ハイブリッド
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/30 09:39 UTC 版)
概説
Oxford Dictionariesの説明でまず挙げられているのは「種や品種が異なる植物や動物から生まれた子孫。例えばラバのようなものである。そして2番目に挙げられている意味が「ふたつの要素を組み合わせて作られたひとつのもの」とある。広辞苑でも同様の説明で、1番目に「雑種」、2番目に「異種のものを組み合わせたもの」としている。
そもそものhybridの語源はラテン語の「hybrida ヒュブリダ」(=豚とイノシシから生まれた子孫)である。Oxford Dictionariesによると、17世紀初頭から英語のhybridが使われるようになり、例えば「自由人と奴隷の間に生まれた子」を呼ぶような場合に使われはじめたらしい。「hybrid」という言葉、概念は、もともとは生命のあるものに関する言葉、概念であったのだが、それが(比喩的に)製作物等にも転用されるようになったわけである。
現在の日本語ではhybridを音写した「ハイブリッド」で十分に通用しているが、あえて和語や漢字(漢語)表現にする場合は「かけあわせ」、「交配」、「雑種」、「混血」、「まぜあわせ」、「混成」などといった言葉になる。
工学、技術の分野で、2種の要素を組み合わせた製品がさかんに作られている。
言語におけるハイブリッドには、異種の言葉の組み合わせ、というものがある。
様々な分野でハイブリッドがあるので詳細は下の節に譲る。
生物
前述の通り、イノブタを意味するヒュブリダを語源とするが、転じて広義の交雑種(Hybrid)または雑種を指し、生物学、生理学的な種内雑種から種間雑種まで広い範囲が含まれる。
種内雑種は稔性があり、ハイブリッドの語源となったイノブタ、アイガモのような家畜、家禽などがある。エンドウの種内雑種に関するグレゴール・ヨハン・メンデルの論文はVersuche über Pflanzen-Hybriden(普通、『雑種植物の研究』と訳される)である。
種間雑種としては、自然界でも交雑が見られるモウセンゴケ、近代科学の発達前から行われて来たウマとロバの交配によるラバ、環境変化により自然に生じたハイブリッドイグアナ、実験的な交配によるレオポン、細胞融合と組織培養等のバイオテクノロジーによって作出されたポマト、オレタチ等がある。個体の形成まで至らないが、細胞融合によって作出されたハイブリッドの細胞まで指す事がある。詳細は各項目参照。
- カニド・ハイブリッド - 狼犬などのイヌ科の動物の、種もしくは亜種を超えた交配により生まれた交雑種の総称である。
- ハイブリッドイグアナ - ガラパゴス諸島のオスのウミイグアナとメスのリクイグアナの間で生まれ、両方のDNAを持つ雑種のイグアナ。地球温暖化の気候変動で海藻の枯渇が一部起こり、オスのウミイグアナが陸に上がり、メスのリクイグアナと交雑した結果、誕生した新たな雑種。生物は気候変動に新たな生息地を求めるが、ここでは移動ができない。移動ができなければ絶滅もあるが、ハイブリッドイグアナは新たな進化と考えられている[3]。
- ハイブリッドライス - 雑種強勢(ヘテロシス)という、雑種第1代目(F1)が両親よりも優れた性質になる現象を利用した多収穫米のこと。(野菜は米よりも技術的に容易で、米に先んじて多くがハイブリッド化されている(ハイブリッド野菜))。[4]
語彙
異なる言語の要素を組み合わせた語彙をハイブリッドと言う。たとえばtelevision(テレビジョン)という用語は、もともとギリシア語の「tele テレ」(離れて、離れた)と、ラテン語のvisio「見る」(を名詞形にしたvision)を組み合わせた言葉(造語)である[1]。英語の基礎語彙の「beautiful(フランス語“beauté”+英語接尾辞“-ful”)」もそうである。
- 英語などの例
- automobile オートモービル(自動車) - ギリシャ語 auto (αυτό、「自分で」) + ラテン語 mobilis(「移動できる」)
- chloroform クロロフォルム - ギリシア語 χλωρός (khlōros) 「暗い緑色」 + ラテン語 formica (この場合、formic acidを指していてつまりギ酸)
- genocide ジェノサイド - ギリシア語γένος (genos)ゲノス「人種、人々」+ ラテン語 cīdere シーデレ 「殺す」
- heterosexual ヘテロセクシュアル(異性愛) - ギリシア語ἕτερος (heteros)「異なった」 + ラテン語 sexus「性」
- hexadecimal ヘクサデシマル(十六進数) - ギリシア語ἕξ (hex)「六の」+ ラテン語 decimus 「十代の」
- homosexual ホモセクシャル(同性愛)- ギリシア語 ὁμός (homos) 「同一の」 + ラテン語 sexus 「性」
- metadata メタデータ - ギリシア語μετά (meta) + ラテン語 data (dare「与える」からの派生語「与えられたもの」)
- Minneapolis ミネアポリス - ダコタ語 mini(mine)「水」+ πόλις (pólis) 「都市」
- sociologyソシオロジー(社会学) - ラテン語 socius 「社会」や「人の交流」 + ギリシア語λόγος (lógos) -logy
- 日本語におけるハイブリッドの例
- 高層ビル - 「高層」という漢字表現(中国語寄りの表現) + 英語のbuildingのカタカナ表記「ビルディング」の短縮形(ちなみにハイブリッドしない表現は「高層建築」)
- コーヒー牛乳 - 英語の「coffeeコーヒー」 + 日本語の「牛乳」(ちなみにハイブリッドしない表現は、「ミルクコーヒー」あるいは「カフェオレ」)
- 写メ - 日本語の「写真」 + 英語の「mail メール」
- 自動車レース - 日本語の「自動車」 + 英語の「race レース(競走)」
- ^ a b c d e f Oxford Dictionaries [1]
- ^ 広辞苑 第6版 「ハイブリッド」
- ^ テレビ朝日開局50年周年記念2008年1月4日放送、番組「地球の危機2008」から。ガラパゴス諸島のSouth Plaza島の状況
- ^ ブリタニカ百科事典
- ^ ハイブリッド計算機、1971年(昭和46年)、計算機の歴史、統計数理研究所、統計数理研究所
- ^ JIS C 5610:1996「集積回路用語」(日本産業標準調査会、経済産業省) 4節「集積回路用語」,(2)デバイス関連用語,番号2037
- ^ a b 電子材料編集部編『最新ハイブリッドIC技術』、工業調査会、1984年
- ^ ハイブリッドイメージを解説する英文サイトとその静的なハイブリッドイメージを動画で表すサイト
- ^ 元日立製作所副社長、三浦武雄はハイブリ ッド計算機を提案し,1958年研究に着手,1959年HIPAC101との連動システムを完成日本情報学会、コンピュータ博物館、日本のコンピュータパイオニア > 三浦武雄
- ^ 日立R&D(研究開発) トップ> 社外表彰> 1970年から1979年:1977 紫綬褒章(Medal with Purple Ribbon)ハイブリッド計算機の開発(Development of hybrid computer)
- ^ [2] - 国立科学博物館の産業技術の歴史に掲げられる厚膜ハイブリッドIC(厚膜混成集積回路)
- 1 ハイブリッドとは
- 2 ハイブリッドの概要
- 3 科学技術、工業製品
- 4 金融
- 5 脚注
ハイブリッドと同じ種類の言葉
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