ハーケンクロイツ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/01 19:50 UTC 版)
鉤十字
鉤十字(かぎじゅうじ、英語: swastika、スヴァスティカ、スワスティカ)またはまんじの図案は、古代よりヒンドゥー教や仏教、また西洋でも幸運の印として使用されており、キリスト教では十字の図案の1種でもあり、日本では家紋や寺を示す地図記号などで「卍」(左まんじ)が多く使われている。また逆向きの図案(卐[1])は逆鉤十字、逆まんじ、右まんじとも呼ばれている。
しかし20世紀以降にドイツで民族主義運動のシンボルとされ、1920年にナチスが党のシンボルに、1935年にはドイツ国旗に採用した影響により、ナチズムやネオナチのシンボルとも見なされる事が多い。
ドイツ
ナチスによる採用
ナチスがこのシンボルを採用した経緯は、ドイツの考古学者、ハインリヒ・シュリーマンがトロイの遺跡の中で卐を発見し、卐を古代のインド・ヨーロッパ語族に共通の宗教的シンボルと見なしたためである[2][3]。これに基づき、アーリアン学説のいうアーリア人の象徴として採用したものである。
しかし、元々はエアハルト旅団(コンスルの前身)などドイツの民族主義運動のシンボルとして、また詩的結社グループのゲオルゲ派においても使用されていた。アドルフ・ヒトラーは著書『我が闘争』の中で、支持者からの多くの提案で党旗の最終デザインを選ぶと述べた。ハーケンクロイツは歯科医フリードリヒ・クローンによって提案され、アーリア人優越論のシンボルとされた。一部オカルティストの間では、ルーン文字 S(ᛋ) を重ねて作られたとする説が唱えられている。
ナチ党は赤地の上の白円の中に黒のハーケンクロイツが入ったデザインを使用した。黒、白、赤は帝政時代の国旗に使用されていた色である。ヒトラーは、赤は社会的理念、白は国家主義的理念、ハーケンクロイツはアーリア人種の勝利のために戦う使命を表しているとした。またナチ党は円や背景のないハーケンクロイツも使用した。ナチの鉤十字には2種類が生じた。右回りのものと、その鏡像である。ナチ党は2種類を象徴的に区別しなかったが、右回りのものが一般的に使用された。鉤十字は通常45°回転して描かれた。
ナチスが党のシンボルにハーケンクロイツを採用したことによって、卐は幸運のシンボルからナチスの象徴とみなされるようになった。
ドイツ国旗としての使用
ヒトラー内閣が成立した後の1933年3月5日に総選挙が行われ、ナチ党が勝利した。この後、プロイセンの内相であったヘルマン・ゲーリングは、支配下の公共建造物にハーケンクロイツ旗を掲げさせた。さらに、地方政府の実権をナチス党関係者が掌握する度に、その地方の公共物にハーケンクロイツ旗が掲げられた。こうしてハーケンクロイツを事実上の国旗とする既成事実が作られた。
1933年3月12日の大統領布告で国旗の改正が決まり、黒・白・赤のドイツ帝国旗を暫定的な国旗とし、ハーケンクロイツ旗を国旗に準ずるものと定めた。1935年にはハーケンクロイツ旗が正式なドイツ国国旗となった。第二次世界大戦が勃発すると、連合国側の国々は卐の使用を禁じるようになった(後述)。1945年にドイツは降伏し、ナチ党は解体され消滅した。ハーケンクロイツ旗は国旗として使用されることはなくなった。
第二次世界大戦後
第二次世界大戦後のドイツでは、学問的な理由を除き、ハーケンクロイツなどのナチスのシンボルを公共の場で展示・使用することは、民衆扇動罪で処罰される。ただし私有地や個人での所持、思想への禁止はしていない。一例として、古物商などが当時のバッジや制服類を店舗に陳列する場合、ハーケンクロイツの部分をステッカー等で隠す必要がある。ドイツを含めて各国のネオナチの一部は、現在でも使用している。
EUにおいても、ドイツなどのようにハーケンクロイツを鎌と槌とともに公の場で使用することも禁止しようと提案がなされたことがあった(詳細は「ヴィータウタス・ランズベルギス#EUでの共産主義標章の禁止提案」を参照)。しかし、西欧各国に存在する共産党やロシアの反発が強かったほか、ハーケンクロイツおよび鎌と槌の禁止提案自体が盛り上がらず、結局いずれも実現しなかった。ドイツが主導する卐禁止をEU全体に拡大する動きに対し、ヒンドゥー教団体は「卐は伝統的に平和の象徴として使われてきた」としてこの拡大案を非難している。
