スーパー耐久 スーパー耐久の概要

スーパー耐久

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/18 14:02 UTC 版)

2012年鈴鹿300km

概要

ST-Xクラスのスリーボンド日産自動車大学校GT-R
ST-3クラスのペトロナスTWS GS350

スーパー耐久は、市販車を改造した車両によって行われるツーリングカーレースである。類似のカテゴリにSUPER GTがあるが、SUPER GTでは外観デザイン以外市販車両に一切由来しない純レーシングカーや「魔改造」と呼べるマシンが多く走っているのに対し、スーパー耐久のクラスの多くは市販の量産自動車に対し小規模の改造を施したマシンとなる。ただし近年はスーパー耐久でもグループGT3TCRのように、メーカーが市販車から大規模に改造して公認を受けたレーシングカーも参戦できる様になっている。

SUPER GTに比べると、個人規模のプライベーターチームが数多く参戦しているのが特徴。自動車メーカー系(ワークス・チーム)が参戦する場合もあるが、その場合は勝つことより人材育成や車両開発が目的である場合が多い。また車両クラスが多く車種のバラエティに富む事から、「偉大なる草レース」の別名[1]で知られ、「S耐」(えすたい)の略称、愛称でも親しまれている。

車両規定は日本自動車連盟(JAF)の定めるJAF-N1を基本とし、ベースとなる車両はFIA/JAFグループNまたはAとして公認されているか、JAF登録車両またはSTOが認めた車両として登録されていなければならない。市販エアロパーツやレース用ブレーキの装着を認めている[2]ことなどから、現状ではJAF-N1には合致せず、JAF-NE(定義されない車両)として独自の車両規定で開催されている[3]

ST2~ST5クラスの改造範囲は狭く、市販車に近い状態を強いられる。例えば

  • エンジンの改造範囲は極端に狭く、基本的に純正が維持される。市販車両に対しエンジン型式や排気量の変更は禁止されている。
  • エアクリーナーボックスからエンジンまでの吸気パーツ、およびエンジン直後のエキゾーストマニホールドは、純正品に最低限の加工を行ったものしか使用できず、スロットル径の変更なども認められていない。
  • サスペンションは、ダンパースプリングスタビライザー及びブッシュ類の変更のみ。市販車両に対し異なるサスペンション形式への改造や、純正品以外のアーム類への変更は禁止されている。
  • 車体の加工は、安全装置やレースに不可欠な装置(無線機器など)を取り付けるためにやむを得ない、最低限の加工以外は全て禁止されている。
  • 外装パーツの変更は、空力パーツの装着が認められているが、市販品(一般消費者が普通に購入できるもの)に限られ、特注品や「著しく高価なもの」は禁止されている。

など、様々な面で市販車の性能を大きく逸脱しないようになっている。安全上の理由から装着するロールケージについては、安全性向上と車体剛性アップのため溶接止めされるほか、車体自体も溶接によるスポット増しを行う。また、安全面の観点から車体の補強は一定範囲で認められている。

レース形式は、500kmまたは規定時間(通常3-4時間だが、2018年には10年ぶりに24時間レースも開催[4])内の周回数による耐久レースとなっており、2-3名(24時間レースのみ最大6名まで)のドライバーによる走行と、最低2回のピットストップを行わなければならない。500kmレースの場合、レース時間は3-4時間にも及び、F1フォーミュラ・ニッポンのレース時間が通常2時間以下、SUPER GTでも2-3時間程度であることと比べても、スーパー耐久の戦いは長時間に及ぶこととなる。

スーパー耐久を象徴するもう一つの特徴として、F1など他のモータースポーツで頻繁に見られる、いわゆる「ピットストップでの人海戦術」が使えないという点が挙げられる。例えば「タイヤ交換は2名、その他の作業は4名までしか携われない」という規定があり、これは、ワークスチームとプライベーターチームとの格差を無くし、「どのチームも対等かつ互角の条件で戦う」ための措置として設けられたものである。

沿革

ペトロナス・シンティアム・メルセデスSLS AMG GT3

1985年にスタートした筑波サーキットの「ナイター耐久レース」がルーツとされており[5]1990年に発足した「N1耐久シリーズ」が直接の前身となる。N1耐久シリーズ当時は、FIAの定めるグループN規定に準拠したJAF制定「N1」規定に属する車で争うシリーズとして開催されており、参加するドライバーもアマチュアとプロの中間レベルのドライバーがメインだった。 しかし、1994年全日本ツーリングカー選手権がグループA車両による耐久レース(JTC)からTouring car ClassII(2,000cc 自然吸気エンジンの4ドア車両 後にグループSTに改名)車両によるスプリントレース(JTCC)に移行した以降、JTCに参戦していたトップドライバーやチームがN1耐久に参戦するようになり、レースのレベルが大きく上昇し始めた。

