ハツタケ 食材として

ハツタケ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/17 00:34 UTC 版)

食材として

日本では古くから知られた食用キノコの一つである[55]中国雲南省および湖南省)でも、食用菌として市場に出されている[8][21][56]。なお、中国の市場では红汁乳菇の名で呼ばれ、抗腫瘍活性を有すると信じられている[57]

韓国あるいはロシアでも、商業的規模で消費されているかどうかは不明であるが、少なくとも食用菌として利用されているのは確かであろうという[8]

調理

梅雨明けのころにも多少出回るが、残暑の候から初秋が旬である(江戸時代には旧暦4月から7月ごろの季節物として扱われていた[58])。

肉質がもろくて傷つきやすく、傷ついた部分は青緑色に変色する性質がある。変色したとしても食用には差し支えなく、味や香りにも影響はないが、見栄えを悪くするため、取扱いは慎重にする必要がある[59]。ひだにはしばしば砂粒が入り込んでいるため、一個ずつかさを上方に向け、柄を菜箸で挟み、別のでかさの上面を軽く叩いて砂粒を落としてから調理する[60][61]

初茸飯
江戸時代の料理書である料理網目調味抄(嘯夕軒宋堅著:享保15年=1730年)に、すでに芳飯(混ぜご飯・炊き込みご飯)の一例としてその名が見える[62]。「醬油とを加へて飯をたき、別にハツタケを味付けおき飯と混ぜるなり。叉初より米と共に煮るも差支へなし。」と紹介された例[63]もある。
焼き物
宮沢賢治の童話狼森と笊森、盗森(大正13年=1924年)では、「だん/\近くへ行って見ると居なくなった子供らは四人共、その火に向いて焼いたや初茸などをたべてゐました。」という描写がなされている[64]。もっとも素朴で、ハツタケの香味を生かした調理法である[61]村越三千男は、味噌焼き(「よく洗ひ竹串にさし、あぶりて山椒味噌をつけ竹串をとりかへ皿に盛るなり。」)・醤油焼き(「ハツタケを白水に暫時つけおき、水に洗ひて竹串にさし、醬油に浸けて焼くなり。」)および塩焼き(「ハツタケを水にて洗ひ更に鹽水の中に浸し、暫時すぎて強火に網をかけ其の上にハツタケをのせ程よく焼くなり。」)の三種の調理法を挙げている[63]。焦がさぬようにあぶったハツタケを、ユズ醤油とともに供する場合もある[61]
吸い物
宮内省大膳職を務めた石井治兵衛の手になる日本料理法大全には、文政二年(1819年)の秋、知恩院門跡江戸を来訪したおりに供された接待料理の一品として、「ハツタケ・エノキタケの吸い物」が挙げられている[65]。また、「右の如く鹽水にて洗ひ後笊にあげ別につゆを造り其の中へ豆腐などと一緒に入るるなり。」と紹介された例[63]もある。汁の中でひと煮立ちさせてから、余分な水気を切った大根おろしを加える別法があり、これを特に霙椀(みぞれわん)と称する[61]
煮物
歯触りを残すため、ひたひたの湯を加えてさっと火を通す程度で仕上げ、ハツタケ本来の風味を生かして薄い塩味のみで供する[66]。また、白身魚とともにみりんだし汁で煮つける別法があり、これを「すっぽん煮」と呼ぶ[61]。あるいは、きれいに下ごしらえしたハツタケのかさの裏面に、すり身にして卵白片栗粉とを加えた鶏肉を伸ばし、軽く蒸したものをさっと仕上げ煮する方法があり、これを特に「笠の雪」の名で呼ぶ。蒸しあげてから多めの汁で煮て、煮物と吸い物の中間のような仕上げとされることもある[61]
漬物
やや長期にわたる保存を目標とする方法としては「松葉漬」と称されるものがある。まず、新鮮なハツタケにひたひたの分量の水を加え、さらにハツタケの重量の20パーセント程度の食塩を加えてさっと茹で上げておく。別に、よく水洗いしたマツの青葉を用意し、甕または壺の底にこれを敷き詰め、その上に茹でたハツタケを一並べにする。容器の上端まで、松葉とハツタケとを交互に入れ、容器の蓋をしっかり閉じ、紙で目張りをして密封し、冷暗所に蓄える。調理に際しては、流水に浸して塩分を抜く必要がある[67]
また、「辛子漬」とされることもあり、漬け床としては71パーセントと醤油16パーセントおよび和がらし13パーセントを混合して用いる。あらかじめ少量の食塩で2-3日ほど下漬け(ごく軽い重石を載せる)したハツタケを漬け込み、からしの香りを保つため容器の蓋を紙で目張りして保存し、2か月程度を経たころから供する[67]。これはそのまま食べることができる。

栽培・培養

食用として利用された歴史があるにもかかわらず、日本では、人工栽培の手法についての研究例が少なく、マツタケなどの増殖法にならい、マツの若齢林の下草刈りや落ち葉・落ち枝の除去を行う程度の段階に留まっている[68][69][70][71]。中国では、ウンナンアカマツの林地にハツタケの培養菌株を接種して増殖試験を行い、ヘクタール当り675kgの子実体を収穫した例がある[72]

