ネットカフェ難民
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/31 09:22 UTC 版)
概説
ネットカフェ難民とは、これまで過ごしていた自宅や寮などの住居を、生活費の枯渇や不払い、職場を解雇されて寮に住めなくなったなどの諸般の事情で退去させられ、24時間営業のインターネットカフェや漫画喫茶などをホテル代わりにすることで夜を明かし、主に日雇い派遣労働と呼ばれる雇用形態で生活を維持している者を指す[1]。
こういった定住場所を持たない(持てない)者の多くは、かつては簡易宿所(ドヤ)をはじめ、カプセルホテル、深夜をまたいで仮眠が取れるサウナや健康ランドなどを生活の拠点としていたが、2000年代に入ると、深夜に長時間・低額料金で利用可能な「ナイトパック」やシャワールーム、個室席などを備えた、インターネットも利用可能な複合カフェが普及した。その後、値下げ競争が激化した東京・蒲田地区などで、ネットカフェ難民の存在が目立つようになった[2]。
調査結果
厚生労働省は2007年(平成19年)8月28日に初の調査結果を発表した。それによると、店舗への調査から推計される2007年(平成19年)時点でのネットカフェ難民の人数は5,400人だったという[3]。年齢構成は20歳代と50歳代が多かった。雇用形態は非正規雇用が約半数であるものの、完全失業者や正社員も見られた。
しかしこの調査に対して、貧困問題に取り組むNPO法人「もやい」事務局長の湯浅誠は以下のような盲点を指摘している。[独自研究?]
- 週1〜2日といった利用頻度が少ない者や、ファーストフード店や個室ビデオ店といった他業種の店舗を利用する事例もあり、それらが調査対象から外れている可能性があるとした。
- 調査対象となるネットカフェにとってセンシティブな調査であり、イメージダウンにもつながることから(#業界団体の反発を参照)、実態より少なくなっているのではないかとの見方を示した。
また東京都福祉保健局は、2016年12月~2017年1月にかけてネットカフェなどの24時間営業の店舗で、アンケート対象店舗をオールナイトで利用する者のうち、住居喪失者がどのくらいいるのか実態調査を行い、都内で1日あたり推計約4,000人(オールナイト利用者に占める構成比25.8%)、そのうち「住居喪失不安定就労者」(住居喪失者の内、雇用形態が派遣労働者・契約社員・パート・アルバイトの者)は約3,000人(住居喪失者に占める構成比75.8%)であることが分かった[4]。
さらに年齢構成別では、20代が約12.3%、30代が約38.5%、40代が約19.7%、50代が約28.9%であり、もっとも多い年代は30代で、ネットカフェ難民が若年者だけではないことを示している。週に3~4日程度以上を昼夜滞在可能な店舗で寝泊まりする者が約9割を占め、住居喪失者等の約43.8%が路上で寝泊まりしており、路上で寝泊りする頻度は、週に1~2日程度がもっとも多く(約57.2%)、次いで月に1~2日程度(約22.0%)であった[4]。
また単純比較はできないが、厚生労働省の調査では東京23区内のネットカフェ難民は約2,000人であった。そして約10年後の東京都の調査で4,000人となっているため、この約10年の間で2倍ほど増えたことになる。[独自研究?]
