNR.0b013e328325a8e1. PMC 2713437. PMID 19218867 .
- ^ Voss, J. L.; Federmeier, K. D.; Paller, K. A. (2012). “The Potato Chip Really Does Look Like Elvis! Neural Hallmarks of Conceptual Processing Associated with Finding Novel Shapes Subjectively Meaningful”. Cerebral Cortex 22 (10): 2354–64. doi:10.1093/cercor/bhr315. PMC 3432238. PMID 22079921 .
- ^ Svoboda, Elizabeth (2007年2月13日). “Facial Recognition – Brain – Faces, Faces Everywhere”. The New York Times (The New York Times) 2010年7月3日閲覧。
- ^ “Dog Tips – Emotions in Canines and Humans”. Partnership for Animal Welfare. 2010年7月3日閲覧。
- ^ Spamer, E.. “Chonosuke Okamura, Visionary”. Philadelphia: Academy of Natural Sciences. 2015年10月25日閲覧。 archived at Improbable Research.
- ^ Berenbaum, May (2009). The earwig's tail: a modern bestiary of multi-legged legends. Harvard University Press. pp. 72–73. ISBN 0-674-03540-2
- ^ Abrahams, Marc (2004年3月16日). “Tiny tall tales: Marc Abrahams uncovers the minute, but astonishing, evidence of our fossilised past”. The Guardian (London)
- ^ Conner, Susan; Kitchen, Linda (2002). Science's most wanted: the top 10 book of outrageous innovators, deadly disasters, and shocking discoveries. Most Wanted. Brassey's. p. 93. ISBN 1-57488-481-6
- ^ a b c d Zusne, Leonard; Jones, Warren H (1989). Anomalistic Psychology: A Study of Magical Thinking. Lawrence Erlbaum Associates. pp. 77–79. ISBN 0-8058-0508-7 2007年4月6日閲覧。
- ^ Da Vinci, Leonardo (1923年). “Note-Books Arranged And Rendered Into English”. Empire State Book Co. 2015年10月25日閲覧。
- ^ “In New Jersey, a Knot in a Tree Trunk Draws the Faithful and the Skeptical”, The New York Times, (2012-07-23).
- ^ Ibrahim, Yahaya (2011年1月2日). “In Maiduguri, a tree with engraved name of God turns spot to a Mecca of sorts”. Sunday Trust (Media Trust Limited, Abuja). オリジナルの2012年11月4日時点におけるアーカイブ。 2012年3月21日閲覧。
- ^ Ng, Hui Hui (2007年9月13日). “Monkey See, Monkey Do?”. The New Paper: pp. 12–13. オリジナルの2007年10月14日時点におけるアーカイブ。
- ^ “'Virgin Mary' toast fetches $28,000”. BBC News. (2004年11月23日) 2006年10月27日閲覧。
- ^ Vokey, John R.; Read, J. Don (1985). “Subliminal messages: Between the devil and the media”. American Psychologist 40 (11): 1231–9. doi:10.1037/0003-066X.40.11.1231. PMID 4083611.
- ^ Fontenelle, Leonardo F. (2008). “Pareidolias in obsessive-compulsive disorder: Neglected symptoms that may respond to serotonin reuptake inhibitors”. Neurocase 14 (5): 414–8. doi:10.1080/13554790802422138. PMID 18850462.
- 1 パレイドリアとは
- 2 パレイドリアの概要
- 3 投影テスト
- 4 関連する現象
- 5 関連項目
- パレイドリアのページへのリンク