スマートグリッド 逆潮流

スマートグリッド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/17 13:29 UTC 版)

逆潮流

家庭や工場といった通常は電力を消費する側が、反対に電力系統へ電気を送り出す電力のことを「逆潮流」と呼ぶ。電力系統内で配電する電力の容量は電力消費の大小、つまり需要に応じて設計されているが、逆潮流ではこの設計時に想定しなかった供給者が電力系統へ加わることになる。

品質維持
代表的な逆潮流の問題点に、電圧変動と周波数変動がある。電力系統でも大規模な送電系統では、中央給電指令所の集中監視の下で主に発電所の調速器[注 3]によってこれら電力供給での品質が維持されているが、電力会社が発電量をコントロールできない逆潮流が多量に流入すると、電力の周波数安定性と電圧維持が困難になり発電所の解列(送電網からの切り放し)が行われると考えられる。
位置による不平等
事業所発電のような大規模な発電を逆潮流として受け入れる場合には電線や変圧器にオンロードタップ切換器(OLTCまたはLTC)[27]を設置し、電圧降下を調整するなどの一定の対応が行えるが、無数の小規模な発電への対応は変圧器のタップ[28]だけでは問題となる可能性がある。例えば、同一の変圧器によって配電される住宅地内の複数の家が発電した電力を同時に逆潮流として流せば、その分だけ電圧は電線や変圧器などの許容量に応じて局所的に上昇する。日本では、電気事業法第26条および電気事業法施行規則第44条の定めにより101±6Vや202V±20Vの範囲内に収める必要があり、これを超え各家ごとに備わったパワーコンディショナが規定通り機能すれば無効電力として売電されない。また変圧器から遠い家では電圧上昇の影響を大きく受けるため、変圧器に近い複数の家が逆潮流を行えば配電系統の末端側は常に電圧の規定値上限近くになってしまって、最悪の場合末端側の家は発電して余った電力を全く売電できなくなる可能性がある。
このように、将来家庭での発電と売電が普及した時に家の立地によって売電できなくなる事態を避けるため、変圧器を増やして逆潮流を行いやすくする対策が議論されている[7]

注釈

  1. ^ NEDOに集った日本の協力体制。スマートコミュニティ・アライアンス会員一覧 2016年4月1日現在
  2. ^ Area Energy Management System(AEMS・エムス)」と呼ばれることもある。
  3. ^ 中央給電指令所では自動周波数制御装置 (AFC) などを使って10秒ごとに変動を監視し、負荷が増えて電圧が低下するか周波数が遅れる場合には発電所の出力を増すように調整が行われ、逆に負荷が減ると逆に出力を減らすように指示する。同様にそれぞれの発電所でも1秒ごとに調速器が発電周波数を一定に保つように働いている。
  4. ^ 世界中の家庭内の電気製品が送電網を経由した電力線の通信網で情報をやり取りするようになれば、現在のインターネット機器の10-100倍の数の端末が繋がる巨大な情報網が出現するため、未来のシスコシステムズ、次のGoogleを狙う企業はこれら2社のほかにもIBMインテルベライゾン・ワイヤレスを筆頭に、多くの企業がチャンスをうかがっている。
  5. ^ ニューメキシコ州の「Green Grid」計画では、日本側からは経済産業省やNEDOの他にも、東京電力日本ガイシパナソニック日立製作所東芝なども会合に参加している。

