トランプ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/08 02:48 UTC 版)
各地のカード
世界各地のカードは様々である。
- 枚数
- 1デッキの枚数も20枚から108枚まであり、ヨーロッパでは32枚や36枚というものが多い。ほとんどの日本人がトランプと言えば「52枚」が常識と思ってしまうのと同様に、イタリアでは40枚であることが常識であり、ロシアでは36枚であることが常識である。
- 英語圏のアメリカ合衆国でもピノクル専用の48枚のカードも市販されている。特殊な例ではあるが、フィリピンで112枚というものも存在する(四色牌に似た「クワホ」というゲーム用)。
- 32枚または36枚のカードはもともとピケという2人で行う古典的なトリックテイキングゲーム用のものでピケ・デックと呼ばれる。
- スート
- スートも地域によって異なる。
ラテンタイプ
イタリア、スペイン及びラテンアメリカ諸国で使われているスートで、剣、カップ、貨幣、杖(もしくは棍棒)よりなる。剣がスペード、カップがハート、貨幣がダイヤ、杖がクラブに対応する。ヨーロッパにカードが現れた当初の形式を保っており、16世紀の日本に伝えられたカードもこの形式であった。
各スートはそれぞれ、騎士(刀剣)、僧職(聖杯)、農民(棍棒)、商人(金貨)を表すとも言われる。ただしこれに特別な根拠はなく、俗説のひとつと見た方がよい。プレイングカードをベースに、『トランプ』と呼ばれる絵札を加えてタロットへと発展する際、小アルカナに付加された、いわゆるこじ付けの一つと思われる。このため、「占いに使われるタロットカードの小アルカナに愚者(フール)の札を加えてトランプが発生した」という説も間違いとされている。タロットはもともとは遊戯用のカードで、占いに転用されるようになったのは18世紀になってからである。近年ではタロットの方が、ゲームをより複雑で面白くするためにトランプに絵札を加えていったのではないか、とされており、逆にトランプからタロットが派生したと考えられている。
カードは全体的に細長い。
スペインのカードには数札の10がなく、絵札が10からはじまる。多くのゲームでは8や9も使用しない。絵札は sota(ナイトの従者、10)・caballo(ナイト、文字通りには「馬」、11)・rey(王、12)からなる。
イタリアのカードは8・9・10がなく、絵札は fante(歩兵、ジャック相当)・cavallo(ナイト、「馬」)・re(王)からなる。ただし、イタリア北西部(ミラノ・ジェノヴァ・ピエモンテ州)およびフィレンツェのトランプはフランスタイプのスートを持つ。とくにジェノヴァ・ピエモンテ州のものは枚数も36枚(数札が6から10まで)で、他のイタリアのトランプと異なる。
下はスペイン式カードの絵札である。王のインデックスが13でなく12になっていることに注意。
rey | caballo | sota |
ポルトガルでも、かつてはラテンタイプのカードを使用していた。現在はフランスタイプを使用しているが、スートの名前はラテンタイプのものをそのまま流用している。また、ブリスコラというゲームはポルトガルではジャックがクイーンより強いが、これはジャックの絵柄がかつての騎士に、クイーンが従者に似ているためである。
イタリアのラテン式スート | ||||
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スペイン様式(スペインおよびイタリアの大半で使用) | ||||
ピアチェンツァ | ||||
ナポリ | ||||
シチリア | ||||
ロマーニャ | ||||
サルデーニャ | ||||
イタリア様式(北イタリアの一部で使用) | ||||
ベルガモ | ||||
トレヴィーゾ | ||||
トリエステ | ||||
トレント | ||||
ブレシア | ||||
ボローニャ | ||||
和訳 イタリア語 スペイン語 |
剣 Spade Espadas |
カップ Coppe Copas |
貨幣 Denari Oros |
棍棒 Bastoni Bastos |
ドイツタイプ
