ニューエイジ チャネリングと啓示

ニューエイジ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/29 10:03 UTC 版)

チャネリングと啓示

ニューエイジでは心霊主義の影響から、高次の的存在・大聖(神智学で言うマハトマ)・宇宙人・死者などの超越的・常識を超えた存在、通常の精神(自己)に由来しない源泉との交信が可能であると信じられ、その交信、交信による情報の伝達は「チャネリング」と呼ばれた[52][1]。宗教学者の島薗進は、「神智学協会系」の運動とのつながりは明白であると指摘し、「心理学的な癒しに関わる体系的な知、あるいはニューエイジ的な自己観をめぐる体系的な知を持つシャーマニズム」と定義している[53]

チャネラーの役割は死霊を呼び出す心霊主義霊媒に近く、これはアメリカでも知られる概念だったが、アメリカ本流の文化では蔑みの対象だったため、UFO運動で使われていた「チャネラー」という言葉が採用されたようである[53]。マスコミがニューエイジを取り上げる際に、常識はずれで異常な、お笑い草の軽々しい信仰というイメージを作る格好のネタとして取り上げられると同時に、ニューエイジ運動の形成と拡大に「重要な役割」を果たした[27]。教皇庁は、チャネリングが最も共通の要素としてみられることから、ニューエイジは厳密にはスピリチュアリティではなく、「心霊主義の現代版」であると述べている[54]

心霊主義のような「死後存続」の証明よりも、今ここで霊的な成長を助けてくれる「高い知恵」を得ることが興味の対象となっている[1]。(とはいえ、ニューエイジで上位のマスターとみなされるイエス・キリストイエス大師)など、先人とのチャネリングは死後存続を前提としている[55]。)チャネリングを行う人はチャネル、チャネラーと呼ばれる。交信対象は、しばしば「エンティティ」と呼ばれ、「存在」とも訳される。情報源という意味で「ソース」とも呼ばれる。宇宙存在、宇宙人とされるものもあるが、肉体を持っているとは限らないとされる。チャネリングの方法は憑依による口述、自動筆記などがあり、トランス状態で行われる場合や、チャネルが意識のある状態でメッセージを聞き取るような、トランス状態ではないと思われる場合もあり[56]、方法、内実ともに多様である。

根本的なニューエイジ信条の多くは、まずチャネルされたメッセージとして定式化されており、チャネリングはニューエイジ宗教の生成において「決定的な重要性」を持っていた[56]ヴァウター・ハーネフラーフ英語版は、ほとんどのニューエイジャーは、霊的権威の信頼できる唯一の源泉は「自分自身の内的自己」であるとみなすものの、ニューエイジ運動はかなりの程度において「啓示に基づく宗教」(Offenbarungsreligion)と性格づけることが可能であるとしている[56]島薗進は、「エンティティ」に対するチャネルの関係は受動的なものではなく、あくまで主体は「自分」にあり、「エンティティ」は手助けをするに留まると述べている[57]

チャネルで伝えられるメッセージは、①その人の過去や未来 ②宇宙観や人間観、歴史観などの真理に関する教説・啓示 ③チャネリングの実践自体が示す世界の構造(物理的現実だけでなく2つ以上のリアリティーがある、人の心はつながっており全体でひとつ)に分けられる[58]。②の教説(啓示)の要点は、キリスト教の立場のエリオット・ミラーの要約によると、次の6つである。[59]

