ソナー ソナーの概要

ソナー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/12 15:06 UTC 版)

反響定位の原理

呼称について

1910年代、イギリスで水晶振動子を用いた反響測距に関する機密実験が行われた際、この研究グループにASDICという秘匿名が用いられた。これは"Anti-Submarine Division"の略語に知識・学問領域を示す接尾辞である"-ics"を付したもの[3]、または"Anti-Submarine Detection Information Comittiee"の略語とされている[2]。その後、この秘匿名は有名になり、イギリスでは、反響測距に関する一般名詞として使われてきた[3]

その後、第二次世界大戦中には、アメリカ合衆国において、"Sound navigation and ranging"(音響航法・測距)の頭字語として"Sonar"という名詞が発明された。これは、当時普及しつつあった「レーダー」と同じ発想の命名であったこともあり、広く受け入れられた[1][3]日本語では、一般的には「ソナー」と訳されるが、日本海軍および海上自衛隊では「ソーナー」で呼称を統一している。なお、海上自衛隊ではソーナーとは、装置の名称であると共に水測することも指す。海上自衛隊でのソーナー操作員英語版水中測的員略して水測員と呼ばれる[4]。民生用途においては、船の真下方向を探知するものを「魚群探知機 (Fishfinderと呼び、船の周囲方向を探知するものを「ソナー」と呼んで区別している。このほか、クジラ向けのものは、鯨探機とも呼ばれる[5]

歴史

1490年レオナルド・ダ・ヴィンチは、ラッパにパイプと聴診器を付けたような器具を作成して小船の上から水中にそれを伸ばし、遠くのガレオン船の水中音を聞いて、音波は水中の方が空気中より良く伝わることを確認していた[3]

原理の発明

1827年、スイスジャン-ダニエル・コラドン英語版フランスジャック・シャルル・フランソワ・スツルム英語版は、レマン湖において音速の実測試験を実施し、ソナーの理論化の端緒となった。また、19世紀後半には、電気から音響へのエネルギー変換を扱う電気音響工学に関して多くの知見が得られ、水中音響研究に間接的に寄与した。その代表的なものとして、1840年代ジェームズ・プレスコット・ジュールにより発見された磁歪効果や、1880年ピエール・キュリージャック・キュリー兄弟によって発見された圧電効果があった[3]

水中音響学への応用

20世紀に入ると、これらの水中音響学の実践的な応用が志向されるようになった。まず、危険海域の灯台付近に設置された水中ベルからの音を利用して、これと自船の霧笛との時間間隔の計測によって灯台との距離を測定するシステムが開発された。間もなく電波航法が登場したため、このシステムは普及しなかったが、これを開発していたSubmarine Signal Companyは後にレイセオン社に合併されて、今日にその系譜を残している。そして1912年タイタニック号沈没事故によって、海上に浮かぶ遠方の氷山を何とか早期に発見することが求められるようになると、タイタニック号の建造国であったイギリスだけでなく多くの犠牲者を出しその後も海上交通を利用する必要のあった米仏でも、新たな技術の開発が求められるようになった[3]

1914年には、アメリカ合衆国の科学者フェッセンデンが、アクティブ・ソナーの原型となる装置を開発し、2マイル先の氷山の探知に成功した[1][6][7]。彼の装置はダイナミック・スピーカーの可動コイルと同じ原理で、トランスデューサー(送受信器)を作り、1100Hzの可聴音による音響ビームを一方向に放って反響波を受信するものだった[8]

この年に第一次世界大戦が始まったが、大戦勃発から1ヶ月後の9月5日ドイツ帝国海軍の潜水艦(Uボート)の1隻であるU21の雷撃により英海軍の偵察巡洋艦パスファインダー」が撃沈されたのを端緒として、その17日後の9月22日にはU9が3隻のクレッシー級装甲巡洋艦を立て続けに撃沈するなど、潜水艦の脅威は猖獗を極めた。これに対抗するため、対潜戦の技術開発は焦眉の急となった[9]。まずセンサーとして用いられたのがハイドロフォン(のちのパッシブ・ソナー)であり、1915年には地上局が設置され[10]、1916年には艦載化が開始された[11]

