ツツガムシ病 臨床所見

ツツガムシ病

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/15 23:41 UTC 版)

臨床所見

症状

刺し口は有毒ツツガムシが吸着してから2-3日目に周囲に赤みのある小さな水疱として現れ、膿疱状に変化した後、10日目頃に周囲が赤く盛り上がった黒色の痂皮になる。その後は窪んだ潰瘍に転じ、1-2か月ほどで皮膚に覆われて治る[15]。刺し口に痛みや痒みを覚えることはあまりないため、発熱等ツツガムシ病が疑われる症状が出た後、診察時に刺し口が発見されることが多い[16]。刺し口は、陰部、内股、脇の下、下腹部、小児の頭髪の中などに現れることが多い[15]

発病時の症状はインフルエンザ腎盂炎などと似ており[16]、ツツガムシに刺されてから5-14日の潜伏期を経て、全身の倦怠感、食欲不振、強い頭痛に見舞われ、38-40度の高熱が続く[17]。2日目ころから体幹部を中心とした全身に、2-5mmの大きさの紅斑・丘疹状の発疹が出現し、5日目ころに消退する。また、刺し口の近くに局所的なリンパ節の腫れが見られ、押すと痛む[17]低ナトリウム血症[18]、筋肉痛、目の充血が見られることもある。

早期に診断がつき適切な治療が行われれば速やかに治癒するが、治療が適切でない場合は症状が長引く[19]。ツツガムシ病における死亡例のほとんどは、ツツガムシ病と診断されないまま播種性血管内凝固症候群となった患者である[20]

検査

臨床検査では、以下のような傾向が見られる。ただし、臨床検査所見だけを根拠にツツガムシ病と診断されることはない[17]

診断

診断のポイントは、刺し口とツツガムシに対する血清抗体の測定である。ただし、刺し口は腹部・背部に多く発見しにくい。検査所見は日本紅斑熱のものと類似する[21]ため、鑑別が必要。特徴的な紅斑発疹が現れない例では確定診断が遅れ重症化する場合もある[22]

ツツガムシ病が疑われる症状や発症の経緯があり、さらに刺し口が見つかれば9割以上の確率でツツガムシ病であるとされる[23]が、最終的な確定診断は血清診断をもとに行われる[23]。間接蛍光抗体法(IFA)または間接免疫ペルオキシダーゼ(IPA)という方法を使って測定が可能である。標準型Kato型・Karp型・Gilliam型は保険適応だが、Kuroki型・kawasaki型は保険が効かず研究機関等でしか行えない。標準型だけの検査では感染を診断できない例が有るため、新型も含めた検査が必要と考える意見もある[1][24]

血清型

ツツガムシリケッチアには血清型が存在し、主に6種類の血清型(Gilliam,Karp,Kato,Kawasaki,Kuroki,Shimokoshi) に分類される。そのうち KatoKarpGilliamの3種類は標準型と呼ばれ、KurokikawasakiShimokoshiは新しい型である。一般的な商業的検査機関の検査では、標準型KatoKarpGilliam 3種類の検査が行われる[4]

  • Kato型は、東北地方に分布するアカツツガムシが媒介する。古典型ツツガムシである。
  • Karp型・Gilliam型は、概ね東北から九州北部までに分布する。フトゲツツガムシが媒介する。新型ツツガムシである。
  • Kurokikawasaki型は、九州に多く関東にも分布する。タテツツガムシが媒介する。新型ツツガムシである。
  • Gilliam型は、台湾系の型で2008年に沖縄県(宮古島内)で日本国内では初の感染例が報告された[4]

治療

テトラサイクリン系の抗菌薬が第一選択である他、クロラムフェニコールも使用される。有効な薬が適切な方法で投与されれば2日ほどで解熱し快方へ向かう[20]一方、早期に十分量・必要期間服用しないと、悪化するケースがある。リケッチアの生物学的特性のため(細胞壁ペプチドグリカンを持たない)、ペニシリンをはじめとするβ-ラクタム系抗生物質は無効である。

β-ラクタム系抗生物質の投与が功を奏しない熱性発疹症についてはツツガムシ病を疑い、テトラサイクリン系の抗菌薬による治療を開始することが望ましいとされる[20]。ただし、テトラサイクリン系の薬を投与してから3日目の時点で解熱など病状に改善が見られない場合、ツツガムシ病ではない可能性が高まる[20]

予防

予防ワクチンのないツツガムシ病には、ツツガムシに刺されないための以下のような予防法がある。

  1. 汚染地域に発生時期に入らない。
  2. 長袖・長ズボン・長靴手袋を着用し、肌の露出を減らす。
  3. 皮膚の露出部位には、忌避剤を塗布する。
  4. 脱いだ上着やタオルは、不用意に地面や草の上に置かない。
  5. 草の上に座ったり、寝転んだりしない。
  6. 帰宅後は入浴し、脱いだ衣類はすぐに洗濯する。

誤った方法として、「アルコールや除光液を塗る」、「ライター、マッチの火を近づける」などの方法が言われているが、効果はない。症状の原因となるダニの体液を傷口周辺に広げることになる[25]

ただしこうした予防策は非効率であり、早期診断、早期治療の効果に及ばないとされる[26]




注釈

  1. ^ 太平洋戦争中、ビルママレー半島インドネシアでは多くのアメリカ軍兵士がツツガムシ病に感染した記録が残されている[6]
  2. ^ 人見蕉雨『黒甜瑣語』、菅江真澄『雪の出羽路』など[7]

