デンタルインプラント 咬合・補綴

デンタルインプラント

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/26 06:51 UTC 版)

咬合・補綴

天然歯の場合は歯根と骨の間に歯根膜があるため咬合した際30μm沈下する。しかしインプラントの場合はフィクスチャー(インプラント体)が骨にダイレクトに固定されているため、沈下量は5μmである。そのため、天然歯と同等の咬合を与えるとインプラントにオーバーロード(過重負担)がかかり補綴物の破損、インプラントのロスト等の問題が起こる。そのためインプラントの咬合調整は歯根膜がない事を考慮し天然歯より25μm低く調整する[12]

ナソロジー的な咬合の考え方として前歯は臼歯が完全に沈下した時点で初めて前歯部が接触する咬合の付与が推奨されている。臼歯部の歯根膜による沈下量は前述の通り30μmであるため上下歯で合計60μmとなるが、前歯部にも当然歯根膜があるため補正され、天然歯の場合は臼歯が軽く咬み合う際に前歯部は30μm離開している事が望ましい。一方でインプラントの場合は歯根膜がないため前歯部の調整の際は60μmの離開量が必要となる[12]

インプラントを臼歯部で3本並べて配列する際、一本を2~3mm横にずらして配列するとベクトルが分散され水平力が20~60%軽減するという報告がある[11]。この配列方法の事をオフセット配列と呼ぶが、臼歯部の清掃性が劣るケースがあった。1990年代、各インプラントメーカーが直径の太いワイドタイプインプラントを開発発売したために、クラウンブリッジタイプの上部構造では、このような配列よりも、骨幅がある限りは、部位ごとに適切な直径のインプラント埋入を行うことが推奨される。

ハイドロキシアパタイト(HA)コーティングインプラント

HA被覆インプラントは2011年現在、全インプラントの30%を占めるに至っている[13]。HA被覆インプラントの利点は、植立時にインプラントと骨組織間に密着を必須としないこと、インプラント周囲の骨形成不全に至る可能性が低いこと、骨不良部位にも適応可能であることである[14]。インプラントへのHAのコーティング方法はプラズマ溶射が主流であるが[15]、プラズマ溶射はアモルファス相を多く含むためHAの組成が不均一になり骨結合の欠落、HA皮膜の溶出というリスクの報告もあり[15]、この問題を解決する方法としてHA皮膜を薄膜化することが検討され、スパッタ法、イオンビーム法、レーザーアブレーション法などが開発されている。

骨結合の喪失の原因

インプラントは様々なデータがあるが一般的に200本入れると5本は定着せずに脱落(ロスト)してしまう[7][8]。 ロストの原因には以下のものが考えられる。

  • インプラント周囲炎 - インプラントも天然歯における歯周病と同様に感染を起こし、インプラント周囲の骨を失う事がある。経年的にロストする一番の原因がこれである。予防には定期的な検診、ケアが有効。主にチタンでできているインプラント自体は半永久的とも言える長さでもつものであるが、それを受け入れる人体の方は感染等のリスクに常にさらされ、また経年的に変化する有機体である。「インプラントはどのくらい持つのか?」という命題に対しては平均的なデータは存在するが、すべての人が平均寿命まで生きる事ができないのと同様にあくまで個人の遺伝的性質、ライフスタイル等に大きく左右される一人一人異なるものだという理解が手術を受ける患者サイドにも必要である。
  • 感染。術前の処置、術中の不注意、術後の処置や患者の不衛生。
  • オーバーロード(過重負担)。患者の骨の状態や咬合力の判断ミスで不適当なインプラント体の採用、一回法のように治癒期間が短く固着が弱いケース、硬いものをかむ等の事故、それらが原因となる。
  • 火傷-ドリリングの際の発熱による火傷により定着しない場合がある。概形を掘る場合はさほど問題がないが、インプラントに接する面に関しては低速でできるだけ発熱を抑えてドリリングをする必要がある。特に固すぎる骨の場合は繊細で慎重な埋入窩の形成が望まれる。
  • オッセオインテグレーションに関与する遺伝子。これは遺伝子的にインプラントが定着しづらい人の存在を示唆する。将来的には術前にインプラントに適した体質かどうか検査を行う事によって、インプラントの成功率の向上が期待可能である。この分野の研究はアメリカで特に進み日本では岡山大学歯学部などで研究されている。

