ハイブリッドカー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/20 08:40 UTC 版)
問題点
システムの搭載による重量増加と容積の圧迫
ハイブリッド自動車は内燃機関およびその補機一式と電動機および駆動用バッテリーと燃料タンクを1台の車に搭載するため、従来は同程度の排気量のガソリン車と比較して15-20%ほど重量が増加していた[注 4]。重量の増加は燃費の悪化に加えタイヤやブレーキといった車体、および路面のダメージを増大させる。しかし近年は小型・軽量化が進んで5%-10%程度[注 5]まで詰まっているため、一概に「重くて不利」と言えるレベルにはなくなっている。
またハイブリッドは駆動用バッテリーやモーターを搭載するために車室空間が犠牲となり、スペアタイヤや3列目シートなどを廃さなければならなくなった車種も少なくない[注 6]。特にスペアタイヤを廃してしまった場合はランフラットタイヤのサイズ設定がない場合パンク応急修理キットで対応することを強いられている(=サイドウォールの損傷やバーストには対応できない)。ただし新車時から未使用のまま廃棄する例も少なくなかったため、近年はSUVなどの特定の車種以外ではスペアタイヤ搭載を廃止している車種が主流である。また、法制面ではスペアタイヤ装備の車検項目の廃止されたこともその動きを後押しする結果となり、タイヤについては問題点とは言えない面もある。また前述の通り小型・軽量化が進んでいるため、空間をなるべく犠牲にせずHV化することも可能になってきている。
資源供給の不安定さ
モーターやバッテリーにレアアース(希土類金属)やコバルトなど産地が偏っている鉱物(レアメタル)を利用する場合、価格が高騰しやすく、世界情勢が混乱・緊張に陥っている場合は安定した資源確保が困難になることも懸念される。2010年に日本と中国の政治的緊張が高まった際、中国は日本へのレアアース輸出を制限したため、アメリカやオーストラリアから供給を受けた[8]。
環境負荷の増大
ハイブリッド車は低公害車とされているが、エンジンを用いた走行では排気ガスを排出するためゼロエミッション車には含まれない上、二次電池式電気自動車や、従来の内燃機関車(ICEV、ガソリン車やディーゼル車など)に対しても部品点数が多くなり、必然的に製造・廃棄にかかる環境負荷とコストの両面で高くなる。
またバッテリーをリサイクルするにしても行程が長くなるという問題がある。ライフサイクルアセスメントと言う概念があるように、リサイクル自体も環境負荷なしにはできない。トヨタが公開しているPV[注 7]によると、そのリサイクル行程は「一度全国の解体屋からバッテリーを愛知陸運に集め豊田ケミカルで解体・下処理・破砕、その後住友金属鉱山で精錬、プライムアースEVエナジーで製品化した後トヨタの工場で車両に搭載」…つまり日本全国→愛知県→愛媛県→静岡県→愛知県→全国…という、通常の自動車リサイクルに比べ大がかりな流れになっている。そしてHVはエンジンも搭載しているので、内燃機関車のリサイクル行程も必要になってくる。 ただしこの廃棄の部分の課題は、自動車メーカーも90年代からすでに燃費追求と並行して研究しており、トヨタ自動車は2015年時点で、廃車になった欧州の車両の使用済みバッテリーの91%を回収しており、将来は100%回収することを目指しているほか、またリビルド、リユースも駆使して工場や太陽光/風力発電の蓄電池などに転用している[9]。またバッテリー自体の寿命も伸びてきており、バッテリーの交換をしないで廃車まで走れる車種も増えている。
いずれにせよ製造・廃棄の部分で内燃機関車より環境に悪いことを考えるとHVを低公害車として成立させるには燃費や低排出ガス性能で帳消しにする必要があるが、それが十分達成できているかには疑問を呈する声もある。例えば2008年に放送されたトップ・ギア Series11 Episode1でトヨタ・プリウス(2代目)を取り挙げた際には、司会のジェレミー・クラークソンは「長期的に見るとランドローバー・ディスカバリーよりも環境に悪いという主張もある」とコメントした。テスラ・モデル3のユーザーである元東京都知事の猪瀬直樹は、2021年にこのままでは日本の自動車産業がガラケーと同じになると述べた[10]。
一方で長期的に見た場合、技術革新の関係で同じ仕組みのHVであっても燃費性能に差がつく以上[注 8]、すでに普及による環境負荷の低減が廃棄・交換による負担を上回っている可能性もある。なお上記の議論は肯定・否定どちらも一つの予想・意見であり、いずれもデータによる裏付けが存在しないという点については十分な注意が必要である。
危険性の増大
ガソリンハイブリッド車両はガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせているため、火災の原因となるエンジン用の燃料のほか感電の危険性がある最大600Vの電気モーター用バッテリーも搭載している。特にキャパシタ(コンデンサ)は感電した場合死亡事故にも繋がりうるため、メーカーがレスキュー時の専用マニュアルを公開していることもある[注 9]。
静穏化による歩行者への危険の増大
ハイブリッド車は、電動モーター走行時の騒音が小さいため、主に低速時に歩行者、特に音で接近を判断する視覚障害者は、自動車の認知が遅れ、回避出来無い危険性が指摘されている[11]。また、静穏性を悪用したひったくりが発生するという事態にまでなっている。電気自動車も含め走行中に人工的に音を発生させる装置の義務化がハイブリッド車メーカーや政府によって進められ[注 10]、新型車で2018年3月8日から、継続生産車で2020年10月8日から、解除のできない車両接近通報装置の装着が義務化された[12]ことから、静穏化による歩行者への危険は対策されている。
コストの高さ
ガソリンとハイブリッドとの両者をラインナップする同車種で比較した場合、車両価格には隔たりがある。技術が未熟であった頃は、その価格差が2倍に達するケースもあった[注 11]。現在でもストロングハイブリッドなら数十万円もの差になりがちであるが、マイルドハイブリッドなら差額10万円以内で買えるものもあり、メーカーや機構、車種によって大きく異なる。
