タイ王国 政治

タイ王国

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/02 01:12 UTC 版)

政治

一時、国会議事堂として利用されていたアナンタサマーコム宮殿

タイにおける実質的な最高指導者は、国家平和秩序評議会(NCPO)議長のプラユット将軍である。NCPOは、2014年5月22日の軍事クーデターにより全権を掌握した軍事政権が創設した組織で、議長が首相を兼任する。行政府や、立法府たる国家立法会議(クーデターで廃止した国民議会(上下院)に代えて設置)を上回る権限を保持しており、司法権を持つ憲法裁判所に対しても政治的影響力を行使している。国家立法会議は過半数の議員を国軍の軍人や退役軍人が占めている。

国家元首

現在のタイ王国国王
ラーマ10世
(2016年10月13日 - )

政治体制立憲君主制であり、タイの国王は国家元首である。チャクリー王朝。その権限はタイ王国憲法により様々な制限が加えられ、実権を掌握するのはNCPO議長である[注 1]

行政

現在のタイ王国首相
プラユット・チャンオチャ
(2014年8月25日 - )

国政の最高責任者は、首相である。中央省庁には、商務省内務省農業・協同組合省など、約20省がある。

立法

タイ王国陸軍総司令官プラユット・チャンオチャ2014年軍事クーデターを起こし、同年8月25日に首相に就任し憲法と議会を廃止して実権を掌握して以来、政党政治を禁止する軍事政権が続いている。クーデター以降の立法府は「国家立法会議」である。チャンオチャは2018年11月に総選挙を行う見通しを表明していた[66] が、同年1月に国民議会で選挙法施行を90日繰り延べる法律が成立し、19年2月に延期された[67]

現在の国会議事堂

現在活動を停止させられている国会は、上下二院制議会制民主主義をとっており、ラッタサパー(รัฐสภาと呼ばれる。国会は500議席からなるサパー・プーテーンラーサドーン(สภาผู้แทนราษฎร)と呼ばれる民選の人民代表院(下院)と、150議席(2007年から1県1人の77人が民選、残りは任命制)からなるウッティサパー(วุฒิสภา)と呼ばれる元老院(上院)で構成される。人民代表院の任期は4年で再選可、元老院は6年で1期のみである。首相は人民代表院から選出され、元老院には法律の発案権はない。

前回選挙は、2014年2月2日に投票が行われ、タクシンケツ首相派のインラック首相率いるタイ貢献党が圧勝した。しかし、3月21日に反タクシン元首相派寄りとされる憲法裁判所は、この選挙結果を認めず、総選挙を無効とする判決を出して、インラック政権を転覆させた(司法クーデター)。

司法

司法権はサーンディーカー(ศาลฎีกา)と呼ばれるタイ最高裁判所が持つ。なお、最高裁判所の裁判官は全て国王による任命制である。

反政府勢力・差別

深南部三県では一部のマレー系住民が以前から離反の動きを見せていたが、近年は状況が悪化し、パタニ解放戦線などの組織がパタニ王国の復興を大義名分にして、反政府活動を行う動きが出ている。南部のマレー半島へはかつてアユタヤ朝が併合を目指して侵攻したものの、と結んだマラッカ王国によりこの企図を放棄したものである。

タイ東部・北部ではかつて少数民族による共産ゲリラの反政府活動が活発であったが、1980年代に入りこれらの活動はほぼ沈静化している。

差別は残っているものの同性愛女装などの異性装および性転換などに寛容であり、ニューハーフが多いことでも有名である。性転換手術も合法であり、海外から性転換手術を希望する患者を多く受け入れている。

しかし、仏教国のタイでも少数民族への差別は少なくない。タイ東北部のイーサーン人ラオ族は、タイ中央部の人から差別や偏見をされており、特に標準語を話せないタイ東北部の人は差別の対象となっている。

また、タイは歴史的に英仏の緩衝地帯とされ、植民地にされたことが一度もなく、現在でも周りのインドシナ半島の国より豊かなため、タイ人ラオス人カンボジア人に対して愛国心を露わにすることがある。しかし、このような性格と行為は現代の若者に多く見られ、年配の人にこういったことはあまり見られない。

外交

タイ王国が外交使節を派遣している諸国の一覧図

冷戦期にはアメリカとの同盟を基調とした西側戦略であったが、伝統的に柔軟な全方位外交を展開・維持しており、ASEAN諸国との連携、日本や中華人民共和国、マレーシアといった近隣主要国との協調を外交の基本方針としている。

しかし、2014年にクーデターによって軍事独裁政権が樹立されて以降、タイは中国との関係を急接に深めるようになった。タイの軍事政権に対して、日本や欧米諸国は、クーデターを非難して距離を置いているが、中国は現在の政権を支持し[68]、タイとの関係強化の姿勢を鮮明にしている[69]

タクシン首相時代は、東南アジアの近隣国との関係強化、主要各国との自由貿易協定(FTA)締結を進める経済中心外交を行い、「アジア協力対話」(Asia Cooperation Dialogue:ACD)」を提唱するなど地域の核となる立場を目指し、2008年7月から2009年12月までASEANの議長国を務めることが決まった。

2009年11月8日、日本国首相鳩山由紀夫とタイ王国首相アピシット・ウェーチャチーワ(左)

2009年4月9日から12日まで東南アジア諸国連合関連の一連の首脳会議(ASEAN+3)がパタヤで予定されていたが、11日、タクシン元首相派団体である反独裁民主戦線(赤シャツ集団)などのアピシット政権に抗議するデモ隊の会場乱入により、中止に追い込まれた。一時は地域一帯に非常事態宣言が発令された。