  1. ^ a b c d 畑好昭「今と昔のインプラント」『明倫歯科保健技工学雑誌』第11巻第1号、明倫短期大学新潟県新潟市、2008年3月、 3-8頁。
  2. ^ a b c Shulman, LB; Driskell, TD: Dental Implants: A Historical Perspective. In Block, M; Kent, J; Guerra, L, editors: Implants in Dentistry. Philadelphia: W.B. Saunders, 1997. page 2.
  3. ^ “Bone healing at implants with a fluoride-modified surface: an experimental study in dogs.”. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?Db=pubmed&Cmd=ShowDetailView&TermToSearch=17269959&ordinalpos=2&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum 
  4. ^ デンツプライ三金 (2008年3月13日改訂). “セルコンアバットメント(フリアデントセルコンアバットメント)”. 医薬品医療機器総合機構. 2010年3月10日閲覧。
  5. ^ 色川裕士、佐藤孝 弘、藤井規孝、橋本明彦、野村修一「当科における過去5年間のインプラント治療の臨床統計的検討」『新潟歯学会誌』第32巻第2号、新潟歯学会新潟市中央区、2002年12月、 285-289頁、 ISSN 0385-01532010年3月9日閲覧。
  6. ^ 、神村正人、木村瞳、田 代教二、山田俊介、大森佳二、大坪由佳、山田勝己、城戸寛史、高橋裕、佐藤博信、松浦正朗「高齢者に対するインプラント治療の現状について」『日本口腔インプラント学会誌』第19巻、日本口腔インプラント学会東京都港区、2006年、 349頁。
  7. ^ a b 、ENGFORS、ORTORP (2002). “Fixd implant-supported prostheses in elderly patient :A-5 year prospective study”. Clin.Implant.Dent.Relat.Res 6: 97-102. 
  8. ^ a b c 鶴巻浩「70歳以上の高齢者における歯科インプラント治療についての実態調査」『日本口腔インプラント学会誌』第22巻、日本口腔インプラント学会、東京都港、2009年9月、 330-337頁、 ISSN 0914-6695
  9. ^ デンツプライ三金 (2008年3月13日改訂). “セルコンアバットメント(フリアデントセルコンアバットメント)”. 医薬品医療機器総合機構. 2010年3月10日閲覧。
  10. ^ PICONI,C MACCAURO,G (1999). “Zirconia as a ceramic ciomaterial”. Biomaterials 20: 1-25. 
  11. ^ a b 「インプラントの咬合」保母 須弥也、細山 愃 著 クインテッセンス出版 ISBN 978-4874179338
  12. ^ a b インプラントの咬合、保母 須弥也著、ISBN 978-4874179338
  13. ^ アールアンドディ偏。歯科機器・用品年鑑:2008年度版
  14. ^ MOrris HF,Ochi S Hydroxyapatite-coated implants:a case for their use.J Oral Maxillofaf Surg 1998;56;1303-1311
  15. ^ a b 堤厚二・永山正人・富田達洋・三島顕・賀来亨「歯石様石灰化物の付着を認めたHAコーティングインプラントの撤去症例について」『日本口腔インプラント学会誌』第14巻、日本口腔インプラント学会東京都港区、2001年、 461-469頁。
  16. ^ 虫歯の人が妄信してしまう危険な歯科医5例 インプラントが「骨を突き抜ける」ケースも 東洋経済オンライン 2018年8月19日
  17. ^ インプラントにも歯周病 速い進行、気付かぬことも 47news 2012年6月5日
  18. ^ 「ワンピース型」インプラントのリスク、顎骨壊死や神経症も NEWSポストセブン 2018年8月18日
  19. ^ 硬組織のみ切削
  20. ^ 『インプラントを支台としたカンチレバーの10年後の調査』 Curtis M Becker「Quintessence International」 6/2004





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