  1. あなたはあなたのである / あなたはあなた自身のリアリティーを創造する。これが教説の中心である。神は遍在し、人は神の性格を分有するという汎神論的世界観。
  2. あなたはあなた自身の救い主である。外部の救いの力は必要ない。自らを探求することで救いに近づく。(表象文化研究者の加藤有希子は、自分を知れば何かすごいことが起こるという期待があり、ソクラテスの「汝自身を知れ」の含蓄とは区別されるべきと述べている[60]
  3. 。まず自分を愛することが大事で、自分を愛せなければ他者を愛せないとされる。正邪を全く問わずすべて受け入れる「無条件の愛」も強調される。
  4. は存在しない。死は幻想である。死と呼ばれるものは、より高いレベルへの移行であり、おそらく生まれ変わって地上に戻る。
  5. 大いなる自己・上位自己と人生の目的。大いなる自己は人生全体の目的を知っており、それは過去生(前世)のカルマを返し、魂の向上・霊的レベルアップに必要な教訓を得ることだとされる。カルマという用語が使われるが、インド思想のカルマの概念は完全に「換骨奪胎」され、カルマの支配に代わって、自分で自分のリアリティを作ることが可能という楽観的な論調である。チャネリングを学ぶものは、大いなる自己と融合しチャネルできるようになることを目指す。
  6. 大いなる自己をサポートする指導霊(守護霊)の存在。指導霊は霊的レベルアップの歩みを助ける。指導霊と接触できれば、いつでも彼らの指示を得られるようになり、その指導でもっとはっきりしたチャネルも可能になる。島薗進は、指導霊は救済者というより、いつもそばにいて助けてくれる心強い友達のようなものと評している[57]

これ以外に、よく見られるものに「恐怖」に関する教えがあり、恐れは人を不幸にするため、一切の恐怖をやめれば自己の望みが実現するとされる[59]。また、地球と人類の未来についての予言もあり、危機を告げるものもあるが、大体は楽観的で、危機は移行期の「浄化」の現れとされる[59]。このように、チャネルされた思想はかなり一致があるため、信憑性があると考える人も多く、現代アメリカではある程度まとまりのある現象となっている[61]。共通のパターンは、典拠となる文献や指導者養成システムで作られている訳ではなく、メディアを通して相互に真似し合い、修正し、学ぶことで形作られ、その時々の人気の「ソース」やチャネラーによって新しい路線が現れ、変容し続けている[62]。チャネラーの数は80年代に急増し、1986年ロサンゼルス・タイムズは、10年前にはわずか2人だったプロのチャネラーの数は、数千人を超えているだろうと書いている[63]

帝京大学の進藤英樹は、ニューエイジ宗教の中心となる啓示の大部分は、チャネルになることを学んだのではない生来のチャネルによって作られており、こうした啓示の場合、チャネリングの過程は、たいてい霊媒の不意を襲うような形で、自然発生的に開始すると指摘している[56]。そして、このようなチャネリングは、多く意図的なチャネリングに発展・移行するが、コントロールできないままのこともある[56]

ニューエイジで支持を集めたチャネルとして、ニューエイジで広められているチャネリング形態のモデルとなったジェーン・ロバーツ英語版(1929年 – 1984年)[64]、前世がアトランティス人でアトランティス大陸の戦士とチャネルしたというジュディス・ゼブラ・ナイト英語版1946年 - )、ケビン・ライアーソン、ジャック・パーセルなどがいる。ニューヨークのコロンビア長老派医療センターの心理学者ヘレン・シチュクマン博士(1909年 - 1981年)は、自分の内部から声(イエス・キリストとほのめかされている)を聞く様になり、上司のウィリアム・セットフォード博士の勧めでそれをまとめた(作者名は明記されず、シチュクマンは死ぬまで原作者であると認めなかった。)二人の協働で『奇跡の学習コース』という独習過程がまとめられ、人気を呼びニューエイジに大きな影響を与えた[65]。読者を全ての困難に立ち向かわせ心を愛に目覚めさせ、正しいスピリチュアリティに導くという教えが聖書の用語を使って語られている。悪の可能性は否定されており、一元論的で、中心となる信念は8世紀インドのシャンカラの非二元論的アドヴァイタ・ヴェーダーンタに近い[65]。これは現代で最も有名なスピリチュアリティ文書の一つで、ハーネフラーフはコースを「スピリチュアリティのニューエイジ・ネットワークにおいて『聖典』の役割を果たしたということのできる『唯一の書』」と述べている[65]


注釈

  1. ^ : New Age Movement ニューエイジ・ムーブメント、NAM

出典

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