ドイツのスートは鈴・心臓・木の葉・ドングリよりなる。木の葉とドングリは、絵札以外では中央に生えた木の枝からはえているように描かれる。9と10のカードは鈴と心臓では縦3列にマークを配置するが、木の葉とドングリは中央に木があるために2列にならざるを得ず、配置の仕方が異なる。ドイツのゲームでは、低位のカードを使用しないことが多い。たとえばスカートでは2から6までを使用しない。Aに相当するカードは「ダウス」と呼ばれるが、これは実は2のことである。絵札は「ウンター(低ジャック)・オーバー(高ジャック)・ケーニヒ(王)」よりなる。
スイスのスートは鈴・盾・野バラ・ドングリよりなる。やはり2から5までを使用しないのが普通である。10には旗の絵が描かれており、バナーと呼ばれる。
フランスタイプと英米タイプ
フランスタイプ
15世紀の後半にフランスで現在日本で見る形のスートが生まれた。当時は多色刷りの技術がなく、色はステンシルを使って手で塗っていたため、製造を容易にするためにドイツタイプのスートを単色に変更し、スートのシンボルの形を極端に単純化したものである。
フランス語 のカードは「1」から始まる。あくまで「1」であって「A」ではない。 「1」〜「10」の次は valet ヴァレ(=侍者、従者)、dame ダーム(=女王)、roi ロワ(=王) であり、インデックスにも通常「V・D・R」の文字が記されている。
フランスでは、一般に、トランプの絵札に実在もしくは伝説の人物を当てはめられていて、人物の絵が1枚1枚異なっている。16世紀にフランスのパリで作られたものは、以下の通りの人物に当てはめられていた。これが、現在のフランスのカードのデザインに継承されている。
従者 Valets | 女王 Dames | 王 Rois |
---|---|---|
ラ・イル ジャンヌ・ダルクの戦友。 英語読みなら「ラハイア」。 |
ユディト 『旧約聖書』外典の一つ「ユディト記」に登場するユダヤの女戦士。[注 3]英語読みなら「ジューディス」。 |
カール大帝 シャルルマーニュ、中世のフランク国王。 |
へクトール ギリシア神話に登場するトロイの王子。 トロイア戦争の英雄。 他説ではシャルルマーニュ伝説に登場する騎士ローランとも云われている。 |
ラケル 旧約聖書のヤコブの妻。 |
カエサル ジュリアス・シーザー。古代ローマの政治家、軍人。 |
オジェ・ル・ダノワ カール大帝の騎士。 デンマークでは ホルガー・ダンスクの名。 英語読みでは「オジーア・ザ・ダン」。 |
パラス ギリシャ神話のトリトンの娘。もしくは友人であるパラス・アテナ。こちらはギリシア神話の戦いの女神。[注 4] |
ダビデ王 『旧約聖書』の「列王記」に登場するソロモン王の父 古代イスラエル国王。 |
ランスロット 『中世騎士物語』に登場するアーサー王に仕えた円卓の騎士の一人。 |
アルジーヌ ラテン語の女王を意味する単語・レーギーナのアナグラム(Regina→Argine)で、英語読みなら「アージン」。[注 5] |
アレキサンダー大王 ギリシア時代のマケドニア国王。 |
これに対して、ルーアンではスペード、ハート、ダイヤ、クラブの順に、Roi(王)をダビデ、アレキサンダー、カエサル、カール、Dame(婦人)をパラス、ユディト、ラケル、アルジーヌ、Valet(侍者)はヘクトル、ラ・イル、オジェ、ランスロ、とされている。
パリの組み合わせがフランスで広まって現在に至っている。現在でも一般的に使われている。
上記のフランスタイプ(特にパリのデザイン)は現在でも、フランスで一般的、ごく当たり前であり、フランスおよびフランスの(旧)植民地や海外県などで用いられている。このフランス式デザインは日本でも輸入玩具のショップなどで買うことができる(フランスではあくまでフランス語を使い、基本的に英語の使用を嫌うので、一般に「A」「J」「Q」「K」などと書かれた英米式のカードは使わない)。
英米タイプ
フランス・ルーアンタイプのカードが16世紀の英国に伝わった。
なお英語圏では、スートのデザインはフランスと同じであるが、名称の “spade” はイタリア語の spada スパーダ (=剣)に由来し、クラブは「棍棒」の意味であるなど、ラテンタイプに由来する名前がついている。
フランスのカードでは、スートごとに特定の英雄などが割り当てられていて人物のデザインもひとりひとり異なっていたが、イギリスのカードでは、特定のモデルはいなくなった。
この英国式のカードがイギリスの植民地(米国を含む)や明治以降の日本で普及した。
日本で一般的なカード
明治時代以降に日本で一般的に使われるようになったトランプは(もともとは「フランスタイプ」を変化させた)「英米(アングロアメリカン)タイプ」と呼ばれるものである。その結果、イギリスやアメリカで行われているゲームや英語の用語をカタカナに置き換えたものが多い。この他にはうんすんカルタのようなポルトガル様式系のものもある。