2010年8月、カンボジアとの国境にあるプレアヴィヒア寺院(タイ語:プラヴィハーン)遺跡付近の領有をめぐって対立が再び激しくなる。その発端となったのは、反タクシン派団体である民主主義市民連合(PAD)がバンコクで2010年8月7日に開いた集会で、政治混乱による国民の不満を外にそらすため、強烈な国粋主義民族主義に基づく、露骨な強硬外交を掲げたアピシット首相が「外交と軍事両方の手段を使う」と発言したことによると同国メディアは報じている。アピシット首相は世界遺産条約からの脱退を発表していた。

2011年には、カンボジアの攻撃を強行し、住民を巻き込んだタイとカンボジアの国境紛争を引き起こした。この紛争により、双方の兵士や住民ら30人近くが死亡し、100人以上が負傷した[70]。寺院遺跡付近で国境紛争が続いたが、タクシン派のタイ貢献党が与党となるとカンボジアとの和解が進んだ。また、世界遺産条約からの脱退は撤回された。もっとも、国境紛争が収束に向かっている現在も、日本の外務省はタイ・カンボジア国境付近の危険情報を出し続けている。

日本

タイと日本は、どちらも国家指導者レベルで長い関係を築いており、両国民間の関係も深い。なおかつ、立憲革命の際は当時有効だった大日本帝国憲法(明治憲法)が参考にされ、そのうち国王制や立法府制度などの根幹は21世紀に入ってからも形を変えつつ維持されるなど、事実上明治憲法の理念を共有した兄弟国であるとも言える。

アユタヤ王国時代、山田長政はソンタム王の治世中にアユタヤを訪れ、ナコンシータマラートの知事に任命され、後にそこで死去した[71]

1900年、ラーマ5世はインド北部で発見され、シャムに譲渡された仏舎利の一部を分与する際、仏教国としてビルマ(ミャンマー)、セイロン(スリランカ)に加え、日本にも分与された。日本へ譲られた遺骨を納めるために創建されたのが覚王山日暹寺(現在の覚王山日泰寺)である[72]

大東亜戦争(第二次世界大戦)中、タイ政府は大日本帝国と同盟関係にあった。帝国陸軍が首都に入り、いくつかの役所を使用した。また、タイ政府は日本軍にミャンマーとインドへの鉄道敷設を許可する[73]一方で、バンコクはイギリス空軍を主力とする連合国空襲に晒された。

1942年には日泰文化協定が締結され、柳沢健を館長に日泰文化会館がバンコクに建設されることになったが、日本の敗戦により完成しなかった[74][75]。その後、この構想はタイ・ジャパニーズ・スタジアムなどを含むバンコクユースセンタータイ語版として実現した。

タイにおける在留邦人は75,674人(2018年10月)、タイへの日本人渡航者は約180万人(2019年)、泰日協会学校生徒数は2,255人、シラチャ日本人学校生徒数436人(2020年4月)に上り、世界有数の在留邦人社会を有している。一方、日本における在留タイ人は54,809人(2019年12月)、日本へのタイ人渡航者は年間約132万人(2019年)に上る[76]

タイは親日国という評価が多数あり[77][78][79][80]アサンプション大学ABACポール研究所が実施した世論調査によると、タイ人が一番好きな国は日本である[81]

古くは、ラーマ9世が秋篠宮文仁に対して「我が子と同様」との言葉を使い懇意にしてきた。

在タイ日本国大使館の職員有志が、日本への支援を感謝するバナーを掲げた。

2011年(仏暦2552年/平成23年)3月11日に日本で発生した東日本大震災東北地方太平洋沖地震)に際して、タイ政府は日本へ食料支援をしている。また、日本への応援イベント"Thai For Japan"を企画し、国民議会の名の下に4億バーツの資金調達があった[82]。さらに、タイ政府は1万5000トンの米と2億バーツの津波被害者支援予算を承認した。同年3月31日、大震災の被災者に向けてタイ国民が義援金などの支援を提供してくれたことに対し、在タイ日本国大使館は感謝を伝える半ページの広告を地元紙に出した[83]。大使館によると、新聞社側の善意で無料で掲載された[83]。広告は日本とタイの国旗をあしらい、日本語タイ語英語で「日本国民への温かいご支援・ご声援ありがとうございます」と書かれている[83]バンコク首都府パトゥムワン区の大使館本館前にも同様のメッセージを書いた横断幕を掲げており、大使館が約5万バーツを出し合って作成したが、業者は「料金は要らない」と言っているというが、大使館広報文化部は「これは払わせてもらうつもり」と話している[84]

2018年(仏暦2561年/平成30年)3月10日、旧同盟通信社の後継団体でもある新聞通信調査会が発表した、アメリカイギリス、タイ、中国韓国フランスの6カ国の市民それぞれ約1000人を対象に実施した世論調査の結果で、タイの対日好感度が6カ国中最も高く、98.3%だった[85]。さらに、「日本を信頼できる」と回答した人の割合もタイが最も多く96.2%だった[85]

2019年(仏暦2562年/平成31年)4月1日タイ王室日本皇室ともゆかりの深いタイでは、日本政府が新元号「令和」を公表したことをタイメディアは次々と報じ、『マティチョン』は「日本政府が新たな元号『令和』を発表し、5月1日から使われる」と伝え、内閣官房長官菅義偉が発表した際の写真も掲載した[86]


注釈

  1. ^ 「君臨すれども統治せず」という原則と議院内閣制の下で国王または女王(イギリスの君主)や天皇に実権がなく、首相内閣総理大臣が事実上全権を掌握するイギリス日本と類似している。

出典

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