名称について
2007年(平成19年)1月28日、NNN系列のドキュメンタリー番組『NNNドキュメント』が、住所不定でなおかつネットカフェに泊まり歩きながら生計を立てている若者を密着取材し、「ネットカフェ難民 漂流する貧困者たち」と題して放送した[5]。当時、同番組のチーフディレクターであった水島宏明は、この名称について「周囲から孤立し、未来への展望が抱けず、(かつて自分が取材した)難民キャンプを連想し、“難民”という言葉でしか表現できないと思った」と述べている。また「違う言葉であれば、これほど注目されたり、厚生労働省などが対策に乗り出すことはなかったと思う」とも述べた[1]。その後は他のマスメディアもこの言葉を使用するようになった。
この年の末には、「新語・流行語大賞」のトップテンに「ネットカフェ難民」が選ばれ、日本における貧困や格差社会の問題を象徴する言葉の一つとして定着した[6]。ただし、受賞者には水島ではなく、同年9月に刊行された『ネットカフェ難民 - ドキュメント「最底辺生活」』の著者である川崎昌平が選ばれている[注釈 1]。
業界団体の反発
一方、「難民」という語のイメージが悪いとして、業界団体である日本複合カフェ協会(JCCA)は、「ネットカフェ難民は“差別語”だ」とする声明を発表、今後はその語の使用を控えるよう訴えた[7]。(将棋倒しなどの単語に対しても同様の傾向が見られる。将棋倒し#日本将棋連盟からの抗議も参照。)これまで業界を挙げて幅広い層に店を利用してもらおうとファミリー向けの個室やネイルサロンを設置するなどの経営努力を進めてきたが、報道の影響により「あたかも浮浪者風情の人が夜な夜な集まり犯罪の温床となっている」というイメージを植えつけられ、客足(特に女性客)が遠のき、風評被害とも言えるダメージを受けたことが理由だとする[7]。また「ネットカフェでは、どのような方でもお客さまであると認識しており、難民とは考えていない。(広辞苑の定義を引用しながら)そもそも難民の定義に当てはまらない」とし[7]、「ネットカフェ難民は地域によってはいるかもしれないが、大きな社会問題ではない」との認識を示した[7]。
また厚生労働省はJCCAに対し、前述のネットカフェ難民の実態調査への協力を打診したが、JCCAは「“ネットカフェ難民ありき”の調査手法」だとして協力を拒否した[7]。さらにJCCAは「ネットカフェ難民の存在をことさら問題視して対策費を計上しようとしている」などと、同省の姿勢を批判する持論も展開した[8]。
主な要因
日本テレビをはじめとする、NHKやマスコミ各社などによる一連の報道では、以下のような事例がある。
- 家庭内や人間関係の問題
- 両親の離婚でひとり親家庭となり、生活が困窮し、経済的理由で高校に進学出来なかった、また中退し、家計を支援するために中卒で就労できる継続的な仕事を求め、地方から都市部(東京都23区、神奈川県横浜市、川崎市、愛知県名古屋市、大阪府大阪市など)に出稼ぎに来て、地方にいる幼い兄弟や家族の生活を助ける目的で実家に仕送りをするため。
- 家族(特に親の再婚相手や新しい家族)との不和・再婚相手の新しい家族からのドメスティックバイオレンス、性的虐待の被害から逃れるため。
- 家族からの虐待または配偶者からのドメスティックバイオレンス、性的虐待の被害から逃れるため。
- 再婚や復縁を求める元配偶者、元交際相手からのストーカー行為の被害から逃れるため。
- 雇用・健康上の問題など
- 失業による家賃の滞納。
- 会社の寮に住む労働者であれば、失業と同時に退去させられる。
- 18歳で高校を卒業または、高校を中途退学すると同時に児童養護施設、母子生活支援施設、里親から離れなければならない。
- 高齢者であったり、持病や障害により就労が困難。
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注釈
出典
- ^ a b “他人事ではない『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』”. 毎日jp(毎日新聞) 2010年5月8日閲覧。
- ^ “「ネットカフェ難民」とは「隠れたホームレス」だ”. J-CASTニュース. (2007年3月25日) 2010年5月8日閲覧。
- ^ “日雇い派遣労働者の実態に関する調査及び 住居喪失不安定就労者の実態に関する調査の概要” (PDF). 厚生労働省 (2007年8月28日). 2010年5月8日閲覧。