52枚のカードから構成されるが、通常はジョーカー1〜2枚を含んだ53〜54枚の形で市販されている。ジョーカーが2枚含まれる場合は1枚はエキストラ・ジョーカー[11](準札)としてもう1枚よりも色を抑えて印刷されることが多い。また、コマーシャルカードと呼ばれるコントラクトブリッジの点数表(ラバー方式)や広告などがもう1枚つく製品もあり、これをエキストラ・ジョーカーと同じ扱いとする場合もある。なお、そのような用途で用いられたコマーシャルカードは日本国内では俗にジジと呼ばれている。
ジョーカー以外の52枚の札は、スペード、ハート、クラブ、ダイヤの4種のスート(絵柄マーク)に分かれており、各スートには13の「ランク」(番号)の札がある。
13のランクは、A(エース)、2、3、4、5、6、7、8、9、10、J(ジャック[注 6])、Q(クイーン)、K(キング)となっている。J・Q・Kの3つのランクには通常人物の画像が描かれており、まとめて「絵札(コート・カード、court cards、またはフェイス・カード、face card)」と呼ばれ、それ以外は数札(スポット・カード、spot card)と呼ばれる。上下逆に持ったときにひっくり返す手間を省くため、絵札には上下に2つの半身像が描かれていることが多い。この形式を「ダブルヘッド」と呼ぶ。多くのゲームではエースは単なる1ではなく、Kよりも強いカードとして扱われることが多い。2をデュースと呼ぶ事もある。エースおよびデュースは元々それぞれダイスの1および2を表す言葉である。以前は3〜6はそれに倣って順にトレイ、ケイト、シンク、サイスと呼んでいた事もある。A・K・Q・J・10の5枚を「オナー・カード(またはアナー・カード、英: honor card)」と呼ぶことがある。
カードの左上と右下の端には通常「
」「 」のようにインデックスが記されている。以上の1揃えで、デッキ(deck、デックとも)またはパックと呼ぶ。
スート | A | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | J | Q | K |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
呼び名 | エース | デュース | トレイ | ケイト | シンク | サイス | セブン | エイト | ナイン | テン | ジャック | クイーン | キング |
クラブ | |||||||||||||
ダイヤ | |||||||||||||
ハート | |||||||||||||
スペード |
花札トランプ
スートの種類と数マークが左上と右下のみで、中央部の絵柄が数に対応した花札の月になっているもの(株札の筋が背景に併記されている場合もある)。花札・株札(10月までを使用)・トランプのいずれにも使える。任天堂はじめ複数の製造業者で作られている。13月=閏(雪)は八重垣姫(光)、竹に雀(タネ)、黄短冊(タン)、黄雪[注 7]の4枚、0月=ジョーカー(蓮)はカス札2枚。何も書かれていない予備の白札。業者によってはキングとジョーカー用のタネ札の絵柄(虎や龍ほか)や花種(13月が稲穂に朱鷺、0月が雷)[注 8]、短冊の文字(「さゝめゆき」など)が異なる。
通常のトランプではスペードのエース(オールマイティ)にあることが多い商標は、ダイヤモンドのクイーン(桐の第二札)にある。
ポリティカルコレクトネス対応トランプ
絵札がJ(ジャック)・Q(クイーン)・K(キング)ではなく、B(ブロンズ)・S(シルバー)・G(ゴールド)になっているもの。カードの序列を人で決めていること、特にQよりKのランクを上にしてることが女性より男性の方が格が上としておりジェンダーバイナリーに縛られていてふさわしくないこと、白人だけが登場するのも人類平等に反しているということで、人ではなくかつメダルの順位にも使われ世界的に馴染みのあるB・S・Gを採用している。
注釈
- ^ カードの名称ではないが、マイクロソフトがWindowsにクロンダイクというゲームをソリティアという名称で添付したため「ソリティア」という本来は1人ゲームを指す総称が「クロンダイク」という1種類のゲームを指して(誤って)使われている、という例がある。
- ^ 「daun」=葉
