ティップ (ビリヤード) メンテナンス

ティップ (ビリヤード)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/14 21:24 UTC 版)

メンテナンス

「適度な丸み」はプレイヤーにより異なる

ティップで最初に行われるメンテナンスはティップ表面へ丸みを与えることである。後述するやすりなどのツールを利用して必要な丸みを作っていく。この丸みがどれくらいにするのが適切であるかはプレイヤーの好みやプレイスタイルにより違い、捻りを多用するプレイヤーほど丸みをつける傾向にある[17]。一般的にティップ表面の丸みは硬貨の外周が目安とされ、日本では「10円の丸み」などと説明される。

プレイを重ねていくうちにティップは手球を撞いた衝撃を受け、横方向へ膨らんでくるので小まめなメンテナンスを必要とする。膨らんでしまった側面を紙やすりなどで削ったり、指やメンテナンスツールを利用して側面方向に圧力をかけて膨らまないように締める、革を良い状態に保つためにバニシャーや唾液を側面より馴染ませて空拭きをする、プレイヤーによっては黒いフェルトペンを利用し側面を塗りつぶす[21]などのケアをする。なお、積層ティップはこのような側面方向への膨らみに強い傾向があり、メンテナンスを行わずとも長期間に渡って品質が保たれると言われる[26]

またそのような衝撃によりティップの表面が硬化し、チョークが付着し辛くなった結果キューミスが多くなる。このような場合はティップ専用に開発されたメンテナンスツールを利用したり、金属やすりで叩くなどして表面を微小に傷つけ、ティップを揉むというメンテナンスを行い、チョークが付着しやすい状態にすることが必要となる。

チョークの付着が悪くなった場合やキューミスが増えるなどした場合、やすりなどで表面をごっそりと削り取って毛羽立たせることがあるがこれを行うには注意が必要となる。毛羽立たせたティップの表面にチョークを塗った場合、チョークの粉が毛の間に入り込むが、手球を撞いた衝撃でチョークがスパイクの役割をし、ティップ表面の繊維が削ぎ落とされてしまってキューミスが起こりやすくなってしまうためである[25]。また、ティップ表面がティップ交換後と同じような状態となるため、また改めて撞き締めを行ってティップのコンディションを整えなおさなければならない。

交換サイクル

ティップを交換するサイクルはプレイヤーによって異なるが、基本的には同じティップを半永遠的に使い続けることはできない。数ヶ月で交換するプレイヤーもいるが、この多くはティップのメンテナンスによりティップが磨耗して厚みがなくなっていくためである[27]。ティップの厚みが失われて薄くなるにつれて接着している先角への負荷は増えていき、手球を撞く際に生じる衝撃が先角へダメージとして蓄積されていき割れてしまうことがある。そのため、先角が割れる可能性があるほど薄くなって来た場合に交換の目安にすると良い[28]。プロ選手の場合はティップの状態を見極め、試合時期に合わせて交換することもある[28]

また、ティップを短いサイクルで交換するプレイヤーの中には新しいティップを試し、フィーリングが合わないという理由から交換した直後でも再度ティップを付け替えるということをする場合もある[14]。他にもティップの表面が少しが硬くなってしまった際に、ティップ表面を揉んだりせずに取り替えるプレイヤーもいる[14]。ティップにはアタリ・ハズレが存在することから、ハズレのティップだと判断した場合にすぐに取り替えるというプレイヤーもいる。

交換手順

ティップの交換をするには大まかに以下のステップを踏む。メンテナンスに必要なツールについては後述する。

  1. 革断ちナイフを利用してティップの大部分を切り落とす
  2. カッターナイフの刃を使い、先角に残ったティップをこそぎ落とす
  3. 目の細かい紙やすりなどを用い、先角の先端を水平に整える
  4. ティップの接着面を金属やすりに当て水平に削る
  5. 接着剤を塗り、ティップを先角へ接着する
  6. ティップクランプなどでティップを固定し、接着剤の乾燥を待つ
  7. 先角より横方向へはみ出たティップ側面を革断ちナイフで切り落とす
  8. 金属やすり、ティップシェイパーでティップ表面の丸みを整える

ティップ交換に必要なメンテナンスツールを買い揃え、自ら交換を行うことができるプレイヤーもいるが、ティップ交換自体はある程度の熟練を要するため、作業に慣れていない場合は革断ちナイフの刃で先角を傷つけてしまうことがある。そのためビリヤードショップやビリヤード場に依頼して交換してもらうプレイヤーも多い。ただし、このような場合には工賃(手間賃)が掛かる場合もある。

メンテナンスツール

やすり

ティップ交換時に新しいティップの接着面を水平にならしたり、ティップ表面に適度な丸みを与えたり、微細な傷を与えてチークの付着具合を良くするために金属やすり紙やすりが利用される。ただし、紙やすりはティップの接着面を水平にならす作業には向いていない。例えば、目詰まり防止の対策が図ってある紙やすりを利用して接着面をならした場合、剥離したやすり目がティップへ付着することがあり、交換したばかりのティップが取れやすくなることがある[29]