1995年に、耐久レースという過酷な状況に多くの市販車が対応できるよう、ウィークポイントをカバーする改造(オイルクーラーの追加等)を認めたことから「N1を超えるN1」という意味でシリーズの名称を「スーパーN1耐久」と改称。

1998年に「市場の活力をレースに取り込もう」という発想から、市販エアロパーツの装着を可能にする等、自動車アフターマーケットとの連動を主眼とするレギュレーション改正を行った結果、便宜上「N2」規定へ移行したためシリーズ名称から「N1」の文字を外し、現在の「スーパー耐久」に再度改称した。

2002年には、レースに参加するチーム(エントラント)で構成される「N1リーグ」とレースプロモーターサーキットで構成される「スーパー耐久協会」との対立が表面化。一部のスポーツ新聞では「内紛」のタイトルで対立の表面化が報じられたが、その後両者の話し合いによって、新たなシリーズ統括組織として「スーパー耐久リーグ(STL)」が発足。それまでは主催者側のみで構成されていた連合組織に、この時からエントラント側(N1リーグ)の代表者が加わることになった。

2005年にはSTLの内部機構改革に伴い、組織名称を「スーパー耐久機構(STO)」と改めた。また同年、チーム(エントラント)団体である「N1リーグ」の代表者選出方法をチームからの推薦に変更、新たな代表者が選出され、新体制となった。その翌年である2006年からは新体制の組織名称をN1リーグから「スーパー耐久エントラントリーグ(STEL)」に改め、アマチュアリズムに徹したエントラント支援組織とした組織骨子の原点回帰を行った。なお、あくまでもSTOはシリーズの統括組織、STELはエントラントの支援組織である。

2000年代後半に入ると海外進出を念頭に置いた動きが目立ちはじめ、2007年9月には韓国太白レーシングパークからの招待を受ける形で、12チームが同サーキットで行われる韓国チームとの特別戦に参加した。そして2010年にはノンタイトル戦(Special Stage)という形で、初の海外戦をマレーシアセパンサーキットで行う予定だったが、諸般の事情により中止となった[6]2011年も「Asia Round」として、韓国・中国で3戦を行う予定が組まれていたが、東北地方太平洋沖地震の影響によりレース日程が大幅に変更され、最終的に福島第一原子力発電所事故の影響も受けた結果全戦が中止となっている(詳細は後述)。この年より、ヨコハマタイヤのワンメイクとなった。

2012年は新たな試みとして、ST-GT3クラスについてのみ第4戦を選択制とした。同クラスのエントラントは、岡山国際サーキットでの通常のシリーズ戦以外に、その1週間後にセパンサーキットで行われる12時間耐久レースでもシリーズポイントを獲得できるとされた。2013年インジェ・スピーディウム(韓国)でシリーズ戦が開催された(大鵬湾国際サーキット(台湾)については、現地オーガナイザーとの交渉が不調に終わり中止)。

2012年第5戦ではスーパー耐久初の死亡事故(OSAMU選手)が発生したため、これを踏まえ、2013年からはHANSを着用するレギュレーションが採用された。

2018年からタイヤ供給元がピレリに変更され、シリーズ名も「ピレリ・スーパー耐久シリーズ」となった[7]

2019年からは新たにアジア地域をターゲットとした「スーパー耐久アジア」を発足させる。スーパー耐久のアドバイザーでもあるアレックス・ユーン、マーチー・リーの2人が中心となり、香港に事務局を置き、アジアのエントラントに対するレギュレーションや参戦方法などの案内を行うほか、将来的には日本国外でのスーパー耐久のレース開催も予定している[8]

2021年からはワンメイクタイヤの供給元がハンコックタイヤに、シリーズ名が「スーパー耐久シリーズ Powered by Hankook」に変更される[9]

2022年からはENEOSがシリーズスポンサーとなり「ENEOS スーパー耐久シリーズ Powered by Hankook」[11]となった[12]

2024年より、ワンメイクタイヤの供給元がブリヂストンに変更される予定だったが、2023年3月にハンコックタイヤの大田工場で火災が発生し、レースに必要な数のタイヤを供給する目処が立たなくなったため、急遽予定を繰り上げ、2023年の第2戦(富士24時間レース)よりブリヂストンがタイヤ供給を行うことになった。第2戦ではドライタイヤはブリヂストン、ウェットタイヤはハンコックという形となるが、第3戦からは正式にブリヂストンが公式タイヤサプライヤーとなる[13]。シリーズ名称は「ENEOS スーパー耐久シリーズ Supported by BRIDGESTONE」[11]に変更。