- ^ a b 東京都福祉保健局生活福祉部生活支援課 (26 January 2018). 「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査」の結果 (Report). 2019年2月24日閲覧。
- ^ “NNNドキュメント バックナンバー(2007年1月28日)”. 日本テレビ放送網. 2015年12月20日閲覧。
- ^ “全受賞記録・年度別(2007年を参照)”. ユーキャン新語・流行語大賞. 2010年5月8日閲覧。
- ^ a b c d e “「お客様は難民ではない」ネットカフェの業界団体が声明”. INTERNET Watch (2007年8月28日). 2010年5月8日閲覧。
- ^ 「ネットカフェ難民」は差別語だ!!…業界団体が声明発表 『スポーツ報知』2007年8月30日
- ^ “コーヒー1杯で「宿泊」「マック難民」が急増”. J-CASTニュース. (2007年3月30日) 2010年5月8日閲覧。
- ^ 2000年代より普及し始めた家賃保証会社を利用することで「実印登録ができないので賃貸契約ができない」というパラドックスは解消される傾向にある。
- ^ 更新手続一覧 警視庁
- ^ 記載事項変更(住所・本籍又は氏名の変更の方) 警視庁
- ^ 日本テレビ系列『ザ・ワイド』や『スッキリ!!』で放送された「ネットカフェ難民特集」
- ^ “元ジャニーズJr:ネットカフェ荒らし…堕ちたコンビ”. 毎日jp(毎日新聞). (2009年12月12日) 2010年5月8日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 『東京新聞』2007年6月23日
- ^ “「脱」ネットカフェ難民 新宿 相談窓口2カ月19人に採用通知”. MSN産経ニュース. (2008年6月18日) 2010年5月8日閲覧。
- ^ “生活相談”. 日雇い日払い派遣ネットカフェ暮らしの味方 TOKYOチャレンジネット【TCN】. 東京都. 2020年6月11日閲覧。
- ^ NHK総合『ニュースウオッチ9』2009年4月7日放送分
- ^ 結核集団感染 ネットカフェで従業員13人 川崎市 『毎日新聞』2005年10月17日
- ^ 『東京新聞』2009年5月1日
- ^ “新型コロナウイルス感染症対策本部(第27回)”. 首相官邸 (2020年4月7日). 2020年6月12日閲覧。
- ^ “質問主意書 第201回国会(常会)質問第九九号「ネットカフェ難民への対応に関する質問主意書」”. 参議院 (2020年4月13日). 2020年6月11日閲覧。
- ^ 株式会社インプレス (2020年5月22日). “東京都、活動再開ロードマップ発表。「新しい日常」へ3ステップで緩和”. Impress Watch. 2020年6月11日閲覧。
- ^ “バックナンバー(2007年1月28日を参照)”. 日本テレビ NNN Newsリアルタイム (2008年11月14日). 2010年5月8日閲覧。
- ^ “インターネットカフェ、まんが喫茶・CYBER@CAFE/サイバーアットカフェ・京浜東北本線JR蕨駅西口の24時間営業漫画喫茶”. サイバーアットカフェ. 2020年6月11日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k “ネットカフェを「住居」登録 経営者「次への足場に」 - 働けど貧困”. 朝日新聞 asahi.com. 朝日新聞社 (2008年12月30日). 2020年6月11日閲覧。
- ^ a b 会社概要 CYBER@CAFE 蕨駅間近の複合ネットカフェ
- ^ “フラット宿泊個室のご紹介”. CYBER@CAFE/漫画 マンガ まんが喫茶 インターネットカフェ. 2020年6月11日閲覧。
- ^ 2008年11月4日放送分「援助か搾取か “貧困ビジネス”」より
- ^ カフェ難民の報道おかしい 石原都知事 『東奥日報』2008年10月3日
- ^ “カフェ難民の報道おかしい 石原都知事”. 共同通信社. 47NEWS. (2008年10月3日) 2014年7月3日閲覧。
- ^ a b “石原知事の山谷発言は重大な誤認 台東区長らが抗議”. 共同通信社. 47NEWS. (2008年10月7日) 2014年7月3日閲覧。
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