ティップシェイパー

ティップに適度な丸みをつけるために開発された特製のやすり。お椀型に窪んだ面や竹を4分割したような形の湾曲した面に沿ってやすり目がつけられている。これらのティップシェイパーを利用すると熟練を要さずに適度な丸みをティップに与えつつ、表面を毛羽立たせることができる。丸み、やすり目の粗さなど、メーカーにより異なっている。また、複数の窪みが用意され、好みの丸みを与えられるようになっているものもある。

ナイフ

革断ち

ティップ交換時に古いティップを切り取るために利用したり、ティップ交換後にキューの先端から側面にはみ出ている部分を切るために利用される。切れない刃を使った場合は革にダメージを与えることがある。

カッター

ティップ交換時に古いティップの大部分は革断ちで切り落とすが、先角に残った微小な革はカッターナイフの刃を先角の先端に当ててこそぎ落とす。こそぎ落とした後、カッターの刃を倒して先角の接着面へ当てて、隙間から漏れてくる光がないことを確認する作業にも利用される。ここで光が漏れてくる場合は接着が甘くなる可能性があり、ティップが取れやすくなる。

接着剤

接着剤の結合が弱いと手球を撞いたときの衝撃でティップが外れてしまうことがあるため、どの接着剤を使うかを研究しているプレイヤーもいる。木工用ボンドが用いられることもあったが乾燥までに時間が掛かることもあり、ゲル状の瞬間接着剤が用いられるなどしている。

ティップクランプ

ティップと先角との接着面がしっかり乾燥するまでティップをキュー先へ押し付けて固定しておくためのもの。接着剤の発達によって乾燥するまでの時間が短縮されたこともあり、指で強く押さえるだけで済む場合もある。

旋盤

旋盤はシャフトのメンテナンス時に利用されることが多いが、ティップの交換時にも利用されることがある。

旋盤を利用してティップをつけた場合、回転による摩擦熱が接着面に発生して接着剤が軟化してしまう。そのような状態に旋盤による回転がさらに掛かるとねじれた状態で接着されてしまい、積層系のティップは取れやすくなることがある[30]。そのため、切れる刃を利用して旋盤の回転数を下げて作業を行うという対策が奨励される[30]


  1. ^ 「タップ」という呼称は正しくないが日本ではこれが広く定着しており、専門の雑誌や書籍でも「タップ」と表記されている。なお、スヌーカープレイヤーは正しい呼称を使って呼んでいる。
  2. ^ 直接手に持つことが許されるのは、相手がファールを犯した場合やブレイクショットの際に手球をキッチン内に置きなおす場合に限定される。
  3. ^ a b CUE'S(2005年10月号 p.14)
  4. ^ a b CUE'S(2005年10月号 p.30)
  5. ^ CUE'S(2008年7月号 p.87)
  6. ^ CUE'S(2005年10月号 p.31)
  7. ^ CUE'S(2008年7月号 p.86)
  8. ^ a b c CUE'S(2005年10月号 p.28)
  9. ^ 後にジナキューの純正ティップとしてモーリが付けられることとなった。
  10. ^ CUE'S(2006年5月号 p.77)
  11. ^ CUE'S(2008年1月号 p.35)
  12. ^ モーリティップは「ベジタブルタンニング」と呼ばれるなめし方法を採用した革が利用されている。高級なブランド革製品に利用されているタイプのものであるが、これを採用している理由は粘弾性が良いことだという。CUE'S(2005年10月号 p.29)
  13. ^ a b CUE'S(2008年8月号 p.92)
  14. ^ a b c d e f CUE'S(2005年10月号 p.15)
  15. ^ a b CUE'S(2008年10月号 p.85)
  16. ^ a b c CUE'S(2005年10月号 p.24)
  17. ^ a b c d e f g h i CUE'S(2005年10月号 p.25)
  18. ^ a b c d CUE'S(2005年10月号 p.33)
  19. ^ CUE'S(2005年10月号 p.29)
  20. ^ a b c d e CUE'S(2008年9月号 p.85)
  21. ^ a b ロバート・バーン p.21
  22. ^ CUE'S(2008年10月号 p.84)
  23. ^ CUE'S(2009年2月号p.65)
  24. ^ CUE'S(2009年7月号 p.87)
  25. ^ a b c CUE'S(2008年12月号 p.85)
  26. ^ CUE'S(2005年10月号 p.34)
  27. ^ CUE'S(2009年7月号 p.86)
  28. ^ a b CUE'S(2009年4月号 p.85)
  29. ^ CUE'S(2006年12月号 p.81)
  30. ^ a b CUE'S(2008年1月号 p.36)





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