  1. ^ 「偉大なる草レース」や「大いなる草レース」の表現は、ル・マン24時間レースダカールラリーなど、ワークスから自作までをも含む、多種雑多な車両が参加する大規模な耐久レースラリーレイドの別称(時に蔑称)として用いられてきた。
  2. ^ スーパー耐久シリーズ ・技術規則2010 年版
  3. ^ JAF国内モータースポーツカレンダー2010の競技車両欄に、NE(スーパー耐久)の記載がある
  4. ^ 富士スピードウェイで24時間耐久レース 50年ぶりに開催へ - 富士山経済新聞 2018年1月4日
  5. ^ 50周年を迎えた「筑波サーキット」。その歩みを振り返る - GAZOO 2020年11月10日
  6. ^ http://www.so-net.ne.jp/s-taikyu/official/2010/info-41.pdf スーパー耐久公式HPでの「スペシャルステージ大会(Sepan Malaysia)開催断念のお知らせ」より。
  7. ^ 2018年、スーパー耐久はピレリのワンメイクに。シリーズ名称は『ピレリ・スーパー耐久シリーズ』へ オートスポーツweb・2018年1月13日・2018年3月11日閲覧
  8. ^ スーパー耐久が新たな一歩へ。2019年からアジアへ向けた展開『スーパー耐久アジア』を開始 - オートスポーツ・2018年11月21日
  9. ^ スーパー耐久:2021年からワンメイクタイヤ供給のハンコック。“経験者”の印象は - オートスポーツ・2020年11月26日
  10. ^ suzuka_liveのツイート(1505484034256023554)
  11. ^ a b シリーズ名のうち、『ENEOS』は全角表記が正規[10]
  12. ^ スーパー耐久シリーズ2022のシリーズ冠スポンサーにENEOSが決定 - スーパー耐久・2022年3月8日
  13. ^ ハンコック、タイヤ工場火災によりスーパー耐久へのタイヤ供給不能に。富士24時間からブリヂストンタイヤ使用……STO「シーズン中止も覚悟する状況にあった」 - motorsport.com 2023年4月24日
  14. ^ GT3日本公式HPでの発表より。
  15. ^ a b 2011 年シーズンより、「ST-A クラス」を新設致します。 - STO事務局・2010年11月30日
  16. ^ スーパー耐久シリーズがTCRとパートナーシップを締結 - スーパー耐久機構・2017年3月30日
  17. ^ 元々TCR規定はスプリントレース志向のレーシングカーとして人気を集めていた
  18. ^ スーパー耐久に登場する3クラス・3種類のGRスープラ。それぞれに特色と狙いあり - オートスポーツ・2021年3月1日
  19. ^ トヨタ、水素エンジン搭載のカローラ・スポーツをORC ROOKIE RacingとともにS耐に投入! - オートスポーツ・2021年4月22日
  20. ^ 水素のトヨタに、マツダもスバルも。自動車メーカー参戦の「スーパー耐久」で走る実験室が復活!”. https://news.yahoo.co.jp/.+2022年3月23日閲覧。
  21. ^ Z33はエンジン排気量が3,500ccで、本来ST3クラスに該当する。
  22. ^ 見どころ - ツインリンクもてぎ
  23. ^ Z34に搭載される日産・VQ37VHRは排気量が3,700ccで、本来ST1クラスに該当する。
  24. ^ 特認事項、変更事項の公表 - STO・2010年5月8日
  25. ^ 同車とも1500cc以下の車種であるが過給機を装着していることから係数の関係でこのクラスでの参戦
  26. ^ S耐にフィット登場へ。ST5クラスにBRPが参戦表明 as-web・2011年4月21日
  27. ^ 新型コロナウイルス感染拡大の影響で最終戦鈴鹿の開催中止が決定 - オートスポーツ・2021年1月13日
  28. ^ スーパー耐久、2020年シーズンの最終戦開催を断念。第5戦までの成績でシリーズチャンピオンが決定 - オートスポーツ・2021年1月26日
  29. ^ スーパー耐久シリーズ2011 シリーズ日程表(2010年12月2日)
  30. ^ スーパー耐久シリーズ2011 開催日程変更に関するお知らせ(2011年3月24日)
  31. ^ 第2戦、中国大会(広東国際サーキット)延期に関するお知らせ(2011年4月28日)
  32. ^ 開催予定地だった十勝インターナショナルスピードウェイを運営する会社の事情により開催中止を発表。
  33. ^ 11月15日にロードコースにて第7戦、11月16日はオーバルコースにて特別戦(エキシビジョンレース)として開催された。
  34. ^ 【サーキット美人2014】スーパー耐久シリーズ編01「スーパーガールズ2014『S*CREW』」


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