トロント 歴史

トロント

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/12 22:31 UTC 版)

歴史

地名について

「トロント」の地名は、ヒューロン族の言葉で「人が集まる場所」を意味する言葉に由来するとされる説が一時有名であったが、本来、言語学的にはモホーク族の言葉で「水の中に木が立っている場所」を意味する「tkaronto」を由来とし、フランス人探検家や地図制作者を介してトロントになったとされる[7]。地勢的にはトロント北部のシムコー湖にヒューロン族が魚を囲い込むために苗木を植えたオリリア市の辺りを起源とする。当時、オンタリオ湖からヒューロン湖の陸路輸送ルートであったこの辺りでは広く使われていた地名であった。

19世紀以前

ヨーロッパからの入植が見られる以前からトロント周辺地域には紀元前1500年前にイロコワの部族から土地を占領した先住民ヒューロン族が定住していた。

トロントの地図(1894年)

1750年にフランス人商人によって交易所「フォート・ルイユ」(Fort Rouillé[8])が設立されたが、1759年には使われなくなった。アメリカ独立戦争の際、英国王党派の流入が多く見られ、未入植の地であったオンタリオ湖岸の北部への入植が進んだ。1787年イギリスはオンタリオ湖北部の土地を所有するミシサガ族と交渉し、わずかな資金で購入することに成功した[9]

1793年アッパーカナダ初代副総督であったジョン・グレイブス・シムコー(John Graves Simcoe)によってすでにあった入植地の上に町が設立され、ヨーク・オールバニ公の名から町名をヨークと名づけられた。そして、シムコーはアッパーカナダの首都をニューアーク(現在のナイアガラオンザレイク)よりアメリカからの攻撃にさらされにくいであろうと考えられたヨークに遷都することを決めた。細長く延びる砂州によってできた天然港の入口に要塞である「フォートヨーク」が建設された。町の入植は現在のパーラメント通りとフロント通りの近く、半島の背後にあたる港から東部の辺りに設立された。

19世紀

1813年米英戦争の最中、ヨークの戦いで町はアメリカ軍に占拠略奪された。町の明け渡し交渉は、ジョン・ストラッチャン(John Strachan)によって行われたが、アメリカ軍の兵士は5日間の占領期間の間にヨーク砦を破壊し、国会議事堂に火を放った。

1834年3月6日、人口わずか9,000人であったがヨークの町は市制となり、名称を「トロント」へ改称した。初代トロント市長は急進的改革派の政治家ウィリアム・ライアン・マッケンジー(William Lyon Mackenzie)が就任した。彼は後の1837年に起きたアッパーカナダの反乱で、イギリス植民地政府であるアッパーカナダを相手に武装蜂起し、反乱軍を指揮したがあえなく敗退し、アメリカへ亡命することとなる。以後19世紀の終わりにかけて、トロントはカナダの代表的な移民先となり、急速に発展を見せた。最初の大きな人口流入は1846年から1849年に起きたアイルランドのジャガイモ飢饉によるもので、カトリック系アイルランド人が多く移り住んだ。

1851年には、トロント市内でアイルランド生まれの人口が単独で最も大きな民族グループとなった。数少ないプロテスタント系のアイルランド移民は、すでにいたスコットランド人とイギリス人に歓迎され、プロテスタント系の組合であるオレンジ結社はトロント社会に大きな影響力を持った。

トロントは1793年以来アッパーカナダの首都であった。また短い期間だが2回、最初の1849-1852年と2回目の1856-1858年の間、連合カナダの首都であった。首都であったことから市内には王室の名代である副王が住む総督官邸があった。カナダの首都はその後ケベックを経て、カナダ自治領が誕生する1867年の前年に現在のオタワへ移った。トロントは1867年のオンタリオ州設立の際には州都と定められ、クイーンズパークに州議会議事堂が建設された。

19世紀中頃、トロントでは急速に産業化が進んだ。大規模な下水処理施設が建設され、通りにはガス灯によって常時明かりが灯されるようになる。長距離鉄道が建設され、五大湖北部とトロントを結ぶ路線が1854年に完成した。グランド・トランク鉄道グレート・ノーザン鉄道は市街地にあった初代ユニオン駅の建物で結ばれた。鉄道の出現で劇的な数の人口流入と商業の発展が見られ、同時にオンタリオ湖を航行する蒸気船スクーナー船の入港も見られた。トロント鉄道会社が市政府より交通機関を運営する権利が与えられた1891年、輸送機関は馬車鉄道から電力で走る路面電車へと代わった。この会社は後に、北米の公共交通網としては3番目の規模をもつ現在のトロント交通局となる。

