セリウム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/20 09:18 UTC 版)
同位体
用途
酸化物が研磨剤として用いられるほか、ガラス添加剤、製鋼原料、触媒としても使用される。化学反応における酸化剤としての用途は、使用量こそ少ないが非常に重要である。
- ガラス研磨剤
- 1960年代から鉱物(バストネサイト)酸化物が用いられ、光学レンズ研磨に欠かせないものとなった。単に硬度が高いだけでなく、酸化セリウムやフッ素がガラスと化学反応を起こす、化学機械研磨 (CMP) が生じることが特長で、液晶パネルや水晶・石英などケイ酸系の宝石研磨に利用される。
- 電子部品研磨剤
- 他の希土類を抽出除去した高純度酸化セリウムがフォトマスク、ハードディスクなどのガラス基板、多層化集積回路の層間絶縁膜平滑化に用いられている。
- 発火石
- ライター用の発火石としてセリウムと鉄の合金(フェロセリウム)が使われている(発火合金)。摩擦により火花を発生する。
- 紫外線吸収剤
- 酸化セリウムは屈折率が大きく紫外線をよく吸収・遮蔽するため、サングラスなど紫外線遮断(UVカット)ガラスや化粧品に用いられる。
- 蛍光体
- 青い蛍光を発することから、ブラウン管に利用されてきた。1997年、YAGにセリウムを添加した黄色蛍光体を青色発光ダイオードの補色とすることで、白色LED灯が初めて商品化された。また、蓄光材料としても用いられる。フッ素との化合物のフッ化セリウム (CeF3) は放射線検出の為のシンチレータ材料として使用される。
- 顔料
- 酸化セリウムが黄色系顔料の成分として使用されるほか、ガラスに添加して淡い黄色に発色させる着色剤、酸化雰囲気にして鉄分による着色を打ち消す脱色剤として利用される。
- 造影剤
- X線CT(コンピュータ断層撮影法)による微小血管造影装置の陽極に用いる[6]。
- 希土類磁石
- 金属間化合物の CeCo5 が磁性材料として利用される。
- 鉄鋼添加剤
- フェロセリウムとしてステンレス鋼などの硫黄や酸素原子による還元作用を、酸化作用で抑制する。
- 合金添加剤
- 腐食防止用インヒビターとして、航空機用・高強度アルミニウム合金に添加されるほか、マグネシウム合金にも3-4%添加される。
- るつぼ
- 硫化セリウムによる機能性、耐熱るつぼ製品の製造。
- 溶接電極棒
- 交流アーク用にセリウム入りタングステン電極棒(通称セリタン)が重用されている。
- 触媒
- 酸化物の酸素貯蔵能が高いことから、自動車排ガス用三元触媒に、助触媒として添加されている。
- センサー
- 抵抗型気中酸素濃度センサとして排ガス中の酸素濃度を測定し、エンジンの燃焼効率改善のため空燃比制御に使用される。
- 固体電解質
- サマリアドープトセリア (SDC) やガドリニアドープトセリア (GDC) は酸素イオン伝導体として固体酸化物燃料電池 (SOFC) に用いられる。
- ガス灯
- 硝酸セリウムが、発光体であるガスマントル製造に使用された。これが工業的利用の最初の例である。その後も発光材料として利用されている。
- 医薬品
- シュウ酸セリウムが、鎮静・鎮吐作用を持つとして医薬品に使用される。また、抗血液凝固作用があり、血栓防止などに有用とする研究がある。
- 酸化剤
- 4価のセリウムイオンは3価になるとき、強い酸化性を示す。このことから、硝酸セリウムアンモニウムが有機合成化学やウエットエッチングに利用されている。また、有機セリウム求核試薬やヒ素吸着剤にも利用される。
- 超伝導物質、強磁性物質
- セリウムの化合物には重い電子系(ヘビーフェルミオン)として注目されているものがある。→CeIrIn5。CeCu2Si2(超伝導体でもある)。CeRu2Si2 や CeCu6 は、近藤効果により極低温まで磁気秩序を示さない。
産出
レアアースであり資源としては、中国、旧ソ連、アメリカ、西オーストラリア、インドの埋蔵量が多く、日本でも少量産出する。鉱物としてはバストネサイト (Ce,La)(CO3)F、モナザイト (Ce, La, Nd, Th)PO4 が主体であり、それぞれ酸化セリウムとして50%弱と最も多く含まれている。産出量は約90%を、中国内陸部で磁鉄鉱副産物の複雑鉱石から精製されるものが占めており、次いでアメリカ、旧ソ連、インドとなっている。中間製品の輸出国としては他にフランス、台湾もあげられる。
セリウムは使用量の少なさにもかかわらず、他のレアアースと共に多く副産するため、その在庫量がネオジムやジスプロシウム等の生産を圧迫し、コスト的に不利なアメリカ等のレアアース産業を打撃した。しかし近年、アルミニウム材の耐熱性改善にセリウムとの合金が有望との見込みが示されており、レアアース生産におけるセリウム過剰構造の改善にも大きな効果を持ちうるとも期待されている[7]。
- ^ Ground levels and ionization energies for the neutral atoms, NIST
- ^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds Archived 2004年3月24日, at the Wayback Machine., in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
- ^ a b 桜井弘『元素111の新知識』講談社、1998年、261~262頁。ISBN 4-06-257192-7。
- ^ “Chemical reactions of Cerium”. Webelements. 2009年6月6日閲覧。
- ^ Patnaik, Pradyot (2003). Handbook of Inorganic Chemical Compounds. McGraw-Hill. pp. 199–200. ISBN 0070494398 2009年6月6日閲覧。
- ^ セリウムを陽極に用いた微小血管造影法 心臓 Vol.44 (2012) No.11 p.1372-1377
- ^ 300℃を超える耐熱性のアルミニウム・セリウム合金――アメリカのレアアース生産を加速させる可能性も
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