菌糸体の人工培養に際し、分離源としては子実体のかさ肉や柄の内部組織は不向きで、ひだの断片を用いるべきであるとされている[73]。また、アカマツの生葉の煎汁培地上での生育は不良[73]で、菌糸体の大量培養にはショ糖34g ・廃糖蜜13ml ・小麦ふすま 36g ・コーンミール20g ・リン酸二水素カリウム3g(蒸留水1000 ml 当り)を用いた液体培地がよく、この培地1リットル当り約18gの培養菌体が得られるという[74]。なお、培地のpHについては5.0前後が最適であるとの報告[70]がある。菌株の系統いかんによっては、無菌栽培したアカマツの苗の根に純粋培養したハツタケを接種することにより、感染苗を作出することが可能であり、場合によっては子実体原基(ごく幼く、かさや柄・ひだなどが未分化な状態にあるつぼみ)が形成されることもある。ただし、原基の形成条件の詳細については不明な点が大きく、確実にこれを誘導する技術は未完成である。さらに、原基が形成された場合であっても、現時点では、それらが完全な子実体として生育をまっとうするまでに至った例はなく、実用化にはさらに検討を行う必要がある[75]

歴史

特に関東地方で親しまれ、守貞漫稿(食類-後巻之一)には「初茸売り。山のきこり八百屋がハツタケを売る。京阪にはハツタケは無い。江戸だけで売られる。」とあり、当時の関西ではあまり人気がなかったのに対し、マツタケがほとんど産出しない江戸近辺では、食用としてよく利用されたようである。千葉県では特に珍重されたといい[76]、旧佐倉堀田藩鹿渡村(現在の千葉県四街道市鹿渡)においては、嘉永3(1850)年庚戌年(かのえいぬ)九月十日(旧暦)付の回状として「初茸 七十ケ 右ハ御用ニテ不足無ク 来ル十三日 四ツ時迄ニ 上納致ス可シ 尤モ軸切下致シ 相納メル可ク候 此廻状 早々順達致ス可ク候 以上」の文面が発行された記録がある[77]

ほかにも、佐倉近辺の名産品として、カキクリゼンマイワラビジュンサイタケノコブクリョウショウロなどとともに、ハツタケが挙げられた例[78][79][80]があり、さらに、今を去る百六十年前の天保十四年、龍腹寺村(現在の千葉県印西市の一部)在の要蔵という人物の日記に 「九月廿日 村方分例年ノ通リ初茸献上致シ候」との記事がある。この記述は、近隣の淀藩大森役所の役人にハツタケを届けた記録であるとみられ、淀(現代の京都付近)や江戸から赴任した舌の肥えた役人(およびその家族)に、龍腹寺村の村民が毎年ハツタケを献上していたのがうかがえる[81]

なお、現代の千葉県下において「ハツタケ」の名称で市販されているものの中には、近縁種のアカモミタケなども含まれているとされている[82][83]

食文化の面からではなく、多少とも博物学的な観点からハツタケについて記述した文献も散見される。たとえば、神門郡組下村々産物帳出寄帳(1735年=享保20年)では、菌類11種のうちの一つとして初茸の名称が挙げられている[84]。また重修本草綱目啓蒙小野蘭山著、享和3年=1803年:重修としての復刊は弘化4年=1847年)には、「称青頭菌云雲南通志中・而称青紫云呉蕈譜・・・在叢中松樹元・黄赤微含禁色・転藍候触以テ手指・蓋上含ム青斑於尾州産・土名称阿生葉地(雲南通志に云うところの青頭菌であり、あるいは呉蕈譜に云う青紫である…(中略)…松の樹下の草中に発生する。黄赤色で、やや紫色を帯び、手で触れると藍色に変色する。尾州産のものは傘に青斑があり、方言は”あをはち”という)」と記述されているが、「あをはち」という方言名が尾州特有のものであるのか否かは不明である。また、本朝食鑑には、「松の樹の日陰の所に生える。庭園でも松が多い所なら、ハツタケの石突を細かく砕いてから米の研ぎ汁に漬け、これを蒔くと、何年かを経て必ず生えてくる。形状はマツタケに似るがより小さく、つぼみの時点からかさが張っている。かさの裏面には細い刻み(=ひだ)がある。かさの上面・下面と柄とは赤黄色で、また木の葉をかぶって生えるので、これを見出すのは大変に難しい。四・五月の雨の後に生えるが、秋の時に比べると多くはなく、八・九月の雨の後に生えるものが最も多い。味は甘くて香気があり、その甘さはマツタケよりまさっているが、香りは(マツタケに)及ばない」と解説されている[85]

いっぽうで巻懐食鏡(香月牛山著:寛政2年=1790年)においては、「秋が来ると、山野の松の樹の下に生える。味は甘美で毒は無く、食べられる。傘の裏が緑青色に見える物がよい。味が軽い(?)ので、病人が食べてもよい。シメジナメススキ・ハツタケの三種は、きのこの中の佳品なり。」と説明されている。 倭訓栞(巻之参:谷川士清著:明治32年=1899年)には、「ハツタケ、紫蕈ともいう。ハツは早いことをいう。備州ではアイタケ、尾州ではアオハチ、江州ではアオスリまたはアイスリ、賀州ではマツミミ、中国九州ではマツナバという。」との記述がある。日本初の方言研究書である物類称呼(越谷吾山著:安永4年=1775年)にも同様の記事があり、すでに江戸時代には、食用菌として全国的に知られていたもののようである。

さらに、続江戸砂子(菊岡光行著:享保20年=1735年)には、「江府(=江戸)名産並近在近国」として「小金初茸・下総国葛飾郡小金之辺、所々出而発:在江府隔六里内外:在相州藤沢戸塚辺産、早産比下総:相州之産存微砂而食味下品。下総之産解砂而有風味佳品(小金初茸、下総国葛飾郡小金の辺、所々より出る。江戸より六里程。相州藤沢戸塚辺より出る初茸は、下総より早い。しかし相州産のものは微砂をふくみ、歯にさわってよくない。下総産のものは砂がなく、風味ももっとも佳い)。」との記事[86]がみえる。おそらくは、相模湾岸に広がるクロマツ林に産するハツタケと、内陸のアカマツ林に生えるハツタケとを比較したものではないかと思われる。


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