トロント港(1919年)

20世紀

1904年のトロント大火で市街地の大部分は焼失したがすぐに再建された。この火災で1,000万カナダドル以上の被害を受け、この経験からより厳しく安全な消防法が採用され、消防署の設置を増やすに至った。

19世紀後半から20世紀初頭にかけて東ヨーロッパの広い地域からドイツ人イタリア人ユダヤ人を中心に新しい民族グループの移民が見られるようになった。この後、続いてすぐに中国人ロシア人ポーランド人のほか、東ヨーロッパ諸国からの移民が目立った。そして、これらの新しい移民の多くは先のアイルランド人移民のように掘っ建て小屋のようなスラム街に密集して暮らすこととなる。スラム街となっていたいくつかの区域は、現在の金融街や先端医療の研究機関が集中するリサーチパーク(ディスカバリー地区)へと様変わりしている。1920年代、急成長にもかかわらずカナダ国内におけるトロントの人口と経済力は、より歴史あるモントリオールに甘んじて2番目だった。それでも1934年には、トロント証券取引所が国内最大の証券取引所となる。

第二次世界大戦後、戦争で荒廃したヨーロッパからの難民が流入し、またイタリアポルトガルからは出稼ぎの建設労働者が到来した。1960年代後半に人種別移民受入政策が撤廃されて以来、世界中から移民がやって来るようになった。1951年にトロントの人口は100万人を超え、以後大規模な郊外化現象とともに1971年には200万人を突破した。1980年代にはトロントの人口はモントリオールを抜いてカナダ最大となり、カナダ経済最大の拠点となった。この時期、ケベック州で再び独立の動きが強まったことで政治不安が広がり、多くのカナダ企業と多国籍企業は本社をモントリオールからトロントやカナダ西部の都市へと移転させた[10]

トロント市は1954年に発足した地方自治体メトロポリタン・トロントの一都市として組み入れられた。戦後のブームで郊外の急速な発展が進み、メトロ政府は土地利用と公共サービス提供の効率化のために、市町村の枠組みを超えて高速道路・公共交通機関・水道事業などのサービス提供を行った。1967年、メトロポリタン・トロントはメトロ内の7つの小さな町や村をより大きい都市へと統合し、トロントとその周辺の都市、イーストヨークエトビコノースヨークスカボロヨークの6つの都市で構成されるようになる。1998年にメトロポリタン・トロントは解体され、この6つの都市を合併し、現在の新制トロント市が誕生した。州の地方行政区では単一層自治体に位置づけられ、大きな行政権を持つ。

21世紀

2003年に発生したSARSアウトブレイクでは、感染の中心地の一つとなり注目を集めた[11]

2009年3月には市制施行175周年を迎えた。2010年6月にはG20サミットの開催地となり、カナダ各地域の警察官からなる統合治安部隊が組織され、サミット期間中のトロント中心部の警備を担った。直前に開催されたG8サミットと併せたこの治安維持活動はカナダ史上最大の規模となり、1,000人を超える逮捕者数もカナダ史上最大となった[12]