2007年3月17日、ドイツの連邦議会議員クラウディア・ロート(Claudia Roth)は公的な場で反ネオナチ的にハーケンクロイツを扱い、ドイツ連邦裁判所に容認されたため、以後そのような形での鉤十字の使用が容認されることになった(禁止マークなどの打ち消し表現を重ねる、ごみ箱に突っ込まれているイラストなど)。
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国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党、NSDAP)の党章
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国家社会主義ドイツ労働者党 (ナチ党、NSDAP)の党旗
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ナチス・ドイツ (1935–1945)の国旗。ナチ党の旗と異なりハーケンクロイツが中心から外れている。
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ドイツ国防軍の軍旗
史実の描写に対する影響
ハーケンクロイツが使えないことが、当時のドイツを描写する際に「史実を忠実に再現する」支障となる場合がある。ドイツ軍兵器のプラモデルを例にとると、ハーケンクロイツがボックスアートでは省略されたり、田の字状になっている他、デカールの形状が2つに分けられ、接着しないとハーケンクロイツの形に見えないようにしているなどの対策がされていることが多い。これは鉄道模型(メルクリンなど)でも同様である。その他、ウォー・シミュレーションゲームなどではハーケンクロイツそのものを削除してしまう(『Silent Hunter』シリーズなど)他に「2つに分割」「十字に置き換え(『第三帝国興亡記』)」「×印に置き換え」「鉄十字に置き換え」「オリジナルのシンボルに置き換える(近年の『Wolfenstein』シリーズ)」など規制をかわしている例も見られるが、日本で製作されたソフトの中にはハーケンクロイツがそのまま入っている作品も存在する。
- ^ この文字はまんじ「卍」の異体字として作字されたもので、ハーケンクロイツとして作字されたものではないが、便宜的に使用している。『大漢和辞典』(諸橋轍次, 大修館書店)を参照。
- ^ Schliemann, Heinrich (1875), Troy and its remains, London: Murray, pp. 102, 119-120
- ^ Boxer, Sarah (2000), “One of the world's great symbols strives for a comeback”, The New York Times, 2000-07-29
- ^ “History - From Swastika to Thunderbird”. www.45thdivisionmuseum.com. 2018年8月15日閲覧。
- ^ “History - From Swastika to Thunderbird”. www.45thdivisionmuseum.com. 2018年8月15日閲覧。
- ^ Allen, Claudia (2020年7月1日). “Finland's air force quietly drops swastika symbol” (英語). BBC News 2020年7月2日閲覧。
- ^ Flag Archived 20 July 2011 at Archive.is The President of the Republic Of Finland
- ^ スーパーサイヤ人はナチス? フランス人が日本を好きなわけ - Excite Bit コネタ(1/2)
- ^ “「かぎ十字」柄の布で顔覆った男女、ウォルマートが入店禁止に”. CNN (2020年7月28日). 2020年7月20日閲覧。
- ^ TIMES編集部, ABEMA. ““卍”がナチス想起? 『東リベ』コスプレがドイツで物議も…「日本側が訂正する必要はない」「誰が何のために使っているかが重要」 | 国際”. ABEMA TIMES. 2022年8月18日閲覧。
- ^ “知的財産権、商標について”. 一般社団法人 SHORINJI KEMPO UNITY|少林寺拳法公式サイト|SHORINJI KEMPO OFFICIAL SITE. 2022年8月18日閲覧。
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