ニンジン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/29 17:00 UTC 版)
歴史
ニンジンは中央アジアの原産で[13]、西洋系ニンジンの原産地は小アジア、東洋系ニンジンの原産地は中央アジアともいわれている[8]。原産地のアフガニスタン周辺で東西に分岐したともいわれ[14]、世界各地に伝播した。西洋系ニンジンは15世紀ごろまでにヨーロッパに広まり、オランダやフランスを通り、イギリスへと西方へ伝来しながら改良が行われた[8]。東洋系ニンジンは、10世紀ごろにはすでに中国に伝わっていたとみられる[8]。
日本には16 - 17世紀ごろに中国から伝わり[13]、短い期間で全国に広まった[8]。江戸時代の農書に「菜園に欠くべからず」とある[8]。日本で江戸時代に栽培されていた品種は東洋系が主流だったが、江戸時代後期に西洋系ニンジンが伝わり、明治期に入ると欧米品種が次々と導入されるようになった[8]。東洋系ニンジンは栽培の難しさから生産量が減少し、戦後は西洋系品種が主流になっている。
栽培
種蒔きから収穫まで3 - 4か月ほどかかる野菜である[15]。栽培方法は、初春に種をまき晩春から初夏に収穫する春にんじん(春まき栽培)と、夏から初秋に種をまいて晩秋から冬に収穫する秋冬にんじん(夏まき栽培)、冬にハウスで種をまき、春から晩秋に収穫する冬まき栽培がある[5]。秋まきで育てる方が、収穫までとうが立ちにくい[15]。栽培土壌は肥えている土地がよく、苗が小さいうちは雑草をこまめに除草する[5]。連作は可能であるが、栽培はやや難しく、十分な日照が必要で[16]、15 - 25度が栽培適温とされる[15]。品種によって生育に適した時期がある。短根品種は、家庭で大型のプランター(コンテナ)を使った栽培もできる[16]。
涼しい気候が適しているが、苗の段階では比較的高い温度にも耐えられる。ニンジンは発芽率が低く、種は好光性で吸水力が弱いため種撒き後は覆土はごく薄くし、雨後を狙って筋まきあるいは1か所に5 - 6粒ほど種を撒き、発芽するまで乾燥させないように管理する必要がある[15][16][5]。
根が長く伸びるため畑はできるだけよく耕し[15]、短根ニンジンは多くの土質で栽培が可能なためあまり考慮する必要はないが、有機質に富んだ砂質土壌が最適とされる。しかし過湿に弱く、水はけが悪いと根腐れを起こしてしまう。土壌酸度はpH6 - 6.5の弱酸性から中性が適し[15]、酸性ほど生育が遅れ、裂根が多くなる。また、日陰では茎葉ばかりが茂り、根の肥大が悪くなるためなるべく日陰になりやすい場所は避けたほうが良い。
長根種は一部の地域で栽培されているだけで、現在は五寸ニンジンと呼ばれる長さ15 cm内外の品種が多く栽培されている。これは品種も肉質や外皮の色、形状と揃い、カロテンの含有量、作りやすさなどを目的にして改良が進んでいるものである。このほかプランターでの栽培が容易な、栽培期間が60 - 70日と短いミニニンジンもある[17]。
ニンジンは種を撒いて発芽するまでに7 - 14日ほどかかる[15]。種まき後、新聞紙などを掛けて土が乾かないように管理していると、雑草が一斉に生えてきてどれがニンジンかわからないほどである。また生えてきたニンジンは生育が遅いため、除草作業を怠ると雑草に負け枯れてしまうので、雑草は小さいうちに早く抜き取ることが大切である。生育期間中は間引きと追肥、株のまわりの土をかるくほぐす中耕を行う[16]。最初は支えあって育つため、本葉2 - 3枚(草丈6 cmくらい)になるまで待ち、1か所3 - 4本に間引きする[15]。その後、込み入っていると根が太くならないため、本葉が5 - 6枚(根が10 cmくらいにのころ)になってきたら、最終的に10 cm間隔ごとに1本ぐらいに間引く[17]。追肥は化成肥料などを行い、畝間(株間)を軽く耕して株元に土を寄せる[17][18]。
品種によって異なるが、およそ種まきから3 - 4か月後の葉が茂ってくるころが収穫期で、株元の根の太り具合を見て大きくなったものから収穫する[17][16][18]。秋まきでは収穫が多少遅れても畑で貯蔵できるため問題ないが、春まきは収穫適期を逃すと根に鬆(ス)が入ることがある[17]。また、春化を経て花茎が伸び始めたニンジンは形成層の内側が硬くなる「薹(トウ)立ち」を起こし、薹立ちしてしまったニンジンの芯の部分は食感が悪くなるため食用には適さなくなる。
病虫害は、キアゲハが卵を産み付けて幼虫による葉の食害を受けやすい[16][18]。多少葉を食べられても問題にはならないが、見つけたら取り除いて捕殺する[18]。また線虫(ネコブセンチュウ類やネグサレセンチュウ類)の被害を受けやすいので、前作に被害にあったところは避ける。