その後、1917年にはパリ市立工業物理化学高等専門大学ランジュバン博士が水晶圧電効果による高性能のトランスデューサーを開発し、真空管アンプと共に実用的なアクティブ・ソナーを作った[12]。ランジュバン博士のソナー装置は100キロヘルツの超音波を直径200mmの振動子から放射することで鋭いビームを形成することに成功した[8]。この装置はフランス海軍の興味を引き、1918年には1,500メートル先の潜水艇を発見している[1]。これによって開発されたのがアクティブ式のASDIC(のちのアクティブ・ソナー)である。その実用化は1920年と、大戦には間に合わなかったが[10]、例えばアメリカ海軍の概念実証モデルであるQAは1927年より洋上試験に入った[13]。このようなサーチライト・ソナーは各国で開発され、第二次世界大戦において実戦投入された[3][14]

戦中期から第二次大戦期には、特殊な海洋音響環境の存在が知られるようになっており、戦後にかけて、当時の対潜戦の趨勢とあわせて数理学的分析を導入した水測予察技術の開発が志向されることとなった。また戦後には、デジタル信号処理技術の発達を背景に、アメリカ海軍が1948年より艦隊配備を開始したQHBを端緒として、フェーズドアレイ方式を採用したスキャニング・ソナーが普及するとともに、遠距離探知の要請から低周波化が志向された。またその後、対潜戦のパッシブ化を受けて、パッシブソナーの技術開発が並行して進められたほか、C4Iシステムの発達とともに、両者を組み合わせたマルチスタティック・ソナー技術の開発もなされている[3][14]

種類

反響定位の原理
 
3種類のソナー
1.パッシブ 2.アクティブ(広域捜索) 3.アクティブ(狭域探知)

ソナーは、自ら音波を発するアクティブ式と、目標が発する音波を捉えるパッシブ式に大別される。

アクティブ・ソナー

電波領域のレーダーに対応する装置であり、反響定位を用いて目標の情報を得る[14]。用途や実装に応じて、下記のような種類がある。

探信儀[15]
潜水艦を捜索する目的で艦艇に搭載するもの。
可変深度ソナーvariable depth sonar[15]
送受波器の深度を変更できるように、艦艇から送受波器を吊下して曳航するもの。
機雷探知機(mine hunting sonar[15]
機雷を探知する目的で、主として機雷戦艦艇に搭載するもの。感応機雷の出現に伴う機雷掃討の要請から、機雷を探知するだけでなく類別することもできるよう、分解能が高い高周波数を使用している[16]
音響測深機(echo sounder[15]
水深測量用。近年では、複数のビームで同時に走査することで、海底地形を即座に等深線図として作図できるようにしたマルチビーム音響測深 (MBESが主流となっている。
また漁撈用途として、海底ではなくの探知を重視した魚群探知機も派生している[17][注 1]
海底音波探査機(acoustic bottom profiler
海底地質調査用。音響測深機よりも低周波で無指向性の音波を使って、海底や海底下の地層境界からの反射波を捉えるものであり、音響測深機のサブシステムとして実装されることもある。
サイドスキャンソナー (Side-scan sonar[15]
進行方向の側方を探信し、連続的に海中や海底を捜索又は探査するもの。電波領域でのイメージングレーダーに相当するものであり、短時間で広域にわたる海底地形を写真のような映像として写しだすことができる。

なお1947年の定義では、200ヘルツから5キロヘルツを「低周波」、5から30キロヘルツを「中周波」、15から100キロヘルツを「高周波」とした[21]。潜水艦を捜索探知する場合は、遠距離では低周波、近接対潜戦では中周波が適するとされている。周波数が低くなればなるほど遠距離伝播に優れ、また水中吸音材への対抗という面でも有利であるが、一方で残響などのノイズが大きくなり、類識別も困難となり、指向性が鈍いために方位精度も落ち、また送受波器も大きくなる[22]