  1. ^ Government of Canada, Statistics Canada (2017年2月8日). “Census Profile, 2016 Census - Toronto, City [Census subdivision, Ontario and Ontario [Province]]”. www12.statcan.gc.ca. 2020年2月21日閲覧。
  2. ^ Government of Canada, Statistics Canada (2016年2月10日). “Table 1.1Population and demographic factors of growth by census metropolitan area, Canada”. www150.statcan.gc.ca. 2020年2月21日閲覧。
  3. ^ City of Toronto |  Toronto economic overview”. 2008年5月16日閲覧。
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  5. ^ 世界の安全な都市ランキング2019発表!トロントは世界6位、北米都市では1位” (日本語). lifetoronto.jp. 2020年2月21日閲覧。
  6. ^ JLL、世界の都市比較インデックスを分析「都市パフォーマンスの解読」を発表 JLL 2017年10月25日閲覧。
  7. ^ Natural Resources Canada | The real story of how Toronto got its name”. 2011年12月9日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2008年5月16日閲覧。
  8. ^ Jarvis Collegiate Institute | Fort Rouillé”. 2012年9月13日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2008年5月16日閲覧。
  9. ^ Jarvis Collegiate Institute | Toronto Purchase”. 2008年5月16日閲覧。
  10. ^ Journal of Canadian Studies | Westward ho? The shifting geography of corporate power in Canada | Winter 2002 | William K Carroll”. 2008年5月16日閲覧。
  11. ^ Laurance, Jeremy (2003年4月23日). “One family went on holiday – and made Toronto a global pariah”. The Independent. 2018年5月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月22日閲覧。
  12. ^ More than 1,000 people detained during G20 summit in Toronto can sue police”. The Guardian. Guardian News and Media Limited (2016年4月7日). 2016年7月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年7月15日閲覧。
  13. ^ Environment Canada | Canadian Climate Normals 1971-2000”. 2008年5月16日閲覧。
  14. ^ 1981 to 2010 Canadian Climate Normals station data TORONTO LESTER B. PEARSON INT'L A カナダ環境省”. 2014年8月7日閲覧。
  15. ^ 1961 to 1990 Canadian Climate Normals station data TORONTO PEARSON INT'L A カナダ環境省”. 2014年8月7日閲覧。
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  17. ^ Toronto Star.com - News | The city's new heart, Mar 09, 2007”. 2008年5月16日閲覧。
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  20. ^ CNE - About Us | Canadian National Exhibition”. 2008年5月16日閲覧。
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  23. ^ Global Financial Centres Index 21 Z/Yen Group 2017年4月5日閲覧。
  24. ^ City of Toronto | Urban Development Services (pdf)”. 2008年5月16日閲覧。
  25. ^ Language used at work by mother tongue in Toronto CMA, Statistics Canada (2001).
  26. ^ Language used at work by mother tongue (City of Toronto), Statistics Canada (2001).
  27. ^ City of Toronto: Emergency Services - 9-1-1 = EMERGENCY in any language”. City of Toronto. 2007年1月5日閲覧。
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  30. ^ Toronto, ON. Amtrak. 2016年7月3日閲覧
  31. ^ Toronto Union Station GO Station. GO Transit. 2016年7月17日閲覧
  32. ^ UNION STATION. Union Pearson Express. 2016年7月17日閲覧
  33. ^ The Canadian(TORONTO-VANCOUVER). VIA Rail Canada. P1. 2016年6月. 2016年7月17日閲覧 (PDFファイル)
  34. ^ The Canadian(VANCOUVER-TORONTO). VIA Rail Canada. P1. 2016年6月. 2016年7月17日閲覧 (PDFファイル)
  35. ^ Corridor(Toronto-Ottawa). VIA Rail Canada. P1. 2016年6月. 2016年7月17日閲覧 (PDFファイル)
  36. ^ Corridor(Ottawa-Toronto). VIA Rail Canada. P1. 2016年6月. 2016年7月17日閲覧 (PDFファイル)
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  38. ^ Corridor(Toronto-Montreal). VIA Rail Canada. P1. 2016年6月. 2016年7月17日閲覧 (PDFファイル)
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  40. ^ Corridor(Windsor-Toronto). VIA Rail Canada. P1. 2016年6月. 2016年7月17日閲覧 (PDFファイル)
  41. ^ Corridor(Toronto-Sarina). VIA Rail Canada. P1. 2016年6月. 2016年7月17日閲覧 (PDFファイル)
  42. ^ Maple Leaf. P2. Amtrak. 2016年4月24日. 2016年6月27日閲覧 (PDFファイル)
  43. ^ System Map. GO Transit. 2016年7月17日閲覧 (PDFファイル)
  44. ^ UP Express. 2016年6月27日閲覧
  45. ^ 日本車輌製造株式会社. 2012年7月6日. 2016年6月27日閲覧
  46. ^ Ontario Northland. 2016年7月3日閲覧
  47. ^ Toronto Discovery District FAQ | ”. 2008年5月16日閲覧。
  48. ^ Third time lucky for T.O. Games bid?, TheStar.com, 2007






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