出典

  1. ^ a b c 小川基彦, 萩原敏且, 岸本寿男 ほか、「わが国のツツガムシ病の発生状況 疫学的考察」 『感染症学雑誌』 2001年 75巻 5号 p.353-358, doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.75.353, 日本感染症学会
  2. ^ a b c ツツガムシ病とは 国立感染症研究所 IDWR 2002年第13号掲載
  3. ^ <速報> 沖縄県宮古島で初めて確認されたつつが虫病 国立感染症研究所
  4. ^ a b c d 門馬直太:つつが虫病リケッチアの型別と媒介種との関係 『衛生動物』 2013年 64巻 1号 p.3-4, doi:10.7601/mez.64.3, 日本衛生動物学会
  5. ^ 長坂昌一郎, 今川八束, 村田道里、「伊豆諸島・利島 (としま) におけるつつが虫病の初報告例および第2例」『感染症学雑誌』 1991年 65巻 5号 p.591-596, doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.65.591
  6. ^ a b c d 須藤 1991, p. 49.
  7. ^ a b c 須藤 1991, p. 48.
  8. ^ 須藤 1991, p. 29.
  9. ^ 須藤 1991, pp. 49-50.
  10. ^ a b c d 須藤 1991, p. 26.
  11. ^ a b 須藤 1991, p. 15.
  12. ^ a b 須藤 1991, p. 28.
  13. ^ 須藤 1991, pp. 15-16.
  14. ^ 佐々学、私共のダニ類研究の回顧 日本ダニ学会誌 第1回日本ダニ学会大会講演要旨(補足) 1993年 2巻 2号 p.99-109, doi:10.2300/acari.2.99
  15. ^ a b 須藤 1991, p. 16.
  16. ^ a b 須藤 1991, p. 18.
  17. ^ a b c d e f g h i j k l 須藤 1991, p. 19.
  18. ^ 志智大介, 谷澤朋美, 本田勝亮、「静岡県浜松市における過去7年間のつつが虫病 低ナトリウム血症に関する検討も含めて」 『感染症学雑誌』 2008年 82巻 4号 p.335-340, doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.82.335, 日本感染症学会
  19. ^ 須藤 1991, p. 14.
  20. ^ a b c d 須藤 1991, p. 22.
  21. ^ 髙垣謙二、「日本紅斑熱とつつが虫病」 『日本皮膚科学会雑誌』 2014年 124巻 9号 p.1739-1744, doi:10.14924/dermatol.124.1739, 日本皮膚科学会
  22. ^ 中川義久, 古家英寿, 佐藤宏, 松本芳彬、「発疹を認めず, 重症化したつつが虫病の1例」 『感染症学雑誌』 1994年 68巻 11号 p.1433-1436, doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.68.1433, 日本感染症学会
  23. ^ a b 須藤 1991, p. 20.
  24. ^ 小川基彦, 萩原敏且, 岸本寿男 ほか、「わが国のツツガムシ病の発生状況 臨床所見」 『感染症学雑誌』 2001年 75巻 5号 p.359-364, doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.75.359, 日本感染症学会
  25. ^ ダニによるかみ傷 メルクマニュアル家庭版[リンク切れ]
  26. ^ 須藤 1991, p. 23.
  27. ^ 須藤 1991, pp. 48-49.
  28. ^ 須藤 1991, p. 60.
  29. ^ 須藤 1991, pp. 57-58,62.
  30. ^ 須藤 1991, p. 63.
  31. ^ 須藤 1991, pp. 64-66.
  32. ^ 須藤 1991, pp. 66-67.
  33. ^ 須藤 1991, p. 71.
  34. ^ 須藤 1991, p. 72.
  35. ^ 須藤 1991, pp. 67-71.
  36. ^ 『ふるさと長岡のあゆみ』長岡市、1986年、187-188頁
  37. ^ 藤倉朋良『図解にいがた歴史散歩<南魚沼>』p184 新潟日報事業社出版部
  38. ^ 須藤 1991, p. 76.
  39. ^ a b 須藤 1991, p. 75.
  40. ^ a b 須藤 1991, p. 77.
  41. ^ 須藤 1991, p. 78.
  42. ^ 須藤 1991, p. 79.
  43. ^ 須藤 1991, p. 80.
  44. ^ 須藤 1991, pp. 80-81.
  45. ^ 須藤 1991, p. 82.
  46. ^ 須藤 1991, pp. 81-82.
  47. ^ 須藤 1991, pp. 82-83.
  48. ^ a b 須藤 1991, p. 83.
  49. ^ a b 須藤 1991, p. 86.
  50. ^ 須藤 1991, pp. 83-84.
  51. ^ 須藤 1991, pp. 87-90.
  52. ^ 須藤 1991, pp. 91-92.
  53. ^ 須藤 1991, p. 92.
  54. ^ 須藤 1991, p. 94.
  55. ^ 須藤 1991, pp. 97-98.
  56. ^ 須藤 1991, p. 98.
  57. ^ a b 須藤 1991, p. 96.
  58. ^ 須藤 1991, p. 97.
  59. ^ 須藤 1991, pp. 98-99.





固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ツツガムシ病」の関連用語

ツツガムシ病のお隣キーワード

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   
検索ランキング



ツツガムシ病のページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのツツガムシ病 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2020 Weblio RSS