出典

  1. ^ スマートグリッドとは?IT技術と自然エネルギーが結びついた次世代電力網 | 物流機器・輸送機器のレンタル | upr”. 2022年1月4日閲覧。
  2. ^ スマートシティ - Society 5.0 - 科学技術政策 - 内閣府”. www8.cao.go.jp. 2022年1月4日閲覧。
  3. ^ マイクログリッドとはいったい何のこと? 分散型電源で地産地消! – エコめがねエネルギーBLOG”. blog.eco-megane.jp. 2022年1月4日閲覧。
  4. ^ 日経新聞電子版 相次ぐスマートメーター設置拒否 米電力会社の憂鬱 2014/10/28
  5. ^ ロハスクラブ “スマートグリッド ”は、ボールダーから 2016年4月29日閲覧
  6. ^ H.グラビッチ「電力供給系のコンピュータ制御」『サイエンス』、日経サイエンス社、1975年1月号、68頁。 
  7. ^ a b c d e f g h i 蓮田宏樹、Phil Keys著 『スマートグリッド』、日経エレクトロニクス2009年6月1日号
  8. ^ バンクトラック TO: BANK OF AMERICA CORPORATION, CITIGROUP INC., CRÉDIT AGRICOLE CIB, JPMORGAN CHASE, BNP PARIBAS, DAIWA, DEUTSCHE BANK, GOLDMAN SACHS, HSBC, MIZUHO, MORGAN STANLEY, RABOBANK, SEB 10 APRIL 2014
  9. ^ Climate Bonds Initiative Green Bonds Underwriters League Table 2016年11月閲覧
  10. ^ a b スマートメーター - 環境ビジネスオンライン(2018年5月11日閲覧)
  11. ^ a b スマートメーターで変わる使用量の確認方法 - 資源エネルギー庁(2018年5月11日閲覧)
  12. ^ 経済産業省 家電制御で省エネ スマートハウス実証 環境市場新聞 2009年7月9日
  13. ^ a b c d 地域のニーズに即したエネルギーサービスを実現するCEMS” (PDF). NTTファシリティーズ (2016年11月). 2021年5月2日閲覧。
  14. ^ a b c EMS とエネルギーマネジメント - ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会(2016年5月18日配信、2018年5月11日閲覧)
  15. ^ スマートコミュニティ構築に向けた取組 - 内閣府(2018年5月11日閲覧)
  16. ^ a b c d BEMS - 経済産業省(2018年8月25日閲覧)
  17. ^ a b HEMS - 環境ビジネスオンライン(2021年5月2日閲覧)
  18. ^ a b MEMS - 環境ビジネスオンライン(2021年5月2日閲覧)
  19. ^ a b c FEMS - 環境ビジネスオンライン(2021年5月2日閲覧)
  20. ^ HEMSとは,BEMSとは,FEMSとは,CEMSとは東京コスモス電機ワイヤレス事業部 - TOCOS-WIRELESS.COM)
  21. ^ A Smarter Electrical Grid Bloomberg Businessweek 2008年1月11日
  22. ^ a b スマートマンションの推進 - 経済産業省(2018年9月25日閲覧)
  23. ^ a b 丸ごとエネルギー管理できるマンションはどれだ、経産省が評価制度を開始 - ITmedia(2013年8月22日配信、2018年9月25日閲覧)
  24. ^ a b スマートマンション導入加速化推進事業費補助金(MEMS) - SII 一般社団法人 環境共創イニシアチブ(2018年9月25日閲覧)
  25. ^ MEMSアグリゲータが一挙24社に、130億円の補助金をめぐる動き加速 - ITmedia(2013年5月1日配信、2018年9月25日閲覧)
  26. ^ MEMSアグリゲータ一覧 - SII 一般社団法人 環境共創イニシアチブ(2018年9月25日閲覧)
  27. ^ Reinhausen Solutions - 負荷時タップ切換器(OLTC)とは?”. REINHAUSEN SOLUTIONS CORP.. 2022年1月8日閲覧。
  28. ^ 配電用変圧器のタップ電圧の完全制覇”. 電験・電気工事士・エネルギー管理士 通信講座【e-den】. 2020年1月8日閲覧。
  29. ^ 平常時系統運用指針(2012年(平成24年)7月1日実施) (PDF) 中部電力
  30. ^ 電力会社における周波数調整と会社間連系について (PDF) 平成15年9月12日 東京電力(株)
  31. ^ 電力系統の構成及び運用について~電力系統の構成及び運用に関する研究会 平成19年4月
  32. ^ a b c スマートグリッド - 日刊工業新聞(2018年5月11日閲覧)
  33. ^ 伴大作の木漏れ日:スマートグリッドの行方 (2/3) - ITmedia(2010年7月7日配信、2018年5月11日閲覧)
  34. ^ Christoph Steitz; Karin Jensen (2009年1月13日). “Obama clean energy goal is good start: industry” (英語). ロイター. http://planetark.org/wen/51189 2009年2月28日閲覧。 
  35. ^ Litos Strategic Communication (under contract for the DOE) (2008-09-10) (pdf). The Smart Grid: An Introduction. United States Department of Energy. p. p. 7. http://www.oe.energy.gov/DocumentsandMedia/DOE_SG_Book_Single_Pages.pdf 2008年11月22日閲覧。. 
  36. ^ 富士時報 1998年9月号 p.55
  37. ^ 畑良輔「GENESIS計画と高温超電導直流ケーブル -究極の持続可能な「新エネルギー」の開発について-」『SEI テクニカルレビュー』第172号、住友電気工業、2008年1月、2009年2月28日閲覧 
  38. ^ 米国景気対策法案について”. 望月経済産業事務次官の次官等会議後記者会見の概要. 経済産業省 (2009年2月19日). 2009年2月28日閲覧。
  39. ^ a b c “東電など「日本版スマートグリッド」実証実験”. 産経新聞. (2009年5月1日). p. 1-3. https://web.archive.org/web/20090709140351/http://sankei.jp.msn.com/life/environment/090501/env0905012242000-n1.htm 2009年5月12日閲覧。 
  40. ^ 経済協力開発機構/国際エネルギー機関 Technology Roadmap Smart Grids 2011. p.12.
  41. ^ 熊谷 徹. “IoTの共通言語をめざすEEBUS規格とは?|インダストリー4.0 最前線ドイツからの報告③ | イノベーション創出のヒント JMA GARAGE”. JMA GARAGE. 2022年1月12日閲覧。
  42. ^ Bender charge controllers now speak EEBUS – Bender-en”. Bender GmbH & Co. KG (2020年12月10日). 2022年1月12日閲覧。
  43. ^ http://www.nikkei.co.jp/news/main/20100313ATGM1203512032010.html [リンク切れ]





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「スマートグリッド」の関連用語

スマートグリッドのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



スマートグリッドのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのスマートグリッド (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS