ダズル迷彩 ダズル迷彩の概要

ダズル迷彩

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/20 07:25 UTC 版)

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ダズル迷彩を施されたイギリス海軍空母アーガス(1918年)

原理

迷彩とは本来、対象物を周囲に溶け込ませ目立たなくさせるためのものであり、その定義からすればこのダズル迷彩は逆に注意をひきつけるため、有効とは思えない迷彩である。しかしこの迷彩は、常に変化するあらゆる天候において艦船を完全に目立たなくすることはできないという考えから編み出された。

ダズル迷彩は、艦船の艦種、規模、速度、進行方向などの把握、光学測距儀(レンジファインダー)による測距などを、迷彩がない場合より難しくする(言い換えると船を目立たなくさせる)のではなく、敵の射撃管制を混乱させることを意図している[2]。たとえば、船首と船尾との識別が困難であるだけでなく、見る側に近づいて来るのか逆に遠ざかっているのかもわかりにくい[3]

レンジファインダーは光学視差の原理によるもので、オペレータが2つの対物レンズから取り込んだ別々の画像[注 1]を調整し、1つの画像に一致させることで対象物への距離を測定する。ダズル迷彩はこれも難しくする。複雑なパターンにより、対象物の2つの画像が一致した瞬間でも乱れているように見える。これは潜水艦潜望鏡にこの種のレンジファインダーが装備されるようになるとさらに意義を増した。偽の船首波を描いたパターンは、船足を誤認させる効果を意図していた。

このダズル迷彩は、デザインや配色を変えることで迷彩効果を向上させる実際的な検証方法がなかったにもかかわらずイギリス海軍本部に採用された[4]。ダズル迷彩は他国の海軍でも採用された。その結果、迷彩効果をさらに高める配色方式についてより科学的な研究が進められることとなった。あまりに細かい模様を描く方式は、遠距離では個々の模様がまるで見えなくなるため、「幻惑効果」にプラスでもマイナスでもないとされた。いろいろな距離を考えた場合、迷彩を施した艦船のある距離での視認性は、表面の有効平均反射率、色相彩度といった科学的に測定可能な要素だけで決まる[5]

イギリスでは陸軍が1916年の終わりに陸上使用のための迷彩研究の部署を設立した。海軍では1917年に、ドイツの無制限潜水艦作戦によって商船の被害が大きくなり、迷彩が改めて注目された。海洋画家のノーマン・ウィルキンソンが乱れた縞模様を用いて艦船の速度、寸法を誤認させるシステムを考案した[6]。当時イギリス海軍の巡視艇の佐官であったウィルキンソンは、まずダズル迷彩の原型となるものを商船「インダストリー(Industry)」号に施した。イギリス海軍の艦艇で最初にダズル迷彩が施されたのは、1917年8月の「アルセイシャン」(Alsatian)である。

イギリスで使われたダズル迷彩に同じパターンは存在せず、当初は室内で小さな木造模型を用いて潜望鏡でのテストが実施されている。この模型の塗装はほとんどがロイヤル・アカデミー・オブ・アーツに在籍していた女性たちが手がけ、これらのデザインを拡大して本物の艦船に塗装した。迷彩のデザインは彫刻家、画家、舞台美術家などが行なった[7]ヴォーティシズムの画家エドワード・ワズワースは、2,000以上の軍艦の迷彩を指導した。第一次世界大戦後のワズワースの絵画には、ダズル迷彩の艦船を描いた作品がある。

第一次世界大戦

一次大戦当時はダズル迷彩の有効性はまったく不明であったが、それでも正式採用された。イギリス海軍本部では、潜水艦からの攻撃に対しては効果がないとしたが、乗員の士気向上には効果的であると評価した。さらに、港に繋留されたさまざまなデザイン、色彩で塗装された数百の軍艦は、直接戦闘に参加していない民間人の士気高揚にも効果をあらわした。

1919年の講演で、ウィルキンソンは以下のように語っている。

この方式の第一目的は、すでに雷撃位置についた敵の攻撃を失敗させることよりも、艦船が最初に発見されたときに、どの位置から攻撃をかけるか判断を誤らせることです。ダズル迷彩は、艦船の通常の形を強い対照色の形で崩すような塗装によって、攻撃を受ける艦船の速度や針路を潜水艦に判断されにくくします。ダズル迷彩によく使われた色は、黒、白、青、緑でした…艦船のデザインを決めるにあたっては垂直の線はおおむね避けます。斜めの線、曲線、縞模様がずっと効果的で、大きなゆがみの効果を生みます。

両世界大戦を通じてイギリスでは、キュナード・ラインのような船会社の外洋航行能力を持った船は海軍に徴用され、重要な役割を果たした。これら民間船も武装され、他の軍艦同様に迷彩が施されている。ホワイト・スター・ラインオリンピックやカナディアン・パシフィック・スティームシップス のエンプレス・オブ・ロシア)などが輸送艦に改装された際にダズル迷彩に塗装されている。


注釈

  1. ^ よく知られている民生品のカメラでは、代表的には「ライカ」のそれのように二重像式がもっぱらであるが、測量用や軍用では上下像式である。

出典

  1. ^ 朝日新聞社知恵蔵mini』 (2014年8月6日). “幻惑迷彩”. コトバンク. 2019年11月15日閲覧。
  2. ^ “Camouflage , Norman Wilkinson” (英語). The Times (News Corp). (1939年4月4日) 
  3. ^ a b Glover, Michael (2007年3月10日). “Now you see it... Now you don't,” (英語). The Times (News Corp). http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/visual_arts/article1479657.ece 2019年11月10日閲覧。 
  4. ^ Walliams 2001, p. 35.
  5. ^ Walliams 2001, p. 40.
  6. ^ Fisher, Mark (2006年1月8日). “Secret history: how surrealism can win a war.” (英語). The Times (News Corp). http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/scotland/article785672.ece 2019年11月10日閲覧。 [リンク切れ]
  7. ^ Paulk, Ann Bronwyn. "False Colors: Art, Design, and Modern Camouflage (review)," Modernism/modernity. 10:2, 402–404 (April 2003). DOI: 10.1353/mod.2003.0035 [リンク切れ]
  8. ^ レッドブル、RB11の“ダズル迷彩”はベッテルのヘルメットがヒント”. F1-Gate.com. F1-Gate (2015年2月2日). 2015年4月18日閲覧。
  9. ^ Latimer 2003 [要ページ番号]
  10. ^ Campbell-Johnson, Rachel (2007年3月21日). “Camouflage at IWM,” (英語). The Times (News Corp). http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/visual_arts/article1543756.ece 2019年11月10日閲覧。 [リンク切れ]
  11. ^ 「海外の艦船切手から・・・」『世界の艦船』第929集(2020年8月特大号) 海人社 P.148


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