パッシブ・ソナー

ある離れた物体が発生する音を分析し,その物体に関する情報を得るための技術又は装置[15]

送受波器として受信専用のハイドロフォンのみを使用するシステムであり、大日本帝国海軍では水中聴音機とも称されていた。母艦の水中放射雑音から離隔するために曳航ソナーの形態をとっている場合が多く、対潜捜索用としては、戦術用途で用いられるシステム(TACTASSなど)と、サーベイランス用途で用いられるシステム(SOSUSSURTASSなど)がある[23]


注釈

  1. ^ 1948年昭和23年)、世界で初めて魚群探知機の実用化に成功したのは古野清孝・清賢兄弟であった[18][19][20]

出典

  1. ^ a b c d 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 108–110.
  2. ^ a b 鳥羽 2009.
  3. ^ a b c d e f g h i Urick 2013, pp. 11–14.
  4. ^ 海上自衛隊の職域
  5. ^ 国税庁 漁ろう用設備に該当するもの
  6. ^ Seitz, Frederick (1999). The cosmic inventor: Reginald Aubrey Fessenden (1866-1932). 89. American Philosophical Society. pp. 41–46. ISBN 0-87169-896-X.
  7. ^ Hill, M. N. (1962). Physical Oceanography. Allan R. Robinson. Harvard University Press. p. 498.
  8. ^ a b 谷村 2007.
  9. ^ 「艦艇 (特集・ASWのすべて) - (対潜艦艇・航空機・兵器の歩み)」『世界の艦船』第671号、海人社、2007年3月、84-89頁、NAID 40015258780 
  10. ^ a b 藤木平八郎「ASWの発達と今後の展望 (特集・ASWのすべて)」『世界の艦船』第671号、海人社、2007年3月、75-81頁、NAID 40015258778 
  11. ^ 野木恵一「兵器 (特集・ASWのすべて) - (対潜艦艇・航空機・兵器の歩み)」『世界の艦船』第671号、海人社、2007年3月、94-101頁、NAID 40015258782 
  12. ^ Manbachi, A.; Cobbold, R. S. C. (2011). “Development and application of piezoelectric materials for ultrasound generation and detection”. Ultrasound 19 (4): 187. doi:10.1258/ult.2011.011027. 
  13. ^ Friedman 2004, p. 69.
  14. ^ a b c 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 126–131.
  15. ^ a b c d e f g h i j k 防衛庁 1980.
  16. ^ 黒川武彦「センサー (現代の掃海艦艇を解剖する)」『世界の艦船』第427号、海人社、1990年10月、88 - 91頁。 
  17. ^ Hodges, Richard P. (2013) (英語). Underwater Acoustics: Analysis, Design and Performance of Sonar. Hoboken, N.J.: John Wiley & Sons. ISBN 9781119957492. https://books.google.com/books?id=2O4f2ETpjm8C&dq 2016年7月4日閲覧。 
  18. ^ 魚群探知機の誕生
  19. ^ 古野電気株式会社 魚群探知機 特許:特公昭31-3583ほか
  20. ^ プロジェクトX 挑戦者たち 夢 遙か、決戦への秘策 兄弟10人 海の革命劇/魚群探知機・ドンビリ船の奇跡
  21. ^ Friedman 2004, p. 261.
  22. ^ 東郷 2012.
  23. ^ a b 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 136–148.
  24. ^ a b c d Urick 2013, pp. 28–47.
  25. ^ a b c d 小林 2016.
  26. ^ 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 113–115.
  27. ^ a b 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 131–135.
  28. ^ a b c Urick 2013, pp. 20–27.
  29. ^ a b Urick 2013, pp. 71–76.
  30. ^ a b c 防衛庁 1978, p. 14.
  31. ^ Urick 2013, pp. 92–96.
  32. ^ 防衛庁 1978, p. 16.
  33. ^ a b c Urick 2013, pp. 97–102.
  34. ^ 小林 2012.


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