テクノロジー 問題点

テクノロジー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/12 08:10 UTC 版)

問題点

排煙が大気汚染を引き起こしている。(→公害環境破壊
原子爆弾。写真は長崎原爆のキノコ雲
1945年8月9日
広島原爆の被害者。(1945年10月。日本赤十字病院)
チェルノブイリ原子力発電所事故後、建屋をコンクリートで固めた通称「石棺」

テクノロジーは自然破壊環境破壊を引き起こすことがある。 第二次世界大戦中に開発された原子爆弾は、その威力が通常兵器と比べて極端に大きく、人間を無差別かつ大量に殺戮する大量破壊兵器である。冷戦時代にも西側・東側の両陣営は大量の核兵器を保有し、米国ソ連の元首の判断次第でボタンひとつを押させ核戦争が勃発すれば、結果として人類がほぼ全滅する、と専門家らが予想するほどの状態にまでなった。

ウクライナ国立チェルノブイリ博物館に展示されている、事故で拡散した放射性物質の影響で奇形になった豚の子

原子力発電所では安全性を確保しきることができず原子力事故を何度も引き起こした。放射線により人々の生命を奪ったり、放射性物質を拡散させてしまい遠方の人々の健康にまで悪影響をもたらすことになった。

テクノロジーと哲学

技術主義

technicism技術主義あるいは技術崇拝)とは、“人類はいつの日か全ての問題を解き明かし、テクノロジーを使って未来を制御できるようになる”などとする主張や考え方のことである[注釈 2]

技術史観

技術史観(theory of technological development)とは、歴史は究極的には技術進歩により発展する、という見方[42]。技術史観にとって思想文化・社会制度は普遍的でなく盛衰を繰り返すが、技術は普遍的であり進歩・発展し続けている[42]。人間の生活様式・社会関係・社会構造・文化・思想の飛躍的変化は、新技術(の発明と普及)によって起きるとされる[42]。「農業革命産業革命エレクトロニクス革命」という段階的用語は、その例である[42]

楽観論

テクノロジーの進歩が社会や人間性にとって有益だという楽観的な仮定をする者として、トランスヒューマニズム技術的特異点信奉者がいる。このようなイデオロギーでは、テクノロジーの進歩は道徳的にも肯定される。逆に批判的な者はこれらを科学万能主義やテクノユートピア主義の例とし、彼らが望む人間強化技術的特異点に懸念を表明している。

テクノロジー楽観主義者の例としてカール・マルクスが挙げられることもある[43]

悲観論

逆にテクノロジーが進歩した社会には本質的に問題があるという悲観的見方をする者として、ヘルベルト・マルクーゼやジョン・ザーザンがいる。彼らは、そのような社会が技術的であるために、結果的に自由精神的健全さを犠牲にするだろうと示唆した。

哲学者マルティン・ハイデッガーも、テクノロジーに対して真剣な懸念を持っていた。ハイデッガーは "The Question Concerning Technology" の中で「したがって、我々が単にテクノロジーを生み出し発展させる限り、テクノロジーの本質との関係を我々が経験することはなく、我慢することも回避することもない。我々はあらゆる場所でテクノロジーにつながれ、自由を奪われている。それは、我々がテクノロジーを熱望するか拒否するかとは無関係である」と書いている[44]

ハイデガーの技術論としばしば比較されるのが、フランスのプロテスタント思想家、ジャック・エリュールの技術社会論である。技術の「自律性」を主題とするエリュールの技術社会論は、技術決定論の典型としばしば見なされ、現代社会を抜け道のない「鉄の檻」として誤って描き出したとして批判されてきた。

テクノロジーへの最も痛烈な批判としては、今ではディストピア文学の古典とされているオルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』、アンソニー・バージェスの『時計じかけのオレンジ』、ジョージ・オーウェルの『1984年』などがある。また、ゲーテの『ファウスト』ではファウスト博士が悪魔に魂を売って物理世界を超越した力を得るが、これはテクノロジーによる工業化の進展の比喩と解釈されることがある。

1980~90年代の反テクノロジー的論文のひとつとして、セオドア・カジンスキーユナボマー)の Industrial Society and Its Future を挙げることも可能であろう。彼の起こした爆破事件をやめさせるため、この論文が複数の主要な新聞に掲載され、後には本にも収録された。カジンスキーは、エリュールの技術社会批判から少なからぬ影響を受けたと言われている。

核兵器の開発・保有・使用がもたらす危険性は世界中で危惧されている。現在、核兵器全般に、包括的核実験禁止条約核不拡散条約などで規制されている。核廃絶を求める人々は多い。

また、原子力技術の領域では十分な安全性を確保しきれていない状態であるという事実を踏まえて、ヨーロッパではドイツなどで原子力発電のテクノロジーには反対する人々が多い。ドイツでは原子力発電所の全廃を実施、ベルギーでも議会ですでに全廃法案を可決し、その実施が進んでいる。こうした運動を反原子力運動とも言う。

最近の議論として、コンピューター・通信・バイオテクノロジーなどの急速な進展とは裏腹に、エネルギーや宇宙開発などの技術は長期間停滞しており、それが経済に影響しているという説もある。

適正技術

20世紀にはジャック・エリュールらにより、適正技術 (appropriate technology) という考え方が出てきた。これは例えば、文明が及んでいない僻地では修理が困難な最先端のテクノロジーを持ち込むのは不適切だとする考え方である。エコビレッジの考え方もこれに関連して生まれた。

人類以外のテクノロジー

ゴリラが木の枝を水深を調べるのに使っている。
Credit: Public Library of Science

初歩的なテクノロジーは人類以外の動物でも見られる。例えばチンパンジーなどの霊長類やイルカ[45][46]カラスなどである[47][48]。テクノロジーをより広い意味で捉え、能動的に環境を調整し制御しようとする動物の行動も含めると、ビーバーの作るダムやミツバチの巣なども含まれる。

従来、道具を作って利用する能力は、ヒト属に固有のものと考えられていた[49]。しかし、チンパンジーなどの霊長類が道具を作る例が見つかり、テクノロジーは人類固有のものではないことが明らかとなった。例えば、野生のチンパンジーが道具を使って食料を探す様子が研究者によって観察されている[50]。西アフリカのチンパンジーは石をハンマー金床のように使って木の実を割っており[51]ブラジルオマキザルも同様の行動を見せる[52]


注釈

  1. ^ 狩猟採集社会の人類の小集団は、男は全員で狩猟に参加し(待ち伏せ役、追い立て役などに分かれ)得た獲物は、直接仕留めた人のものではなく、追い立て役の人にも待ち伏せ役の人にも平等に権利があり、そのメンバー全員で獲物の肉を平等に分けるというルールを持っていた、と(現代でも秘境にほそぼそと残り狩猟採集社会を保っている部族の研究などによって)人類学は明らかにしている。そして狩りの道具の制作も、全員が行った。そのかわり、どの作業も素人的で、素朴な道具しか作れなかった、と考古学や人類学は明らかにしている。
  2. ^ Stephen Monsma などにいたっては、この技術崇拝の考え方を、より高次の道徳的拠り所としての宗教の放棄に結び付けているのだという[41]

出典

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