コンパニオンプランツとして、ニンジン(セリ科)とエダマメ(マメ科)を混植すると、お互いの害虫を予防する働きがあり、ニンジンの害虫キアゲハと、エダマメの害虫カメムシを寄せ付けにくくするといわれる[5]。
-
ニンジンの自動計量・パッキング装置
-
ドイツのニンジン畑
-
ニンジンの収穫機
-
ニンジンの葉を食害するキアゲハの幼虫
日本の生産地
日本では最大生産地の千葉県をはじめ、北海道・徳島県などが主産地である[8]。冬ニンジンは、茨城県、埼玉県、愛知県で多く出荷されており、季節により主産地は変わる[8]。輸入品は、中華人民共和国産が多く、ニュージーランド・台湾・オーストラリアなどからも輸入されており、一年を通して安定して供給されている[8]。
種類
原産地からヨーロッパで改良された西洋系品種と、中国を経て日本に渡った東洋系品種に大別される[14]。西洋系よりも東洋系の方が肉質が締まり、特有のニンジン臭が強い[8]。一般に出回っているのは西洋種で、現在日本で出回っている東洋種は金時にんじんだけといわれている[19]。品種改良により、特有のにおいを抑えてβカロテン量を増やしたり、使いやすいミニサイズの品種が作られている[19]。
東洋系ニンジン
中国で改良された東洋系のニンジンは、江戸時代に日本へ伝えられ、戦前まで各地で作られるようになった[14]。長さ20 cmを超える長根種が多く、赤色の金時にんじんを筆頭に、甘味が強くてニンジン特有の臭いは強いが、煮ても形が崩れにくいので和風の料理に重宝される[8]。なかでも京料理では比較的多く用いられることから金時ニンジンは「京人参」とも呼ばれ、京野菜のひとつに数えられている。しかし、栽培しにくいことがネックとなり、第二次世界大戦後は西洋系ニンジンが主流となってきている。正月料理用などとして、現在でも晩秋から冬にかけて市場に出回るが、栽培量が少ないためこの季節以外では入手が難しい。この他沖縄県の伝統野菜のひとつで黄色い島ニンジンまたはチデークニーと呼ばれる品種や、アフガニスタン原産の黒人参などが東洋系に含まれる。
- 金時にんじん - 京野菜の一つで、別名木津にんじん。30 cmの細長い根とリコピンに由来する濃い赤色が特徴[20]。主に西日本でつくられ[21]、やわらかくて、甘みが強い。お節料理の煮染めやなますに重宝される[19]。
- 熊本長ニンジン - 熊本の伝統品種で、ゴボウのような細長い根を持つ。縁起物として知られ、正月用に出回る[20]。
- 沖縄島ニンジン - 沖縄の在来種で、根が黄色で30 - 40 cmになり、ゴボウのように細長い[21]。ニンジン臭がなく、甘味があり、生食のほか、スープ・炒め物・煮物にされる[20]。
- 金美人参(きんびにんじん) - 中国系のニンジンでカロテンが少なく黄色い品種。ニンジン臭は少なく、肉質がやわらかい[20]。
西洋系ニンジン
西洋系ニンジンは、ヨーロッパ原産で[22]、オランダやフランスで改良がすすみ、江戸時代末期に日本に伝来した。現在一般に出回っているのはこの西洋種のニンジンで[13]、主にオレンジ色をしており、甘味もカロテンも豊富に含んでいる。三寸群・五寸群などがあるが、現在は五寸群の五寸ニンジンが中心的な品種で[8]、ちょうど五寸 (15 - 20 cm) ぐらいの長さで、金時ニンジンなどと比べて太めなのが特徴。東洋人参とは異なりニンジン臭が少ない。
- 五寸にんじん:現在、流通されている主流品種。根の長さは15 - 20 cmで、下に向かってやや細くなっている[19]。
- 子安三寸ニンジン(こやすさんずんにんじん) - 日本で改良された西洋系ニンジンの品種で[23]、明治時代にアメリカから北海道に渡った品種が東京で改良されたもの。長さ9 cmほどで、太くて短い逆三角形をしているのが特徴[20][23]。ニンジン臭さが少なく食べやすい[23]。
- ミニキャロット - 長さ10 cmほどの小型種。甘みがあり、香りは弱い。生サラダ、料理の付け合わせに使われる[19]。
- パリジャンキャロット - 直径3 - 4 cmほどの丸い形の品種。グラッセにしたり、料理の付け合わせに使われる[8]。
- ホワイトニンジン - ベルギーやフランスで見られる白いニンジン。品種はルナーホワイトなどがある。加熱しても香りが強く、煮込み料理に使われる[20]。
- 黄ニンジン - ヨーロッパではポピュラーな根が細くて黄色い系統種。イエローストーンなどの品種がある。カロテンのほか、ビタミンCも豊富で甘味がある[20]。
