ニューモシスチス肺炎 ニューモシスチス肺炎の概要

ニューモシスチス肺炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/01 13:07 UTC 版)

ニューモシスチス・イロベチイ

またニューモシスチス・イロベチイは以前原虫に分類されていたが、遺伝子解析の結果、真菌の一種(子嚢菌門タフリナ菌亜門)であると判明した。なお、現在でもニューモシスチスの体外での人為的増殖は実現しておらず、研究においてはラットに感染させることが必要である。治療をしないと致死的な疾患である。

歴史的背景

ニューモシスチス・イロベチイは、1909年ブラジルカルロス・シャーガス英語版(Carlos Chagas、シャーガス病の発見者としても知られる)によって発見された。ただし、この時は、これが人間の病気の原因に成り得るとは認識されていなかった。シャーガス病の起炎原虫であるクルズトリパノゾーマの生活環のステージのひとつとして誤って認識され、モルモットの検体から記載された。1912年にDelanöe夫婦によってトリパノソーマとは別の原虫としてラットの検体より新種記載されている。これが人間に対する病原体として認識されたのは、ヨーロッパにおいて、1930年代から1940年代にかけて、未熟児や低栄養状態の子供に、間質性肺炎が多発した事がきっかけであった。ミラーは、特に孤児でこの様な肺炎が多かったと、上記の総論で述べている。第二次世界大戦後、栄養状態の改善によってこの現象は一旦消えたが、1960年代以降新たに、先天性免疫不全の子供や、悪性腫瘍に罹病及び治療を受ける成人の間で、この肺炎が多く認められる様になった。そして臓器移植の普及に伴って、更に多く観察される様になった。 1976年にFrenkelはヒト由来の別の原虫として新種報告している。1981年、アメリカで後天性免疫不全症候群 (AIDS) と呼ばれる疾患が報告されると、この疾患はAIDS(エイズ)患者に多く見られる日和見感染として、注目される様になった(ただし、アフリカのエイズ患者で、この肺炎の報告が少ない事は、エイズ研究における一つの課題である)。1988年に18SリボソームRNA遺伝子塩基配列解析で本菌は原虫ではなく子嚢菌門に属する真菌に近縁であることが示された。1999年に真菌に再分類された[1][2]

分類

ニューモシスチス・イロベチイ真菌に帰属させる最も大きな理由が本菌のDNA塩基配列解析の結果である。なおDNA塩基配列解析以外に本菌を真菌に分類する根拠は電子顕微鏡像において細胞壁、細胞内小器官の超微細構造が真菌と極めて類似していること、シスト細胞壁の主要構成成分としてβ-Dグルカンが見出されたことがあげられる。また原虫と認識された原因としては、光学顕微鏡観察では形態学的に原虫に類似していること、抗原虫薬に感受性があること、多くの抗真菌薬に耐性があること、人工培地で培養が困難であることがあげられる。原虫と真菌が光学顕微鏡レベルで区別できないことは珍しいことではなく、コクシジオイデス症の起炎菌であるCoccidioides immitisも当初は原虫に分類されていた。また抗原虫薬と抗真菌薬には交差感受性がある真菌であるカンジダ・アルビカンス英語版 Candida albicans なども抗原虫薬のペンタミジンに感受性があり、リーシュマニア症など原虫疾患にアムホテリシンBが用いられている。

生態学

本菌の培養は困難である。そのため生態に関しては限られた情報しかない。ニューモシスチス・イロベチイはヒトの体外では増殖できず、また環境中にも発見されない。そのためヒトの呼吸器官が唯一の棲息場所と考えられている。ヒトの肺内ではⅠ型肺胞上皮に付着して存在している[3]。免疫能が正常な一般人口における定着率は0~20%と考えられている。かつてはニューモシチス肺炎は幼児期にニューモシスチス・イロベチイが定着し、免疫抑制状態になったときに内因性の再燃をおこすと考えられていたが、その後は外来性再感染説が有力となっている[4]。これは無症候性キャリアが感染源となるという考え方である。


  1. ^ Robert F.Miller:Pneumocystis carinii in non-AIDS patients. Current Opinions in infectious diseases.1999 Aug;12(4)371-7
  2. ^ Clin Microbiol Rev. 2012 Apr;25(2):297-317. PMID 22491773
  3. ^ a b Nat Rev Microbiol. 2007 Apr;5(4):298-308. PMID 17363968
  4. ^ Eukaryot Cell. 2009 Apr;8(4):446-60. PMID 19168751
  5. ^ Ann Intern Med. 1984 May;100(5):663-71. PMID 6231873
  6. ^ JAMA. 2009 Jun 24;301(24):2578-85. PMID 19549975
  7. ^ Chest. 2009 Mar;135(3):655-61. PMID 19265086
  8. ^ Chest. 2007 Apr;131(4):1173-80. PMID 17426225
  9. ^ AJR Am J Roentgenol. 1997 Oct;169(4):967-75. PMID 9308446
  10. ^ Journal of Infection and Chemotherapy 25 (4): 253–261. (2019-04-01). doi:10.1016/j.jiac.2018.11.014. ISSN 1341-321X. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1341321X18303751. 
  11. ^ Butler-Laporte, Guillaume; Smyth, Elizabeth; Amar-Zifkin, Alexandre; Cheng, Matthew P.; McDonald, Emily G.; Lee, Todd C.. “Reduced dose TMP-SMX in the treatment of Pneumocystis jirovecii pneumonia: a systematic review and meta-analysis” (英語). Open Forum Infectious Diseases. doi:10.1093/ofid/ofaa112. https://academic.oup.com/ofid/advance-article/doi/10.1093/ofid/ofaa112/5815329. 
  12. ^ a b Immunol Allergy Clin North Am. 2004 Aug;24(3):425-43. PMID 15242719
  13. ^ MMWR Recomm Rep. 2009 Apr 10;58(RR-4):1-207. PMID 19357635
  14. ^ J Rheumatol. 1992 Feb;19(2):265-9. PMID 1629825
  15. ^ Cochrane Database Syst Rev. 2007 Jul 18;(3). PMID 17636808
  16. ^ Arthritis Care Res (Hoboken). 2013 Feb;65(2):314-23. PMID 22972558
  17. ^ 森俊輔. 抗リウマチ薬使用時のニューモシスチス肺炎に対する予防内服. 日本医事新報 2015;4767:58-59.


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