また上の「環境負荷の増大」でも述べたように、ハイブリッド車には(駆動用)バッテリーの交換費用など、ガソリン車にはないコストの発生[14]や内燃車とEVの両方の機構を持つという性質上、廃棄時に掛かるコストは重くなる。
一般的なストロングハイブリッドを採用する、Cセグメントセダンのトヨタ・カローラ(E21#型)を例として、購入時の差額を燃料費の差額だけで回収することを検討した場合、費用と期間の計算を下記表に示す。表中の各値はいずれも2020年5月当時の メーカー公表値 を元にしている。各種点検・整備にかかわる費用やエコカー減税、その他の減税・免税・割引制度等については考慮していないが、それらを含めるともう少し差が縮まる可能性はある。
グレード | 車両価格 | 車体差額 | 燃費(WLTC総合) | ガソリン単価 | 年間走行距離 | 年間の燃料費 | 年間の差額 | 差額回収に要する年数 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ハイブリッド (ZWE211) |
W×B(2WD) | 2,750,000円 | 434,500円 | 25.6km/l | 140円 | 10,000km | 54,687円 | 41,203円 | 10.5年 |
ガソリン (ZRE212) |
W×B(1.8L/CVT) | 2,315,500円 | - | 14.6km/l | 95,890円 | - | - | ||
ガソリン単価を140円/L、年間の走行距離を10,000kmとした試算 |
なお比較はあくまで一例であり、コンパクトカーのようにガソリン車の燃費が良いほど差額回収にはより多くの時間・距離が必要となり、逆に大型車のようにガソリン車の燃費が悪いほど時間・距離は短くなる。
注釈
- ^ ラテン語由来の言語では水力や風力などで動くものを含め、原動機の全てをモーターと呼び、特にレシプロエンジンを指す場合はMoteur à combustion et explosion(フランス語)、Motore a movimento alternativo(イタリア語)、Motor de explosión(スペイン語)、Hubkolbenmotor(ドイツ語)のように表現する。
- ^ ただしホンダ・IMAシステムの一部車種は全気筒休止機構により、モーター単独での駆動が可能。
- ^ 実際、プリウスではモニターにて状況を確認できるが、回生ブレーキの効きは強力ではなく、それよりも走行中に充電・放電・モーターのみでの走行を小刻みに行っていることによる利点が観察される。
- ^ 具体例を挙げるとスズキ・ツインエアコンレス車の場合はガソリン車が570kgなのに対しHVが700kg(+130kg、+22.8%)であった。
- ^ 例えば2012年発売のレクサス・GSがガソリン車とHVで240kg(+14.5%)もの差があったのに対し、2017年発売のレクサス・LCはわずか90kg差(+4.5%)、同じくTHSを採用するトヨタ・カローラも60kg差(+4.7%)となっている。
- ^ 内燃車とHVが存在する車種の例:ホンダ・フィットハイブリッド、三菱・アウトランダーPHEV、HV専用車種の例:ホンダ・インサイト(ZE2/ZE3)
- ^ [1] リンクをクリックすると特殊なファイルへ直接アクセスする。拡張子「.asx」のファイルが開けない場合閲覧できない。
- ^ 例えば、トヨタ・プリウスの基本モデルで比較した場合、初代が28.0km/ℓ(前期型)に対し4代目は37.2km/ℓ(S型)となっている。
- ^ 例:ISUZU レスキュー時の取り扱い '05-'09型 ELF HYBRID (PDF)
- ^ 上記朝鮮日報の記事によると、「米議会が全てのHVに車両接近通報装置の装備を義務づける方針で、NHTSAが具体案の作戦を検討中。日本の国交省はHV・EVへの同装置の装着を義務づける」とのことである。
- ^ 2005年発売のダイハツ・ハイゼットカーゴではHV化で価格が2倍以上になってしまった。加えて未熟な技術ゆえの燃費改善率の低さがネックとなり、販売不振・生産終了となったことを受け、ダイハツ工業は「HVは軽自動車には不適」と判断した。ダイハツは後年、新型車のティザーを兼ねた企業CMにおいてHVの高コストを背景に「第3のエコカー」(高効率内燃機関車)を提唱している[13]。
- ^ 「Mixte」 - 仏:mixte〈ミクスト:混合の意〉。ローナーポルシェの一種。
- ^ ウィーン近郊のセンメリングの1900年のレースでポルシェ自身が初めて出場、運転し14km/hで優勝したのは電気自動車のローナーポルシェだった。
- ^ 公道走行ができないため、大磯プリンスホテルの駐車場で試乗が行われた。
- ^ 2014年5月に2.0Lガソリンターボ車を追加。
- ^ 2015年6月にガソリン車の「LX」を追加。
- ^ 2015年5月にガソリンターボ車の「RS」を追加。
- ^ 欧州仕様(現地名:3代目ヤリス)では2012年6月より設定。
出典
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- ^ トヨタ、レクサスハイブリッド車で「24時間レース」に参戦 - WebCG・2006年7月5日
- ^ 【スーパーGT2012】プリウスGT、マレーシア戦ではハイブリッドを外す? - cliccar・2012年5月19日
- ^ トヨタよ、敗者のままでいいのか。トヨタのル・マン24時間参戦車両「TS050」技術説明会「ル・マンに勝って一流の自動車メーカーの仲間入りをしたい」と、村田部長
- ^ F1 Topic:鈴鹿のコースレコードをハミルトンがブレイク。2017年型マシンの速さを象徴する予選
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