- 紫ニンジン - 根にアントシアニンを含む表面が紫がかった色で、中は橙色の系統種。コズミックパープルなどの品種がある[18]。ニンジン特有の香りが強い[20]。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Daucus carota L.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2012年8月12日閲覧。
- ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Daucus carota L. subsp. sativus (Hoffm.) Arcang. ニンジン(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月29日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Daucus carota L. ニンジン(広義)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月29日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Daucus carota L. var. sativus Hoffm. ニンジン(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月29日閲覧。
- ^ a b c d e 金子美登 2012, p. 210.
- ^ a b c d 貝津好孝 1995, p. 55.
- ^ 簡体字で「胡萝卜」
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 講談社編 2013, p. 152.
- ^ a b c d e f g h i j k 田中孝治 1995, p. 203.
- ^ a b 田中孝治 1995, p. 202.
- ^ 大場秀章(編著)『植物分類表』(第2刷)アボック社、2010年。ISBN 978-4-900358-61-4。
- ^ 米倉浩司『高等植物分類表』(重版)北隆館、2010年。ISBN 978-4-8326-0838-2。
- ^ a b c d e f g h i j k 主婦の友社編 2011, p. 68.
- ^ a b c d e f 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 120.
- ^ a b c d e f g h 主婦の友社編 2011, p. 72.
- ^ a b c d e f 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 243.
- ^ a b c d e 主婦の友社編 2011, p. 73.
- ^ a b c d e f 金子美登 2012, p. 211.
- ^ a b c d e f g h i j k l m 主婦の友社編 2011, p. 69.
- ^ a b c d e f g h i j 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 121.
- ^ a b 金子美登 2012, p. 212.
- ^ a b 田中孝治 1995, p. 55.
- ^ a b c d e 金子美登 2012, p. 213.
- ^ a b 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
- ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
- ^ a b c d e f g h i j k l m 講談社編 2013, p. 153.
- ^ “「野菜350g」は本当にカラダにいいの…?食生活のウソホント”. FRIDAYデジタル (2020年7月16日). 2020年11月27日閲覧。
- ^ http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~maruho/2-4nabezairyou4.htm
- ^ 落合敏監修 編『食べ物と健康おもしろ雑学』梧桐書院、1991年、22頁。ISBN 4340020095。
- ^ “人参を電子レンジで加熱したらスパークした。:名古屋市消費生活センター情報ナビ”. 2016年2月9日閲覧。
- ^ (馬の用語事典)
- ^ 猫は本当に魚好き? アノ動物と好物の関係のウソ・ホント - ウェイバックマシン(2010年12月1日アーカイブ分)
ニンジンと同じ種類の言葉
- ニンジンのページへのリンク