- ^ もしくはカール大帝の子ルートヴィヒ1世の妻。
- ^ ローマ神話ではミネルウァ。
- ^ モデルはシャルル7世の妻であるマリー・ダンジュー(Marie d'Anjou、アラゴンのマリーとも)、もしくは愛人のアニェス・ソレル (Agnès Sorel)、またはこの二人を混合したものとされている。また一説としておそらくギリシャ神話のアルゲイアー、若しくはアルゴー船を制作したアルゴスの母親とされる。
- ^ 古い英語では knave /neɪv/ と呼ぶのが正式だった。「少年、召し使い」の意。
- ^ 八重垣姫は上杉謙信の娘(創作・『本朝二十四孝』など)、黄色は藤原氏(信長の黄色の幟に織田木瓜が有名)、「竹に雀」の家紋は伊達家も使用。
- ^ 「錦札」は株札が筋でなく漢数字になっている。
- ^ 実際のパーレットの本ではクリベッジは「Matching games」に分類されているが、ここに属するものはクリベッジしかない。パーレットの他の本ではクリベッジを「Adding-up games」に入れているので、こちらに移動した
- ^ 骨牌(こっぱい)とは源義は骨で作られた(麻雀用のような)牌のことだが、ここではトランプや花札などギャンブルに用いられるカードのこと。特にトランプのカードを指すこともある。たとえば北原白秋の詩『骨牌の女王の手に持てる花』は「骨牌」をトランプと解さなければ「女王」(Qのカード)に意味が繋がらない(「カルタのクインの〜」と詠む)。このためたとえば森歐外『舞姫』より引用「今宵は夜毎にこゝに集ひ來る 骨牌(カルタ)仲間も「ホテル」に宿りて、」の「カルタ」は「カード」で(国際航路の客船といった背景などから)これはトランプを指していると解される
- ^ なお、いわゆる「児童用トランプ」は非課税
出典
- ^ “カードゲーム「トランプ」意外と知らない基本”. 東洋経済オンライン (2016年8月3日). 2020年11月26日閲覧。
- ^ 『大辞林』
- ^ (永松憲一 2001, p. 15)。
- ^ (明)陸容『菽園雑記』第十四巻:「闘葉子之戯、吾崑城上自士夫、下至僮豎皆能之。予游崑庠八年、独不解此。人以拙嗤之。近得閲其形製、一銭至九銭各一葉、一百至九百各一葉、自万貫以上皆図人形、万万貫呼保義宋江、千万貫行者武松、百万貫阮小五、九十万貫活閻羅阮小七、八十万貫混江竜李進、七十万貫病尉遅孫立、六十万貫鉄鞭呼延綽、五十万貫花和尚魯智深、四十万貫賽関索王雄、三十万貫青面獣楊志、二十万貫一丈青張横、九万貫插翅虎雷横、八万貫急先鋒索超、七万貫霹靂火秦明、六万貫混江竜李海、五万貫黒旋風李逵、四万貫小旋風柴進、三万貫大刀関勝、二万貫小李広花栄、一万貫浪子燕青。或謂賭博以勝人為強、故葉子所図、皆才力絶倫之人、非也。蓋宋江等皆大盗、詳見『宣和遺事』及『癸辛雑識』。作此者、蓋以賭博如群盗劫奪之行、故以此警世。而人為利所迷、自不悟耳。記此、庶吾後之人知所以自重云。」
- ^ Wilkinson, William Henry (1895). “Chinese Origin of Playing Cards”. The American Anthropologist (Volume VIII): 75 .
- ^ 津山洋学資料館
- ^ トランプ(オランダカルタ)(仙台市博物館)
- ^ 桜城酔士(1885)『西洋遊戯 骨牌使用法(かるたのとりかた)』団々社(国会図書館近代デジタルライブラリー)
- ^ “一.骨牌税法の制定 - 日本かるた文化館”. 2020年6月5日閲覧。
- ^ “任天堂株式会社:会社の沿革”. 任天堂ホームページ. 2020年6月5日閲覧。
- ^ 中原 弘『トランプの遊び方 ゲームと占い』株式会社新星出版社、1977年11月25日、25頁。
- ^ たとえば KEMのサイトの説明を参照
- ^ Parlett, David (1992,2004). The A-Z of Card Games. Oxford University Press. ISBN 9780198608707
- ^ a b c d 印紙・証紙 小さなグラフィックデザインの世界 お札と切手の博物館、2018年11月6日閲覧。
- ^ 松田道弘『トランプものがたり』岩波書店〈岩波新書〉、1979年。
- ^ Unicode 6.0.0, Unicode, Inc., (2010-10-11)
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